誰の目にも輝きを

ヨージー

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 車窓から見える景色は変わり映えしないのに、弥伊子の状況のせいでまるで別世界のようだ。となりの席には獅童宰都が腰かけている。時折本の話などで会話するが普段ほど口数が多くはない。先ほどの言葉はなんだったのだろう。まさか、告白なのではなかろうか。都合のいい妄想をしているだけなのでは、と自分を諌めるが、動揺が隠せない。獅童宰都は弥伊子に会い、通話を終えたあと、しばらくの無言のあと、「一緒に帰ろうか」という話になった。そもそも車で帰る獅童宰都の家はこっち方向だったのか。いや待てあの撮影会の日に獅童宰都は反対方向の電車に乗っていたのではなかったか。ということは、どういうことだろう。聞くべきだろうか。いや、それで帰られてしまっても悲しい。ひとまずは普段通りに話そう。
「…、あの、人魚姫って、」
「ああ、そう、それね。うん、面白いよ」
獅童宰都はそう言うと弥伊子と反対方向を向いて黙り込んでしまう。ま、間違えた、か?弥伊子は急いで別の話を持ちかける。
「今日はご両親の都合はよかったの?」
「そう、だね。ええと、だめではある」
だめではある、ってどういうことだろう。
「抜け出してきてしまった」
獅童宰都は遠くを見つめている。おそらく、この後それなりのペナルティがあるのでは、と弥伊子は想像した。
「でも、そう、いいんだ。別に」
「そうなの?」
「そうなの」
またしばらくの沈黙。
「前に南洞さんのおうちって和菓子屋さんって言っていたよね?」
「うん、そうだよ」
「今日買って帰るよ」

 電車を降りた後も沈黙と噛み合わない会話を繰り返しながら、弥伊子と獅童宰都は歩き続けた。弥伊子は考える。これは、親への顔見せにあたるのではないだろうか。途端に顔が紅くなるのを自覚した。なんということだろう。急な展開に頭がついていかない。いや、待てよ。友達のおうちが和菓子屋だから、買いに行く、というのは非常に自然な話なのではないだろうか。またしても妄想しているだけなのではないだろうか。そうだとも、考えすぎ、意識のしすぎは問題だ。気を付けよう。
「こ、ここが我が家です」
「おおすごい、本当に和菓子屋さんだ」
「どうぞ、よければ」
弥伊子は獅童宰都を店の中に通した。
「いらっしゃい、って弥伊子か。あ、こんにちは」
早速、弥伊子たちに母が気づいた。といっても狭い店内で気づかない方がおかしい。
「こんにちは、はじめまして、獅童宰都と申します」
「これはご丁寧に、よろしくね」
頭を下げた獅童宰都に母が返した。
「弥伊子さんのお母様がお店をされていると聞いたので、今日はお買い物に参りました」
「そうなの、うちの商品は若い子の好みに合うかわからないけどよかったら買っていって」
弥伊子は獅童宰都の『弥伊子さん』呼びに少しだけ酔いしれる。
結局獅童宰都は母と話した後に練りきりを包んでもらっていた。母がおまけにようかんも包んでくれていた。獅童宰都は気遣いに遠慮しつつも最後は感謝して帰っていった。
 弥伊子は獅童宰都を見送りながら、今日のこれは一体なんだったのだろうと、冷静に考えた。
「弥伊子、彼氏代わったの?」
「ん、え?」
弥伊子のお母さんからの追及にたじろぐ。
「いつも登下校してるっていう、」
「ああ、藤田くんか。違うよお母さん藤田くんは友だちだよ」
「あ、そういう。でもいつも登下校してるって母さんの時代だったらそれはもう限りなく恋人だけどね」
「え、」
「おっけー、あの子が弥伊子の彼氏ね」
「ええ、あ」
弥伊子は自分の招いた誤解に気づく。
その夜、弥伊子は母親の誤解に弁明していると、獅童宰都から「明日出掛けませんか?」というお誘いの連絡を受けた。
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