すべての出会いに

ヨージー

文字の大きさ
4 / 5

4.

しおりを挟む
「いやあ、助かりましたよ」
男はビルの入り口を出ると私に笑いかけた。
「うまくいったのですか」
「ええ、ありがとうございます。ばっちりでした」
男の話ではスタッフと密会を果たしたオーナーが親密なそぶりをのぞかせつつ、二人で、スタッフオンリーの戸の奥へ入る場面までが撮影できたという。おおよそ男の予想通りの内容だった。
「実はオーナーは三十分ほど前に店から離れていました」
男は肩をすくめる。
「すぐに退店すると怪しまれかねないので、調整しました」
「見失ったのでは」
「ああ、ええ、そうですね。ですがそれは作戦の範囲です」
「え、」
「ん-、今日はここまでっていうことです」
「いいんですか」
「深追いは禁物です。ヒットアンドアウェイです」
「そういうものなのですね」
「ええ、ですが、今日の収穫は大きい。これは黒といえるでしょう」
「白の可能性があったのですか」
「いえ、限りなく低い話でしたが、念には念を。私の仕事は評判が大切ですからね。手抜きの上、ミスなんてことは避けなくてはいけません」
「まだ、調査を続ける必要があるのですね」
「そうですね、それに、ここだけの話、こんなおいしい話を簡単に終わらせるつもりはないですね」
「おいしい、ですか」
「多少不謹慎ですが、長引かせたほうが実入りはいいので」
「それこそ評判にかかわるのでは」
「そこはうまい駆け引きです。情報が小出しでも、内容が伴っていれば
、むしろ好印象です。少しづつ真実に迫るスリルは万人が嬉々とします」
「…」
「ああ、由香里さん、すみません、時間が遅くなりましたね。タクシーをお呼びします」
「ああ、ありがとうございます」
「いえいえこちらこそ、今日はありがとうございました」
男はタクシーを停め、私を奥の席に通した。私は促されるままタクシーに乗り込んだ。男は手際よく札入れを取り出し紙幣を数枚抜き取り私に差し出した。
「交通費にご利用ください。おつりは結構ですので」
「あの…」
「ああ、大丈夫です。今回は大口のご依頼でしたので、こんな仕事でも少しゆとりがあるんです。今日もこれから祝杯にいってまいります」
男はそう笑顔で告げた。
「あの…!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

私の優しいお父さん

有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。 少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。 昔、私に何があったんだろう。 お母さんは、どうしちゃったんだろう。 お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。 いつか、思い出す日が来るのかな。 思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...