ヒーロー

ヨージー

文字の大きさ
21 / 28

9-2

しおりを挟む
 透はあまりソーシャルネットの類を利用していない。それでも一般知識として、ネットニュースの閲覧や、話題のトピックを見るくらいはできた。それでも昨日からの事件の報道は、バスジャック事件で誘拐された人たちが救出されたこと、被疑者が行方不明であること、くらいの報道しかされていなかった。周防の会社から持ち出された試作品の話や、誘拐を利用した試作品の運搬劇、犯人が試作品に手を加えてどこかでテロまがいの殺戮を計画していることなどは全く記載がなかった。
「報道規制があるのかもしれません」
透は考えを口にする。
「どこでテロが起こるかわかりません。なんて気軽に報道できませんし」
「警察はそれで事態が収拾つかなかったらどうするつもりなんだろう」
 澄川の発言は最悪の事態を連想させた」
「警察ばかりじゃなく、他にも飛び火しそうな話ではあるね」
 周防が助手席から後部座席に顔を向けて話す。
「考えても仕方ないことだ。警察には警察の考え方があるし、俺たちは警察じゃない。できることをするしかない」
 透は一般人では自分たちしか現状を知らないという状況に戦慄した。周防の言う通り、自分にできることをするしかない。そう思い、決意を固めた。ここにきて眠気が襲ってきたのか気を引き締めないと体から力が抜けてしまいそうだった。
「周防、でも実際、学校に着いたら何するのさ。警察がすでに張り込んでいるだろうし」
「確かにそうだ。俺たちが知っていることなんて、犯人たちの顔と乗っていたくるまぐらいだ。車を乗り換えられていたり、完全に潜まれたら探しようもない」
 周防が背もたれに頭を預けて静かに話す。
「でも、奴らが使うのはうちの製品だ」
「ん、そうだが」
「俺達には警察よりも知っていることがある。いくら俺たちが経理でも、製品情報は把握してなくちゃならない、そういう社風のおかげで、社外に公開されている以上の情報を俺たちは持っている」
「お前、それであんなものを」
「奴らと同じことをするだけだ」

 周防の考えは単純だったが実際に行うためのプロセスが難しかった。遠隔操作されて起動することが分かっているなら、それをできない状態にすればいい。方法が物理的である必要はない。犯人たちによる携帯電話の電波妨害は建物外部にまで及んでいた。広範囲で同じ周波数帯の電波を建物から発信させていたと思われる。しかし、犯人同士が無線通信できていたように異なる周波数であれば通信は可能となってしまう。周防がエレベーターで地下に送られた後、エレベーターの電源を落としたのも遠隔操作と思われる。必要なのは相手の使う周波数を知ることだ。
「電話する」
 周防は自分の携帯電話の電源を入れた。通話の先は太田だ。
「もしもし」
「雅人…、何してたの?連絡もよこさないで」
「ごめん、ちょっと家族のことで」
「いえないこと?」
「終わったら話す」
「…」
 周防は心苦しくなったが話を続けた。
「頼みがある」
「…、何?」
「開発部から持ち出された製品の周波数域を教えてくれ」
「家族のことなのよね」
「…、そう」
「他の製品と変わらないわ。利用方法が災害利用で、遮蔽物があっても比較的遠距離通信が可能なうちの方法が研究機関の意図と合致して共同研究になったの」
「分かった。ありがとう。必ず何があったか伝えに行くよ」
「…、気を付けて」
 通話を終えたとき、周防の携帯電話のバッテリーも切れてしまった。念のために必要な確認ではあったが、実は太田と話して揺るがない決意を持ちたかっただけかもしれない、と後から気づいた。携帯電話を胸に抱き考える。周波数は分かった。周防は犯人のアジトで透から試作品の使い道を聞いた時点でこの方法を考えていた。電波発生器も見つけていた。しかし、犯人たちが利用していたような規模の出力は期待できない。
「犯人たちの遠隔操作をジャミングする」
 透が後部座席で反応する。澄川は周防がアジトから持ち出した装置がなんだかわかっていたので大きな反応を見せなかった。
「それの出力で防ぐには装置にかなり近づいた方がいい。それに有線で電源をとる必要もある」
「そこでやるべきことが見えてくる。犯人か、装置、どちらかにちかづかなくてはならない」
「どちらも危ういな」
「そう。犯人に気づかれて、こちらの操作より先に装置を起動されたら終わりだ。しかもそれは俺たちだけでなく、警察にも言える」
「警察に学校の関係者を避難させてもらえば…」
 木乃美が言葉を挟んだ。
「それは先々の為にならない」
 周防は言葉を選ぼうとする。しかし、選ぶ余地はなかった。
「足取りの分かる今回を逃せば、犯人がいつどこで試作品の実験をするか追えなくなる。だから学校の関係者をおとりにしてでも確実に彼らを終わらせる必要がある」
 木乃美が言葉を失っている。
「話を戻す。さっきも言ったが犯人がどこに潜んでいるかは全く見当もつかない。うちの製品の操作距離はかなり広い。探しきれない」
「装置の方を見つけるしかない…」
 透がミラー越しに周防を見ていた。
「そう、その方が勝算はある。犯人たちはなるべく大きな被害を出したいはずだ。そうすれば配置場所が絞られてくるはずだ」
 澄川は黙って話を聞いている。
「俺の考えに今のところ確証はないが、学校で人が多く集まるところで使うつもりなら、体育館なんか望ましいと思う。時間帯の設定で考えただけだが全校集会といった目算が立つ」
 木乃美が両手で顔を覆う。
「確かに最も被害がだせそうだ」
 黙っていた澄川が反応した。
「で、体育館に犯人の監視の目をかいくぐって侵入して、電源を貸してもらうのか」
「そうなる。だが、犯人が学校を監視する理由があるだろうか」
「ない…、ですね」
 透が口を挟む。
「そう、実験の成功はテレビの報道を見れば十分だ」
「設置して高みの見物で十分なわけか」
 澄川の発言に周防はうなずいた。
「うちの開発部はとんだマッドサイエンティスト集団になっちまうな」
「犯人たちは装置を昨晩の内に設置して、もう逃走の用意に取り掛かっている可能性もあるわけですね」
 透のいう通りだった。犯人が逃げ延びる道、それは装置の機能に含まれているといえた。
「そうしたら、さっきの捕まっても安心みたいな話すら必要ないわけだ」
「でも利用後の装置はどうするんでしょう。回収に来ますか?」
「作り方が分かっていれば必要ないかもしれない。そのために久志さんが連れ去られているのかもしれない」
「犯人の出方はわからないが、とにかく俺たちは俺たちの計画を遂行するしかない」
 澄川が周防たちの考えをまとめた。周防の心中は、久志を助けるために犯人たちの計画を防ぐだけでなく、もう一度彼らと衝突する必要を感じていた。どうにかして犯人たちに出てきてもらわなくては…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...