5 / 5
5.
しおりを挟む
その夜、家でテレビを見ていると事件の報道がされていた。なんと、犯人逮捕の速報だった。友也は、これは…と、思考停止してしまった。明日の予定はキャンセルになるのだろうか、そう考えて、意外と楽しみにしていた自分を発見した。報道によると犯人は被害者男性と同じ会社に勤める女性社員だったらしい。犯人は、男のあとを追って自宅間際で殺害に及んだらしい。報道ではそれ以上の情報はなく、骨折のなぞは解けないままだった。明日、貴音に聞いてみよう。
貴音は商店街の入り口でまた黒ずくめの装いで待っていた。今日は皮ジャケットにパンツスタイルだった。
「佐切くん、女性を待たせるなよ」
「いや、予定時間前ですよ」
「普通もっと早く来るんだよ」
友也は両手を挙げて降参のポーズをした後、貴音の後について、商店街を進んでいった。
「えっと、今日は武井さんは?」
「ああ、あいつは運動部と兼部してるからな。休日はそっちだ」
「なるほど」
友也は二人きりという状況に少し動揺したが、貴音の気にしていない素振りに、隙を見せたら負けだと、奥歯を噛み締めた。
「ここだ」
貴音が歩みを止めたのは商店街唯一のゲームセンターだった。ここに何があるというんだろう。
「あの本庄さん?ここで何を」
「決まってるだろう。ゲームだ」
そういうと貴音は、片手を差し出した。
「は?」
「早く小銭を出せ」
資金源扱いだ。それから、ゲームセンターにあるゲームを一通り遊んだ。友也はあまりゲームセンター通いをしたことがなかったので、対戦ゲームでは全敗をきっした。
「よし、そろそろだな」
「はあ、次は何をするんです?」
「ゲームじゃない」
「え、どこ行くんですか?」
すると貴音はため息をついて、歩き出した。貴音の行く先にはジャージ姿の男子中学生たちがいた。まさか、恐喝する気なのか、この人は。
「おい、君たち。格好をみる限り野球部員だな」
「ちょっと本庄さん。恐喝はまずいですよ」
「お前は何を言っている?」
友也は貴音のバカにしたような表情に少し腹が立った。貴音は中学生に話しかける。
「君らは平日は何時まで練習してる?」
不思議がっていた少年たちは目を見合わせてから貴音の質問に答えた。部活帰りの時間は、ほとんど日暮れの時間だ。彼らと事件は関係ないだろう。
「授業は何時くらいに終わる?」
貴音の次の質問にも男の子たちは応えてくれた。時間は、友也の午後の一コマが終わる時間の少し後だった。中学生とはそんな感じだったか、と友也は記憶を思い返そうとした。
「最近サボりがちな部活生はいるか?」
男の子たちは顔を見合わせ一人の少年の名前を口にした。男の子たちは、少し躊躇してから、その少年のエラーで、夏の大会を敗退してしまったことを話してくれた。その後、少年はそのエラーを冗談でからかわれるようになり、次第にいじめのように変容していったという。少年は徐々に部活に顔を出さなくなっていき、それでも、親に言えないためか、野球道具は学校に持ってきているという。話を聞かせてくれた中学生の一人が、その少年がこのゲームセンターで一人、時間を潰しているのを見たことがあると教えてくれた。少年は先週あたりから学校自体にもこれなくなってきているらしい。貴音はゲームセンターのメダルと引き換えにその少年の家を教えてもらい、中学生たちと別れた。
「あの、本庄さん、あの中学生たちに何の関係があるんですか?」
「おいおい、見損なわせるな。考えろ」
貴音は楽しそうに笑うと、足早に教えてもらった少年の家に向かった。少年の家は現場にかなり近かった。
「あれ、ここって。その子が事件に関係あるんですか?でも、犯人って捕まったんですよね」
「考えが足らないよ佐切くん」
友也は首をかしげる。
「女は電車通勤の男の後を追ってここまできたんだ。ナイフはともかく、男腕を折るような道具に持ち合わせはなかろう」
「ああ、そうか。少なくとも生身の人間が人の骨を折るって難しいですね」
「何を今さら」
