空中転生

蜂蜜

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第2章 少年期 邂逅編

第三十九話 「ジャンケン」

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 …………無理だった。
 翡翠銭15枚以内で収まる杖は、どれも木の枝みたいだった。
 やっぱり、杖ってそこそこの値段するんだな。

 一方、シャルロッテは一本の杖を購入。
 後衛型というのもあり、長杖を買った。
 それもなんと、魔石付きの高級長杖。
 白金銭20枚分もした。
 っていうか、そんなにお金をもらっていたのか。

「よくそんなお金を持ち合わせていましたね」
「ランスロットに杖を買うことは伝えていたので。
 ですが」
「ですが?」
「『その分働け』と言われたので、明日から連勤です」

 シャルロッテはとほほ、と肩を落とした。
 新しい武器の試し打ちができるんだから、いいじゃないか。
 ……なんてことはないか。
 だが、金を使った分働くというのは至極当たり前のことだ。
 元ニートの俺が言うことではないが。

「僕はちゃんと我慢しましたよ」
「この杖が私を呼んでいたんです」
「ちなみに、何て?」
「『わたしを使って!
 お願い、シャルロッテちゃん!』
 って感じです」

 こんなにいかつい杖からそんな言葉が出るわけないだろう。
 もっとこう、「我を使え、シャルロッテ」みたいな感じじゃね?

 でも、シャルロッテと一緒に杖を見て、杖が欲しくなった。
 こんなに長い杖じゃなくて、短くて小回りの利く杖。
 先日のナルシスとの戦闘の時にやった、走りながら『岩弾ロックショット』を撃つやつも、
 杖があれば威力が倍以上になる。
 俺には速さが必要だが、技の威力はそれと同じくらいに必要だ。
 というより、威力が無ければ意味がない。

 少なくとも、持っていて損をすることはなさそうだ。

 買うなら、魔石が埋め込まれているやつがいい。
 魔石はただのお飾りではなく、更に威力を上げてくれるらしい。
 杖に流れた魔力を、魔石がもっと強くしてくれるんだとか。
 どうりで魔石付きの杖が高いわけだ。
 魔術の世界って奥が深いな。

 二か月仕事を頑張って、お金を貯めよう。
 自力で稼いだお金なら、好きなように使っていいって話だったし。
 こんなに高いものじゃなくてもいいから、そこそこの杖を買いたいな。

「さあ、もう少し町を回りましょうか」
「もう目的は果たしたんじゃないんですか?」
「明日から地獄の連勤ですよ。
 今日は思い切り羽目を外さないと」

 連勤はあなただけなんですけどもね。
 今後特に予定があるわけでもないからいいけど。

「そういえば、魔法学校って、世界にどのくらいあるんですか?」
「そうですね……
 小さなものも含めれば、5000くらいはあるんじゃないでしょうか」

 そんなにあるのか。
 いや、少ないのか?
 確か、日本の学校は、幼稚園から大学までを含めて約60000校あると聞いたことがある。
 そう考えると、あまり多いとは言えないのか。

 まあ、みんながみんな魔術を使えるようになりたいわけではないからな。
 ずっと魔法というものに憧れ続けてきた俺からしてみれば、
 その気持ちは一生理解できないが。

「私が通っていた魔法学校は、ケントロン魔法学院という所です。
 世界的に見れば、五本の指に入る名門校なんですよ」
「前にも、言ってましたね」
「あの学校に行くには、学校側からの推薦状を貰わなければいけません。
 そして、この大陸からだとアクセスがとても困難なので、大変でした」
「言われてみれば、どうやってあの大陸まで行ったんですか?」

 ケントロン大陸は、ここ天大陸の真北にある大陸だ。
 だが、ここからケントロン大陸に真っ直ぐ渡ろうとすると、
 ヤワニ海という険しい海で確実に命を落としてしまう。

「まず、ケントロン大陸行の船は存在しません。
 ですから、東端にあるイーストポートからボレアス大陸へ渡り、
 そこから真西に船で行きます。
 ざっと一年半かかりました」
「学校に行くまでに一年半?!」
「はい。 まあ、あちらには生徒の寮があるので」
「そういう問題じゃ……
 それで、ここに戻ってくるにも同じような経路で?」
「いえ、帰りは転移魔法陣ですよ」

 転移魔法陣だと?
 そんな便利なものがあるなら、
 最初からそれを使わせてもらえばよかったのに。
 
 東端からしか行けないように聞こえたが、
 一応こっちからも行けるらしい。
 ただ、この町から船で行くと、
 イーストポートから行くよりも時間がかかるんだとか。

「ベルは、魔法学校に興味はありますか?」
「え、ええ……まあ……」

 学校には嫌な思い出がたくさんあるからな。
 まだこの年齢だし、本格的に考えるのは先になるだろうが。

「ケントロン魔法学院は世界でトップクラスの学校です。
 ベルが大きくなるまでに故郷に帰ることが出来たら、入学を視野に入れてみてもいいかもしれないですね」
「でも、推薦状ってどうやってもらうんですか?」
「私の場合は、『魔術が使える竜人族がいる』という噂を聞きつけた校長からもらいましたね。
 いかに学校関係者の耳に自分の名前を届かせるかが大事でしょう」

 じゃあ、すげえことを成し遂げればいいってことか。
 口で言うのは簡単だけどな。
 俺はこれまでに、これといって偉業を成し遂げてはいない。
 住民を戦慄させていた誘拐事件は解決したが。
 その程度じゃアピールにはならないだろう。

 魔術を上達させたいなら、学校に通うのが一番いい。

 ロトアのような大魔術師が身内にいれば話は別だが、
 ラニカに帰れても、すぐにロトアが見つかるとも限らない。
 というか、すぐに見つかるはずがない。
 ロトアが先にラニカ村に帰っていればいいけど。

 せっかく魔術が使えるなら、行けるとこまで行ってみたい。
 それこそ、ロトアに並ぶようなトンデモ魔術師になってみたい。

「まあ、考えるのはゆっくりでいいでしょう。
 まずはベルとエリーゼを故郷に送り届ける。
 話はそれからですね」
「シャルロッテは、ラニカに帰った後はどうするつもりなんですか?」
「そうですね……
 それも、また追々考えますよ」
「そんなに先延ばしにして大丈夫なんですか?」
「私は追い込まれれば追い込まれるほど本領を発揮する対応の人間ですから。
 常に、ギリギリで生きているんですよ」
「は、はあ……」

 いつか、痛い目を見そうだな。
 
---

「明日からは、今度こそ冒険者活動を再開します。
 ですが、この間話し合った通り、一日ずつ交代での活動になります。
 明日は私とベル、その次はランスロットとエリーゼですね。
 まあ、私は連勤地獄ですが……」
「自業自得だな」
「自業自得ね」
「自業自得ですね」
「急に辛辣にならないでくださいよ!」

 まあ、自業自得だしな。
 白金銭を20枚も使ったのだ。
 必要な物だったとはいえ、当然の報いだ。

 シャルロッテが話したように、タッグを組んで活動を行う。
 俺はシャルロッテとペアになった。
 エリーゼが俺と一緒がいいと駄々をこねたため、最終的にくじ引きで決めた。
 エリーゼは分かりやすく肩を落としていた。

「もう……ベルとペアが良かったわ」
「そんなに僕と一緒にいたいんですか?」
「当たり前でしょ」
「いつも一緒に寝てるじゃないですか」
「そ、そういう問題じゃないの!」

 そういうことじゃなかったのか。
 女心って難しいな。

「この辺りの魔物はそこまで強くない。
 が、代わりに集団で行動している魔物が多い」
「では、報酬は……」
「報酬自体はガラウスとそう変わらんだろう」
「良かったです……」

 シャルロッテはほっと息をついた。

 どちらにせよ、二か月はこの町に滞在する。
 今後のためにも、地道に金を稼いでおかなければ。
 金も稼げて、強くもなれる。
 一石二鳥とはこのことだ。

 俺も金を稼いで、杖を買うんだ。
 自分で稼いだ金なら、使うなり貯めるなり好きにして構わないと言われたし。
 俺は欲しいものがあれば、それまで金を貯める主義だ。
 一度決めたことは貫き通すぞ。

「では、明日のペアを決めましょう」
「どうやって決めるのだ?」
「ジャンケンです」
「何ですか? それ」

 嘘だろ……?
 ジャンケンも知らずにどうやって意思決定をしていたんだ?
 命懸けの決闘でもやるのだろうか。
 ケーキの取り合いがきっかけで殺し合いが始まったりするのか。

「拳を握るのがグー、
 人差し指と中指を立てるのがチョキ、
 手のひらを全部広げるのがパー。
 グーはチョキに、チョキはパーに、パーはグーに強いです。
 相手と同じものを出した場合は『あいこ』になって、もう一回戦います」
「お、覚えることが多いわね……」
「慣れるまでに時間がかかりそうです」
「やっていくうちに分かりますよ」

 掛け声などを説明して、いざ勝負。
 両ペアの代表として、俺とエリーゼがジャンケンをすることになった。

「最初はグー! ジャンケンポン!」
「しゃぁぁぁぁぁぁ!」
「負けたわ! もう一回!」
「えぇ、僕が勝ったじゃないですか」
「お願い! もう一回!
 ……ダメ?」

 そ、そんなに上目遣いで見つめられても。
 俺にだって、男としてのプライドが……

「しょうがないですね」

 クソっ、思わず承諾してしまった。
 男の弱みを突きやがって。

「最初はグー! ジャンケンポン!」
「あいこでしょ!」

 俺はパー。
 エリーゼはチョキ。

「勝ったわ! わーい!」
「ま……負けた……」
「甘えに釣られて負けるとは。
 ダサいですね、ベル」
「やめてぇ……傷抉るのやめてぇ……」

 ハニートラップにかかったてしまった結果、
 明日の活動は俺とシャルロッテが行うことに決まった。

 クソぅ。
 プライドを捨てて面目も潰れちまった。
 言いだしっぺが負けるって都市伝説は本当なんだな。

---

 その後数日に渡り、エリーゼの中にジャンケンブームが発生した。
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