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第2章 少年期 邂逅編
第三十八話 「港町・ラゾン」
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「ベル! 見て! 海よ!」
何の障害もなく、港町・ラゾンに到着。
はしゃぎ回るエリーゼの先には、見渡す限りの青。
これがこの世界の海だ。
当然だが、この世界の海も青かったんだな。
何で他の色だと思っていたのかは俺にもわからん。
逆に教えて欲しい。
俺達は今、砂浜にいる。
ここから見える景色は、まさに絶景だ。
ただ大海原が広がっているだけだが、それでも映えるほどに美しい。
見ていて心が洗われていくようだ。
まるで俺の心みたいに広……
「ねえ! 泳げるのかしら!」
「泳っ……!?」
何と。
12歳の少女の水着姿を拝めるチャンス到来だ!
俺に春が来た!
あ、今は春か。
「やめておけ。
浅瀬でも魔物はいるし、そもそも水着なんて持っていないだろう」
「水着は買えばいいし、魔物は倒せばいいじゃない」
「簡単に言うな」
クソぅ、せっかくの好機だったのに。
え?気持ち悪いって?
裸を見たいと言っているわけじゃないからいいだろ!
これが男の性だ!
……気を取り直して。
これから俺達は、ここに約二ヶ月泊まることになる。
なるべく、褒賞金で得た金は使わないようにしなければならない。
とはいっても、二ヶ月も泊まるとなれば、宿泊代がバカにならない。
だから、冒険者活動は欠かさずに続けると取り決めた。
褒賞金である白金銭55枚は、ランスロットが責任をもって管理する。
その中から金を使った人間、もしくは使おうとした人間は罰が与えられる。
それは、怒涛の一週間連勤だ。
俺達はこの港町にいる間、基本的に全員で活動をすることはない。
流石に過労死してしまうからな。
だが、白金銭を使おうものなら、過労死覚悟で働かせる。
それくらいの罰がなければ、どっかの酒飲みさんが使ってしまわんとも限らないからな。
シャルロッテは見た目や口調に反して、割と金遣いが荒い。
普段は節度を守っているが、打ち上げをするとなるととにかく酒を飲みまくる。
ガラウスを出る前にもギルドの酒場で食事をしたが、
その時もかなりの量の酒を飲んだ。
肝臓が心配になるほど飲んで、気絶して、ランスロットに運ばれた。
旅をしている間にショック死とかしないか怖いんだが。
「ねえ、浅瀬で水浴びくらいはいいでしょ?」
「まあ、それくらいなら構わん。
だが、足元には気を付けろ」
「分かったわ!」
「え、ちょ」
エリーゼは俺の手を引き、海際へと駆け出した。
靴の中に砂が大量に入った。
水浴びをするなら靴は脱いでおいた方がいいか。
「うわっ! 冷たっ!?」
「やり返してきなさいよっ!」
「ふふ、覚悟はいいですか?
そらっ!」
「ちょっと! 魔術は卑怯でしょ!」
風魔術を使って、エリーゼに大量の水を浴びせた。
ちょっとやりすぎてしまったか。
エリーゼは体中びしょ濡れになっている。
わお、服が透けて下着が見えちゃってるじゃないか。
何と壮観なこと。
いや、わざと透かそうとしたわけではないぞ。
本当だぞ。
「こんのっ……!
やったわね!」
「わっ! やりすぎですって!」
「あたしと同じくらい濡らしてやるわ!」
エリーゼは水を大きくすくい上げ、俺に思い切り浴びせた。
俺もエリーゼも、互いに全身びしょ濡れだ。
「二人とも、そんなに濡れてどうするつもりですか」
「す、すみません……」
「こっちに来てください。
ベルに、ある『合魔術』を教えてあげます」
「ほう。 何ですか?」
「とにかく、こちらに」
ビショビショのまま、俺達はシャルロッテの所に向かった。
俺の知っている合魔術と言えば、水魔術と火魔術を合わせてお湯を作るやつくらいだな。
「こんなに濡れていては、到底町なんて歩けません。
なので、体を乾かしましょう」
シャルロッテに手招きされて、俺はかがんでいるシャルロッテの足元に座る。
すると、俺の体に温風が当たり始めた。
ドライヤーを作り出す魔術なんてあるのか。
「これは、風魔術と火魔術を合わせた合魔術です。
お風呂から出た後いつも使っている、お気に入りの魔術なんですよ」
「そんなものがあったなんて……」
「知らないのが普通です。
魔法学校に通っていないと教えられないものですし。
それに、そもそも難易度が高い魔術なので」
魔術教本にも書いてなかったし、ロトアにも教えてもらわなかった。
温風は、シャルロッテの手のひらから出ている。
あったかくて気持ちがいいな。
エリーゼは寒そうにブルブルと震えている。
ちょっと可哀想だし、変わってあげよう。
「私も、これを習得するには何か月もかかりました。
学校では、上級魔術を覚えるのと同じくらいの難易度だと言われましたからね」
「そんなに難しいんですか?」
「最初は習得できる気がしませんでした。
ですが、習得してからは何故あんなに手こずっていたのか分からないくらい、簡単にできるようになりました」
まあ、魔術って基本そんなもんだよな。
魔術に限った話じゃないけど。
「僕も、習得したいです」
「いいですよ。
雷魔術と同時進行で、教えてあげましょう。
将来魔法学校に行くのなら、先に覚えておけば少しはアドバンテージになるでしょうし」
この町にいる二ヶ月間、そして船にいる間の一カ月間で習得できるだろうか。
今、ちょうどシャルロッテから雷魔術を教えてもらっているところだが、全くできる気がしない。
街と街の間を移動する間にレクチャーしてもらっているが、成長しているとは言えないだろう。
現在の俺の魔術の階級は、
・火上級
・水中級
・雷中級
・風初級
・土初級
と、こんな感じだ。
得意不得意が顕著に表れている。
雷聖級であるシャルロッテから魔術を教わっているが、
この三週間では全く成長が見込めない。
もちろんシャルロッテのせいではないのだが、
少しだけ気負っているようにも見える。
人に教えた経験がないのだし、まだ一か月も経っていないから仕方ない。
まだまだ長い旅になるし、ゆっくりいきましょうや。
---
まだ昼間だが、早めに宿をとっておくことになった。
海の荒れが収まる二か月後に備えて、宿を取りに来る旅行客が殺到するらしい。
幸いまだピークは先であるため、問題なく宿をとれた。
「この町は、治安がいいことで有名だ。
犯罪が起こることもめったにないらしい」
「ほ、本当ですか?」
「ああ」
あんなことがあったばかりだから不安だが。
それがフラグにならないことを祈ろう。
ということで、俺は町を見て回ることにした。
エリーゼに一緒に行くかと聞いてみたが、振られてしまった。
今日は疲れたから、ゆっくり休みたいとのこと。
一人で町を回るのは、初めてかもしれない。
ラニカ村を除けば、の話だが。
たまにはこういうのもいいかもしれない。
でも、一人で町を歩くって言ってもな。
一応、ランスロットから小遣いは渡されたから、何か食べるか。
それか、手土産でも買っていくか。
誰にあげるわけでもないが。
もらった小遣いは、翡翠銭5枚。
大体2500円くらいと考えたら、普通に美味しいものくらいなら食べられるな。
適当に歩いて回って、気になった店に入るみたいな感じでいいか。
「ベル!」
「シャルロッテ?」
「ちょっと買いたいものがあったので、ついていってもいいですか?」
「もちろんです」
後ろから、シャルロッテが走ってきた。
ちゃんとランスロットに許可を取ってお金を貰って来たんだろうな。
でないと、一週間連勤地獄が待っている。
目に入るもの全てが新鮮だ。
港町というのもあって、普段は見ない品物が並んでいる店ばかり。
特に、魚や貝などの海産物。
天大陸の他の街ではあまり見られなかったから、ちょっと嬉しいかも。
肉ばかり食べていたから、たまには海産物が食べたかったんだよな。
「こうして二人で歩くことはありませんでしたね。
手でも繋ぎますか? ベル」
「いいですよ?」
「……冗談だったんですが」
何だよ。
俺は割と本気だったのに。
俺はこういうのを本気にするタイプだからな。
なにせ童貞なもんで。
「買いたいものってなんですか?」
