リアル人狼ゲーム in India〈リターン&リベンジ!〉

大友有無那

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第2章 これは生き残りのゲーム(2日目)

2ー2 尊厳

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 昨日はここまで酷い様は見たことがないと思った。
 目の前はそれをはるかに超えていた。
 中央窓の外、昨夜は何もなかった幕に囲まれた場所に、よく知った顔と顔が打ち捨てられて折り重なっていた。
 ルクミニー先生の胸は血に染まっている。サントーシュの話通りだ。手前のマヤは薄い色の服で余計血が目立つ。あれほどシュルティが心配していたのに。ラームは唇をぎゅっと閉じ、チャンダは驚いたように目も口も開く。キランは横倒しにー
 市場の野菜の方がましという並べ方なのに顔は室内から判別出来るよう考慮してあるらしいのが余計腹立たしい。
 尊厳を剥ぎ取られた死体となった先生や友人たち。

「先生~~っっっ!」
「ルクミニー先生っ、嫌あああっっ!」
 女子が泣き叫ぶ声。いや、
「クソっ! 先生……ルクミニー先生っ……ぐうっ、うっ!」
 窓の端に取り縋って遠慮会釈なく慟哭しているのはヴィノードだ。

『Warning! Warning! Out of rules!』
『建物の外に体を出してはいけません。一部でもです。繰り返します……』

 思わず乗り出したミナがアッバースに引き戻されるが警告で窓の下に倒れる。
 先ほどから鳴りっ放しだ。手を延ばし、よく見ようと窓から顔を出しては窓際の男子が止め損なった人間が倒れ意識を取り戻しては窓の下壁際に這いすがってはすすり泣く。

 スティーブンは血の気が引くというのを初めてリアルに感じた。
 自分の血肉を支える赤い力がすうっと下に引いて足元から抜け、力ない白い殻だけに成る。
「!」
 ふらついたところ辛うじて残った意識で窓の下部に両手を付き同時に左からアッバース右からナラヤンが腕を伸ばして止める。
(主よ、助けてください)
 友人の温もりを感じつつ目を開け胸で十字を切る。一度窓の外の惨状に目を止めた後足元を確かめ大きく後ろへ歩いて怒鳴った。
「ラジュー!!」


 昨日から今朝にかけて建物内を見て回ってわかったのはふんだんに用意された日用品の中に筆記用具と刃物類だけが抜けていることだ。
 紙もメモ帳も、ペンも鉛筆も何一つない。
 口紅の類はないか女子に聞くと、色付きの物はリップもアイライナーもマスカラも、とスティーブンにはよくわからない品も含めないという。だからか今朝女子の一部は顔が違った。
 顔が違うのは男子もだ。
 ハサミもカッターナイフもセロハンテープのカッターすらない。ソーイングセットも針が避けられたのか見当たらない。武器に出来るものは徹底的に排除されていた。
 それは男子のカミソリもだった。代わりに電気シェーバーが各部屋に用意されていた。だが自分も含め普段ひげ剃りにはカミソリを使っている者がほとんどで、そのため今朝は剃り過ぎて傷を作ったか、剃り残しがあるかのどちらかが続出した。スティーブンも今も鼻下がひりっと痛い。

 ラジューに食材庫から空いたミネラルウォーターの空き箱を持って来させ、分解して切り離させた。小ぶりな調理用ナイフを見繕って来るようにも言い、三本見せられた中から細身の物を受け取る。
 台所の包丁類だけが例外だった。これがなければ毎回の食事まで彼らが面倒を見なければならないと思ったからだろうか。
 思ったよりはナイフでダンボールはよく切れる。

