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第六章:雨と虹
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ぶる、と身体が震えた。
外にはさあさあと雨が降っている。本日、少し肌寒い。
モアは自らの身体を抱きしめるようにして、ソファに座り込んだ。
はあ、寒い。
昔は、寒い日が苦手だった。常に裸でいるような生活をしていたから、寒い日はとんでもなく寒い。冷たい身体に生ぬるい肉体が触れて、気持ち悪かった。
けれども、今は――そんなに苦手じゃない。温かい服を着せてもらえるし、なにより、イリスの隣は温かい。
「少し冷えるね。モア。これ、着たら?」
「……ありがとうございます」
イリスはもこもことしたカーディガンを持ってきてくれた。モアは素直に受け取って、カーディガンに袖を通す。ざっくり編みのカーディガンで、着心地が良い。
「……あの、イリス。なぜこの屋敷には女性ものの服があるのでしょうか。イリスしか住んでいないのに……」
「ああ。昔、俺には妹がいたんだよ。妹もこの屋敷によく来たから、妹の服がここに置いてあるんだ」
「では、この服はイリスの妹さんの……」
「そう。きみは妹と背丈が近いから、丁度よかった」
イリスはふたつマグカップを持って、モアの隣に座る。「はい」と言って、ひとつマグカップをモアに渡した。ふわっと甘い香りが立ちのぼる。ココアだ。
ひとくち、口に含めばしんと舌に染みこむようにカカオの味が広がる。
おいしい。
イリスの隣で、おいしいココアを飲んで。――やさしい時間だなと思う。
「――ッ」
モアがくつろいでいると、イリスが息を詰まらせるようにしてかがみ込んだ。モアはマグカップを置いて、あわてて彼の顔を覗きこむ。
「イリスッ……大丈夫ですか、イリス……!」
「ああ、いや……心配ないよ。古傷が痛むだけ」
「古傷……」
「雨の日は、少し痛むんだ。ゆっくりしていれば収まるから。心配しないで。モア」
そんなにも深い傷を負ったことがあるのだろうか。古傷というくらいだからもう傷は塞がっているのだろう。しかしそれでも、心配でたまらない。
モアが悲しそうな顔をしたからだろうか。イリスは取り繕ったように笑った。
まだまだ、イリスのことは知らないことばかり。もっと、彼のことを知っていきたいのに。なぜだか彼との間には壁を感じてしまって。モアは少し、辛くなった。
外にはさあさあと雨が降っている。本日、少し肌寒い。
モアは自らの身体を抱きしめるようにして、ソファに座り込んだ。
はあ、寒い。
昔は、寒い日が苦手だった。常に裸でいるような生活をしていたから、寒い日はとんでもなく寒い。冷たい身体に生ぬるい肉体が触れて、気持ち悪かった。
けれども、今は――そんなに苦手じゃない。温かい服を着せてもらえるし、なにより、イリスの隣は温かい。
「少し冷えるね。モア。これ、着たら?」
「……ありがとうございます」
イリスはもこもことしたカーディガンを持ってきてくれた。モアは素直に受け取って、カーディガンに袖を通す。ざっくり編みのカーディガンで、着心地が良い。
「……あの、イリス。なぜこの屋敷には女性ものの服があるのでしょうか。イリスしか住んでいないのに……」
「ああ。昔、俺には妹がいたんだよ。妹もこの屋敷によく来たから、妹の服がここに置いてあるんだ」
「では、この服はイリスの妹さんの……」
「そう。きみは妹と背丈が近いから、丁度よかった」
イリスはふたつマグカップを持って、モアの隣に座る。「はい」と言って、ひとつマグカップをモアに渡した。ふわっと甘い香りが立ちのぼる。ココアだ。
ひとくち、口に含めばしんと舌に染みこむようにカカオの味が広がる。
おいしい。
イリスの隣で、おいしいココアを飲んで。――やさしい時間だなと思う。
「――ッ」
モアがくつろいでいると、イリスが息を詰まらせるようにしてかがみ込んだ。モアはマグカップを置いて、あわてて彼の顔を覗きこむ。
「イリスッ……大丈夫ですか、イリス……!」
「ああ、いや……心配ないよ。古傷が痛むだけ」
「古傷……」
「雨の日は、少し痛むんだ。ゆっくりしていれば収まるから。心配しないで。モア」
そんなにも深い傷を負ったことがあるのだろうか。古傷というくらいだからもう傷は塞がっているのだろう。しかしそれでも、心配でたまらない。
モアが悲しそうな顔をしたからだろうか。イリスは取り繕ったように笑った。
まだまだ、イリスのことは知らないことばかり。もっと、彼のことを知っていきたいのに。なぜだか彼との間には壁を感じてしまって。モアは少し、辛くなった。
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