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第6章 狼はすぐそこに(6日目)
6ー10 絶望
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「ラジュー!! ヴィノードの様子を見て来てくれ!」
アッバースが、ベジタリアン食堂に向かって怒鳴ったのが始まりだった。
夕食が出来たと男子棟へ呼びに行ったが姿が見えない。5号室のドアを叩いても全く反応がなかった。
チャイが出来上がったところでラジューに見張り役のルチアーノが付いて男子棟へ向かった。少ししてラジューはひとりで帰って来てヴィノードが部屋の中にもいなかったこと、そして、
「ルチアーノ様の様子がおかしくなってしまったのですが……」
心配そうに告げた。
アッバースとスディープが男子棟に赴くとルチアーノは2階ロビーのソファーに力なく横たわっていた。
「ひくっ……うううっ……あああっ……わああああ……」
ソファーを叩きただただ泣いている。
前髪で隠れて顔はよく見えない。口元までが涙で濡れているのはわかる。
「ルチアーノ、どうした?」
目の前に立ちアッバースは問いかけた。彼はちらりとこちらを見て、
「ラジューに教えようとうっかり部屋へー」
室内に誰もいないというラジューにベッド下、クローゼットの中も探すよう指示をした。その際腕と上半身までつい5号室に乗り出して、
『Warning! Warning! Out of rules!』
『他人の部屋に足を踏み入れてはなりません』
首輪から薬注入の警告を受けて卒倒した。
「麻薬と同じ成分なんだろっ!」
泣きながらルチアーノは怒鳴る。
「何だそれか」
ここのところルール違反での警告はなかったので注意がゆるくなっていたのは誰もが同じだったろう。油断したというだけだ。
「俺だって広間の窓でやられた。気にするな」
窓の外に転がされたスティーブンの遺体を見た時思わず身を乗り出した。
「君らにはわからないっっ!」
ルチアーノは絶叫し抑えもせずに泣き続けた。
守ってくれる両親も親戚もいる自分と孤児のルチアーノでは、麻薬様の成分を摂取してしまった意味もまた違うのかもしれない。アッバースは痛ましい思いで泣き崩れるルチアーノを見つめた。
他の施設の子どもたちが受けない検査をルチアーノは毎年病院で受けていた。
理由を聞かされたのは3年生の時だ。
『お前の母親は麻薬中毒だった』
ルチアーノも胎内で影響を受けた。生まれた時に低体重だったというのも麻薬が原因の可能性が高い。それがなければもう少し標準身長に近づいたかもしれない。
万一、ルチアーノが麻薬を使用したら一気に中毒に陥るかもしれない。絶対に薬物には近づかないように。
施設の先生からの言いつけを守り、親しかった友人でも薬と関係が出来たと聞けば縁を切り、密売人がいると噂の地域には足を踏み入れないようにした。そうやって、
(頑張って、頑張ってきたのに!!)
「うわあっ……ああああっ…はあっ……ひっ…うっっく……」
自分は薬が欲しくてたまらなくなるのだろうか。
「母さん」と同じように名前も何も言えなくなって死んでいくのだろうか。
目の前に黒いペンキを塗り込めた壁が立ちはだかる。もうどこにも行けない。
左にも右にも、後ろも黒い壁に囲まれる。
希望が手からすり抜けていくのを知ったのだから、
(泣きわめくくらいいいだろ!!)