「新しい杖が欲しいんですよね。
使っていたものが壊れてから、ずっと素手のままなので」
「杖って、消耗品なんですか?」
「そうですよ。
魔力を注いで使うものなので、使い続ければいずれ壊れてしまいますからね」
そうだったのか。
てっきり、老人が使う杖と同じで一生モノだと思っていた。
シャルロッテは、杖のことについて詳しく説明してくれた。
杖ありと杖無しでは、魔術の威力がかなり変わるらしい。
大体、三倍くらい違うという。
もちろん、その倍率は杖にもよるが。
基本的に、杖の価格は幅広い。
短い杖でも、モノによっては高価なものもあるらしい。
高価な杖に共通している特徴としては、杖に魔石という石が埋め込まれていること。
それだけで価格は倍以上に跳ね上がる。
シャルロッテは、素手でも十分高威力の魔術を放てる。
ということは、買った杖次第でかなりパワーアップするんじゃないか。
「ベルは、杖が欲しいとは思わないんですか?」
「僕は近接型の魔術師になるつもりなので、要らないと思ってます」
「近接型とはいっても、杖の有無で火力が段違いになりますよ。
持っておくだけで、戦いやすさも変わると思いますし」
うーむ……
いや、確かにありかもな。
別に、長い杖を買わなくたっていい。
短い杖なら、戦う時に邪魔にならないし。
シャルロッテと杖を見て回るついでに、ちょっと見てみるか。
杖を使うだけで魔術の威力が上がるなんて、魔術師からしてみればお得すぎるしな。
「この店です。
さっき町に入った時から気になってたんです」
年季の入った建物だ。
扉を開けると、軋むような音がした。
蹴ったりしたら倒壊しそうだな。
「らっしゃい」
「こんにちは」
「おや、親子で杖を見に来たのかい?」
「違います!」
シャルロッテって、結構年齢とか容姿を気にする時があるよな。
確か、31歳なんだったか。
長命族でいう31歳って、まだ子供みたいなものだろう。
この世界における成人年齢は、15歳だとされている。
……えっ、エリーゼって後三年で成人なのか?
エリーゼが成人するまでには、ラニカ村に帰りたいな。
「長杖はこっちで、短杖はこっちだ。
この辺りじゃ、この店が一番品揃えがいいんだぜ」
「ありがとうございます。
ゆっくり見ていきますね」
かなりの数の杖がある。
見ているだけで楽しいな。
この予算で買える杖があれば、買うことも検討しようかしら。
何の障害もなく、港町・ラゾンに到着。
はしゃぎ回るエリーゼの先には、見渡す限りの青。
これがこの世界の海だ。
当然だが、この世界の海も青かったんだな。
何で他の色だと思っていたのかは俺にもわからん。
逆に教えて欲しい。
俺達は今、砂浜にいる。
ここから見える景色は、まさに絶景だ。
ただ大海原が広がっているだけだが、それでも映えるほどに美しい。
見ていて心が洗われていくようだ。
まるで俺の心みたいに広……
「ねえ! 泳げるのかしら!」
「泳っ……!?」
何と。
12歳の少女の水着姿を拝めるチャンス到来だ!
俺に春が来た!
あ、今は春か。
「やめておけ。
浅瀬でも魔物はいるし、そもそも水着なんて持っていないだろう」
「水着は買えばいいし、魔物は倒せばいいじゃない」
「簡単に言うな」
クソぅ、せっかくの好機だったのに。
え?気持ち悪いって?
裸を見たいと言っているわけじゃないからいいだろ!
これが男の性だ!
……気を取り直して。
これから俺達は、ここに約二ヶ月泊まることになる。
なるべく、褒賞金で得た金は使わないようにしなければならない。
とはいっても、二ヶ月も泊まるとなれば、宿泊代がバカにならない。
だから、冒険者活動は欠かさずに続けると取り決めた。
褒賞金である白金銭55枚は、ランスロットが責任をもって管理する。
その中から金を使った人間、もしくは使おうとした人間は罰が与えられる。
それは、怒涛の一週間連勤だ。
俺達はこの港町にいる間、基本的に全員で活動をすることはない。
流石に過労死してしまうからな。
だが、白金銭を使おうものなら、過労死覚悟で働かせる。
それくらいの罰がなければ、どっかの酒飲みさんが使ってしまわんとも限らないからな。
シャルロッテは見た目や口調に反して、割と金遣いが荒い。
普段は節度を守っているが、打ち上げをするとなるととにかく酒を飲みまくる。
ガラウスを出る前にもギルドの酒場で食事をしたが、
その時もかなりの量の酒を飲んだ。
肝臓が心配になるほど飲んで、気絶して、ランスロットに運ばれた。
旅をしている間にショック死とかしないか怖いんだが。
「ねえ、浅瀬で水浴びくらいはいいでしょ?」
「まあ、それくらいなら構わん。
だが、足元には気を付けろ」
「分かったわ!」
「え、ちょ」
エリーゼは俺の手を引き、海際へと駆け出した。
靴の中に砂が大量に入った。
水浴びをするなら靴は脱いでおいた方がいいか。
「うわっ! 冷たっ!?」
「やり返してきなさいよっ!」
「ふふ、覚悟はいいですか?
