丈夫な傘

ヨージー

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 地震があった。思わず声を出してしまってお父さんに怒られた。その時に、棚の上からお母さんの鞄が落ちてきた。あれ、お母さんは鞄を持たずに出掛けたのだろうか?お母さんの鞄からはクリーム色の取っ手がのぞいていた。お父さんは最近、夜に眠れていないみたいだ。夜中に明かりがついたと思うと、水を飲んでまた布団に入る。多いときはそれが一晩に三回くらいあった。布団のなかでもお父さんは何度も寝返りをうっていて、とても寝ているようには見えなかった。
 チャイムがなる。今部屋には誰も居ない。扉が開いた。玄関に駆け寄る。抱き抱えられて、全身をなで回された。懐かしい。お母さんだ。あれ、臭い。お母さんはそう言うと浴室に抱き抱えたまま連れていく。思わず暴れるもお母さんは逃げ場を作らない。ゴンタ、お風呂さぼったね。気づいたときには悲鳴をあげていた。
 「ただいま、」
 お父さんはそう言うと早足に部屋に入ってきてお母さんを抱き締めた。
「痛い、痛い」
 お父さんはごめんと謝って飛び退いた。お父さんは今にも泣きそうだ。
「いやいや、そんなにならなくても」
「骨が折れてたし、血もでてた」
「車に牽かれたのは驚いたけど、折れてないし、ひびだけだっていったじゃん。血もでたといっても擦り傷だったわけで」
 お母さんは笑いだした。笑っているとキズに響いたといって痛がった。お父さんはまた心配そうな顔をした。
「やっぱり早引きして迎えにいけばよかった」
「いやよ、恥ずかしい。それよりゴンタのお風呂さぼったでしょ」
「え、いや。すごく嫌がったんだ」
「それをどうにかするのが飼い主でしょうに」
「ごめん、でもおかえり」
 お父さんは笑顔だ。
「どっちがワンちゃんかわからないわね」
「犬はゴンタだよなぁ」
 お父さんは顔をわしわしとなでた。
「あれ、傘買ってないの?」
「いや、折り畳みにした。あのくらい色の大きな傘のせいで車に気づかれなかったみたいなものだろ」
「そしたら、ちょっとの買い物だからって財布しか持たずに出掛けた私のせい」
「でも」
「でも、あなた体大きいんだから傘の大きさが、折り畳みじゃ、足りないし、それに、その、あれじゃないと二人で入れないでしょう」
 お母さんが口をすぼめていう。
「いまから買いにいこう」
「いまから?次の休みでいいし、どっちかっていうと、コートの方が使うんじゃない?事故で破けて捨てちゃったんでしょう?」
「いや、それよりも大きい傘を見に行こう」
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