空中転生

蜂蜜

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第2章 少年期 邂逅編

第二十九話 「リヴァイアサンファング」

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 三日ほど休んで、体調は完全に回復した。

 コツコツ稼ぐ予定ではあったが、一気にかなりの金を稼いでしまった。
 白金銭を約5枚、翡翠銭を5枚。
 俺は、数日の身体の自由と引き換えに、大金を稼いでしまった。
 これで少しだけでも贅沢してえなあ。
 まあ当然、そんなことは言ってられないんだけど。

 天大陸からデュシス大陸に渡るには、まだまだこんなもんじゃ足りないらしい。
 少なくとも、白金銭50枚が必要であるらしい。
 じゅ、十倍……

 今後の生活費に充てる分の金だって必要だから、実際にはもっと必要だろう。
 あれだけやってまだ十分の一だろ。
 気が遠くなるったらありゃしない。
 結局は、コツコツ稼ぐしかなさそうだな。

 前みたいな任務がゴロゴロ転がってるわけないし、本当にあと何週間かかかりそう。

 俺は勝手に、この大陸で流通している通貨の価値を定義してみた。

=========================
・白金銭→1000円
・翡翠銭→500円
・鉄銭→100円
・石銭→10円
=========================

 こういう風に定義しておけば、目標が明確になりそうだ。
 デュシス大陸に渡るために必要なのは、五万円。
 今の俺達の手元にあるお金は、白金銭10枚と翡翠銭5枚。
 厳密に言えば、鉄銭と石銭もいくらかはある。

 1000円が10枚、500円が5枚。
 これだけで考えてみると、12500円だ。
 あれ、意外と四分の一か。
 案外時間はかからないかもな。

 いや、そんなことはない。
 奇跡的に一気に稼げただけであって、本来もっと報酬は少ないはず。
 一昨昨日のような任務をまた受注できれば話は別だが。
 人生、そんなに上手いことはいきませんわな。

「さて、久々の任務だな」
「どっかの誰かさんのせいでね」
「すみません……」
「まあまあ。
 あれだけ稼げたのは、大きな進歩ですよ。
 まさか一つ任務をこなしただけでランクアップができるとは思いませんでしたし」

 あ、そういえばそうだったな。
 俺達『碧き雷光』は、早くもC級冒険者パーティに昇格した。
 昇格条件はよく分からないが、俺がリザードランナー撃破数の世界記録を打ち立てたからだろうか。

 ともあれ、これでB級の依頼を受けられるようになった。
 どうやら、B級から難易度が段違いになるんだとか。
 リザードランナー討伐依頼って、本当にC級の任務でよかったのか?
 やっぱり、あの依頼を単独で受けられたのはかなりの強運だったんじゃないか。
 あれだけ稼げたんだし、取り合いになってもおかしくないくらいに美味しい任務だろ、あれ。

「今日はこの任務を受ける」

 そう言ってランスロットが持ってきた受注書には、こう書かれていた。

=========================
B級任務
・内容:ボスミノタウロスの討伐
・クリア条件:対象の討伐、及び戦利品の収集
・報酬:翡翠銭10枚
・期限:受注よりニ週間以内
・場所:ベイルザティ森林の最奥
・備考:近隣にある村の住民が、何人も犠牲になっているそうです。なるべく早急に討伐をお願いします。
=========================

 ボスミノタウロス。
 名前の通り、ミノタウロスの強化版ってところだろう。
 期限は、受注してからニ週間以内、か。

 ちなみに、任務に連続で失敗してしまうと、降格してしまうこともある。
 つまり、D級パーティに逆戻りというわけだ。

「ベイルザティ森林というと、ここから南に半日くらいのところにある大きな森林ですよね」
「ああ。 この大陸でも有数の大森林だな。
 木々が生い茂っている道なき道から、突然魔物が襲ってくることもある危険な森だ」

 ラニカ村とヘコネ村の間にあった名もなき森とはわけが違いそうだな。
 あそこにも魔物は潜んでいたが、俺とエリーゼの敵ではなかった。
 天大陸の魔物は桁違いに強いし、油断はならない。
 ボスに辿り着く前に負傷者が出てしまう、なんてことにはならないようにしなければ。
 例えば、俺が調子に乗ってまたぶっ倒れるとかな。

「報酬は翡翠銭10枚ですか……
 報酬としては割と良い方ですが、いかにあの依頼が美味しいものだったかを思い知らされますね……」
「楽に稼げる仕事などないということだ」
「ボスミノタウロスって強いの?」
「少なくとも、お前やベルが経験した中では一番手強い魔物になるだろう。
 通常のミノタウロスの何倍もの大きさでありながら、従来の個体よりも遥かに速く動く」