貴音は不機嫌な表情だが声色は楽しそうだ。
「ああ、それで野球部ですか。でもなんで中学生なんです?」
「時間帯だよ。この近辺はベッドタウンでたくさんの子どもがいる。その中でも人の腕を折れる力があって、授業時間の短い者、それにいきなりバットで殴りかかってしまう短絡さを併せ持つ」
「いや、いくら中学生でも、いきなり人に殴りかかったりしますか?いじめでイライラしてたとか」
「ここから先は本人に聞けばいいと思うが、凶器のナイフは電車でも持ち運びできるような刃渡りの小さなものだったわけだ。もちろん、包丁だって手提げにしまえば、ともいえるが、今回私は凶器を見ている。果物ナイフだったよ」
「はあ」
「おそらく、ひと突きで殺せたりはしなかったろう」
「え、でも、傷が複数なんてニュースでもしてませんでしたよ」
「そう、そうなんだ。男はきっと刺されてからも割りと動けた。そして、犯人の女と揉み合いになった」
「え、でもそれじゃ流石に人に見つかるんじゃ」
「そう、見つかったんだ」
「部活をサボっていて、バットを持っていた中学生に…」
「不運ともいえるね。もみ合っている男女を見てとっさに少年は動いたわけだ。女の人を助けないとってね」
「確か致命傷の傷って…」
「被害者が前のめりに転倒した際に、刺さっていたナイフが深く食い込んだためだ」
「そんな…」
「よし、着いたね」
貴音は躊躇なく少年の家のチャイムを押した。事件について話したいというと、親御さんも何かに勘づいていたのか、中に通してくれて、少年と話すことができた。遅かれ早かれ捕まった女が自供するだろうと説得して、自主するように勧めて家を出た。帰り道、友也は貴音に少年の正義感について話した。もし、本当に少年が悪漢から女性を救い出すという事件であれば、少年は英雄として、学校で歩み直す機会も得られたかもしれない。けれど、もしもを言い出したらキリがないし、やってしまったことは変わらない。少年を思うなら早く罪を償わせた方がいいとまとまった。友也は貴音の推理は憶測ばかりで根拠がなかった、と突っ込んでみたが、貴音は部活動なんだからそれくらいでいいんじゃないか、と軽く返してきた。友也はその話をした貴音の素の笑顔に入部を決意した。
貴音は商店街の入り口でまた黒ずくめの装いで待っていた。今日は皮ジャケットにパンツスタイルだった。
「佐切くん、女性を待たせるなよ」
「いや、予定時間前ですよ」
「普通もっと早く来るんだよ」
友也は両手を挙げて降参のポーズをした後、貴音の後について、商店街を進んでいった。
「えっと、今日は武井さんは?」
「ああ、あいつは運動部と兼部してるからな。休日はそっちだ」
「なるほど」
友也は二人きりという状況に少し動揺したが、貴音の気にしていない素振りに、隙を見せたら負けだと、奥歯を噛み締めた。
「ここだ」
貴音が歩みを止めたのは商店街唯一のゲームセンターだった。ここに何があるというんだろう。
「あの本庄さん?ここで何を」
「決まってるだろう。ゲームだ」
そういうと貴音は、片手を差し出した。
「は?」
「早く小銭を出せ」
資金源扱いだ。それから、ゲームセンターにあるゲームを一通り遊んだ。友也はあまりゲームセンター通いをしたことがなかったので、対戦ゲームでは全敗をきっした。
「よし、そろそろだな」
「はあ、次は何をするんです?」
「ゲームじゃない」
「え、どこ行くんですか?」
すると貴音はため息をついて、歩き出した。貴音の行く先にはジャージ姿の男子中学生たちがいた。まさか、恐喝する気なのか、この人は。
「おい、君たち。格好をみる限り野球部員だな」
「ちょっと本庄さん。恐喝はまずいですよ」
「お前は何を言っている?」
友也は貴音のバカにしたような表情に少し腹が立った。貴音は中学生に話しかける。
「君らは平日は何時まで練習してる?」
不思議がっていた少年たちは目を見合わせてから貴音の質問に答えた。部活帰りの時間は、ほとんど日暮れの時間だ。彼らと事件は関係ないだろう。
「授業は何時くらいに終わる?」
