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言ってないことを後悔した(r18g)
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翌日、双方ともバタバタとしてろくに顔も会わせることもなく出社した。
仕方ない。こういう時もあるさ。
「………」
改めてみれば、ここも疫病を解析したり、それに対抗する魔法陣製作をしているのに気が付いた。
少し前まではそんなもの作っておらず、障気関連の、抑えたり飛ばしたりの魔法陣ばかりだけだったのが、いつの間にか体内浄化や治療系統の魔法陣開発にシフトチェンジしていた。いつもここに来ても魔法陣修復や、経費処理の手伝いばかりで皆が何をしているのか気が付かなかった。
日本では怒られる事だ。気を付けようと瑛士は反省した。
「さて、朝イチにボルツア卿から頼まれた仕事を始めますか」
来て早々モステンから言われた仕事の資料を机に広げる。頼まれたのは封印の魔法陣と、その外側にある障気を抑える魔法陣の修復する箇所、手順、難易度を割り出して纏めること。昨日の報告をサルトゥーア陛下にしたところ、畏れ多くも瑛士に神子とは違うアプローチの仕方も視野にいれてくれる事になった。
流石に女の子、上栫聖良さん1人に押し付けるのはどうかと思っていたから、チキンレースになる可能性があるにしてもやらねばと瑛士は意気込んでいた。
早速昨日メモした手帳を大きな紙に描き写しながら整理する。
「うーん」
とはいえ、チキンレースになるならできるだけ効率良く、かつ生存率を上げたい。かといえまだまだ魔法陣土素人な瑛士はどの順の方が効率が良いのかわからない。
「ねぇ、シンシア」
仕方がないので近くで魔法陣の最終チェックをしていたシンシアに声をかけた。口も悪いし態度も悪いしヘビースモーカーだけど、何だかんだと助けてくれる。今も死んでいる目のまま瑛士をチラリと見ながら口から煙を吐き出すと「少し待ってろ」と言ってくれた。
「これなんだけど」
「ふーん。ここを先に直すと変な誤作動が怒る可能性が高い。直す順番はこれを初めにした方が安全だ」
「へぇ。わかった。じゃあここを初めにして、そこからこういう順番とか」
「いいんじゃないか?あ、まて、ここは一旦保留だ」
シンシアに相談しつつ何処から修復した方が良いのか考察していると出掛けていたクレオフェンが戻ってくるなり瑛士を呼んだ。
「クリハラ、少し良いですか?」
「なんですか?」
少し困っているような顔のクレオフェンは珍しい。
「ちょっと目を借りたいのですが」
つまりは魔法陣を視てくれと言うこと。シンシアと顔を見合せると、シンシアは頷き片付けをしてくれる。瑛士はクレオフェンの元へと向かった。
「どうかしたのですか?」
「実はこの前完成した魔法陣、障気対策の奴なのですが、試験的に作動したらちょっと変な動きをしまして」
「え、出来て早々にグレムリンですか」
「みたいです」
最近グレムリンの被害が拡大しているとはいえ、最終チェックを済まし、本起動させる前にグレムリンにやられるのは始めてのことだった。
「とはいえ、普通にグレムリンなのか設計ミスなのか分からないので確認して欲しいのです」
「なるほど、わかりました」
ヒューマンエラーは必ず起こる。これを確認するのも瑛士の仕事のひとつだ。
「すぐに準備します」
ばたんと扉が閉められ、馬車が動く。
いつも大体は城内だけれど、こうして城の外でやる実験も珍しくはない。しかも今回は障気のある場所での確認になる。
門を出ていつもとは違う方向へと進む馬車に揺られながら瑛士は欠伸をした。何だろう。すごく眠い。
そんな瑛士の様子にクレオフェンが苦笑する。
「昨日の疲れが溜まっていたのでしょう。着いたら起こしますので寝てて良いですよ」
「ありがとうございます。じゃあ、少しだけ………」
「ええ、おやすみなさい」
□□□言ってないことを後悔した□□□
手首が冷たい。何だろう。
「んん……」
金属が擦れる音が聞こえる。あれ?目的地に着いたのか?
