6 / 58
第一章
6
しおりを挟む
「お早うございます、契さま」
しゃ、と音がしてカーテンが開かれる。そうすれば、窓の外からは月明かりが入り込んできた。
契は重い瞼をあけて、体を起こす。……なにか、違和感。氷高の「お早うございます」は朝日とセットのはずなのになんで月明かりが窓から入ってくるんだろう。今は、夜? なんで俺はこんな時間にベッドで寝て……
「――えっ!?」
――そうだ、俺は、氷高と……
寝ぼけて数時間前のことを忘れていた契は、一瞬で「あの時間」を思い出した。そうだ、自分は氷高とセックスしたんだ、と。
「ちょっ、えっ、ひ、ひだか、」
「契さま、少し喉の調子が悪いみたいですね。どうぞ、ハーブティーを淹れました。喉に効きますよ」
「えっ、ありがとう……じゃなくて!」
氷高がベッドサイドにティーカップを置く。ふわりとハーブのいい香りがしたが……それどころじゃない。なぜこの男はこんなに平然としていられるんだ。乱れていた服も髪もいつものようにきっちりと戻っていて、まるで「あの行為」をしたことなど感じさせない。契は一瞬、そもそも「あの時間」は夢だったんじゃないかと思ったが、挿れられたところがじんじんと未だに熱いから、夢なわけがない。そして普段はパジャマを着て寝るのに裸で布団に入っている。
「ひ、氷高……! おまえっ……この俺にあんなことしておいてよくも」
「もうすぐ夕食の時間です。名須川シェフが今日は自信作だと仰っていましたよ」
「え、ほんと!? ……じゃなくて!」
「さあ、準備をしましょう。契さま、起きてください」
氷高が何事もなかったように服を持ってくる。そして、ベッドの側にひざまずいた。
――この執事、まさかアレをなんとも思ってないのか!?
あまりにもいつもと変わらない氷高の様子に、契は驚いてしまう。自分は、こんなに恥ずかしくてよくわからない気分になっているというのに。
なんだかムカッとして、それでいてもやもやとして。自分だけがやきもきしていることが気に食わなくて、契はぶすっと氷高から目を逸らす。
「じ、自分で着替えるから! 氷高はあっちいってろ!」
「わかりました。ではお召し物はここに置いておきますね」
……まあ、たしかに、エッチなことを「教えてもらった」だけだし。気にしている俺が変なのか。
部屋から出て行く氷高の背中を見つめながら、契は悶々と考えこむ。氷高の意地悪な態度もちょっと強引な抱き方も、抱かれる感覚を契に教えるためだけのものであって……別にそれ以上のものではなくて。氷高がああもさらっとしているのは年上だからそういうことに慣れている、それだけのこと。氷高はいつもどおりなのだ、アレはアレ、これ以上引きずっても意味がない。
「ふん、あの生意気執事め」
契はぶるぶると頭を振って頭を覚醒させようと試みる。しかし……自分を抱いている最中の氷高の表情が、なかなか消えてくれない。だからアレをなかったことにしようにもできなくて、そして意識すると余計に触られたところがじんじんとして……契は頭を抱えるのだった。
第一幕・Fin
しゃ、と音がしてカーテンが開かれる。そうすれば、窓の外からは月明かりが入り込んできた。
契は重い瞼をあけて、体を起こす。……なにか、違和感。氷高の「お早うございます」は朝日とセットのはずなのになんで月明かりが窓から入ってくるんだろう。今は、夜? なんで俺はこんな時間にベッドで寝て……
「――えっ!?」
――そうだ、俺は、氷高と……
寝ぼけて数時間前のことを忘れていた契は、一瞬で「あの時間」を思い出した。そうだ、自分は氷高とセックスしたんだ、と。
「ちょっ、えっ、ひ、ひだか、」
「契さま、少し喉の調子が悪いみたいですね。どうぞ、ハーブティーを淹れました。喉に効きますよ」
「えっ、ありがとう……じゃなくて!」
氷高がベッドサイドにティーカップを置く。ふわりとハーブのいい香りがしたが……それどころじゃない。なぜこの男はこんなに平然としていられるんだ。乱れていた服も髪もいつものようにきっちりと戻っていて、まるで「あの行為」をしたことなど感じさせない。契は一瞬、そもそも「あの時間」は夢だったんじゃないかと思ったが、挿れられたところがじんじんと未だに熱いから、夢なわけがない。そして普段はパジャマを着て寝るのに裸で布団に入っている。
「ひ、氷高……! おまえっ……この俺にあんなことしておいてよくも」
「もうすぐ夕食の時間です。名須川シェフが今日は自信作だと仰っていましたよ」
「え、ほんと!? ……じゃなくて!」
「さあ、準備をしましょう。契さま、起きてください」
氷高が何事もなかったように服を持ってくる。そして、ベッドの側にひざまずいた。
――この執事、まさかアレをなんとも思ってないのか!?
あまりにもいつもと変わらない氷高の様子に、契は驚いてしまう。自分は、こんなに恥ずかしくてよくわからない気分になっているというのに。
なんだかムカッとして、それでいてもやもやとして。自分だけがやきもきしていることが気に食わなくて、契はぶすっと氷高から目を逸らす。
「じ、自分で着替えるから! 氷高はあっちいってろ!」
「わかりました。ではお召し物はここに置いておきますね」
……まあ、たしかに、エッチなことを「教えてもらった」だけだし。気にしている俺が変なのか。
部屋から出て行く氷高の背中を見つめながら、契は悶々と考えこむ。氷高の意地悪な態度もちょっと強引な抱き方も、抱かれる感覚を契に教えるためだけのものであって……別にそれ以上のものではなくて。氷高がああもさらっとしているのは年上だからそういうことに慣れている、それだけのこと。氷高はいつもどおりなのだ、アレはアレ、これ以上引きずっても意味がない。
「ふん、あの生意気執事め」
契はぶるぶると頭を振って頭を覚醒させようと試みる。しかし……自分を抱いている最中の氷高の表情が、なかなか消えてくれない。だからアレをなかったことにしようにもできなくて、そして意識すると余計に触られたところがじんじんとして……契は頭を抱えるのだった。
第一幕・Fin
6
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる