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週末、智樹は午前中に部活を終えた亜香里と学校で合流して屋敷へ足を運ぶ。智樹も学校で作品の作業を少しだけ進めることができた。
「この間、屋敷の図面見せてもらって確認したのに、まだあてがあるの?」
「いや、ないかな」
「ふうん」
「なんだかもう、やり切った部分があって、聞き間違いだったってことでいいかなって」
「あ、そうなの」
「おまたせ」
圭介が紙袋を片手に走ってきた。
「家に一回帰ってたら遅くなった」
「今日は部活してたんだ」
「まあね」
「それとりに帰ってたの?」
「うーん、それに泥と汗のまま一日過ごすのはだるいな」
圭介は手提げを見せる。
「これタオルの分、百貨店のお菓子。着いたら渡すわ」
「ありがとう。タオルは別に気にしなくていいけど、ありがたくいただくよ。着いたらみんなでたべよう」
「おい、あれって」
屋敷を見る怪しい人影が見えた。
「捕まえよう」
「え、本気?」
「僕らで?」
「もちろん」
圭介は言うなり怪しい人影にちかづく。智樹はおや、と思う。圭介が近づいたことで、屋敷を見ている人物の背丈がなんとなくわかった。予想より伸長こそ圭介より大きいが小柄だ。
「素手でどうするつもりなのかしら」
亜香里が多少慌てた声で智樹に問いかける。
「待って、納屋から何か持ってくる」
智樹は不審者に気づかれないように路地を周り込んで小走りに屋敷の敷地内に入った。屋敷の屋外に建てられた納屋から使えそうなものを探す。引き戸を開けて目についたものを引き出す。中で他のものが崩れる音が聞こえた。その時には智樹は走り出していた。
先ほどの地点に戻ると、亜香里が通りの曲がり角に移動していた。圭介の姿は見えない。不審者に近づいたのだろう。
「亜香里、圭介は?」
「い、いま、圭介が話しかけて、不審者が逃げて」
「圭介は?」
「不審者を追いかけて。それ、虫取り網?」
「これしかなくて」
「誰か呼んできた方がよかったんじゃ」
その時圭介の声が聞こえた。
「近そうだ」
智樹は走り出した。亜香里も後を追って来ている。智樹が通りを走り抜けると、先ほどの不審者がこちらに走り込んでくる姿だった。圭介をまくために踵を返したのだろうか。
「智樹」
圭介の声が不審者の後方から聞こえてきた。不審者に注意を戻すと、不審者と目が合う。近い。智樹は虫取り網を構える。目をつぶる。衝撃。智樹は不審者と激突して後方に倒れ込む。見ると不審者の頭が見事に網にかかっていた。軽い音が響いた。
「兄ちゃんすげえ」
見知らぬ子どもが圭介に駆け寄ったのが見えた。少し光沢のあるビニールのボールが道路でバウンドしていた。
「私はエミリです。屋敷を見ていたのは用があったからです。逃げたのは、その怖かったから」
そういうと、エミリは圭介に視線を向けた。圭介は視線を逸らす。圭介のことだ、怪しいという思い込みできつくにらみつけでもしたのだろう。
「用っていうと?」
智樹たちは屋敷の部屋にいた。
「お茶どうぞ」
彩花が人数分のお茶を机においた。智樹は捕らえた人物が立ち上がる拍子に深くかぶっていた帽子が落ちて長い髪がなびくのをみた。不審者と思われた人物は女性だった。しかも自分たちと年代が変わらない、ということに驚いた。多少年上の子ども、と最初は認識したが、話を聞くとなんと同い年だった。
「実は私の亡くなった祖母が、この家の久良木さんと知り合いだったそうで、話をきいていたんです。その秘密の友達だったって」
「秘密?」
「はい。なので、久良木さん本人が出てくるのを待っていたのですが」
「ああ、それだと、そうですね。祖父の久良木は亡くなりまして」
「え、そんな。…そうですか」
エミリはうつむいた。
「あ、でも、よければ教えてくれませんか?僕も祖父のこと知りたいですし」
「あの、でも。祖母からあまり家の他の人間には言わないようにと」
「そうなんですか。でも、事情も何も知らないとわかりませんし、僕個人として、祖父がエミリさんのおじいさんとどうであれ、気にしません。あとは、親も今家にいません。必要ならこの場だけの秘密にします」
