すみっこ屋敷の魔法使い

うめこ

文字の大きさ
56 / 66
第八章:星が降る夜に、祈りを

5

しおりを挟む

 しばらく経つとイングヴェが帰ったようで、イリスがモアの部屋にやってきて「もう大丈夫だよ」と声をかけてくれた。

 モアは、イリスの様子がおかしかったのが気になって仕方ない。


「モア、ごめんね。せっかく楽しい一日になるはずだったのに」

「い、いえ。その、さっきの方は……」

「昔の上官といったところかな」


 イリスは軍人だった、と以前聞いたことがある。

 モアが釈然としない様子でいたからか、イリスは困ったように笑った。


「えーっとね。なんといえばいいのか……。俺の……ベールヴァルド家は、もともと兵器の研究をしていて。だから、俺が退役したあとも、こうして軍の人が俺のところに来るんだ。兵器の権利をよこせとか、設計書を渡せとか」
 
「……大変なのですね」

「もう、戦争なんてしなければいいのにね」


 イリスの疲れたような表情に、モアは心配になった。

 イリスは戦争の話をするときに、いつも悲しそうな顔をする。彼にとって、戦争は辛いものなのだろう。実際に戦争に赴いたことのないモアにとっては、想像を絶するほどに。


「戦争は恐ろしいです。みんな、傷ついてしまうのですよね」

「そう。身体も心もね」


 もしも、イリスが戦争に巻き込まれてしまったら……そう考えるとひどく恐ろしい。遠い地で行われようと、自分のように、誰かを想う人が苦しむのだ。

 モアがイリスを見つめて悲しそうな顔をしたからか、イリスがぽんぽんとモアの頭を撫でた。


「俺もね、もう誰も失いたくないんだ」

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...