1 / 6
1.
しおりを挟む
今日の講義は比較的に進級への重要度の高い単位がかかったものだ。しかしながら、授業内容は教授が教科書を読み聞かせるだけのもので、テストへ向けて自主学習が必須の内容だった。逆に言えば、授業自体は寝ていてもいいと佐切友也は割りきっている。友也の失敗は、講義の開始に遅れてしまったため、暖房の効きにくい、寒い窓際の席についてしまったことだ。窓越しに伝わってくる冷気のせいで、眠るどころではない。ふと隣をみると、あまり条件の変わらないはずの田口幸也が寝入っていた。幸也は雪の多い地域の出身だと聞いたことがある。寒さに対して耐性があるのだろうか。友也の視界に見慣れたパッケージがあった。幸也のカバンから、開封されたカイロのパッケージが見えていた。出身どうこうではなく、下準備の問題のようだ。
講義のあと、友也は幸也と一緒に講義室をでた。講義室からでると、玄関のある一階まで五人くらいが横に並べる幅の広い階段を下る。片側が大きなガラス窓に接しているせいで、一段と冷える。外はもう暗くなり始めていた。幸也からもらったカイロを両手でもみながら、幸也の準備の良さを誉めると幸也は笑った。
「単に寒がりなだけだよ。雪の多いとこで育ったから、仮に寒くなくても、あ、そろそろカイロ常備しとかないとってもう頭に刷り込まれてる感じ」
「ああ、なるほど。寒さへの対策に慣れてるんだ」
「そういうこと」
幸也とは入学当初からの仲だが、半年過ぎた今では卒業までつるんでいくだろうという予感があった。
「あ、友也。今日サークル?」
「そうだね。このまま直行する」
友也は最近になってからあるサークルに入会した。大学の始めの時期を逃すとサークルから縁遠くなる学生も多いが、友也は何とか間に合ったのかもしれない。一方で幸也は数多くのサークルを掛け持つ荒業をこなしている。以前時間作りについて幸也に質問したことがあったが、掛け持つためにはどれに対しても三割くらいのやる気で臨むことらしい。友也は今入会している主だった活動の少ないミス研ですら、どこかと兼ねようとは、思えなかった。
「今日ついていっていい?」
「え?幸也サークル増やすの?」
「ああ、いやいや、違うよ。もう多分増やさない」
「なら、どうしたのさ」
「ミス研の技能を駆使して解いてもらいたい謎がある」
サークル搭は、キャンパスの奥地にある。それは、本分たる学業に関係ない建物だからの立地かもしれないし、騒ぎ立てる学生から外部の街中と距離をとる考えかもしれない。サークル搭の背後には森が広がっていて、少なくとも防音的意味合いなら、立地は申し分ないかもしれない。大学生は八月、九月と、二ヶ月の夏休みがある。友也は帰省を中心に活用したが、サークルの活動の多い幸也は多忙な日々を送っていたようだ。それでも幸也はきちんと帰省も日程に織り込んで、お盆は実家に出向いたらしい。幸也からの依頼は、帰省の間に見聞きした家族の話しということだった。
サークル搭の最上階、予算都合で設備の行き届かなかったこのフロアにはサークル搭の窓際族といえる、廃部寸前のサークルが集められている。ミス研もそのひとつだ。歴史があるサークルらしいが、目立たしい成果のでない活動は、群雄割拠するサークル増加の時代において危機に貧している。幸也の入会しているサークルにこのフロアのものがないことが、何より、その差を物語っていた。
「お疲れ様です」
友也はサビで軋む扉を開き、サークル室へ幸也を連れて入った。
「お疲れ様」
挨拶を返してくれたのは、部員の一人武井慎吾だ。がたいのいい慎吾は、体育会系との兼部をしている。
「友だちを連れてどうしたの?」
「武井さん、ミス研に依頼があるらしいんです」
「はじめまして、田口幸也です」
「依頼とは?」
ようやく言葉を発したのは、本庄貴音だ。黒の長い髪が黒のダウンジャケットにかかって、白い顔が強調されている。薄暗い部室なだけにホラーに感じてしまった。
「あ、友也の友だちの田口幸也です。よろしくお願いします」
幸也は慎吾に促されて席についた。友也も普段の定位置に腰かけた。部室は白熱灯の他外に接した窓と、両脇の大きなキャビネット、椅子と机だけのわびしい空間だ。今は寒さが厳しく、普段以上にくつろげない空間となっている。
「今回皆さんに意見を伺いたい依頼って言うのは、俺が帰省した地元で聞いたひい祖父さんのことなんです」
「ひい祖父さんってご存命なの?」
「いやもう亡くなってる。だから、人伝に聞いた話ばかりだから本当のところがどうなのかわからないんですが、いいですか?」
「いいでしょう。続けて」
貴音の瞳に興味の色が宿っている。
「ひい祖父さん、田口誠司の昔話なんですが…」
田口誠司と幸也は直接会ったことはない。親族から古傷で片足を引きずっていた、という話を聞いていたくらいで、夏休みに帰省するまで、名前も知らなかったという。幸也が帰省してお墓参りに出向いた際に、親族で田口誠司について話題に上がったため、改めて詳しく知るようになったそうだ。田口誠司は、現在の田口家のある街中の土地を得るまで、山間部にある小さな村で育ったという。そして、話題になったのが、田口誠司が街にでるにあたって村八分にあっていたという噂だった。田口誠司は自分の生い立ちの多くを語らなかったため、誰もそのさきを知らなかったが、幸也は興味を持って村を訪ねようとしたらしい。しかし、村はもうなくなってしまっていることがわかり、断念して帰ろうとしたところ、村の最寄り駅だった駅の職員の親が村の出身だったそうで、地方文化の研究と偽って、そのお宅を訪問してお話を伺えたらしい。そこから、わかった田口誠司の村八分の噂の真相を推理して欲しい。それが幸也の依頼だった。