1、先生
2、マヤ

 と回りに確かめながら名前を記録した。

3、キラン
4、ラーム
5、チャンダ
6、サニタ
7、アルン
8、シャンティ
9、タヒラ

 虚な顔、苦しげな顔、手のひらでひとりずつ失われた命を指し、
「九人! これで全員か。抜けている人がいたら教えてくれ!」
 周りに投げる。
(バスから合流しなかった先生とマヤ。後は昨日切り札で外へ出た人間だ。ルール違反を取られたというアルンとチャンダ)
 そのアルンが先生を刺したー
 胸に浮かぶ靄を振り切って考え続ける。
(戻らなかったラーム、キラン、サニタ、タヒラにシャンティの行方不明者全員が殺されていた)
 また現実感が薄くなるのを息を吐いて抑える。
(明らかに胸を刺されたのが先生とマヤ)
 ルクミニー先生の教室での笑顔が思い出されてたまらなくなる。まずい、目頭が熱い。
(後はシャンティだけ顔にいくつも傷がある、というか血の跡だ。小さいけれど)
 彼女の足は妙な方向へ曲がっている。生きていた時に骨折したのか死後に折られたのか。どちらかなら亡くなった後であることを祈る。
 このままでは泣き出してしまいそうだ。首を振ってスティーブンは再度集団をかき分け窓際から離れた。
「シュルティを呼んできてもらえないか」
「あの子は今そんな状態じゃない!」
 床に座り込んでいたアディティに頼むと怒りの言葉が返ってきた。
「マヤがいる」
 後方を腕で指す。
「仲良かっただろう。心配もしてた」
 伝えるだけでもと懇願した。
「多分、お別れ出来るのはこの三十分だけだから」


「マヤ! マヤっっ!!」
 シュルティは力の限りに叫んだ。
「どうして、どうしてなの!」
 もっと近くにと思うのにニルマラとアディティが体を押さえアッバースとルチアーノが腕で妨げる。出ちゃ駄目だ薬を打たれるとアディティに囁かれるがそれどころではない。
 何故。バスの隣で楽しくおしゃべりしていたのに。
「私が、私がチャイ飲んじゃったからなの?」
 バスで飲んだチャイに睡眠薬が入っていたと噂されていた。マヤの分まで自分が飲んだから彼女は酷いことになったのか?
「マヤああああ!」
(ああそんな)
 近くにはキランの顔。派手な女の子のグループにいたからほとんど話していなかったけれど、部屋で一緒になったら意外と感じのいい子だった。サニタもタヒラも昨夜外を歩いた時は普通に話していたのにー
「うわあああああああああっ!」
 絶叫を残しシュルティは卒倒した。

 倒れたシュルティをアディティとニルマラが奥に運ぶ。
「悪かった」
 前を過ぎた時にスティーブンがつぶやけばアディティは小さく首を横に振った。ラジューに水を持っていくよう命じる。
 脇に抱えたダンボールと右手に握ったナイフ。
 ナイフは母が果物を剥いている物に似ていると思った。歌いながらマンゴーの皮を剥くキッチンでの姿を思い出し涙が伝いそうになったのを唇を噛んで耐える。
 いつもなら素直に泣いてしまう。
 だが今自分が泣いたらここはもっと混乱する。

 動けそうな男子たちで室内で死亡したアティフを外に出すことにした。
 彼は自室のパソコン前に座ったまま絶命していた。

 昨夜PC前に座る義務の5分を過ぎても彼は座り続けていたがパソコン好きは知られている。同室のヤトヴィックもバドリも気にせずベッドに入った。今朝になっても座ったままなので声をかけ反応がないので肩を叩いたところ倒れ込んで来た。
 おそらく、何かプログラムをいじろうとしてルール違反を取られたのだろうとここは衆目が一致している。

 ノンベジ食堂から持ち出した長机を様子を見つつ窓の外に出す。人の体は駄目だが物は窓から出してもいいようだ。アティフの遺体を机上に乗せ、滑らせるが一回は失敗して机を跳ね上げ遺体を室内に落としてしまった。二度目は上背のあるアッバースやヴィノードが反対側から丁寧に上げるとアティフの遺体はキランとチャンダの上に落ちた。癖のない髪が机の上を滑る様にスティーブンはまた涙しそうになった。

 アディティが、外にいるほとんどがヒンドゥー教徒で土葬ではなく火葬にすべきだと叫んだ。スティーブンがその旨上に向かって要求したが、

『一度建物の外に出た人間を戻すことは出来ません。ただし要望は聞いておきます。どの遺体が火葬を希望するものですか』
 今落としたアティフと32番の首輪を付けたタヒラ以外全員だと告げると、
『21と32以外ですね。確認しました』
 とアナウンスは切れた。
 口ぶりから遺体も自分たちも尊重していないのはよく伝わってきた。今は怒りが湧き起こるのもいい。一時的にでも涙を止めてくれる。

 6時半すぐよりは人が集まっている。周知がしやすい。
 ちらりと後ろの振り子時計を見てからスティーブンは声を張り上げた。
「来られる人は奥の方にも来てほしい! 出来るだけ皆に確認してもらいたいんだ」
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