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第九章:青い鳥は鳥籠から飛び立った
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ステージが終わったあと、アザレアはレイと別れ、控え室の方へ来ていた。おそらくそこにいるだろう父・アンドレアと話をするためである。
「失礼します……」
扉を開けた瞬間、なぜかぞわりと肌が粟立った。中から漏れ出た空気が自分の肌を撫でた時、言いようのない気持ち悪さを覚えたのである。微かに聞こえてくる少年の切なげな声。声変わりもしていない幼い高い声が、苦しみと快楽に揺さぶられるような……おぞましい声だ。
「ああ、いいぞ、いい。最高だ、この『青い鳥』は……!」
「んっ、んんっ、ぁんっ」
欲望にまみれた脂ぎった声に、アザレアは吐き気を覚えた。半端に開けてしまったこの扉をどうしようかと少し悩んだとき、中から朗々とした声が自分の名を呼ぶ。
「どうしたアザレア。入ってきなさい」
「……ッ、すみません、お取り込み中に」
意を決して扉を開ける。うっかり言葉にイヤミを混ぜてしまったのは仕方ない。そうでもしなければ体中に充満した不快感が爆発してしまいそうだったからだ。
しかし、その光景を見た瞬間、そんなちょっと吐いたイヤミなど全く無に返すような凄まじい嫌悪感が体にまとわりついた。
「ふぁっ、あぁんっ、ん、くぅ……!」
いつもどおり上品な服装をし、精悍な顔つきをしたアンドレアが足を組んで椅子に座っている。そしてその前で、太った男が寝っころがり、自分の上に少年を乗せて体を揺らしていた。その男に対してなんて少年の身体は小さなことか。揺さぶられるたびに大きく揺れ、髪がぱさぱさと舞い、ガクガクと責め立てられる苦しみに途切れ途切れの喘ぎ声を発しているのだ。今にも少年は壊れてしまいそうだった。それもそうだ、その年の人間というものは、まだこんな行為ができるほど成熟していない。
「そうだ、私が頼んでいたんだったね、アザレア。レッドフォード家の報告、いただこうか」
「……え、ええ。こちらです、お父様」
アザレアはひきつる口元を抑えてなんとか手に持っていた資料をアンドレアに手渡す。しかしアンドレアは何食わぬ顔で資料を受け取りパラパラとそれをめくっては、あまつさえにっこりと笑ってアザレアに言うのだ。
「ご苦労。アザレア、これからもよろしく頼むよ」
「……はい」
この異常な光景を父は何も思わないのだろうか、というアザレアの思案は全く無意味なものであった。太った男がぐったりとした少年を抱き寄せると、アンドレアに呼びかける。
「ええ、ええ、ワイルディングさん。次もコレをお願いします。次の主役もコレで」
「そうですか。嬉しい限りです」
「ああ、では、もう少しよろしいですかな。ふふ、コレについている穴はとてもいい具合だ」
「ひぃッ、うぅっ、ひゃん――っ」
アザレアは絶句した。始めこの部屋に入った時はすぐに目をそらしてしまったから気付かなかったが、この太った男、このオペラの主催のブラッドリーだ。そう、アンドレアが少年に身体を使わせてこうしてオペラの主役の座をもらっていたのである。
「美しい、なんて美しいんだ」
「ああぁッ、あぅッ、んぁ!」
「そうでしょう。ワイルディング家最高の……『青い鳥』です」
ステージで着ていた衣装を身にまとったまま、少年は揺さぶられる。青いひらひらとしたレースが舞うと、その通り道にはブルーのきらきらとした残像が残る。
美しかった。気持ち悪いくらいに、美しかった。
ぐらりと視界が歪んでいく。腸が煮えくり返るような不快感、嫌悪感。血の気の引くような嘔吐感。揺れるブルーがぶれて、本当に綺麗だった。キラキラと宝石のようにそれはぼやける視界の中、煌めいている。
「し、失礼します……!」
これ以上ここにいたらおかしくなってしまう。そんな言いようのない危機感を覚え、アザレアは逃げるようにその部屋をでたのであった。
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