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木乃美のとった手段は単純なものだった。
「すみません、この学校の卒業生なのですが」
職員は多少身なりに疑問を抱いたものの室内に促してくれた。母校インタビューの課題で、元担任にアポを取っている。そういう設定で話を通した。先生の名前はサトウということにしてみたが、探しに行ってくれたところを見ると成功したらしい。
透は澄川の車にあった黒のショルダーバッグを背負っている。中身は、周防が犯人のアジトからくすねた装置だった。透は周防から使い方をレクチャーされていた。木乃美にはちんぷんかんぷんだったので、感心してしまった。バッグの趣味の悪さは別として、覚悟を決めたような透の姿は惚れなおすような印象を木乃美に与えた。
先生を待つ間に二人は通された部屋を抜け出した。向かう先はもちろん体育館だ。屋内に通してくれた教師に念のため確認したところ、周防の読み通り、朝の集会が体育館で予定されていることがわかった。
「これって犯罪かな」
木乃美の罪悪感が言わせたセリフだった。学校に忍び込むというのは武道をたしなむ木乃美の正義に疑問を抱かせた。
「世の中ってさ、誰から見ても正しいことなんてないと思う」
「え」
「必ず一方が正しく見えても、他から見たら悪いこと、そういう言事が多いと思う」
「自分が必ず正義っていうのは傲慢かもしれない」
「傲慢…」
「そう、知ったつもりで、分かった気になって、自分の意志を振りかざす。そこに正しさはないと思う」
「じゃあ、なにが正しいの?」
「完全な正しさなんてない、そう分かったうえで、自分の考えの押し付けだと自覚しながらも、正しいことをしようとすることが正義なんじゃないかな」
「よく、わからない…」
「だよね。僕もよくわからない。何言っているんだろう」
「…」
「でも、正解がわからないから、不安になってみんなに意見を聞いて、それを永遠続けていくことが、人を思える人なんだと思う。だから、今回は僕が言うよ。木乃美さんは今、正しいことをしている」
木乃美は自分の内側から沸き起こるエネルギーを強く感じていた。心が温かくなるような。
背中の機器が透の歩行に合わせて上下する。壊れないか心配になる。周防が、あらかじめ装置を犯人の装置に適応する状態に設定してくれているらしい。手動のつまみのような部分で調整していたので、何かのはずみでズレてしまわないかも心配だった。
体育館は施錠されていない。重い扉を開ける。背中の傷が少しぴりついた。体育館はイメージ通り、というよりどこも変わらないだろう。違うのは、天井に引っかかって取れなくなったボールの配置くらいだろう。二人は体育館の前後で作業を分担した。体育館の後ろには倉庫のスペースがある。前方は舞台に加えて、収納スペースが多そうだった。おそらく建物前方の方が、集会のイメージから被害の規模が大きくなると思われ確率が高そうだ。透が建物の前方を担当した。
手始めに舞台下の引き戸を開ける。中にはパイプ椅子が詰まっている。一応体を奥まで潜り込ませたが、中にそれらしい装置は見当たらなかった。暗がりの作業で、探し漏れが心配された。透は改めて装置の凶悪さを感じる。透の見た装置はラグビーボールのようなサイズ感だった。そんな小さなものを人の集まる大きな施設で探し出すのは苦難の技だ。そんなものの流通は防がなくてはならない。そう強く思った。
次に舞台裏に当たる部分を見ていく。階段を上がると放送室のような部屋があったが、装置は見当たらない。階段を下りる。壇上に用意された手前の隠された机の裏なども確認した。見当たらない。再び、舞台裏へ周る。階段を下りた先に倉庫のような半地下スペースがあった。壁際にロッカーが複数並んでいた。透は一つずつ開けていく。掃除用具などが多い。右から三つめを開く。上から倒れ込んでくるものがあった。透は驚きつつも両手で支える。背中の傷が痛んだ。スーツ姿の男だった。重い。透は横に男を倒れくるまま倒した。透もその場に倒れ込む。男を見る。口にタオルが巻かれている。鼻と耳、目からも流血していた。透は思わず飛びのいた。恐る恐る近づく。おそらく死んでいる。両腕は体の後ろで拘束されていた。自分の身に起こった昨日の出来事を思い出す。思わず自分の手首をさすっていた。手首には浅いすり傷が残っていた。
「後ろの方は何もなかったよ」
木乃美が階段上からこちらを見ていた。
「その人は…!」
「あ、来なくていい。もう多分死んでいる」
「そんな…」
視線を木乃美から男に戻すとき、男の入っていたロッカーが視界に入った。そこには昨日の記憶を刺激するものがあった。
「み、見つけた」
「…!」
「装置だ。間違いない」
透はロッカーから離れ、背負っていたバッグを手前に向ける。ジップを開けて中から周防の調整した装置を取り出す。
「せ、背中」
木乃美の動揺した声が聞こえた。
「…っ」
背中が痛んでいた。倒れてきた男を支えたときに傷が開いたかもしれない。電源が見つからない。ここにはないのか。
「血が…」
「お前たち…、どうして」
木乃美が階段上から突き飛ばされた。透は木乃美を支えようと動くも背中が痛んで間に合わない。木乃美は自力で体制を立て直して無事着地した。二人が見上げる階段上に人影があった。
