137 / 298
第九章:青い鳥は鳥籠から飛び立った
8
―――――
―――
――……
鍵は開いたわ
私は空を飛んで私の歌を歌うのよ
貴方の声が聞こえたら
私は貴方に空の香りを届けにいくわ
「俺はぶっちゃけ悪趣味だと思うけどね」
「どうして?」
「このオペラは女が演じる演目だろ。確かにアイツはあの格好も似合っているけどよ、それが余計に……不気味で見ちゃいけないものを見ている気分になる」
まだ年端もいかない少年がくるくると優美な衣装を着て踊っている。あまりに美しく、儚く、そしておぞましいそのステージに観客は熱狂する。自分の性と意思を奪われた虚ろげな瞳が禁忌を思わせ、狂ったようにその踊りに魅入られるのだ。
「たしかに、あの子は醜い」
「いや、俺は醜いとは思わないけど……」
「もしもあの子がこの踊りに魂を賭けているのなら、きっと私は美しいと思うのでしょう。でも、あの子は違う。自分のしていることがなんであるか理解していない。自分自身の存在に答えを見い出せていない」
青いリボンがひらひらと宙を踊る。華美な髪飾りは照明を受けてきらきらと輝いている。そんな光の粒が、まるで少年自身の残像のようだった。
「私はあの子をワイルディングの子とは認めない」
「……つーかそれ以前にアイツ水の天使じゃん。その時点でアイツは家紋に泥を塗っているんだよ」
少年の演舞に圧倒される観客達の後ろで小さな声で話しているのは、少年の兄弟であった。少年を見つめる目付きは冷たく、恐らくは家族を見る目とは言い難い。
「つーか。姉さん、知ってる? アイツ演技が終わったあとにさ、いつも……」
「知りません。知りたくもない」
「やっぱ知ってるんでしょ。薄気味悪いよな、あの年で体で客とってるとか。俺知んねーけどさ、あの年で勃つもんなのかね」
「……やめなさい、レイ。こんな場所で下品です」
じろりと弟を睨み付ける女。髪を一つに結い、剣士を思わせる格好をし、腕組みをしている。
彼女の名はアザレアといった。ワイルディング家の長女であり、歴代最高の剣士と謳われている。息を飲むような美しい顔立ちも、戦うことに生きた彼女にとってはなんの意味もなさなかった。化粧っ気はなく、着飾ることもなく。
しかし、彼女をみた誰もが彼女を美しいという。
「もしそれにあの子が喜びを見い出せているなら私はなにも思わない」
「は? 姉さんが? あのクソビッチをみてなんにも思わないって? 嘘付け! 堅物のくせに!」
「あの子がいいと思ったならそれでいいの。自分が自分を正しいと自信を持って言えるなら、それは例えどんなことだって……美しいはずだから」
彼女は瞳が美しいと。強い意思を抱いたその目が、眩いのだと。
―――
――……
鍵は開いたわ
私は空を飛んで私の歌を歌うのよ
貴方の声が聞こえたら
私は貴方に空の香りを届けにいくわ
「俺はぶっちゃけ悪趣味だと思うけどね」
「どうして?」
「このオペラは女が演じる演目だろ。確かにアイツはあの格好も似合っているけどよ、それが余計に……不気味で見ちゃいけないものを見ている気分になる」
まだ年端もいかない少年がくるくると優美な衣装を着て踊っている。あまりに美しく、儚く、そしておぞましいそのステージに観客は熱狂する。自分の性と意思を奪われた虚ろげな瞳が禁忌を思わせ、狂ったようにその踊りに魅入られるのだ。
「たしかに、あの子は醜い」
「いや、俺は醜いとは思わないけど……」
「もしもあの子がこの踊りに魂を賭けているのなら、きっと私は美しいと思うのでしょう。でも、あの子は違う。自分のしていることがなんであるか理解していない。自分自身の存在に答えを見い出せていない」
青いリボンがひらひらと宙を踊る。華美な髪飾りは照明を受けてきらきらと輝いている。そんな光の粒が、まるで少年自身の残像のようだった。
「私はあの子をワイルディングの子とは認めない」
「……つーかそれ以前にアイツ水の天使じゃん。その時点でアイツは家紋に泥を塗っているんだよ」
少年の演舞に圧倒される観客達の後ろで小さな声で話しているのは、少年の兄弟であった。少年を見つめる目付きは冷たく、恐らくは家族を見る目とは言い難い。
「つーか。姉さん、知ってる? アイツ演技が終わったあとにさ、いつも……」
「知りません。知りたくもない」
「やっぱ知ってるんでしょ。薄気味悪いよな、あの年で体で客とってるとか。俺知んねーけどさ、あの年で勃つもんなのかね」
「……やめなさい、レイ。こんな場所で下品です」
じろりと弟を睨み付ける女。髪を一つに結い、剣士を思わせる格好をし、腕組みをしている。
彼女の名はアザレアといった。ワイルディング家の長女であり、歴代最高の剣士と謳われている。息を飲むような美しい顔立ちも、戦うことに生きた彼女にとってはなんの意味もなさなかった。化粧っ気はなく、着飾ることもなく。
しかし、彼女をみた誰もが彼女を美しいという。
「もしそれにあの子が喜びを見い出せているなら私はなにも思わない」
「は? 姉さんが? あのクソビッチをみてなんにも思わないって? 嘘付け! 堅物のくせに!」
「あの子がいいと思ったならそれでいいの。自分が自分を正しいと自信を持って言えるなら、それは例えどんなことだって……美しいはずだから」
彼女は瞳が美しいと。強い意思を抱いたその目が、眩いのだと。
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
僕に双子の義兄が出来まして
サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。
そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。
ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。
…仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。
え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。