目を開けた瑛士はボンヤリと目の前に広がる景色を眺め、首を捻った。瑛士は椅子に座っておらず、木製の床に横になっていた。窓は高い位置に一つ、それも格子が付いている。
そして手首には手錠。金属の音は手枷同士を繋いでいる鎖の音だったようだ。
「は?」
明らかに何かがおかしいと瑛士が身を起こすと、扉が開いた。
「おや、おはようございます。起きるのが早かったですね」
「クレオフェンさん…」
薄暗いこの部屋に乗り込んできたクレオフェンは、なんだか様子がおかしい気がした。
この状況に驚いていないし、何よりもその言い方だと“俺が眠たくなるのは想定内”だったような。
ふと、脳裏に昨日の馬車で目隠し代わりに魔法で眠らされたのを思い出した。まさか──
こつりこつりとゆっくり近付いてくるクレオフェンに瑛士は思わず後退した。だけどすぐに背中が壁に着いて行き止まりになってしまう。クレオフェンの薄く開いた目は見たことの無いほど冷たく瑛士を見下ろし、にこりと笑みを浮かべながらすぐ目の前にしゃがみこんだ。
「いやぁー、困るんですよねぇ、“僕”が長年コツコツ変えてきた魔法陣をそう簡単に直しちゃおうとしないでくださいよ」
クレオフェンの胸元でネックレスが揺れる。そこにはアークラーの紋章(※前代信仰の紋章)の入ったもので、今ダレクの追いかけている暴動を扇動するテロリスト集団の印だった。
嘘だろ?まさかクレオフェンさんが?との言葉が脳内で渦巻く。緊張で口はカラカラに乾いて動かない。
「せっかく鍵が外れかかっているのに、本当に、計画外です」
乾いた口でも必死に唾を飲み込んで、クレオフェンに問い掛けた。
「なんで、クレオフェンさんが……。だって、神子を使って浄化するって言っていたじゃないですか…。それに、俺の能力を使いこなせるようにしてくれたり…」
笑みを消し、クレオフェンはダルそうに答える。
「彼女はもちろん生け贄ですよ。本当の意味でね。残念ながらいくら彼女が頑張っても浄化はできません。何故ならすでに私が魔法陣を弄って、浄化できないようにしていましたから」
す、とクレオフェンの手が瑛士の頬を撫で、離れる。
「本当は、想定外でやってきた貴方でも良かったんですがね。しかし貴方はもうアレキサンドライトの魔力が混ざっちゃって半分こちらの人間になっていますから、依り代としては使い物にならなくて残念です」
「依り代…」
「本当は貴方も分かっていらっしゃるでしょう?勿論、魔王復活のための依り代ですよ」
一体何のだと考えた。考えなくともそれが魔王関連だろうと浮かんだけれど、クレオフェン本人の口から言われては認めるしかない。認めたくはなかった。
始めての職場で良くしてくれた人だから、良い先輩だったから。なのに、はじめから裏切られていたのだ。
「なんですその目は?ああ、そうそう、貴方のその眼はちゃんと活用させて貰います。そのままだったら邪魔してくるから、そうですね、ちゃんと殺してから取り出しますので安心してください」
クレオフェンが袖口からナイフを取り出した。
そして、いつもの笑顔に戻る。
「大丈夫ですよ。ちゃんと野盗に襲われたようにズタズタにしてあげますから、その為に私たちが乗ってきた馬車だってしっかりと壊して、馭者もきちんと惨殺してあげましたので」
笑顔が怖い。
鞘を取り、ナイフが振り上げられた瞬間体が勝手に動いた。このまま殺されてなるものかと思ったのかもしれない。
護身用の数珠を起動させながら手錠の鎖を使ってクレオフェンの顔めがけて振った。
バコンと鎖が勢い良く顔に当たり、頬の当たりを赤く腫れさせた。鎖越しだから威力が落ちてしまったようで気絶まではさせられなかった。せいぜい火傷と打撲のみ。
「おやおや、抵抗してくるとは思わなかったですね」
だけど、クレオフェンは笑みを崩さずに目をこちらに向けた。その間に頬の傷が治癒されていっている。服の中に治療用魔法陣でも仕込んでいたのか。それならばいくら抵抗したとしても勝ち目はない。
クレオフェンを両足で蹴り飛ばし、開けっ放しにされている扉から外へと飛び出した。
