空中転生

蜂蜜

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第1章 幼・少年期 新たな人生編

第十六話 「妹」

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 翌朝。
 速達で、俺のもとに手紙が届いた。
 誰からだろうか。

「父さんからだ」

 差出人は、ルドルフだった。
 速達で送ってくるということは、何かイレギュラーがあったのか。
 封を開けて、中身を見てみる。

「どうしたのよ」
「父さんからの速達の手紙です」
「速達って、地竜で配達するあれよね?」
「そうなんですか?」

 知らなかった。そうだったのか。
 いやそんなことはどうでもいい。
 早く手紙を読まなければ。

『ロトアの妊娠が分かった!
 ベル、お前はお兄ちゃんになるんだ!』

「えっ……?」
「良かったじゃないベル!
 弟か妹が生まれるって!」

 そんなに急に?
 全然そんな素振り見せて……

 あ、見せてたわ。
 エリーゼが寝た後、二人は何度も行為に及んでいた。
 俺が幼児だった頃にできていないのが不思議なくらいだ。

 でも、特に体調が悪そうな様子とかはなかった。
 ルドルフはロトアが大好きだから、俺とエリーゼが出た後に体調が悪くなったロトアを急いで医者に連れて行ったのかもしれない。
 そこでたまたま妊娠が発覚したとか、そんな感じだろう。

 にしても、めでてえな。
 俺もついにお兄ちゃんか。
 男の子でも女の子でも、大切にしよう。

「手紙、まだ続きがあるわよ。
 『なるべく急ぎ目で帰ってきてくれると助かる』だって」
「本当ですね……
 まあ目的は達成しましたし、早めに出発しましょう」

 本来俺がここまで来た目的は、本を借りるためだった。
 多少誤差はあったが、アヴァンをかなり回れたし満足だ。

 コーネルに事情を説明して、早めに馬車を手配してもらおう。

---

「お父様!元気でね!」

 コーネルに伝えると、すぐに動いてくれた。
 それも、馬車ではなく「地竜」。
 聞いたところによると、地竜は馬とは違い、ほぼ永続的に走れるらしい。
 時速五十から六十キロほどで数時間走り続けることが可能であるため、百三十キロほど離れているラニカまでは二時間もかからずに行ける。
 ただ、馬に比べてかなり高い。
 だから、あまり気軽には借りられないのだ。

 だが、コーネルはわざわざお金を出してくれた。
 やっぱりこの人、優しいんじゃないか。

「またいつでもおいで、ベル君」
「はい! お元気で!」

 コーネルをはじめとする王族は庭まで見送ってくれた。
 一日しかいなかったが、ちょっと名残惜しいな。
 風呂もでかくて、ベッドも柔らかくて気持ちよかった。
 夜の食事会もすごく楽しかったし、絶対また来よう。

 ちなみに、今度もリベラが同伴してくれる。
 わざわざすまんねぇ。
 リベラは器用だな。馬も地竜も乗りこなすとは。

 俺達はグレイス家に別れを告げ、アヴァンを出て急いでラニカへ向かった。

---

「おかえり、二人とも」
「ただいま」
「ただいま! ねえ、妊娠したってほんとなの?!」
「ええ。 待望の一人目……ゴホン、二人目ね」

 ポロッと言いかけよったぞこいつ。
 別に俺が実の息子じゃないって知られたところで何もないんだけど。

「それで、男の子なの? 女の子なの?」
「女の子よ」
「わぁっ! 嬉しいわね、ベル!」
「そうですね!
 今から出産が待ちきれません!」

 エリーゼに負けないくらいに、俺もかなり興奮している。
 前世でも俺は一人っ子だったし、兄弟ができるというのは初めての経験だ。
 妹か。可愛いんだろうなぁ。
 マジで待ちきれないな。

「父さんは?」
「おかえり、ベル、エリーゼ!
 妹ができたぞぉぉぉぉ!」
「わぁっ!?」
「ちょっ!?」

 ルドルフは俺とエリーゼを軽々持ち上げ、グルグルと回転しだした。
 エリーゼはキャハキャハと笑っているが、俺は……

「うっ……!」
「ベル?」
「オロオロオロオロ!」
「ベル!?」

 俺は盛大にゲロをぶちまけた。

---

 約七か月後。
 妹が生まれた。
 ロトアは、早産だった。
 村の産婆さんによると、生まれた子供は逆子だったらしい。

 出産はかなり難航し、産婆には「出産を諦めないと母子共に危ない」と言われた。
 ロトアはそれでも産みたいと必死に出産を続けたため、俺は治癒魔法で微力ながら手助けをした。

 そして約十時間にもわたる分娩は、無事に終わった。

 エリーゼは泣いて喜び、手を握っていたルドルフも子供のように涙を流した。

 そうして生まれた女の子は、「アリス」と名付けられた。 
 俺によく似た金髪で、ルドルフと同じエメラルドグリーンの瞳。
 ほんとに俺にそっくりだな。

 ロトアから産まれた時点で、俺と血縁はない。
 でも、そんなことは関係ない。
 俺は、誰が何と言おうと二人の子供だ。
 だから、俺はこの子の兄である。

「あー!」
「可愛いわねぇ、アリス!」

 俺も六年前まであんなだったのか。
 頭に喋りたい言葉は浮かんでいるのに、「あー」とか「うー」とかしか言えないあのつらさと言ったら。
 
 ……まさか、アリスも俺と同じ転生者だったりする?
 いや、この子はちゃんとルドルフとロトアの子だから、そんなことはありえない。

 いやぁ、それにしても可愛いなぁ。
 妹ができたっていう実感がまだ湧かないから、どう接していいかわからない。
 なんか、違う生命体を相手にしている気分だ。

「ベルもいらっしゃい」
「……はい」

 触るのが嫌だとか、そんなんじゃない。
 なんか、怖いんだよな。
 赤ん坊を触るのは初めてだから、どうしていいかわからないというか。

「そんなに怖がらなくてもいいのよ?」
「意外と年相応なところがあるじゃないか。
 お前も可愛いなぁ」
「ほら、怖くないわよ。
 アリス、お兄ちゃんでちゅよー」
「あーい」

 ロトアに手を掴まれるが、抵抗はしない。
 そのままゆっくりアリスに手を伸ばすと、アリスは俺の指を握った。

「かっ、可愛い……!」
「怖くないでしょ?」
「ベルはビビりなのね!」
「う、うるさいです」

 ああ、やばい。
 ずっと触っていられる。
 大きくなったら、きっと美人になるだろう。
 そもそもロトアとルドルフがどちらも美形だから、その娘が可愛くないわけがない。

 エリーゼが近くにいるということで、アリスまでツンデレキャラになってしまったらどうしよう。 
 あまり甘やかさないようにしないと、家にエリーゼが二人いるなんてことになってしまう。
 それはそれで悪くはないが、二人のエリーゼを相手するなんて、考えただけで頭が痛くなる。

 大きくなるのが楽しみだな。
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