リアル人狼ゲーム in India〈リターン&リベンジ!〉

大友有無那

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第6章 狼はすぐそこに(6日目)

6ー4 女子棟巡回

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「ひとりになったらお前が疑われるだけだぞ!」
「知るか!」
 ヴィノードはアッバースに怒鳴り返した。
「出来たてのメシがあるのにどうして女どもの所まで出歩かなきゃならねえんだぞ!」
 と小さく食事前のマントラを唱える。目を開けて、
「心配しなくても毒なんか入れねえよ。オレは人狼じゃなくてただの漂泊者だからな」
 チャパティをダルに浸し食べ始めた。アッバースはため息を吐き傍らのルチアーノに目を流す。
「残ってくれるか?」
「了解」
 何と言われようと人狼陣営の人間を野放しにする訳にはいかない。
 離れた座席に着いたルチアーノにヴィノードは露骨に顔をしかめた。意に介さずルチアーノはチャパティを手にしながら尋ねる。
「その後人狼から連絡はあった?」
「だからあったって言わねえって言ってるだろっ!」


 女子棟に入りロビーを左に入った手前が7号室だ。
「……ベジの方のメシはもうちょっとだけかかるそうだ。半には持って来られると思うってよ」
 アッバースはドア越しにナラヤンからの伝言をナイナに告げた。
「具合はどうだ」
「お腹が空いて調子上々の人なんて見てみたい」
 文句を言う口調にもいつもの元気はない。
「……だな。水は足りてるか。菓子とかは?」
「そっちは大丈夫」
「それと女子棟の掃除だけど2時10分より遅く入るかもしれないってラジューが。昼メシが遅れてるんでー」
「そんなの関係ない」
「だがな、」
 普段なら可愛いわがままかもしれないが、今朝のベジタリアン食堂は混乱を極めた。10時半頃にやっと朝食が仕上がり食べてすぐ、ナラヤン・ラジュー・イジャイはランチ準備にかかったがそれでも目標の13時には間に合わなかった。
「三時にはチャイでしょ。遅く掃除に入ったら間に合わない」
「伝えとく」
 げっそりと答える。

「掃除の時には誰か男子立ちあってくれるんでしょうね? 人狼にこっちをうろうろされるのはたまらないのよ」
「俺かナラヤンが行くようにする」
「ナラヤンがいい」
 ナイナはシャキッと言った。
「男子はすぐ友達だからって信用するけど女はもっとシビアだから。私はあなたも疑っている」
 ナラヤンはアッバースが村人だ信じたが自分は違うというのだろう。
「ラジューとうちの部屋全員の5人が人狼ってのはあり得ないってのは説明したろ?」
 過半数が人狼ならゲームが終わる。
「お前だってカマリやキランの言うことなら信用するだろうが」
「……カマリは武士だったし、キランは象使いだってちゃんと答えてた。それとこれとは話は別でしょ。ラジューは仕事があるから自由にさせてるだけ。スディープはどうしてる?」
「連れて来てるけど」
 彼は後ろでぽつんと立っている。
「何でそう言うことするの!」
 ナイナの声はヒステリックに跳ね上がった。それでも響きが可愛らしいのはさすがだ。後ろでスディープが項垂れそれでも、
「ぼくは村人だよ。人狼じゃない」
 ぼそりと主張するが、
「誰も自分が狼だなんて言わないから。マリアくらいかな? あの子、最後1分間の時もう人狼じゃないって言わなかったでしょ。女はそういうとこ潔いの」
(そう)
 バドリやヤトヴィックと違いマリアは最後の弁明をしなかった。
 あの子が人狼だったなど信じられないが人柄も何も関係なく人殺しを強制されるのが「リアル人狼ゲーム」だ。
「恐いの。ダウドのことも思い出して。いつ何が起こるかわからないでしょ」
「見張るために連れて来てるんだよ。人足りねーんだから!」
 
 ナラヤンは今朝、女子棟にそれぞれひとりずつなのが心配なので定期的に巡回し、広間からも女子棟への通路を見張ろうと提案した。アッバースは気づかなかったが怯えているナイナを見るに必要な措置だった。ただし、
『ゆるく崩してな』
『何で?』
『人が足りねえ』
 アッバースはナラヤンに返した。

 白つまり人狼ではないとされているのは占い結果からアディティとナイナ。
 次点が占星術師の役職を持つナラヤン。
 次がナラヤンの個人的心情から信用をもらった自分、体格から殺害犯ではないことが明白なルチアーノにも準用される。ここがグレーラインで、もう少し濃い灰色が襲撃者同様の体格のイジャイ。
 占いで人狼だと出たラジューとスディープが黒だ。
 数の上では村人の味方となる漂泊者だと白状しているヴィノードは、自陣営である人狼への協力姿勢を隠さないので警戒が必要だ。

 白 アディティ ナイナ
 オフホワイト ナラヤン
 白に近い灰色 アッバース ルチアーノ
 灰色 イジャイ
 黒 ラジュー スディープ ヴィノード


(実際は「変成狼」がいるから占いも証拠にはならないんだけどな)
 ナラヤンとアッバース・ルチアーノで残りの人間と広場も見張るのは厳しい。現実にはベジとノンベジでグループ行動をし相互監視をする程度しか出来ない。
 
「縛っておけばいいじゃない。殺人犯なら刑務所に入れるでしょ」
 ナイナは軽く投げた。
「無茶だ! 便所とかどうするんだよ!」
 後ろのスディープの顔がいたたまれない。
「刑務所だって便所ぐらい行けるようにしてるだろうが」
「トイレの便器に縛っておけばいいじゃない」
「お前さすがに……。人権ってものがあるだろうが。どこの古代王国だ」
「今の私たちに人権なんてある? 監禁されて、押し付けられたルールからちょっと出たらコレ、首輪で殺されるのよ!」
 ここはナイナが正しい。が、
「ベジは料理の人手も必要だしラジューは動いてもらわないと困る。ならスディープも扱いは同じにするのが筋だろう? ナラヤンか俺が見張ってるから」
「私は私が生き残れればいいの!」
 ちゃんとしてね! とナイナは言葉を切った。
 無理に反論したので叩かれるかと思ったがそこは抑えてくれたのだろうか。

「それと、人狼の服はまだ見つかってない」
 振り向くとスディープがこくりと頷く。
 昨夜スレーシュを斬り殺した虎面の男は返り血を浴びている。
 今朝、彼の遺体を運んだラジューがチャイの準備前にシャワーを浴びようとするのをとどめナラヤンと1階のバスルームを捜索した。換気口の奥まで覗いても他の場所にも人狼の「衣装」はなかった。
 朝食から昼食準備の間にアッバース・ルチアーノ・スディープのノンベジ三人で男子棟から探し始めたが中央棟の途中で時間切れとなった。

「ラジューがどこか隠しているんじゃないの?」
「ラジューは今朝まで縛られていた。今日も自由時間は至極少ない」
 ベジ男子は台所に入りっぱなしだ。だからラジューよりも、
「実行犯が隠したんだと思うんだが」
 自分の部屋に入れてしまえばわからない。しかし一般論としては誰も血で汚れた服を寝室に入れたいとは思わないだろう。だからカマリの返り血を浴びたコートと靴は一階のバスルームに隠された。昨日の分も見つかれば何かわかるかと思ったのだが。
(それとも……。あれが見つかっちまったから今回は自分の所に隠しているのか)
「……午後も回って探してみる」
 早く見つかって人狼も閉じ込めたら少しは安心出来るのにとぼやいたナイナは最後にまた、
「私怖いの」
 と繰り返した。
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