 今までで一番強いってことか。
 これまでに戦ってきた魔物達は何というか、「強い」と感じたことはなかったような気がする。
 そりゃ、中には手こずった魔物もいたが、苦戦を強いられるような魔物を相手にしたことはない。
 ランスロットとシャルロッテがいるから大丈夫だとは思うが、楽に勝てる相手ではないことは確かだろう。

 っていうか、翡翠銭10枚っていうと5000円くらいだろ。
 白金銭5枚でよくないか。
 どうしてわざわざ翡翠銭で渡すんだろうか。

 もしかしてあれか。
 万札よりも千円札の方が使い勝手がいいからってのと同じ理由か。
 あ、我ながらなんかすごく納得がいった。

「準備ができたら出発するぞ」
「もう行けるわ!」
「私も行けます」
「僕も行けま――」
「――ちょっと待ったぁ」

 む、何だ。
 聞いたことのない声だ。

 俺とよく似た髪の色をした男、その後ろには四人の男が並んでいた。

「何ですか、あなたたち」
「その依頼、オレ達が受ける」

 うわ、なんだこいつら。
 俺達が先に引き受けた任務なのに。
 でも、まだ受付嬢に押印もらってないから、この受注書にはまだどのパーティにも所有権はないのか。

「嫌です。
 私たちが先にこの受注書を手に取ったので、あなたたちは他の依頼を探してください」
「おっと、オレ達のことを知らねえのか?」
「リヴァイアサンファングだろう」
「その通りだ。
 オレ達はA級冒険者パーティだ。
 お前達は、最近C級になったばかりのパーティだろ?
 それなら、オレ達にそれを渡せ」

 リヴァイアサンの牙。
 ダッサいパーティ名だなぁ。
 俺達のがよっぽどセンスのあるパーティ名だと思うんだが。
 名前だけならどっちが上のランクか分かんねえな。

「どうしてですか?」
「何だ?ガキ。
 テメェみたいなガキが来るような場所じゃないんだよここは。
 お遊び気分でここにいるなら、とっとと失せやがれ」

 ほーん?
 ムカつく言い方するじゃねえか、コイツ。
 そんなに舐めた口きいてたら、うちのランスロットさんが黙ってないんだからな。

「どうして、あなた達にこれを渡さないといけないんですか?」
「俺達はA級、お前達はC級。
 これだけで分かんねえのか?」
「下のランクのパーティが上のランクのパーティに依頼を譲渡する義務はどこにあるんですか?」

 そこに義務はあるん?って話ですよ。
 冒険者協会が取り決めているルールには、そんなことはどこにも記載されてなかったけどな。

「何だお前! ガキだからって容赦はしねえぞ――」
「――やめろ」

 剣を抜こうとする男を、ランスロットは槍で制した。
 男は整った顔を歪め、ランスロットと俺を睨みつける。
 俺達はいつの間にか、ギルド内の全員の視線を集めていた。

「子供を傷つける大人を、俺は絶対に許さない」
「……ちっ! 何なんだよお前らは」
「こっちのセリフよ。
 何なの、あんた達。
 これは先にあたし達が受けようとして取った受注書なの。
 あんた達にこれを譲る義理はないわ」

 よく言ったぞ、エリーゼ。
 何がA級パーティだ。知ったことっちゃない。

「……分かった。
 それなら、合同で受けるってのはどうだ――」
「これで、お願いします」
「はい、かしこまりました」
「おい! 人の話を聞け!」

 シャルロッテは『リヴァイアサンファング』のリーダーからの提案に聞く耳を持たず、さっさとカウンターに受注書を提出した。
 こういうわけのわからない害悪な奴のこういう顔を見るのってたまらないよな。
 と思う俺は性格が悪いのだろうか。

「おい受付嬢!
 こいつらの肩を持つってのか!?」
「どっからどう見てもあんたらが悪いでしょ。
 僕達は何も悪いことしてませんし、受付嬢が僕達の味方をするのも当然のことなのでは?」
「…………覚えてろよ!」

 うわ出た、その捨て台詞。
 決まってまた痛い目を見るタイプのやつだな。
 せっかくあんなに顔がいいのに性格があんなんじゃ、ねえ。

「ありがとうございます、『碧き雷光』の皆さん」
「いつもあんな感じなんですか?」
「昨晩から朝にかけてずっとお酒を飲んでいらっしゃっていたので、それもあるかと思いますが。
 冒険者にも、色々な人がいるということです」

 そんな言葉で片付けちゃっていいのか、あいつら。
 ギルド内で剣を抜こうとしたし、普通に懲罰もんだろあれ。

 ま、結果的に何もせずにどっか行ってくれたからいいか。

「行ってらっしゃいませ、『碧き雷光』御一行様」
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