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第四章:夢の漣
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「失礼します」
しっかり身なりを整えて、ラズワードは書斎へ向かった。中に入ると、そこは乱雑に置かれた資料に埋もれている机にハルがついている。
「ああ……ラズワード……おはよう」
「おはようございます」
ハルはラズワードの姿を見るなり、軽く目をそらした。山になっている紙束に手を伸ばし、がさがさと漁り始める。どこか意図的にラズワードを見ないようにしているようにも見えるが、ラズワードはそんなことはどうでもよかった。
「これ……今日、俺の代わりに討伐してきて欲しい悪魔なんだけど」
「はい」
ラズワードは差し出された紙を受け取ろうとハルへ近づく。そうすれば、一瞬ハルは顔を上げてラズワードを見たが、またすぐに目をそらす。
「どうかなさいましたか」
ハルが自分のことをどう思っていようが興味はなかったが、流石に何度もチラチラと見られたのでは気になる。
「……え? いや、別に……」
「そうですか? 先ほどから様子がおかしいですが」
「……そうか?」
ハルは今度はラズワードから目を逸らさずにじっと見た。おそらくハルはやましいことなどない、とラズワードに思わせるようにそうしたのだろうが、それがかえって怪しい。ラズワードがバッチリと目を合わせてやれば、ぎょっとしたように、瞳が揺れるのだ。
「……ラズワード……あのさ」
「はい」
目を逸らしたまま、ハルはラズワードに言う。その声はどこか揺れていた。
「……昨日、どうだったの?」
「昨日?」
「いや……兄さん、何も言っていなかったからさ」
「エリス様のことですか」
ラズワードは軽く昨日のことを思い返した。
激しく求めてきたエリス。こちらが何度も絶頂に達して動けなくなっても、それでも体の奥を突いてきた。最後にはラズワードはただ、嬌声を上げることしかできなかった。ただの性器を突っ込む穴と化していた。
「少し、エリス様にとっては不満が残ったかもしれません」
「……はあ、なんで」
「本来奴隷は性『奉仕』をする側なのに、昨日は最終的にエリス様が俺に快楽を与え続けていました。……あれでは俺は自分の役割を果たせたとは言えません。……申し訳ありません。ハル様の奴隷である俺がこんな失態をしてしまったら、貴方の評価までさがってしまうかもしれない……」
「……ああ、うん」
「ハル様?」
ハルはラズワードの話の途中で机に顔を伏せてしまった。ラズワードはハルが何を考えているのかが全く読めなくて、焦ってしまう。
「あ、あの……本当に申し訳ありませんでした……」
「いや、別に怒ってないよ……」
「じゃあ、何か別なことで俺に……」
「違う……ラズワードは何も悪くない……気にしないでくれ……」
ハルはのそ、と顔を上げた。その顔はどことなく辛そうで、ラズワードは一体ハルがどうしたのだろうと考えてみたが、心当たりが全くない。どうするべきか、と悩んでいるとハルは資料をぶっきらぼうに差し出してくる。
「……今日の悪魔は、レベルA。昨日の戦いぶりを見て、ラズワードはある程度強い相手でも大丈夫だと思ったから」
「あ、はい……ありがとうございます」
ラズワードは資料を受け取ると、それに目を通す。粗いものではあるが、写真が添付されていた。
「……これは、イェーガーですか?」
「ああ、そうだ。奴らは天使を狩るためにいるから……魔獣よりも手こずると思う。気をつけろ」
イェーガーとは、天使におけるハンターと同じようなものである。魔獣と違って人型をなしており、しっかりとした思考能力も持っている。その強さも魔獣のレベル1から5といったランク付けではなく、アルファベットのDからSとなっていて、Sに近いほど強い。つまり今回のレベルAは相当強い悪魔であるということだ。
しっかり身なりを整えて、ラズワードは書斎へ向かった。中に入ると、そこは乱雑に置かれた資料に埋もれている机にハルがついている。
「ああ……ラズワード……おはよう」
「おはようございます」
ハルはラズワードの姿を見るなり、軽く目をそらした。山になっている紙束に手を伸ばし、がさがさと漁り始める。どこか意図的にラズワードを見ないようにしているようにも見えるが、ラズワードはそんなことはどうでもよかった。
「これ……今日、俺の代わりに討伐してきて欲しい悪魔なんだけど」
「はい」
ラズワードは差し出された紙を受け取ろうとハルへ近づく。そうすれば、一瞬ハルは顔を上げてラズワードを見たが、またすぐに目をそらす。
「どうかなさいましたか」
ハルが自分のことをどう思っていようが興味はなかったが、流石に何度もチラチラと見られたのでは気になる。
「……え? いや、別に……」
「そうですか? 先ほどから様子がおかしいですが」
「……そうか?」
ハルは今度はラズワードから目を逸らさずにじっと見た。おそらくハルはやましいことなどない、とラズワードに思わせるようにそうしたのだろうが、それがかえって怪しい。ラズワードがバッチリと目を合わせてやれば、ぎょっとしたように、瞳が揺れるのだ。
「……ラズワード……あのさ」
「はい」
目を逸らしたまま、ハルはラズワードに言う。その声はどこか揺れていた。
「……昨日、どうだったの?」
「昨日?」
「いや……兄さん、何も言っていなかったからさ」
「エリス様のことですか」
ラズワードは軽く昨日のことを思い返した。
激しく求めてきたエリス。こちらが何度も絶頂に達して動けなくなっても、それでも体の奥を突いてきた。最後にはラズワードはただ、嬌声を上げることしかできなかった。ただの性器を突っ込む穴と化していた。
「少し、エリス様にとっては不満が残ったかもしれません」
「……はあ、なんで」
「本来奴隷は性『奉仕』をする側なのに、昨日は最終的にエリス様が俺に快楽を与え続けていました。……あれでは俺は自分の役割を果たせたとは言えません。……申し訳ありません。ハル様の奴隷である俺がこんな失態をしてしまったら、貴方の評価までさがってしまうかもしれない……」
「……ああ、うん」
「ハル様?」
ハルはラズワードの話の途中で机に顔を伏せてしまった。ラズワードはハルが何を考えているのかが全く読めなくて、焦ってしまう。
「あ、あの……本当に申し訳ありませんでした……」
「いや、別に怒ってないよ……」
「じゃあ、何か別なことで俺に……」
「違う……ラズワードは何も悪くない……気にしないでくれ……」
ハルはのそ、と顔を上げた。その顔はどことなく辛そうで、ラズワードは一体ハルがどうしたのだろうと考えてみたが、心当たりが全くない。どうするべきか、と悩んでいるとハルは資料をぶっきらぼうに差し出してくる。
「……今日の悪魔は、レベルA。昨日の戦いぶりを見て、ラズワードはある程度強い相手でも大丈夫だと思ったから」
「あ、はい……ありがとうございます」
ラズワードは資料を受け取ると、それに目を通す。粗いものではあるが、写真が添付されていた。
「……これは、イェーガーですか?」
「ああ、そうだ。奴らは天使を狩るためにいるから……魔獣よりも手こずると思う。気をつけろ」
イェーガーとは、天使におけるハンターと同じようなものである。魔獣と違って人型をなしており、しっかりとした思考能力も持っている。その強さも魔獣のレベル1から5といったランク付けではなく、アルファベットのDからSとなっていて、Sに近いほど強い。つまり今回のレベルAは相当強い悪魔であるということだ。
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