「ルチ。ルチアーノ」
アッバースの声が降ってきた。
普段より懸命に声を和らげているのがわかる。
「お前の心配は生き延びた先のことじゃねえのか。少なくともここで生き残ることでは俺たちと利害が一致するはずだ。一緒に、戦ってもらえないか?」
「……」
ゆらりと身を起こし手で顔を擦る。
その通りだ。
自分を取り巻く黒い壁の内側、明るい白い箱の中にそもそも自分は閉じ込められていた。深刻顔のアッバースと、後ろでどうしていいかわからないという様子で立っているスディープを見た。
そうだ。まずは生き延びよう。
「顔を洗ってこい。いい男が台なしだぞ」
洗面へ向かう前に軽く返す。
「いい男だなんて言われたことないよ」
「俺が今言った」
濡れた頬に小さな笑みが浮かんだ。
目が赤いのはどうしようもない。ルチアーノも合流して三人で男子棟を隅々まで捜索した。ヴィノードはいなかったが別のモノは見つけた。
「マジかよ……」
アッバースが、ベジタリアン食堂に向かって怒鳴ったのが始まりだった。
夕食が出来たと男子棟へ呼びに行ったが姿が見えない。5号室のドアを叩いても全く反応がなかった。
チャイが出来上がったところでラジューに見張り役のルチアーノが付いて男子棟へ向かった。少ししてラジューはひとりで帰って来てヴィノードが部屋の中にもいなかったこと、そして、
「ルチアーノ様の様子がおかしくなってしまったのですが……」
心配そうに告げた。
アッバースとスディープが男子棟に赴くとルチアーノは2階ロビーのソファーに力なく横たわっていた。
「ひくっ……うううっ……あああっ……わああああ……」
ソファーを叩きただただ泣いている。
前髪で隠れて顔はよく見えない。口元までが涙で濡れているのはわかる。
「ルチアーノ、どうした?」
目の前に立ちアッバースは問いかけた。彼はちらりとこちらを見て、
「ラジューに教えようとうっかり部屋へー」
室内に誰もいないというラジューにベッド下、クローゼットの中も探すよう指示をした。その際腕と上半身までつい5号室に乗り出して、
『Warning! Warning! Out of rules!』
『他人の部屋に足を踏み入れてはなりません』
首輪から薬注入の警告を受けて卒倒した。
「麻薬と同じ成分なんだろっ!」
泣きながらルチアーノは怒鳴る。
「何だそれか」
ここのところルール違反での警告はなかったので注意がゆるくなっていたのは誰もが同じだったろう。油断したというだけだ。
「俺だって広間の窓でやられた。気にするな」
窓の外に転がされたスティーブンの遺体を見た時思わず身を乗り出した。
「君らにはわからないっっ!」
ルチアーノは絶叫し抑えもせずに泣き続けた。
守ってくれる両親も親戚もいる自分と孤児のルチアーノでは、麻薬様の成分を摂取してしまった意味もまた違うのかもしれない。アッバースは痛ましい思いで泣き崩れるルチアーノを見つめた。
他の施設の子どもたちが受けない検査をルチアーノは毎年病院で受けていた。
理由を聞かされたのは3年生の時だ。
『お前の母親は麻薬中毒だった』
ルチアーノも胎内で影響を受けた。生まれた時に低体重だったというのも麻薬が原因の可能性が高い。それがなければもう少し標準身長に近づいたかもしれない。
万一、ルチアーノが麻薬を使用したら一気に中毒に陥るかもしれない。絶対に薬物には近づかないように。
施設の先生からの言いつけを守り、親しかった友人でも薬と関係が出来たと聞けば縁を切り、密売人がいると噂の地域には足を踏み入れないようにした。そうやって、
(頑張って、頑張ってきたのに!!)
「うわあっ……ああああっ…はあっ……ひっ…うっっく……」
自分は薬が欲しくてたまらなくなるのだろうか。
「母さん」と同じように名前も何も言えなくなって死んでいくのだろうか。
目の前に黒いペンキを塗り込めた壁が立ちはだかる。もうどこにも行けない。
左にも右にも、後ろも黒い壁に囲まれる。
希望が手からすり抜けていくのを知ったのだから、
(泣きわめくくらいいいだろ!!)
「ルチ。ルチアーノ」
アッバースの声が降ってきた。
普段より懸命に声を和らげているのがわかる。
「お前の心配は生き延びた先のことじゃねえのか。少なくともここで生き残ることでは俺たちと利害が一致するはずだ。一緒に、戦ってもらえないか?」
「……」
ゆらりと身を起こし手で顔を擦る。
その通りだ。
自分を取り巻く黒い壁の内側、明るい白い箱の中にそもそも自分は閉じ込められていた。深刻顔のアッバースと、後ろでどうしていいかわからないという様子で立っているスディープを見た。
そうだ。まずは生き延びよう。
「顔を洗ってこい。いい男が台なしだぞ」
洗面へ向かう前に軽く返す。
「いい男だなんて言われたことないよ」
「俺が今言った」
濡れた頬に小さな笑みが浮かんだ。
目が赤いのはどうしようもない。ルチアーノも合流して三人で男子棟を隅々まで捜索した。ヴィノードはいなかったが別のモノは見つけた。
「マジかよ……」
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