部屋かと思っていたのだが、あれもれっきとした馬車だったらしい。予想外の高低差に驚いたけれど、飛んだ方が早いと思い切りジャンプし、全力で走った。
何処に向かっているのか分からない。辺りは森で、整備されていない。突き出た枝に服が引っ掛かって裂ける。だけど足は止めない。
クレオフェンは魔法陣無しでも魔法が使える。言うなればクレオフェンの手には銃が握られているのと同意なのだ。もちろん攻撃系なら身を隠す、もしくは距離が離れれば離れるほど命中率が下がる。だから、瑛士は全力で逃げているのだ。
「早く…っ、早くダレクに報せないと…!」
走り込みをしていて良かったと思いながらも、必死に森の出口を探す。森から出て、何処かの村か町にでも逃げ込めれば──
「い"っっ!!?」
足に衝撃、次いで激痛が走り地面へと転がる。
「う"あ"あああっっ!!!」
あまりの痛みに叫ぶ。あの時のような痛みが右足を貫いている。視線を走らせればふくらはぎに矢が突き刺さっていた。
「いっ…ぐうっ!」
引っ張ってみても返しのせいで抜けない。そのままで立ち上がろうとするが足に力が入らなくて立ち上がることすら出来ない。そうこうしているうちに足音が複数やってきた。
「………!」
盗賊団だった。しかも、見たことのある顔もある。その男が瑛士の走ってきた方へ向かって声をかけた。
「旦那、捕まえましたよー!」
血の気が下がる。コイツらもグルだったのか。
「ははっ、こいつ逃げようとしてるぜ」
「無駄だっての!」
「うぐっ!」
横から思い切り蹴り飛ばされた。それでも諦めずに立ち上がろうと手を付くと、その手を別の男が踏みつけ、横腹を蹴られた。防御できずに吐き気が込み上げる。ドカドカと複数人で蹴られ続けて堪えていると、聞きたくもない声が聞こえた。
「はぁ、全く足が早いこと。お前達、でかしました。全く。感知されないように魔法を使わないと不便ですね」
クレオフェンに追い付かれてしまった。
手を踏まれ、更に背中にのし掛かられればもう動くことも出来ない。
「さて、それでは潔く死んでください」
クレオがのし掛かってきて背中を一突き。
「ぐぅっ!!」
二突き、三突き。
喉の奥から溢れてきた血を吐くが、それでも逃げようともがいた。
熱い、痛い、熱い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
「げふ、ごぼっ」
「おや?思ったよりも頑丈ですね?一突きでショック死すると思いましたけど、ふふっ、まだ楽しめそうで安心しましたよ!」
ひっくり返されてナイフを振りかぶるクレオフェンを再び鎖で殴ろうとしたけど空振りをする。しまった。もう腕の力が無い。
またしても反撃してきた瑛士をクレオフェンは冷たく見下ろす。しかし口許には笑みを浮かべている。虫を面白がって潰す子供のそれだ。
背中から熱いものが流れ落ちている。だけど、瑛士はクレオフェンを睨み付けた。
「もしかしてアレキサンドライトの魔力が内部で作用してます?それともポケットにある魔法具から魔力でも流されてますかね?あはっ!でも無駄ですよ!確実に死ぬように毒も塗ってるので!」
そのまま腹を刺された。何度も、何度も何度も何度も何度も。滅多刺しだ。ゴボゴボと口からは血が溢れる。呼吸が出来ない。
「ふははっ!なんで僕が君を熱心に指導していたか教えて上げますよ!その能力の正確な情報と、利用価値があるかの確認だったんです!本当は催眠で道具にしようかと思っていたんですけど、思った以上にアレキサンドライトの魔力ガードが固くて無理だったので、なら目玉だけ不慮の事故で摘出しようと思ってたんですよ。その時は殺すつもりは無かったんですよ?」
心臓の位置にナイフが根本まで突き刺さる。
「なのに貴方が直せるなんて気軽に言っちゃったのが悪いんですよ。自業自得ですね」
意識が遠退いていく。
クレオフェンの声も遠く離れていき、瑛士は思考の回らなくなった頭でダレクに謝った。
ああ、ごめんダレク。せっかく助けて貰ったのに、ろくに恩返しもできないまま死んでしまう……。
せめて、最後にちゃんと行ってらっしゃい…って、…言って…やりた…か………