そらっ!」
「ちょっと! 魔術は卑怯でしょ!」
風魔術を使って、エリーゼに大量の水を浴びせた。
ちょっとやりすぎてしまったか。
エリーゼは体中びしょ濡れになっている。
わお、服が透けて下着が見えちゃってるじゃないか。
何と壮観なこと。
いや、わざと透かそうとしたわけではないぞ。
本当だぞ。
「こんのっ……!
やったわね!」
「わっ! やりすぎですって!」
「あたしと同じくらい濡らしてやるわ!」
エリーゼは水を大きくすくい上げ、俺に思い切り浴びせた。
俺もエリーゼも、互いに全身びしょ濡れだ。
「二人とも、そんなに濡れてどうするつもりですか」
「す、すみません……」
「こっちに来てください。
ベルに、ある『合魔術』を教えてあげます」
「ほう。 何ですか?」
「とにかく、こちらに」
ビショビショのまま、俺達はシャルロッテの所に向かった。
俺の知っている合魔術と言えば、水魔術と火魔術を合わせてお湯を作るやつくらいだな。
「こんなに濡れていては、到底町なんて歩けません。
なので、体を乾かしましょう」
シャルロッテに手招きされて、俺はかがんでいるシャルロッテの足元に座る。
すると、俺の体に温風が当たり始めた。
ドライヤーを作り出す魔術なんてあるのか。
「これは、風魔術と火魔術を合わせた合魔術です。
お風呂から出た後いつも使っている、お気に入りの魔術なんですよ」
「そんなものがあったなんて……」
「知らないのが普通です。
魔法学校に通っていないと教えられないものですし。
それに、そもそも難易度が高い魔術なので」
魔術教本にも書いてなかったし、ロトアにも教えてもらわなかった。
温風は、シャルロッテの手のひらから出ている。
あったかくて気持ちがいいな。
エリーゼは寒そうにブルブルと震えている。
ちょっと可哀想だし、変わってあげよう。
「私も、これを習得するには何か月もかかりました。
学校では、上級魔術を覚えるのと同じくらいの難易度だと言われましたからね」
「そんなに難しいんですか?」
「最初は習得できる気がしませんでした。
ですが、習得してからは何故あんなに手こずっていたのか分からないくらい、簡単にできるようになりました」
まあ、魔術って基本そんなもんだよな。
魔術に限った話じゃないけど。
「僕も、習得したいです」
「いいですよ。
雷魔術と同時進行で、教えてあげましょう。
将来魔法学校に行くのなら、先に覚えておけば少しはアドバンテージになるでしょうし」
この町にいる二ヶ月間、そして船にいる間の一カ月間で習得できるだろうか。
今、ちょうどシャルロッテから雷魔術を教えてもらっているところだが、全くできる気がしない。
街と街の間を移動する間にレクチャーしてもらっているが、成長しているとは言えないだろう。
現在の俺の魔術の階級は、
・火上級
・水中級
・雷中級
・風初級
・土初級
と、こんな感じだ。
得意不得意が顕著に表れている。
雷聖級であるシャルロッテから魔術を教わっているが、
この三週間では全く成長が見込めない。
もちろんシャルロッテのせいではないのだが、
少しだけ気負っているようにも見える。
人に教えた経験がないのだし、まだ一か月も経っていないから仕方ない。
まだまだ長い旅になるし、ゆっくりいきましょうや。
---
まだ昼間だが、早めに宿をとっておくことになった。
海の荒れが収まる二か月後に備えて、宿を取りに来る旅行客が殺到するらしい。
幸いまだピークは先であるため、問題なく宿をとれた。
「この町は、治安がいいことで有名だ。
犯罪が起こることもめったにないらしい」
「ほ、本当ですか?」
「ああ」
あんなことがあったばかりだから不安だが。
それがフラグにならないことを祈ろう。
ということで、俺は町を見て回ることにした。
エリーゼに一緒に行くかと聞いてみたが、振られてしまった。
