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第2章 少年期 邂逅編
第二十八話 「初任務」
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「冒険者ギルドへようこそ。
新規のご登録ですか?」
「ああ」
少し歩いて、ギルドに着いた。
結構年季の入った建物だと思ったが、中は意外と綺麗だ。
見渡すと、アニメやゲームで死ぬほど見たような光景が広がっている。
奥に酒場もあるし、本格的に冒険者になるという実感がわいてきた。
「登録料をいただきますが、よろしいでしょうか?」
「これで足りるかしら」
「鉄銭五枚で大丈夫ですよ」
良心的でよかった。
てか、登録料なんて取られるのか。
色々いちゃもんつける輩とかいるだろうし、ギルドの受付嬢って大変そうだよな。
「確かに、頂戴致しました。
それでは、パーティ名を決めていただきます。
こちらですぐに決めることが難しいようでしたら、あちらのテーブルにて話し合ったのち、こちらにご提示ください」
「ゆっくり考えます」
「はい、どうぞ」
パーティ名か。
何も考えていなかった。
昨日のうちに話し合っておくべきだったかもな。
金を作るためとはいっても、やっぱりやるからにはかっこいいパーティ名がいい。
「皆さん、案はありますか?」
「どうせならかっこいい名前がいいわ」
「私は、こういう名前をつけることに対するセンスはないので……」
「適当な名前でいいだろう」
だから案を求めてるんだっつの!
さりげなく俺に委ねようって魂胆が透け透けなんだわ!
しかし、うーむ……
長年培ってきた厨二チックなワードを何とか組み合わせたらいい感じになったりしないだろうか。
まず、皆の容姿をモチーフに考えてみよう。
俺は金髪にエメラルドグリーン色の瞳。
エリーゼは、真っ赤な髪に真っ赤な瞳。
シャルロッテは、緑髪に碧い瞳。
そしてランスロットは、銀髪に碧い瞳だ。
奇しくも、ランスロットとシャルロッテの瞳の色はほとんど同じ色である。
ここから、何か連想できないだろうか。
シャルロッテの碧い瞳、そして得意魔術は雷……
あ、ピンときた。
「……『碧き雷光』は、どうでしょうか」
「かっこいいわ!」
「由来はどういったものなんですか?」
「なんとなく、各々の瞳の色と得意属性を思い浮かべた結果、こうなりました」
「青色に、雷……
何かこれ、全部私の要素じゃないですか?」
「いいじゃないですか。
ってことで、パーティリーダーはシャルロッテに決定します」
「ちょちょ、ちょっと待ってくださ――」
「決定!」
俺達のパーティ名は、『碧き雷光』。
ついでに、ほとんどシャルロッテモチーフということで、パーティリーダーはシャルロッテに決まった。
いよいよ、始まるのだ。
俺達の、冒険者生活が。
---
「依頼は、あちらの掲示板から受けることができます。
皆さんはD級パーティですので、C級までの依頼が受けられます。
受注書をこちらまでご提示いただき、受付嬢の押印を貰うと、受注完了となります。
依頼クリア後はもう一度受付カウンターまでお越しいただき、成果を報告してください」
俺達は早速掲示板の方へ向かった。
たくさん受注書があるが……
竜人語は、まだ知らない単語ばかりだから、読めない。
「何も読めないわ!」
「僕と一緒に竜人語の勉強をしましょうか」
「勉強は嫌!」
まあ、そうだろうな。
言語を勉強するのは思ったよりも楽しいから、おすすめしたいんだけどな。
魔人語はほぼ完璧にマスターしているから、あとは竜人語と獣人語だけだ。
俺は既にバイリンガルである。
「C級の依頼となると……
リザードランナーの討伐というのがありますね」
「群れの討伐となると、前衛だけでは厳しいですよね」
「私は後衛ですが、群れがどの程度のものなのか分からないですからね。
数十体くらいなら何とかなりますが、何百、何千となってくると私一人では厳しいかもしれません」
リザードランナーは、聞いたことがある。
まだ戦ったことはないが、動きが素早く、常に走り続けている魔物だと聞いた。
動き続ける魔物が相手だと、前衛だと時間がかかるかもしれない。
一体だけならまだしも、集団で動いているのだとしたら厄介だな。
