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第四章:ハチミツと檸檬と子守歌
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モアとイリスが訪れたのは、街中にある一軒家。以前、お願い事を叶えてあげた人の家らしい。そのときは「子どもがなくしてしまったおもちゃを見つけて欲しい」といった願い事だったとか。しばらく経って、今、その家から手紙が来たのだ。「お礼がしたいから、ぜひ家に遊びに来てください」と。
モアは誰かの家に行くのは初めてだったので、ドキドキしながらイリスに着いていった。粗相がないように……と頭のなかでぶつぶつと唱えていたせいか、イリスに「緊張しすぎだよ」と笑われたが。
その家の扉を開けると、男性が「待っていました」と笑顔で迎えてくれた。男性の名は、エドガー。この家の主だ。
「こんにちは、イリスさん。……と、」
「モアです。俺の助手の」
「そうでしたか! どうぞどうぞ」
さりげなく助手と紹介されてしまった……とモアはちょっぴり不服。いつのまにか助手という役割に落ち着いてしまっている。
リビングに通されて、モアはぱちくり目を瞬かせた。そこには、おもちゃで遊んでいる子どもがいたのだ。子どもと接する機会などほとんどなかったモアは、子どもを見て呆気にとられてしまう。
子どもは二人に気付くと、とたとたと駆け寄ってきた。
「あっ、魔法使いのお兄ちゃん!」
「こんにちは、マーヤちゃん」
イリスはしゃがみ込んで、よしよしとその子どもを撫でた。マーヤは「きゃーっ」と声をあげて喜んでいる。
マーヤと触れあっているイリスを見て、モアはなんとなくきゅんとしてしまった。優しいんだな、とか、お兄さんなんだ、とか、そんな不思議な気持ち。
「あれ……?」
マーヤはモアに気付くと、不思議そうに目をまるまると輝かせた。てとてととモアに近づいて、モアの脚にタッチする。
「妖精さん?」
「えっ……? モアです」
「妖精さん!」
「モアです」
「妖精さんは、イリスお兄ちゃんのカノジョ?」
「か、カノ、ジョ?」
モアはマーヤが言っていることをひとつも理解できず、ちらりとイリスを見つめる。イリスは困ったような顔をしていた。
「おませさんだね、マーヤちゃんは」
「お兄ちゃん、妖精さんはカノジョ?」
「ふふ、どうかな」
「えーっ、カノジョなんだー!」
モアは二人のやりとりがよくわからず、頭のなかがハテナでいっぱいだった。
そして、子どもはもう一人。
「こんにちは」と笑顔でやってきた、エドガーの妻・カリーナ。カリーナが赤子を抱いていたのである。
モアはイリスの背中に隠れながら(赤ちゃんだ、赤ちゃん……!)と半ば興奮気味。じっと凝視していたからか、カリーナに「どうぞ、構ってあげてください」と言われてしまった。モアは恥ずかしくなって顔を紅くしながらも、そろそろとカリーナと赤子に近づいてゆく。
構うといっても、どうすればよいのだろう。助けを求めるようにイリスを見つめれば「撫でてあげるとか」と言われたので、そっと赤子の名前に手を伸ばす。ちょん、と指先を近づけてみれば、はしっと指を掴まれてしまった。
「ひゃ」
モアが驚いているのもよそに、赤子がきゃっきゃっと笑う。
「リーサはあなたのこと、好きみたいね」
「リーサ……」
「この子の名前です。女の子なんですよ」
「……リーサ、ちゃん」
指を掴まれて身動きがとれず、モアは固まるばかり。
それでもリーサを見ていると心が和らぐような気がして、リーサから目を離せない。
「ふふ。リーサに構ってくれてありがとう。食事にしましょうか」
モアとイリスが訪れたのは、街中にある一軒家。以前、お願い事を叶えてあげた人の家らしい。そのときは「子どもがなくしてしまったおもちゃを見つけて欲しい」といった願い事だったとか。しばらく経って、今、その家から手紙が来たのだ。「お礼がしたいから、ぜひ家に遊びに来てください」と。
モアは誰かの家に行くのは初めてだったので、ドキドキしながらイリスに着いていった。粗相がないように……と頭のなかでぶつぶつと唱えていたせいか、イリスに「緊張しすぎだよ」と笑われたが。
その家の扉を開けると、男性が「待っていました」と笑顔で迎えてくれた。男性の名は、エドガー。この家の主だ。
「こんにちは、イリスさん。……と、」
「モアです。俺の助手の」
「そうでしたか! どうぞどうぞ」
さりげなく助手と紹介されてしまった……とモアはちょっぴり不服。いつのまにか助手という役割に落ち着いてしまっている。
リビングに通されて、モアはぱちくり目を瞬かせた。そこには、おもちゃで遊んでいる子どもがいたのだ。子どもと接する機会などほとんどなかったモアは、子どもを見て呆気にとられてしまう。
子どもは二人に気付くと、とたとたと駆け寄ってきた。
「あっ、魔法使いのお兄ちゃん!」
「こんにちは、マーヤちゃん」
イリスはしゃがみ込んで、よしよしとその子どもを撫でた。マーヤは「きゃーっ」と声をあげて喜んでいる。
マーヤと触れあっているイリスを見て、モアはなんとなくきゅんとしてしまった。優しいんだな、とか、お兄さんなんだ、とか、そんな不思議な気持ち。
「あれ……?」
マーヤはモアに気付くと、不思議そうに目をまるまると輝かせた。てとてととモアに近づいて、モアの脚にタッチする。
「妖精さん?」
「えっ……? モアです」
「妖精さん!」
「モアです」
「妖精さんは、イリスお兄ちゃんのカノジョ?」
「か、カノ、ジョ?」
モアはマーヤが言っていることをひとつも理解できず、ちらりとイリスを見つめる。イリスは困ったような顔をしていた。
「おませさんだね、マーヤちゃんは」
「お兄ちゃん、妖精さんはカノジョ?」
「ふふ、どうかな」
「えーっ、カノジョなんだー!」
モアは二人のやりとりがよくわからず、頭のなかがハテナでいっぱいだった。
そして、子どもはもう一人。
「こんにちは」と笑顔でやってきた、エドガーの妻・カリーナ。カリーナが赤子を抱いていたのである。
モアはイリスの背中に隠れながら(赤ちゃんだ、赤ちゃん……!)と半ば興奮気味。じっと凝視していたからか、カリーナに「どうぞ、構ってあげてください」と言われてしまった。モアは恥ずかしくなって顔を紅くしながらも、そろそろとカリーナと赤子に近づいてゆく。
構うといっても、どうすればよいのだろう。助けを求めるようにイリスを見つめれば「撫でてあげるとか」と言われたので、そっと赤子の名前に手を伸ばす。ちょん、と指先を近づけてみれば、はしっと指を掴まれてしまった。
「ひゃ」
モアが驚いているのもよそに、赤子がきゃっきゃっと笑う。
「リーサはあなたのこと、好きみたいね」
「リーサ……」
「この子の名前です。女の子なんですよ」
「……リーサ、ちゃん」
指を掴まれて身動きがとれず、モアは固まるばかり。
それでもリーサを見ていると心が和らぐような気がして、リーサから目を離せない。
「ふふ。リーサに構ってくれてありがとう。食事にしましょうか」
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