出血多量でなのか毒のせいなのか体が冷たくなっていく。視界も黒ずんで、目の前にいるはずのクレオフェンの姿も見えなくなっていく。
呼吸はもう恐らく出来てない。指一本だって動かない。
心臓をグリグリとほじくり返していたクレオフェンが、自分の体から退く。その時、聞こえるはずもないダレク声が聞こえた気がした
仕方ない。こういう時もあるさ。
「………」
改めてみれば、ここも疫病を解析したり、それに対抗する魔法陣製作をしているのに気が付いた。
少し前まではそんなもの作っておらず、障気関連の、抑えたり飛ばしたりの魔法陣ばかりだけだったのが、いつの間にか体内浄化や治療系統の魔法陣開発にシフトチェンジしていた。いつもここに来ても魔法陣修復や、経費処理の手伝いばかりで皆が何をしているのか気が付かなかった。
日本では怒られる事だ。気を付けようと瑛士は反省した。
「さて、朝イチにボルツア卿から頼まれた仕事を始めますか」
来て早々モステンから言われた仕事の資料を机に広げる。頼まれたのは封印の魔法陣と、その外側にある障気を抑える魔法陣の修復する箇所、手順、難易度を割り出して纏めること。昨日の報告をサルトゥーア陛下にしたところ、畏れ多くも瑛士に神子とは違うアプローチの仕方も視野にいれてくれる事になった。
流石に女の子、上栫聖良さん1人に押し付けるのはどうかと思っていたから、チキンレースになる可能性があるにしてもやらねばと瑛士は意気込んでいた。
早速昨日メモした手帳を大きな紙に描き写しながら整理する。
「うーん」
とはいえ、チキンレースになるならできるだけ効率良く、かつ生存率を上げたい。かといえまだまだ魔法陣土素人な瑛士はどの順の方が効率が良いのかわからない。
「ねぇ、シンシア」
仕方がないので近くで魔法陣の最終チェックをしていたシンシアに声をかけた。口も悪いし態度も悪いしヘビースモーカーだけど、何だかんだと助けてくれる。今も死んでいる目のまま瑛士をチラリと見ながら口から煙を吐き出すと「少し待ってろ」と言ってくれた。
「これなんだけど」
「ふーん。ここを先に直すと変な誤作動が怒る可能性が高い。直す順番はこれを初めにした方が安全だ」
「へぇ。わかった。じゃあここを初めにして、そこからこういう順番とか」
「いいんじゃないか?あ、まて、ここは一旦保留だ」
シンシアに相談しつつ何処から修復した方が良いのか考察していると出掛けていたクレオフェンが戻ってくるなり瑛士を呼んだ。
「クリハラ、少し良いですか?」
「なんですか?」
少し困っているような顔のクレオフェンは珍しい。
「ちょっと目を借りたいのですが」
つまりは魔法陣を視てくれと言うこと。シンシアと顔を見合せると、シンシアは頷き片付けをしてくれる。瑛士はクレオフェンの元へと向かった。
「どうかしたのですか?」
「実はこの前完成した魔法陣、障気対策の奴なのですが、試験的に作動したらちょっと変な動きをしまして」
「え、出来て早々にグレムリンですか」
「みたいです」
最近グレムリンの被害が拡大しているとはいえ、最終チェックを済まし、本起動させる前にグレムリンにやられるのは始めてのことだった。
「とはいえ、普通にグレムリンなのか設計ミスなのか分からないので確認して欲しいのです」
「なるほど、わかりました」
ヒューマンエラーは必ず起こる。これを確認するのも瑛士の仕事のひとつだ。
「すぐに準備します」
ばたんと扉が閉められ、馬車が動く。
いつも大体は城内だけれど、こうして城の外でやる実験も珍しくはない。しかも今回は障気のある場所での確認になる。
門を出ていつもとは違う方向へと進む馬車に揺られながら瑛士は欠伸をした。何だろう。すごく眠い。
そんな瑛士の様子にクレオフェンが苦笑する。
「昨日の疲れが溜まっていたのでしょう。着いたら起こしますので寝てて良いですよ」
「ありがとうございます。じゃあ、少しだけ………」
「ええ、おやすみなさい」
□□□言ってないことを後悔した□□□
手首が冷たい。何だろう。
「んん……」
金属が擦れる音が聞こえる。あれ?目的地に着いたのか?
目を開けた瑛士はボンヤリと目の前に広がる景色を眺め、首を捻った。瑛士は椅子に座っておらず、木製の床に横になっていた。窓は高い位置に一つ、それも格子が付いている。
そして手首には手錠。金属の音は手枷同士を繋いでいる鎖の音だったようだ。
「は?」
明らかに何かがおかしいと瑛士が身を起こすと、扉が開いた。
「おや、おはようございます。起きるのが早かったですね」
「クレオフェンさん…」
薄暗いこの部屋に乗り込んできたクレオフェンは、なんだか様子がおかしい気がした。
この状況に驚いていないし、何よりもその言い方だと“俺が眠たくなるのは想定内”だったような。
ふと、脳裏に昨日の馬車で目隠し代わりに魔法で眠らされたのを思い出した。まさか──
こつりこつりとゆっくり近付いてくるクレオフェンに瑛士は思わず後退した。だけどすぐに背中が壁に着いて行き止まりになってしまう。クレオフェンの薄く開いた目は見たことの無いほど冷たく瑛士を見下ろし、にこりと笑みを浮かべながらすぐ目の前にしゃがみこんだ。
「いやぁー、困るんですよねぇ、“僕”が長年コツコツ変えてきた魔法陣をそう簡単に直しちゃおうとしないでくださいよ」
クレオフェンの胸元でネックレスが揺れる。そこにはアークラーの紋章(※前代信仰の紋章)の入ったもので、今ダレクの追いかけている暴動を扇動するテロリスト集団の印だった。
嘘だろ?まさかクレオフェンさんが?との言葉が脳内で渦巻く。緊張で口はカラカラに乾いて動かない。
「せっかく鍵が外れかかっているのに、本当に、計画外です」
乾いた口でも必死に唾を飲み込んで、クレオフェンに問い掛けた。
「なんで、クレオフェンさんが……。だって、神子を使って浄化するって言っていたじゃないですか…。それに、俺の能力を使いこなせるようにしてくれたり…」
笑みを消し、クレオフェンはダルそうに答える。
「彼女はもちろん生け贄ですよ。本当の意味でね。残念ながらいくら彼女が頑張っても浄化はできません。何故ならすでに私が魔法陣を弄って、浄化できないようにしていましたから」
す、とクレオフェンの手が瑛士の頬を撫で、離れる。
「本当は、想定外でやってきた貴方でも良かったんですがね。しかし貴方はもうアレキサンドライトの魔力が混ざっちゃって半分こちらの人間になっていますから、依り代としては使い物にならなくて残念です」
「依り代…」
「本当は貴方も分かっていらっしゃるでしょう?勿論、魔王復活のための依り代ですよ」
一体何のだと考えた。考えなくともそれが魔王関連だろうと浮かんだけれど、クレオフェン本人の口から言われては認めるしかない。認めたくはなかった。
始めての職場で良くしてくれた人だから、良い先輩だったから。なのに、はじめから裏切られていたのだ。
「なんですその目は?ああ、そうそう、貴方のその眼はちゃんと活用させて貰います。そのままだったら邪魔してくるから、そうですね、ちゃんと殺してから取り出しますので安心してください」
クレオフェンが袖口からナイフを取り出した。
そして、いつもの笑顔に戻る。
「大丈夫ですよ。ちゃんと野盗に襲われたようにズタズタにしてあげますから、その為に私たちが乗ってきた馬車だってしっかりと壊して、馭者もきちんと惨殺してあげましたので」
笑顔が怖い。
鞘を取り、ナイフが振り上げられた瞬間体が勝手に動いた。このまま殺されてなるものかと思ったのかもしれない。
護身用の数珠を起動させながら手錠の鎖を使ってクレオフェンの顔めがけて振った。
バコンと鎖が勢い良く顔に当たり、頬の当たりを赤く腫れさせた。鎖越しだから威力が落ちてしまったようで気絶まではさせられなかった。せいぜい火傷と打撲のみ。
「おやおや、抵抗してくるとは思わなかったですね」
だけど、クレオフェンは笑みを崩さずに目をこちらに向けた。その間に頬の傷が治癒されていっている。服の中に治療用魔法陣でも仕込んでいたのか。それならばいくら抵抗したとしても勝ち目はない。
クレオフェンを両足で蹴り飛ばし、開けっ放しにされている扉から外へと飛び出した。
部屋かと思っていたのだが、あれもれっきとした馬車だったらしい。予想外の高低差に驚いたけれど、飛んだ方が早いと思い切りジャンプし、全力で走った。
何処に向かっているのか分からない。辺りは森で、整備されていない。突き出た枝に服が引っ掛かって裂ける。だけど足は止めない。
クレオフェンは魔法陣無しでも魔法が使える。言うなればクレオフェンの手には銃が握られているのと同意なのだ。もちろん攻撃系なら身を隠す、もしくは距離が離れれば離れるほど命中率が下がる。だから、瑛士は全力で逃げているのだ。
「早く…っ、早くダレクに報せないと…!」
走り込みをしていて良かったと思いながらも、必死に森の出口を探す。森から出て、何処かの村か町にでも逃げ込めれば──
「い"っっ!!?」
足に衝撃、次いで激痛が走り地面へと転がる。
「う"あ"あああっっ!!!」
あまりの痛みに叫ぶ。あの時のような痛みが右足を貫いている。視線を走らせればふくらはぎに矢が突き刺さっていた。
「いっ…ぐうっ!」
引っ張ってみても返しのせいで抜けない。そのままで立ち上がろうとするが足に力が入らなくて立ち上がることすら出来ない。そうこうしているうちに足音が複数やってきた。
「………!」
盗賊団だった。しかも、見たことのある顔もある。その男が瑛士の走ってきた方へ向かって声をかけた。
「旦那、捕まえましたよー!」
血の気が下がる。コイツらもグルだったのか。
「ははっ、こいつ逃げようとしてるぜ」
「無駄だっての!」
「うぐっ!」
横から思い切り蹴り飛ばされた。それでも諦めずに立ち上がろうと手を付くと、その手を別の男が踏みつけ、横腹を蹴られた。防御できずに吐き気が込み上げる。ドカドカと複数人で蹴られ続けて堪えていると、聞きたくもない声が聞こえた。
「はぁ、全く足が早いこと。お前達、でかしました。全く。感知されないように魔法を使わないと不便ですね」
クレオフェンに追い付かれてしまった。
手を踏まれ、更に背中にのし掛かられればもう動くことも出来ない。
「さて、それでは潔く死んでください」
クレオがのし掛かってきて背中を一突き。
「ぐぅっ!!」
二突き、三突き。
喉の奥から溢れてきた血を吐くが、それでも逃げようともがいた。
熱い、痛い、熱い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
「げふ、ごぼっ」
「おや?思ったよりも頑丈ですね?一突きでショック死すると思いましたけど、ふふっ、まだ楽しめそうで安心しましたよ!」
ひっくり返されてナイフを振りかぶるクレオフェンを再び鎖で殴ろうとしたけど空振りをする。しまった。もう腕の力が無い。
またしても反撃してきた瑛士をクレオフェンは冷たく見下ろす。しかし口許には笑みを浮かべている。虫を面白がって潰す子供のそれだ。
背中から熱いものが流れ落ちている。だけど、瑛士はクレオフェンを睨み付けた。
「もしかしてアレキサンドライトの魔力が内部で作用してます?それともポケットにある魔法具から魔力でも流されてますかね?あはっ!でも無駄ですよ!確実に死ぬように毒も塗ってるので!」
そのまま腹を刺された。何度も、何度も何度も何度も何度も。滅多刺しだ。ゴボゴボと口からは血が溢れる。呼吸が出来ない。
「ふははっ!なんで僕が君を熱心に指導していたか教えて上げますよ!その能力の正確な情報と、利用価値があるかの確認だったんです!本当は催眠で道具にしようかと思っていたんですけど、思った以上にアレキサンドライトの魔力ガードが固くて無理だったので、なら目玉だけ不慮の事故で摘出しようと思ってたんですよ。その時は殺すつもりは無かったんですよ?」
心臓の位置にナイフが根本まで突き刺さる。
「なのに貴方が直せるなんて気軽に言っちゃったのが悪いんですよ。自業自得ですね」
意識が遠退いていく。
クレオフェンの声も遠く離れていき、瑛士は思考の回らなくなった頭でダレクに謝った。
ああ、ごめんダレク。せっかく助けて貰ったのに、ろくに恩返しもできないまま死んでしまう……。
せめて、最後にちゃんと行ってらっしゃい…って、…言って…やりた…か………
出血多量でなのか毒のせいなのか体が冷たくなっていく。視界も黒ずんで、目の前にいるはずのクレオフェンの姿も見えなくなっていく。
呼吸はもう恐らく出来てない。指一本だって動かない。
心臓をグリグリとほじくり返していたクレオフェンが、自分の体から退く。その時、聞こえるはずもないダレク声が聞こえた気がした
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