すみっこ屋敷の魔法使い

うめこ

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第八章:星が降る夜に、祈りを

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 街の市場は、いつも賑やかだ。

 モアも何度か市場を訪れているので、モアの顔を覚えてくれている商人もいる。名前を呼ばれるとつい寄り道してしまって、買わなくていいものも買いそうになることもしばしば。


「今日はロヒケイットを作ってみようか」

「ロヒケイット……」

「サーモンを使ったスープのことだよ」


 へえ、とモアは頷く。

 イリスには色んな料理を教えてもらっている。モアはまだ料理が得意ではないが、彼と一緒にする料理は楽しかった。新しい料理を知るたびに、彼との思い出も増えるようで嬉しい。

 八百屋に顔を出してみると、店主が「おや」と笑う。


「いらっしゃい。今日はとても繁盛していてね。おまえさんたちも、パーティを開くのかい」

「パーティ?」

「ほらあ、今日は“星降りの夜”だろう? みんな浮かれているのさ」


 この街に来たばかりのモアは、“星降りの夜”を知らなかった。イリスに尋ねてみれば、イリスも「聞いたことがあるようなないような……」と曖昧な回答。イリスもそこまで街の催しに詳しくはない。

 けれども、“星降りの夜”。なんだかとても素敵な響き。


「あの、星降りの夜ってなんですか?」


 モアは興味があって尋ねてみる。


「その名のとおり、今日は星が降る夜なのさ。夜の……そうだね、丁度日が変わるくらいの時間。流星群が降り注ぐ。流星群に祈りを捧げると願いが叶うと言われていて、みんな夜に祈りを捧げるんだよ」

「祈り……」


 お願いを叶える、といえば。すみっこ屋敷も同じだ。お願いごとを手紙に書いて送ると、すみっこ屋敷に届く。そして、すみっこ屋敷の魔法使いが願いを叶えてくれる。

 すみっこ屋敷に手紙を書いたときの自分を思い出して、モアは不思議な気分になった。あのときの自分は、お願い事すらもなかった。けれども今――お願いごとがたくさんある。イリスともっと一緒にいたい。イリスと新しいものを知りたい。もっと、ずっと、お願いごとがたくさん。


「イリス……私も、今日……星降りの夜、見たいです」


 イリスはふふっと微笑んで、モアの頭を撫でる。

 
「うん。じゃあ、一緒に見ようね。モア」

「はい」


 モアがきゅ、と笑う。

 そうすれば、イリスが嬉しそうに目を細めた。

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