講義のあと、友也は幸也と一緒に講義室をでた。講義室からでると、玄関のある一階まで五人くらいが横に並べる幅の広い階段を下る。片側が大きなガラス窓に接しているせいで、一段と冷える。外はもう暗くなり始めていた。幸也からもらったカイロを両手でもみながら、幸也の準備の良さを誉めると幸也は笑った。
「単に寒がりなだけだよ。雪の多いとこで育ったから、仮に寒くなくても、あ、そろそろカイロ常備しとかないとってもう頭に刷り込まれてる感じ」
「ああ、なるほど。寒さへの対策に慣れてるんだ」
「そういうこと」
幸也とは入学当初からの仲だが、半年過ぎた今では卒業までつるんでいくだろうという予感があった。
「あ、友也。今日サークル?」
「そうだね。このまま直行する」
友也は最近になってからあるサークルに入会した。大学の始めの時期を逃すとサークルから縁遠くなる学生も多いが、友也は何とか間に合ったのかもしれない。一方で幸也は数多くのサークルを掛け持つ荒業をこなしている。以前時間作りについて幸也に質問したことがあったが、掛け持つためにはどれに対しても三割くらいのやる気で臨むことらしい。友也は今入会している主だった活動の少ないミス研ですら、どこかと兼ねようとは、思えなかった。
「今日ついていっていい?」
「え?幸也サークル増やすの?」
「ああ、いやいや、違うよ。もう多分増やさない」
「なら、どうしたのさ」
「ミス研の技能を駆使して解いてもらいたい謎がある」
サークル搭は、キャンパスの奥地にある。それは、本分たる学業に関係ない建物だからの立地かもしれないし、騒ぎ立てる学生から外部の街中と距離をとる考えかもしれない。サークル搭の背後には森が広がっていて、少なくとも防音的意味合いなら、立地は申し分ないかもしれない。大学生は八月、九月と、二ヶ月の夏休みがある。友也は帰省を中心に活用したが、サークルの活動の多い幸也は多忙な日々を送っていたようだ。それでも幸也はきちんと帰省も日程に織り込んで、お盆は実家に出向いたらしい。幸也からの依頼は、帰省の間に見聞きした家族の話しということだった。
サークル搭の最上階、予算都合で設備の行き届かなかったこのフロアにはサークル搭の窓際族といえる、廃部寸前のサークルが集められている。ミス研もそのひとつだ。歴史があるサークルらしいが、目立たしい成果のでない活動は、群雄割拠するサークル増加の時代において危機に貧している。幸也の入会しているサークルにこのフロアのものがないことが、何より、その差を物語っていた。
「お疲れ様です」
友也はサビで軋む扉を開き、サークル室へ幸也を連れて入った。
「お疲れ様」
挨拶を返してくれたのは、部員の一人武井慎吾だ。がたいのいい慎吾は、体育会系との兼部をしている。
「友だちを連れてどうしたの?」
「武井さん、ミス研に依頼があるらしいんです」
「はじめまして、田口幸也です」
「依頼とは?」
ようやく言葉を発したのは、本庄貴音だ。黒の長い髪が黒のダウンジャケットにかかって、白い顔が強調されている。薄暗い部室なだけにホラーに感じてしまった。
「あ、友也の友だちの田口幸也です。よろしくお願いします」
幸也は慎吾に促されて席についた。友也も普段の定位置に腰かけた。部室は白熱灯の他外に接した窓と、両脇の大きなキャビネット、椅子と机だけのわびしい空間だ。今は寒さが厳しく、普段以上にくつろげない空間となっている。
「今回皆さんに意見を伺いたい依頼って言うのは、俺が帰省した地元で聞いたひい祖父さんのことなんです」
「ひい祖父さんってご存命なの?」
「いやもう亡くなってる。だから、人伝に聞いた話ばかりだから本当のところがどうなのかわからないんですが、いいですか?」
「いいでしょう。続けて」
貴音の瞳に興味の色が宿っている。
「ひい祖父さん、田口誠司の昔話なんですが…」
田口誠司と幸也は直接会ったことはない。親族から古傷で片足を引きずっていた、という話を聞いていたくらいで、夏休みに帰省するまで、名前も知らなかったという。幸也が帰省してお墓参りに出向いた際に、親族で田口誠司について話題に上がったため、改めて詳しく知るようになったそうだ。田口誠司は、現在の田口家のある街中の土地を得るまで、山間部にある小さな村で育ったという。そして、話題になったのが、田口誠司が街にでるにあたって村八分にあっていたという噂だった。田口誠司は自分の生い立ちの多くを語らなかったため、誰もそのさきを知らなかったが、幸也は興味を持って村を訪ねようとしたらしい。しかし、村はもうなくなってしまっていることがわかり、断念して帰ろうとしたところ、村の最寄り駅だった駅の職員の親が村の出身だったそうで、地方文化の研究と偽って、そのお宅を訪問してお話を伺えたらしい。そこから、わかった田口誠司の村八分の噂の真相を推理して欲しい。それが幸也の依頼だった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)その後
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合つまた。
その後、大学を卒業した祐輔(ユウスケ)の新たなストーリーが始まった。
全15話を予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる