資産家の秘密

ヨージー

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 エミリの祖母の家族は日本が落ち着いてから、仕事で一時期智樹たちが今住んでいる街からそう遠くはないあたりに住んでいたのだという。その当時智樹の屋敷は海外からの宿泊客には少し名の知れた宿になっていた。エミリの祖母の家族もよく利用していたらしい。エミリの祖母の父親は貿易商をしており、元軍人としての顔の広さから、新規事業もかなり調子が良かったらしい。当時の日本は他の国に比べるとより閉鎖的で、なかなかことが運びづらかったらしい。そこで重宝されたのが、智樹の家のホテルだったらしい。智樹の祖父の家族はあまり偏見なく、海外の客人をもてなしており、商談場所には向いていた。だが、日本国内が他の国の人々でにぎわいを見せていたのも一時期で、ある程度の段取りがつくと、街中にでる海外の人も減り、エミリの祖母たちも引き上げることとなったという。だが、実はこの一時期の間に智樹の祖父、久良木とエミリの祖母は親の知らないところで友だちになっていたらしい。そのときの思い出をエミリの祖母は亡くなるころ、よくエミリに話していたそうだ。エミリの祖父はすでに亡くなっており、そもそも、帰国してからであったと聞いていたので、その当時のことを知っている者はエミリの知る限りもうだれも居なかった。そして縁あって、エミリは日本に来ることになった。それはエミリの父が建築家として、日本文化を学びにくる一時的な内容であったので、エミリが一緒にくる必要はなかったが、エミリがねだって連れて行ってもらえることとなった。エミリは入国後父の目を盗んでは一人で外出して、街を捜し歩いたという。そして、祖母から聞いていた外観を持つ建物を見つけることができたらしい。けれど、エミリは祖母から、久良木との日々は秘密のものだったと聞いていたので、久良木本人に直接会えるまではコンタクトをとらないようにしていたらしい。エミリとしても、久良木以外にエミリの祖母のことが通じる人がいるか心配していたそうだ。
「なるほど、ありがとう」
 智樹はエミリの空いたグラスにジュースを注いだ。
「それってさ、秘密の部屋のこととも関係するのかな」
「え?」
 彩花が驚く。
「あ」
 圭介がしまった、という表情を浮かべている。
「別にいいよ。姉さんにも説明したかったし」
 そこから、智樹が、エミリと彩花に秘密の部屋について説明した。ここ数週間の調査結果も伝えた。エミリは祖母の思い出が聞けると喜んでいたが、建物が改装済みで手がかりを失ったという部分ではひどく落胆して見えた。
「ねえ、ちょっと待って」
 声を出したのは亜香里だった。
「なにを?」
「さっき虫取り網を出したのって」
「え、納屋だけど。ああ」
「なんだよ」
 圭介が眉を顰める。
「行ってみようか」
 腰を上げる智樹と亜香里に他の三人が続いた。
「エミリさん日本語上手ですね」
「父に日本に行くなら、話せるようになっておけと」
「それでそこまで?」
「ええ、父も驚いていました」
「ぼくもそれくらい頭が良ければ」
「そんな、よければ今度英語教えますよ」
「ぜひ、お願いします」
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