貴音の次の質問にも男の子たちは応えてくれた。時間は、友也の午後の一コマが終わる時間の少し後だった。中学生とはそんな感じだったか、と友也は記憶を思い返そうとした。
「最近サボりがちな部活生はいるか?」
男の子たちは顔を見合わせ一人の少年の名前を口にした。男の子たちは、少し躊躇してから、その少年のエラーで、夏の大会を敗退してしまったことを話してくれた。その後、少年はそのエラーを冗談でからかわれるようになり、次第にいじめのように変容していったという。少年は徐々に部活に顔を出さなくなっていき、それでも、親に言えないためか、野球道具は学校に持ってきているという。話を聞かせてくれた中学生の一人が、その少年がこのゲームセンターで一人、時間を潰しているのを見たことがあると教えてくれた。少年は先週あたりから学校自体にもこれなくなってきているらしい。貴音はゲームセンターのメダルと引き換えにその少年の家を教えてもらい、中学生たちと別れた。
「あの、本庄さん、あの中学生たちに何の関係があるんですか?」
「おいおい、見損なわせるな。考えろ」
貴音は楽しそうに笑うと、足早に教えてもらった少年の家に向かった。少年の家は現場にかなり近かった。
「あれ、ここって。その子が事件に関係あるんですか?でも、犯人って捕まったんですよね」
「考えが足らないよ佐切くん」
友也は首をかしげる。
「女は電車通勤の男の後を追ってここまできたんだ。ナイフはともかく、男腕を折るような道具に持ち合わせはなかろう」
「ああ、そうか。少なくとも生身の人間が人の骨を折るって難しいですね」
「何を今さら」
貴音は不機嫌な表情だが声色は楽しそうだ。
「ああ、それで野球部ですか。でもなんで中学生なんです?」
「時間帯だよ。この近辺はベッドタウンでたくさんの子どもがいる。その中でも人の腕を折れる力があって、授業時間の短い者、それにいきなりバットで殴りかかってしまう短絡さを併せ持つ」
「いや、いくら中学生でも、いきなり人に殴りかかったりしますか?いじめでイライラしてたとか」
「ここから先は本人に聞けばいいと思うが、凶器のナイフは電車でも持ち運びできるような刃渡りの小さなものだったわけだ。もちろん、包丁だって手提げにしまえば、ともいえるが、今回私は凶器を見ている。果物ナイフだったよ」
「はあ」
「おそらく、ひと突きで殺せたりはしなかったろう」
「え、でも、傷が複数なんてニュースでもしてませんでしたよ」
「そう、そうなんだ。男はきっと刺されてからも割りと動けた。そして、犯人の女と揉み合いになった」
「え、でもそれじゃ流石に人に見つかるんじゃ」
「そう、見つかったんだ」
「部活をサボっていて、バットを持っていた中学生に…」
「不運ともいえるね。もみ合っている男女を見てとっさに少年は動いたわけだ。女の人を助けないとってね」
「確か致命傷の傷って…」
「被害者が前のめりに転倒した際に、刺さっていたナイフが深く食い込んだためだ」
「そんな…」
「よし、着いたね」
貴音は躊躇なく少年の家のチャイムを押した。事件について話したいというと、親御さんも何かに勘づいていたのか、中に通してくれて、少年と話すことができた。遅かれ早かれ捕まった女が自供するだろうと説得して、自主するように勧めて家を出た。帰り道、友也は貴音に少年の正義感について話した。もし、本当に少年が悪漢から女性を救い出すという事件であれば、少年は英雄として、学校で歩み直す機会も得られたかもしれない。けれど、もしもを言い出したらキリがないし、やってしまったことは変わらない。少年を思うなら早く罪を償わせた方がいいとまとまった。友也は貴音の推理は憶測ばかりで根拠がなかった、と突っ込んでみたが、貴音は部活動なんだからそれくらいでいいんじゃないか、と軽く返してきた。友也はその話をした貴音の素の笑顔に入部を決意した。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる