12 / 298
第二章:安寧決壊
3(3)
その瞳を持つ彼から発せられるには、あまりにも違和感がある言葉。しかし、ハルの頭に浮かんだ言葉は一つ。その違和感に対する罵倒でも批判でも嫌悪でもなく。
「……わかった」
ラズワードに引きずられるように、承諾の言葉を発することしかできなかった。
「それでは、契約は成立ということで、よろしいですか?」
ノワールがすい、とラズワードの脇に立った。ハルはノワールを完全に意識の外に追いやっていたため、びくりと反応してしまう。
「……はい、彼を……買い、ます」
「ありがとうございます」
恭しくノワールは頭を下げる。ハルは彼のその仕草にすらもイラッとしてしまった。
(こいつ本当にラズワードのこと商品としか思っていないんだな)
きっと、こんな奴に調教なんてされたから、ラズワードはおかしな考えを持つようになってしまったんだ。自ら奴隷にして欲しいなどと言うくらいに。
次々と浮かぶ憤怒に近い感情。不快だ。余計な感情を抱くことは不快なはずなのに、とまらない。
「じゃあ、俺、こいつ買うんで。もういいでしょう。会計は外ですか?」
これ以上ここにいたら、どうにかなってしまう。溢れる感情をどう処理したらよいのかわからない。焦りに近いものを感じたハルは、ラズワードの手を掴み、早足で牢を出ようとした。
「ああ、待ってください。送っていきますよ」
「……結構です」
「そうですか? では先ほどのスタッフに会計をしてもらってくださいね」
「……はい、今日はありがとうございました」
何かイヤミでも吐き捨てていこうかと思ったが、流石にそれは理性で押さえつけた。ひきつる口元をどうにか笑顔に変えて、ノワールを顧みる。
「……!」
とその時、ハルは視界にはいったラズワードを見て、息を飲んだ。
ラズワードが、何か言いたげにノワールのことを見ていたのだ。じっとみつめるわけでもなく、チラリと遠慮しがちに。その目に映る感情を、ハルは読み取ることができなかった。
憎悪?いや違う。解放される喜び?いや違う。
わからない。
しかし、なぜかそんな彼を見ていると、チリ、と何かが焦げ付くような錯覚を覚える。
「ラズワード」
「……っ」
ノワールが、彼の名を呼ぶ。そうすると、ラズワードがピクリと反応したのが、掴んだ手から伝わってくる。
ラズワードは今度はしっかりとノワールを見た。その唇は震え、瞳は揺れている。ノワールの言葉を待っている。
「……ハル様に、精一杯尽くすんだよ」
「……はい……」
ノワールの言葉に応えた声は、かすれていた。きゅ、と眉をひそめ、唇を噛んでいる。
どういうことだ。これじゃあまるで……
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
僕に双子の義兄が出来まして
サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。
そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。
ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。
…仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。
え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。