「群れの討伐は、倒せば倒すだけ報酬が弾む。
何も群れを丸ごと潰す必要はない」
「ランスロットって、冒険者のことに関してやけに詳しいわよね。
経験者なの?」
「何年放浪していると思っている。
魔人竜大戦が終戦してからずっと天大陸をさすらってきたんだ。
冒険者をやっていた時期もあった」
冒険者としての知識が豊富な人間がパーティにいるのは心強いな。
実質駆け出し冒険者パーティじゃなくなったわけだ。
駆け出しと呼ぶには、戦力が充実しすぎているような気もするが。
群れを完全に壊滅させなくても、一応任務失敗にはならないのか。
何体くらいで走っているのかは分からないが、とにかく倒しまくればいいんだな。
受注書をカウンターへ持っていき、受付嬢に押印を貰った。
そして、俺達は受注書に書かれている場所を目指して冒険者ギルドを出発した。
---
「リザードランナーって、どのくらいで群れを成すの?」
「大体数百から数千だと聞いたことがあります。
まあ、私は戦ったことないですけど」
「俺は大群で走っているリザードランナーを見たことがある。
リザードランナーが大群で大陸内を移動するのは年に数回だから、この任務を独占できたのは大きい」
「群れを成さないこともあるんですか?」
「四、五体で群れるのが普通だ」
なら、マジでガッポガッポ稼げるんじゃね?
冒険者活動一日目にして、ボロ儲けの喜びを知ってしまうことになるかもしれない。
ランスロットやシャルロッテから教わったリザードランナーの特徴としては、
==============================
・小さなドラゴンのような見た目
・体は深い赤色
・黄色い宝石のような綺麗な目を持っている
・基本的には二足歩行だが、戦闘態勢に入ると四足になることもある
==============================
ざっとこんな感じだろう。
物凄い土煙を上げながら走っているため、見つけるのは極めて簡単だという。
個々の戦闘力はそこまで高くないが、数の暴力にやられないように注意はしなければならない。
なにせ、何百体も何千体もいるからな……
俺達は今、アルベーの町から数キロ離れた荒原にいる。
馬や地竜は使わず、徒歩でここまで来た。
戦う時に邪魔になるし、借りた馬や地竜を死なせるわけにもいかない。
もし無事に飼い主に返すことができなかったら、多額の賠償金を支払わなければならなくなるからな。
馬と言えば、マロンは大丈夫だろうか。
家で飼っていた愛馬、マロン。
俺とエリーゼが乗っていたはずなのに、マロンだけどこかに行ってしまった。
一緒に転移した後に、俺達を置いてその場を離れてしまった可能性もあるか。
仕方がないが、マロンを捜索することは難しいだろうな。
旅の途中で奇跡でも起きない限り、再会は叶わないだろう。
「リザードランナーは、どんな攻撃をしてくるの?」
「基本的には突進攻撃だが、火を吐いてくることもある。
後は、尻尾を振り回す攻撃くらいだろう」
あー、何か情報が増えてきたな。
せっかくさっき整理したのに。
「リザードランナーの群れには、必ずリーダーが存在する。
オスが率いているかメスが率いているかはリーダーの姿を見ないことには分からないが、通常のリザードランナーとリーダー格のリザードランナーの区別はしやすい」
「どうやるんです?」
「リーダーには、額に一本の角がある。
角持ちのリザードランナーを倒せば、群れは統制が取れなくなる」
へえ、そんなのがあるのか。
も、もう一度だけ整理しよう。
さっき整理したことに加えて、
・攻撃方法としては、突進攻撃、火を吐く攻撃、尾を振り回す攻撃がメインである
・リーダー格のリザードランナーを倒せば群れは統制が取れなくなる
って感じか。
攻撃パターンさえ覚えれば、たくさん狩れるだろう。
「……見えるか、あの土煙が」
「み、見えました」
「すごい煙ね……」
見たことがないくらいの巨大な土煙が、前方に見える。
見るからにやばそうだな。
それも、物凄い速度でこちらに向かってきている。
町の方角ではないから、そこはちゃんと良心的なんだな。
「先に言っておく。
速度としては、そこらの馬よりも速いぞ」
「……え?」
「ってことは……」
「俺とベル、エリーゼは何もできないだろう」
「えぇっ!?」
なんでそれを先に言わないんだよ!
