すみっこ屋敷の魔法使い

うめこ

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第八章:星が降る夜に、祈りを

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 市場で食材を買って、屋敷へ戻る。

 まだ夕食を作るまで時間があったので、モアとイリスでティータイムを満喫していると、ゴンゴンとドアが鳴った。「私がでます」とモアが玄関まで行けば、ぎ、とドアが開いて長身の男性が現れる。


「――おや。失礼、レディ。ベールヴァルド中尉はいるかね」

「べ、ベールヴァルド……中尉……?」


 聞き慣れないイリスの呼び名にモアが困惑していると、モアの後ろからぬっとイリスが顔を出す。


「イングヴェ大佐。私はもう中尉ではありませんが」

「はは、失礼。つい、言い慣れていたものでな」


 モアを挟んで、イリスと男――イングヴェが挨拶をかわす。

 イリスの声色には、ささやかに怒気がこもっていた。イリスはドアを閉めようとドアをぐぐぐぐ……と引いて締めようとしており、対してイングヴェはドアを開けようとぎぎぎぎ……とドアを引っ張る。二人の攻防に挟まれて、モアは固まるしかない。


「突然なんですか、大佐。今日はめでたい日だというのに、貴方のせいで辛気くさい空気になるじゃないですか」

「なにも突然ではないだろう。この間、通知を送ったはずだが」

「通知? ああ、間違えて燃やした手紙のことですかね」

「……。ところで、こちらのレディが居心地悪そうにしている。諦めて、私をなかにいれなさい」


 イリスがチッと小さく舌打ちを打つ。イリスが舌打ちを打ったところを初めてみたモアは仰天だ。

 イリスはモアの肩を抱くようにして後退して、渋々イングヴェを屋敷のなかへ入れる。


「イールヴァルド中尉。私の要件はわかっているね」


 モアがキッチンで紅茶を入れる。あのようなイリスは初めて見たので、落ち着かない。まだまだ、彼について知らないことはたくさんだ。


「どうせ、サンプル提供のお話でしょう。もう、私の手元にアレはありませんよ。屋敷の火災で全部燃えましたから」


 モアが恐る恐るイングヴェに紅茶を差し出せば、イングヴェはニコリと笑ってモアに「ありがとう、レディ」と言った。その様子を、イリスが怪訝に見つめている。


「サンプルならあるだろう、ここに」


 イングヴェがジロリとイリスを見つめた。

 イリスは呆れた様子で、はあ、と息を吐く。そして、モアに「部屋に戻っていてくれるかい」と優しく声をかけた。


「中尉。そちらのレディは?」

「貴方には関係ありません」

「フ……いや。ずいぶん、中尉も変わられたものだと思ってな。あの男がここまで柔和に笑うなど」

「だから、貴方には関係ないでしょう」


 イリスはイライラとした様子で、腕を組んだ。モアはどうすればよいかわからずおろおろとしていたが、イリスが「またあとでね」と笑ったので、そろそろとその場を退散したのだった。

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