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第2章 これは生き残りのゲーム(2日目)

2ー16 女子棟7号室

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※冒頭、女性の衛生用品についての描写があります。苦手な方は途中横線までナイナの部分を抜かしてお読みください。ストーリーの大筋で必要なことはその後別パートでカバーしますので問題ありません。



 「私物回収」の切り札についてナイナが言わなかったことがある。
 最初にスマホを要求し、最後に彼の写真を回収した。実はその間に化粧ポーチも要求していた。渡せるのは1点だけだからと拒否され、中の1品を指定すれば考慮するとチャットに返されたがナイナは諦めて写真に変えた。
 ポーチの中で最も欲しいのは衛生用品だった。1枚だけもらっても意味はない。

 何が『パッドマン』だとあの映画を見た時思った。
 農村の貧しい女性が生理中にボロ布を使い健康を損なうのを防ぐのはいい。社会に必要なことだ。だが作中憧れの品だと描かれていた当時数十ルピーの国産品はごわごわで分厚く使い心地は最悪、かつ個包装すらしていない代物だったと聞いている。
 ここのクローゼットには衛生用品は十分に揃っている。話にならない安物ではないが普段米国や日本と外資系の製品を使っているナイナには耐え難かった。
(この間来たばかりだし当分は使わないと思うけど)

 婚約者の写真より衛生用品を優先したのかと悪口を言われるのが嫌でこれは伏せた。だが悪いとは思わない。いずれあの人の一族の繁栄を生み出すヨーニを大事に守って何が悪いのか。
「ね」
 笑顔の彼に話しかけた。
 手帳カバーに挟んで持ち歩いていた写真はぴらりと一枚が受け渡しロッカーに入っていた。そのままでは汚してしまうので台所のラップでカバーしてある。

 もう遠い昔のこと。その人を紹介された時、光が背後に舞い散っているようだったのは今でも覚えている。
『このお兄様が私の神様になる人ですか?』
 聞いた自分に彼は優しく微笑み、双方の父親が相好を崩した。
 五つの時だから後は何も覚えていない。

(私の神様、あなたのために生き延びます)
 間もなく何が起こるかわからない夜がやって来る。

ーーーーー
 ニルマラはストレッチを終えると取っておいたミネラルウォーターをあおり、ベッドの上でタオルを敷き足のマッサージにかかった。女子棟の共同クローゼットに保湿ローションは山ほどあったがマッサージオイルは三本のみで見つけてすぐキープした物だ。
 丁寧に肌を擦り、両手で触れて筋肉の状態を確かめる。
 練習に加えシュルティや他の子たちとも踊ったが足はそこまで疲労していない。
 K-POPダンスの練習は欠かさなかったがカタックの方は抜けてしまった。あの踊りは自分の基礎だ。明日の朝はそちらの修練から行おう。
 出来るようだったなら。


 パソコン前の席に着いたコマラはしばしば震えに襲われた。
 アディティの奴が変なことを言ったせいで、ヤトヴィックは死んだバドリと一票差まで票を集めた。
 今夜は逃げ切ったが明日はどう流れるだろうか。
 ヤトヴィックが人狼で人殺しなどあり得ない! と汗ばむ手で落ち着かず机の上を擦る。今夜パソコンが使えるようになったらルールなどの文書類を時間内読める限りで調べるつもりだ。
 どうしたらあの人を助けられる?


 この恐ろしい場所から早く逃げ出したい。ミナはいらついた。
 試験勉強は今日からの予定を立てていた。スマホに詳細が入力してある。
 もうすぐヴァルンの新作公開だ。今のところ曲のMVはいい感じでFDに兄と見に行く許可も母から得た。
(こんなにやることがあるんだからあたしは死なない!)
 言い聞かせ、マントラを唱えて神に祈った。
 
 


〈注〉
・『パッドマン』(2018インド・日本公開共)
 ヒンディー語映画。邦題『パッドマン 5億人の女性を救った男』 農村の女性たちが自分たちで作った清潔で安価な衛生用品を使えるように奮闘した男の実話を基にしている
・ヨーニ ヒンドゥー教のシヴァリンガにおいては男性器の象徴リンガと女性器の象徴ヨーニがセットになる
・ヴァルン ヴァルン・ダワン ボリウッドの若手スター
・FD  First Day  初日興行
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