今日は疲れたから、ゆっくり休みたいとのこと。
一人で町を回るのは、初めてかもしれない。
ラニカ村を除けば、の話だが。
たまにはこういうのもいいかもしれない。
でも、一人で町を歩くって言ってもな。
一応、ランスロットから小遣いは渡されたから、何か食べるか。
それか、手土産でも買っていくか。
誰にあげるわけでもないが。
もらった小遣いは、翡翠銭5枚。
大体2500円くらいと考えたら、普通に美味しいものくらいなら食べられるな。
適当に歩いて回って、気になった店に入るみたいな感じでいいか。
「ベル!」
「シャルロッテ?」
「ちょっと買いたいものがあったので、ついていってもいいですか?」
「もちろんです」
後ろから、シャルロッテが走ってきた。
ちゃんとランスロットに許可を取ってお金を貰って来たんだろうな。
でないと、一週間連勤地獄が待っている。
目に入るもの全てが新鮮だ。
港町というのもあって、普段は見ない品物が並んでいる店ばかり。
特に、魚や貝などの海産物。
天大陸の他の街ではあまり見られなかったから、ちょっと嬉しいかも。
肉ばかり食べていたから、たまには海産物が食べたかったんだよな。
「こうして二人で歩くことはありませんでしたね。
手でも繋ぎますか? ベル」
「いいですよ?」
「……冗談だったんですが」
何だよ。
俺は割と本気だったのに。
俺はこういうのを本気にするタイプだからな。
なにせ童貞なもんで。
「買いたいものってなんですか?」
「新しい杖が欲しいんですよね。
使っていたものが壊れてから、ずっと素手のままなので」
「杖って、消耗品なんですか?」
「そうですよ。
魔力を注いで使うものなので、使い続ければいずれ壊れてしまいますからね」
そうだったのか。
てっきり、老人が使う杖と同じで一生モノだと思っていた。
シャルロッテは、杖のことについて詳しく説明してくれた。
杖ありと杖無しでは、魔術の威力がかなり変わるらしい。
大体、三倍くらい違うという。
もちろん、その倍率は杖にもよるが。
基本的に、杖の価格は幅広い。
短い杖でも、モノによっては高価なものもあるらしい。
高価な杖に共通している特徴としては、杖に魔石という石が埋め込まれていること。
それだけで価格は倍以上に跳ね上がる。
シャルロッテは、素手でも十分高威力の魔術を放てる。
ということは、買った杖次第でかなりパワーアップするんじゃないか。
「ベルは、杖が欲しいとは思わないんですか?」
「僕は近接型の魔術師になるつもりなので、要らないと思ってます」
「近接型とはいっても、杖の有無で火力が段違いになりますよ。
持っておくだけで、戦いやすさも変わると思いますし」
うーむ……
いや、確かにありかもな。
別に、長い杖を買わなくたっていい。
短い杖なら、戦う時に邪魔にならないし。
シャルロッテと杖を見て回るついでに、ちょっと見てみるか。
杖を使うだけで魔術の威力が上がるなんて、魔術師からしてみればお得すぎるしな。
「この店です。
さっき町に入った時から気になってたんです」
年季の入った建物だ。
扉を開けると、軋むような音がした。
蹴ったりしたら倒壊しそうだな。
「らっしゃい」
「こんにちは」
「おや、親子で杖を見に来たのかい?」
「違います!」
シャルロッテって、結構年齢とか容姿を気にする時があるよな。
確か、31歳なんだったか。
長命族でいう31歳って、まだ子供みたいなものだろう。
この世界における成人年齢は、15歳だとされている。
……えっ、エリーゼって後三年で成人なのか?
エリーゼが成人するまでには、ラニカ村に帰りたいな。
「長杖はこっちで、短杖はこっちだ。
この辺りじゃ、この店が一番品揃えがいいんだぜ」
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