「そうですか…」
「この間、屋敷の図面見せてもらって確認したのに、まだあてがあるの?」
「いや、ないかな」
「ふうん」
「なんだかもう、やり切った部分があって、聞き間違いだったってことでいいかなって」
「あ、そうなの」
「おまたせ」
圭介が紙袋を片手に走ってきた。
「家に一回帰ってたら遅くなった」
「今日は部活してたんだ」
「まあね」
「それとりに帰ってたの?」
「うーん、それに泥と汗のまま一日過ごすのはだるいな」
圭介は手提げを見せる。
「これタオルの分、百貨店のお菓子。着いたら渡すわ」
「ありがとう。タオルは別に気にしなくていいけど、ありがたくいただくよ。着いたらみんなでたべよう」
「おい、あれって」
屋敷を見る怪しい人影が見えた。
「捕まえよう」
「え、本気?」
「僕らで?」
「もちろん」
圭介は言うなり怪しい人影にちかづく。智樹はおや、と思う。圭介が近づいたことで、屋敷を見ている人物の背丈がなんとなくわかった。予想より伸長こそ圭介より大きいが小柄だ。
「素手でどうするつもりなのかしら」
亜香里が多少慌てた声で智樹に問いかける。
「待って、納屋から何か持ってくる」
智樹は不審者に気づかれないように路地を周り込んで小走りに屋敷の敷地内に入った。屋敷の屋外に建てられた納屋から使えそうなものを探す。引き戸を開けて目についたものを引き出す。中で他のものが崩れる音が聞こえた。その時には智樹は走り出していた。
先ほどの地点に戻ると、亜香里が通りの曲がり角に移動していた。圭介の姿は見えない。不審者に近づいたのだろう。
「亜香里、圭介は?」
「い、いま、圭介が話しかけて、不審者が逃げて」
「圭介は?」
「不審者を追いかけて。それ、虫取り網?」
「これしかなくて」
「誰か呼んできた方がよかったんじゃ」
その時圭介の声が聞こえた。
「近そうだ」
智樹は走り出した。亜香里も後を追って来ている。智樹が通りを走り抜けると、先ほどの不審者がこちらに走り込んでくる姿だった。圭介をまくために踵を返したのだろうか。
「智樹」
圭介の声が不審者の後方から聞こえてきた。不審者に注意を戻すと、不審者と目が合う。近い。智樹は虫取り網を構える。目をつぶる。衝撃。智樹は不審者と激突して後方に倒れ込む。見ると不審者の頭が見事に網にかかっていた。軽い音が響いた。
「兄ちゃんすげえ」
見知らぬ子どもが圭介に駆け寄ったのが見えた。少し光沢のあるビニールのボールが道路でバウンドしていた。
「私はエミリです。屋敷を見ていたのは用があったからです。逃げたのは、その怖かったから」
そういうと、エミリは圭介に視線を向けた。圭介は視線を逸らす。圭介のことだ、怪しいという思い込みできつくにらみつけでもしたのだろう。
「用っていうと?」
智樹たちは屋敷の部屋にいた。
「お茶どうぞ」
彩花が人数分のお茶を机においた。智樹は捕らえた人物が立ち上がる拍子に深くかぶっていた帽子が落ちて長い髪がなびくのをみた。不審者と思われた人物は女性だった。しかも自分たちと年代が変わらない、ということに驚いた。多少年上の子ども、と最初は認識したが、話を聞くとなんと同い年だった。
「実は私の亡くなった祖母が、この家の久良木さんと知り合いだったそうで、話をきいていたんです。その秘密の友達だったって」
「秘密?」
「はい。なので、久良木さん本人が出てくるのを待っていたのですが」
「ああ、それだと、そうですね。祖父の久良木は亡くなりまして」
「え、そんな。…そうですか」
エミリはうつむいた。
「あ、でも、よければ教えてくれませんか?僕も祖父のこと知りたいですし」
「あの、でも。祖母からあまり家の他の人間には言わないようにと」
「そうなんですか。でも、事情も何も知らないとわかりませんし、僕個人として、祖父がエミリさんのおじいさんとどうであれ、気にしません。あとは、親も今家にいません。必要ならこの場だけの秘密にします」
「そうですか…」
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