もっと早く知れてれば、任務を選ぶ時も慎重になれただろ!
「わ、私だけで何とかしろってことですか?!」
「一応僕も魔術師ですから、戦えはしますが……」
「何で今更それを言うのよ!
ランスロットのバカ! アホ!」
「俺も受注後に気が付いたのだ。
許してくれ」
ランスロットは冷静沈着で、些細なミスなんてしないような人間だと思っていた。
早速特大のミスを犯してくれやがった!
ランスロットに任せきりにしていた俺達も悪いが、流石にこれはまずい。
何とも鮮烈な冒険者デビューだな。
「ベルと私以外は下がっていてください。
ベル、作戦を立てますよ」
「作戦も何も、もう敵は目の前ですよ?」
「そうですね。
もう作戦なんてありません」
「何ですかそれ!」
リザードランナーは、もう半径500メートル以内には来ているだろう。
「どうやって掃討しますか?」
「何も、全てを撃破する必要はないですよ。
このカードに、倒した数がカウントされていくので、数える必要もありませんし」
「……」
閃いた。
こいつらを、まとめて撃破する方法がある。
「シャルロッテ。
二人のところまで下がっていてください」
「えっ? 何をするつもりですか?」
「奴らを一匹残らず消し飛ばします」
シャルロッテは目を見開いた。
もうなりふり構っていられない。
やると決めた以上、やるしかない。
シャルロッテは俺に言われた通り、ランスロットとエリーゼの所まで下がった。
「ベル! どうするの?!」
「――」
エリーゼに返事をしてやりたいところだが、もうそんな暇はない。
目を閉じて、手を前に出す。
大きく息を吸い、吐く。
魔術自体は習得済みだから、ほぼ確実に成功する。
問題は、走ってくるリザードランナー全てを葬り去ることができるか、ということだ。
土煙の中に見えるだけで数百体はいそうだが、後続にどのくらい続いているのか分からない。
俺の魔力が持つ限り、奴らを吹き飛ばし続けるつもりだ。
確かに、全てのリザードランナーを殺す必要はない。
だが、できる限りの数は撃破したい。
無理はするなとランスロットにも言われているが、多少の無理はしなければならない。
今後の俺達が少しでも楽をできるように、ここは俺が一肌脱いでやる。
なんて、大口叩いておいて失敗しましたなんてダサいけどな。
成功するかしないかは、やってみないと分からない。
男には、やらねばならぬときがある。
「『紅蓮嵐』!」
俺は右手を天に掲げ、魔術の名前を詠唱する。
火上級魔術の中では、一番規模の大きい魔術。
中々大技は使う機会がないから成功するかは正直不安だったが、何とか成功した。
「あれは……!」
「あ、暑いわ……」
俺の使った『フレアストーム』は、燃え盛る炎を纏った嵐を起こす魔術だ。
注ぐ魔力の量で、竜巻の大きさや進行方向など、自由自在に操ることが可能。
リザードランナーの群れを土煙ごと巻き上げていくフレアストームに、更に魔力を込めていく。
それをどんどん前進させ、リザードランナーの群れへと特攻させる。
「くぅ……!」
「ベル、無理はするな!」
「全部……任せてください……!」
「もう3000体撃破してます!
十分ですよ!」
え、もうそんなに?
いや、俺ならまだやれるはずだ。
まだ遠くの方からリザードランナーが走ってくるのが見えるし、あれもまとめて吹き飛ばしてやろう。
稼げるだけ稼ぐんだ。
そして、美味いものをたくさん食べるんだ。
旅の資金にするのはもちろんだが、俺達はここ数日、まともなものを食べていない。
ミノタウロスの肉も、ミトール族の村を出た初日に食った以来だし。
正直、それ以外の魔物の肉はどれも不味いんだよな。
「ベル! もういいわ!
早く帰りましょう!」
「ま……まだです!」
「ベル! 無理をしないという約束だろう!」
「4000体になりました!
もう数週間は困りませんよ――」
あれ、何か視界が……
もう、少しだけでも……
「――!――!」
やべ、調子に乗りすぎ――――
---
「ぎぼちわるい」
「もう! ほんっとにバカね!」
「あれほど無理をするなと言ったがな」
「おかげさまでガッポリ稼げましたけど、体に無理をさせすぎるのはダメですよ」
はい、すみませんでした。
初めての冒険者としての任務、そして謎の高揚感によってアドレナリンが止まらなくなった。
調子に乗りすぎた結果、俺は魔力枯渇で倒れてしまった。
倒したリザードランナーの数は4000体にも達し、受付嬢と周辺の冒険者にはたまげられたという。
どうやら、世界記録を樹立してしまったらしい。
魔力を使いすぎたせいで、俺は今とても体調が悪い。
吐き気が止まらないし、頭痛が痛い
酒場で打ち上げをしたいが、この調子では到底行けそうもない。
俺を放って三人で打ち上げをしてもらってもよかったのだが、シャルロッテが「一番の功労者を置いて打ち上げなんてできません」と、俺を庇ってくれた。
俺がほとんど掃討したのは確かだが、調子に乗ってぶっ倒れたのも事実。
前者だけならかっこよかったが、後者のせいで圧倒的に締まらない。
「まあ、ベルがいなかったらちょっとまずかったかもですからね」
「シャルロッテの魔術でもよかったんじゃないの?」
「雷魔術であれほどの大規模な魔術を使うには、聖級魔術を使わなければいけません。
聖級以上は詠唱が必要ですが、詠唱なんてしている時間なんてありませんでした。
なので私一人でしたら、せいぜい600体くらいが限界だったでしょう」
「そ、そうなの?」
そ、そうなの?
それなら、身を削ってまで貢献できたってことでいいのか。
若干のダサさは拭えないが、それでも役に立てたなら良かった。
「あ、ありがと、ベル。
流石あたしの相棒ね!」
「さっき散々バカだのアホだの言ってましたよね?」
「ちょ、ちょびっとだけバカだけど、大体はかっこよかったわよ!
トイレ行ってくる!」
「否定はしませんけど。
いってらっしゃい」
まあ、実際バカやったしな。
ちょびっとっていうか、めちゃくちゃバカだろ。
エリーゼなりにカバーしてくれようとしたのだろうが、俺は俺自身を「馬鹿」と称する。
「あんな感じですけど、ベルが倒れた時、誰よりも心配してましたよ。
ね、ランスロット」
「涙目になりながらな」
「そうそう。
ランスロットがおぶっている時も、『あたしがおんぶするわ! 代わって!』って訴えかけてましたからね」
「そうなんですか……」
エリーゼって、何だかんだ俺のこと好きだよな。
いや、ちょっと優しくされただけで勘違いするのは典型的な童貞だ。
ここは、友達想いだといっておこうか。
初めて出会った時にエリーゼを庇った際も、エリーゼは泣きながら俺の介抱をしてくれたし。
普段はあんな感じでツンツンしてるけど、ちゃんと優しいんだよな。
「ただいま」
「エリーゼ、ありがとうございます」
「? 何がよ」
「いえ、何でもありません」
「何よそれ!
何で皆して笑ってんのよ!」
回復したら、また冒険者を頑張るとするか。
……今後は、このようなことがないようにしたいと思います。
新規のご登録ですか?」
「ああ」
少し歩いて、ギルドに着いた。
結構年季の入った建物だと思ったが、中は意外と綺麗だ。
見渡すと、アニメやゲームで死ぬほど見たような光景が広がっている。
奥に酒場もあるし、本格的に冒険者になるという実感がわいてきた。
「登録料をいただきますが、よろしいでしょうか?」
「これで足りるかしら」
「鉄銭五枚で大丈夫ですよ」
良心的でよかった。
てか、登録料なんて取られるのか。
色々いちゃもんつける輩とかいるだろうし、ギルドの受付嬢って大変そうだよな。
「確かに、頂戴致しました。
それでは、パーティ名を決めていただきます。
こちらですぐに決めることが難しいようでしたら、あちらのテーブルにて話し合ったのち、こちらにご提示ください」
「ゆっくり考えます」
「はい、どうぞ」
パーティ名か。
何も考えていなかった。
昨日のうちに話し合っておくべきだったかもな。
金を作るためとはいっても、やっぱりやるからにはかっこいいパーティ名がいい。
「皆さん、案はありますか?」
「どうせならかっこいい名前がいいわ」
「私は、こういう名前をつけることに対するセンスはないので……」
「適当な名前でいいだろう」
だから案を求めてるんだっつの!
さりげなく俺に委ねようって魂胆が透け透けなんだわ!
しかし、うーむ……
長年培ってきた厨二チックなワードを何とか組み合わせたらいい感じになったりしないだろうか。
まず、皆の容姿をモチーフに考えてみよう。
俺は金髪にエメラルドグリーン色の瞳。
エリーゼは、真っ赤な髪に真っ赤な瞳。
シャルロッテは、緑髪に碧い瞳。
そしてランスロットは、銀髪に碧い瞳だ。
奇しくも、ランスロットとシャルロッテの瞳の色はほとんど同じ色である。
ここから、何か連想できないだろうか。
シャルロッテの碧い瞳、そして得意魔術は雷……
あ、ピンときた。
「……『碧き雷光』は、どうでしょうか」
「かっこいいわ!」
「由来はどういったものなんですか?」
「なんとなく、各々の瞳の色と得意属性を思い浮かべた結果、こうなりました」
「青色に、雷……
何かこれ、全部私の要素じゃないですか?」
「いいじゃないですか。
ってことで、パーティリーダーはシャルロッテに決定します」
「ちょちょ、ちょっと待ってくださ――」
「決定!」
俺達のパーティ名は、『碧き雷光』。
ついでに、ほとんどシャルロッテモチーフということで、パーティリーダーはシャルロッテに決まった。
いよいよ、始まるのだ。
俺達の、冒険者生活が。
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「依頼は、あちらの掲示板から受けることができます。
皆さんはD級パーティですので、C級までの依頼が受けられます。
受注書をこちらまでご提示いただき、受付嬢の押印を貰うと、受注完了となります。
依頼クリア後はもう一度受付カウンターまでお越しいただき、成果を報告してください」
俺達は早速掲示板の方へ向かった。
たくさん受注書があるが……
竜人語は、まだ知らない単語ばかりだから、読めない。
「何も読めないわ!」
「僕と一緒に竜人語の勉強をしましょうか」
「勉強は嫌!」
まあ、そうだろうな。
言語を勉強するのは思ったよりも楽しいから、おすすめしたいんだけどな。
魔人語はほぼ完璧にマスターしているから、あとは竜人語と獣人語だけだ。
俺は既にバイリンガルである。
「C級の依頼となると……
リザードランナーの討伐というのがありますね」
「群れの討伐となると、前衛だけでは厳しいですよね」
「私は後衛ですが、群れがどの程度のものなのか分からないですからね。
数十体くらいなら何とかなりますが、何百、何千となってくると私一人では厳しいかもしれません」
リザードランナーは、聞いたことがある。
まだ戦ったことはないが、動きが素早く、常に走り続けている魔物だと聞いた。
動き続ける魔物が相手だと、前衛だと時間がかかるかもしれない。
一体だけならまだしも、集団で動いているのだとしたら厄介だな。
「群れの討伐は、倒せば倒すだけ報酬が弾む。
何も群れを丸ごと潰す必要はない」
「ランスロットって、冒険者のことに関してやけに詳しいわよね。
経験者なの?」
「何年放浪していると思っている。
魔人竜大戦が終戦してからずっと天大陸をさすらってきたんだ。
冒険者をやっていた時期もあった」
冒険者としての知識が豊富な人間がパーティにいるのは心強いな。
実質駆け出し冒険者パーティじゃなくなったわけだ。
駆け出しと呼ぶには、戦力が充実しすぎているような気もするが。
群れを完全に壊滅させなくても、一応任務失敗にはならないのか。
何体くらいで走っているのかは分からないが、とにかく倒しまくればいいんだな。
受注書をカウンターへ持っていき、受付嬢に押印を貰った。
そして、俺達は受注書に書かれている場所を目指して冒険者ギルドを出発した。
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「リザードランナーって、どのくらいで群れを成すの?」
「大体数百から数千だと聞いたことがあります。
まあ、私は戦ったことないですけど」
「俺は大群で走っているリザードランナーを見たことがある。
リザードランナーが大群で大陸内を移動するのは年に数回だから、この任務を独占できたのは大きい」
「群れを成さないこともあるんですか?」
「四、五体で群れるのが普通だ」
なら、マジでガッポガッポ稼げるんじゃね?
冒険者活動一日目にして、ボロ儲けの喜びを知ってしまうことになるかもしれない。
ランスロットやシャルロッテから教わったリザードランナーの特徴としては、
==============================
・小さなドラゴンのような見た目
・体は深い赤色
・黄色い宝石のような綺麗な目を持っている
・基本的には二足歩行だが、戦闘態勢に入ると四足になることもある
==============================
ざっとこんな感じだろう。
物凄い土煙を上げながら走っているため、見つけるのは極めて簡単だという。
個々の戦闘力はそこまで高くないが、数の暴力にやられないように注意はしなければならない。
なにせ、何百体も何千体もいるからな……
俺達は今、アルベーの町から数キロ離れた荒原にいる。
馬や地竜は使わず、徒歩でここまで来た。
戦う時に邪魔になるし、借りた馬や地竜を死なせるわけにもいかない。
もし無事に飼い主に返すことができなかったら、多額の賠償金を支払わなければならなくなるからな。
馬と言えば、マロンは大丈夫だろうか。
家で飼っていた愛馬、マロン。
俺とエリーゼが乗っていたはずなのに、マロンだけどこかに行ってしまった。
一緒に転移した後に、俺達を置いてその場を離れてしまった可能性もあるか。
仕方がないが、マロンを捜索することは難しいだろうな。
旅の途中で奇跡でも起きない限り、再会は叶わないだろう。
「リザードランナーは、どんな攻撃をしてくるの?」
「基本的には突進攻撃だが、火を吐いてくることもある。
後は、尻尾を振り回す攻撃くらいだろう」
あー、何か情報が増えてきたな。
せっかくさっき整理したのに。
「リザードランナーの群れには、必ずリーダーが存在する。
オスが率いているかメスが率いているかはリーダーの姿を見ないことには分からないが、通常のリザードランナーとリーダー格のリザードランナーの区別はしやすい」
「どうやるんです?」
「リーダーには、額に一本の角がある。
角持ちのリザードランナーを倒せば、群れは統制が取れなくなる」
へえ、そんなのがあるのか。
も、もう一度だけ整理しよう。
さっき整理したことに加えて、
・攻撃方法としては、突進攻撃、火を吐く攻撃、尾を振り回す攻撃がメインである
・リーダー格のリザードランナーを倒せば群れは統制が取れなくなる
って感じか。
攻撃パターンさえ覚えれば、たくさん狩れるだろう。
「……見えるか、あの土煙が」
「み、見えました」
「すごい煙ね……」
見たことがないくらいの巨大な土煙が、前方に見える。
見るからにやばそうだな。
それも、物凄い速度でこちらに向かってきている。
町の方角ではないから、そこはちゃんと良心的なんだな。
「先に言っておく。
速度としては、そこらの馬よりも速いぞ」
「……え?」
「ってことは……」
「俺とベル、エリーゼは何もできないだろう」
「えぇっ!?」
なんでそれを先に言わないんだよ!