「郷田…」
「すみません、この学校の卒業生なのですが」
職員は多少身なりに疑問を抱いたものの室内に促してくれた。母校インタビューの課題で、元担任にアポを取っている。そういう設定で話を通した。先生の名前はサトウということにしてみたが、探しに行ってくれたところを見ると成功したらしい。
透は澄川の車にあった黒のショルダーバッグを背負っている。中身は、周防が犯人のアジトからくすねた装置だった。透は周防から使い方をレクチャーされていた。木乃美にはちんぷんかんぷんだったので、感心してしまった。バッグの趣味の悪さは別として、覚悟を決めたような透の姿は惚れなおすような印象を木乃美に与えた。
先生を待つ間に二人は通された部屋を抜け出した。向かう先はもちろん体育館だ。屋内に通してくれた教師に念のため確認したところ、周防の読み通り、朝の集会が体育館で予定されていることがわかった。
「これって犯罪かな」
木乃美の罪悪感が言わせたセリフだった。学校に忍び込むというのは武道をたしなむ木乃美の正義に疑問を抱かせた。
「世の中ってさ、誰から見ても正しいことなんてないと思う」
「え」
「必ず一方が正しく見えても、他から見たら悪いこと、そういう言事が多いと思う」
「自分が必ず正義っていうのは傲慢かもしれない」
「傲慢…」
「そう、知ったつもりで、分かった気になって、自分の意志を振りかざす。そこに正しさはないと思う」
「じゃあ、なにが正しいの?」
「完全な正しさなんてない、そう分かったうえで、自分の考えの押し付けだと自覚しながらも、正しいことをしようとすることが正義なんじゃないかな」
「よく、わからない…」
「だよね。僕もよくわからない。何言っているんだろう」
「…」
「でも、正解がわからないから、不安になってみんなに意見を聞いて、それを永遠続けていくことが、人を思える人なんだと思う。だから、今回は僕が言うよ。木乃美さんは今、正しいことをしている」
木乃美は自分の内側から沸き起こるエネルギーを強く感じていた。心が温かくなるような。
背中の機器が透の歩行に合わせて上下する。壊れないか心配になる。周防が、あらかじめ装置を犯人の装置に適応する状態に設定してくれているらしい。手動のつまみのような部分で調整していたので、何かのはずみでズレてしまわないかも心配だった。
体育館は施錠されていない。重い扉を開ける。背中の傷が少しぴりついた。体育館はイメージ通り、というよりどこも変わらないだろう。違うのは、天井に引っかかって取れなくなったボールの配置くらいだろう。二人は体育館の前後で作業を分担した。体育館の後ろには倉庫のスペースがある。前方は舞台に加えて、収納スペースが多そうだった。おそらく建物前方の方が、集会のイメージから被害の規模が大きくなると思われ確率が高そうだ。透が建物の前方を担当した。
手始めに舞台下の引き戸を開ける。中にはパイプ椅子が詰まっている。一応体を奥まで潜り込ませたが、中にそれらしい装置は見当たらなかった。暗がりの作業で、探し漏れが心配された。透は改めて装置の凶悪さを感じる。透の見た装置はラグビーボールのようなサイズ感だった。そんな小さなものを人の集まる大きな施設で探し出すのは苦難の技だ。そんなものの流通は防がなくてはならない。そう強く思った。
次に舞台裏に当たる部分を見ていく。階段を上がると放送室のような部屋があったが、装置は見当たらない。階段を下りる。壇上に用意された手前の隠された机の裏なども確認した。見当たらない。再び、舞台裏へ周る。階段を下りた先に倉庫のような半地下スペースがあった。壁際にロッカーが複数並んでいた。透は一つずつ開けていく。掃除用具などが多い。右から三つめを開く。上から倒れ込んでくるものがあった。透は驚きつつも両手で支える。背中の傷が痛んだ。スーツ姿の男だった。重い。透は横に男を倒れくるまま倒した。透もその場に倒れ込む。男を見る。口にタオルが巻かれている。鼻と耳、目からも流血していた。透は思わず飛びのいた。恐る恐る近づく。おそらく死んでいる。両腕は体の後ろで拘束されていた。自分の身に起こった昨日の出来事を思い出す。思わず自分の手首をさすっていた。手首には浅いすり傷が残っていた。
「後ろの方は何もなかったよ」
木乃美が階段上からこちらを見ていた。
「その人は…!」
「あ、来なくていい。もう多分死んでいる」
「そんな…」
視線を木乃美から男に戻すとき、男の入っていたロッカーが視界に入った。そこには昨日の記憶を刺激するものがあった。
「み、見つけた」
「…!」
「装置だ。間違いない」
透はロッカーから離れ、背負っていたバッグを手前に向ける。ジップを開けて中から周防の調整した装置を取り出す。
「せ、背中」
木乃美の動揺した声が聞こえた。
「…っ」
背中が痛んでいた。倒れてきた男を支えたときに傷が開いたかもしれない。電源が見つからない。ここにはないのか。
「血が…」
「お前たち…、どうして」
木乃美が階段上から突き飛ばされた。透は木乃美を支えようと動くも背中が痛んで間に合わない。木乃美は自力で体制を立て直して無事着地した。二人が見上げる階段上に人影があった。
「郷田…」
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