もっと早く知れてれば、任務を選ぶ時も慎重になれただろ!
「わ、私だけで何とかしろってことですか?!」
「一応僕も魔術師ですから、戦えはしますが……」
「何で今更それを言うのよ!
ランスロットのバカ! アホ!」
「俺も受注後に気が付いたのだ。
許してくれ」
ランスロットは冷静沈着で、些細なミスなんてしないような人間だと思っていた。
早速特大のミスを犯してくれやがった!
ランスロットに任せきりにしていた俺達も悪いが、流石にこれはまずい。
何とも鮮烈な冒険者デビューだな。
「ベルと私以外は下がっていてください。
ベル、作戦を立てますよ」
「作戦も何も、もう敵は目の前ですよ?」
「そうですね。
もう作戦なんてありません」
「何ですかそれ!」
リザードランナーは、もう半径500メートル以内には来ているだろう。
「どうやって掃討しますか?」
「何も、全てを撃破する必要はないですよ。
このカードに、倒した数がカウントされていくので、数える必要もありませんし」
「……」
閃いた。
こいつらを、まとめて撃破する方法がある。
「シャルロッテ。
二人のところまで下がっていてください」
「えっ? 何をするつもりですか?」
「奴らを一匹残らず消し飛ばします」
シャルロッテは目を見開いた。
もうなりふり構っていられない。
やると決めた以上、やるしかない。
シャルロッテは俺に言われた通り、ランスロットとエリーゼの所まで下がった。
「ベル! どうするの?!」
「――」
エリーゼに返事をしてやりたいところだが、もうそんな暇はない。
目を閉じて、手を前に出す。
大きく息を吸い、吐く。
魔術自体は習得済みだから、ほぼ確実に成功する。
問題は、走ってくるリザードランナー全てを葬り去ることができるか、ということだ。
土煙の中に見えるだけで数百体はいそうだが、後続にどのくらい続いているのか分からない。
俺の魔力が持つ限り、奴らを吹き飛ばし続けるつもりだ。
確かに、全てのリザードランナーを殺す必要はない。
だが、できる限りの数は撃破したい。
無理はするなとランスロットにも言われているが、多少の無理はしなければならない。
今後の俺達が少しでも楽をできるように、ここは俺が一肌脱いでやる。
なんて、大口叩いておいて失敗しましたなんてダサいけどな。
成功するかしないかは、やってみないと分からない。
男には、やらねばならぬときがある。
「『紅蓮嵐』!」
俺は右手を天に掲げ、魔術の名前を詠唱する。
火上級魔術の中では、一番規模の大きい魔術。
中々大技は使う機会がないから成功するかは正直不安だったが、何とか成功した。
「あれは……!」
「あ、暑いわ……」
俺の使った『フレアストーム』は、燃え盛る炎を纏った嵐を起こす魔術だ。
注ぐ魔力の量で、竜巻の大きさや進行方向など、自由自在に操ることが可能。
リザードランナーの群れを土煙ごと巻き上げていくフレアストームに、更に魔力を込めていく。
それをどんどん前進させ、リザードランナーの群れへと特攻させる。
「くぅ……!」
「ベル、無理はするな!」
「全部……任せてください……!」
「もう3000体撃破してます!
十分ですよ!」
え、もうそんなに?
いや、俺ならまだやれるはずだ。
まだ遠くの方からリザードランナーが走ってくるのが見えるし、あれもまとめて吹き飛ばしてやろう。
稼げるだけ稼ぐんだ。
そして、美味いものをたくさん食べるんだ。
旅の資金にするのはもちろんだが、俺達はここ数日、まともなものを食べていない。
ミノタウロスの肉も、ミトール族の村を出た初日に食った以来だし。
正直、それ以外の魔物の肉はどれも不味いんだよな。
「ベル! もういいわ!
早く帰りましょう!」
「ま……まだです!」
「ベル! 無理をしないという約束だろう!」
「4000体になりました!
もう数週間は困りませんよ――」
あれ、何か視界が……
もう、少しだけでも……
「――!――!」
やべ、調子に乗りすぎ――――
---
「ぎぼちわるい」
「もう! ほんっとにバカね!」
「あれほど無理をするなと言ったがな」
「おかげさまでガッポリ稼げましたけど、体に無理をさせすぎるのはダメですよ」
はい、すみませんでした。
初めての冒険者としての任務、そして謎の高揚感によってアドレナリンが止まらなくなった。
調子に乗りすぎた結果、俺は魔力枯渇で倒れてしまった。
倒したリザードランナーの数は4000体にも達し、受付嬢と周辺の冒険者にはたまげられたという。
どうやら、世界記録を樹立してしまったらしい。
魔力を使いすぎたせいで、俺は今とても体調が悪い。
吐き気が止まらないし、頭痛が痛い
酒場で打ち上げをしたいが、この調子では到底行けそうもない。
俺を放って三人で打ち上げをしてもらってもよかったのだが、シャルロッテが「一番の功労者を置いて打ち上げなんてできません」と、俺を庇ってくれた。
俺がほとんど掃討したのは確かだが、調子に乗ってぶっ倒れたのも事実。
前者だけならかっこよかったが、後者のせいで圧倒的に締まらない。
「まあ、ベルがいなかったらちょっとまずかったかもですからね」
「シャルロッテの魔術でもよかったんじゃないの?」
「雷魔術であれほどの大規模な魔術を使うには、聖級魔術を使わなければいけません。
聖級以上は詠唱が必要ですが、詠唱なんてしている時間なんてありませんでした。
なので私一人でしたら、せいぜい600体くらいが限界だったでしょう」
「そ、そうなの?」
そ、そうなの?
それなら、身を削ってまで貢献できたってことでいいのか。
若干のダサさは拭えないが、それでも役に立てたなら良かった。
「あ、ありがと、ベル。
流石あたしの相棒ね!」
「さっき散々バカだのアホだの言ってましたよね?」
「ちょ、ちょびっとだけバカだけど、大体はかっこよかったわよ!
トイレ行ってくる!」
「否定はしませんけど。
いってらっしゃい」
まあ、実際バカやったしな。
ちょびっとっていうか、めちゃくちゃバカだろ。
エリーゼなりにカバーしてくれようとしたのだろうが、俺は俺自身を「馬鹿」と称する。
「あんな感じですけど、ベルが倒れた時、誰よりも心配してましたよ。
ね、ランスロット」
「涙目になりながらな」
「そうそう。
ランスロットがおぶっている時も、『あたしがおんぶするわ! 代わって!』って訴えかけてましたからね」
「そうなんですか……」
エリーゼって、何だかんだ俺のこと好きだよな。
いや、ちょっと優しくされただけで勘違いするのは典型的な童貞だ。
ここは、友達想いだといっておこうか。
初めて出会った時にエリーゼを庇った際も、エリーゼは泣きながら俺の介抱をしてくれたし。
普段はあんな感じでツンツンしてるけど、ちゃんと優しいんだよな。
「ただいま」
「エリーゼ、ありがとうございます」
「? 何がよ」
「いえ、何でもありません」
「何よそれ!
何で皆して笑ってんのよ!」
回復したら、また冒険者を頑張るとするか。
……今後は、このようなことがないようにしたいと思います。
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