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第七章:おまえを許さない
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「『Schlaf』!」
「――!?」
どこからか、声が聞こえた。上のほうだ。
いや、そんなことよりもまずはグラエムの治癒が優先。ラズワードは急いでグラエムの解毒の作業に取り掛かる。
しかし。
「……な、……なんで」
解毒の魔術がまったく効かない。なんど頭の中で魔術式を唱えても、グラエムの容態がよくなる様子は一切ない。
間違っているのか? いや、そんなわけがない。解毒はそんなに難しい魔術ではない。
早くしなければグラエムが危険だ。ここは一旦解析することに戻ろうとラズワードは考える。急がば回れ、焦っても仕方がない。もう一度しっかり解析をして有効な魔術を使えばいい。
「……?」
解析を再びして、ラズワードの頭の中は疑問符でいっぱいになった。
先ほどグラエムの中にあった魔術式とは違う魔術式を感じる。たしかにグラエムの中には毒があったのに、今、グラエムの中にあるのは……
「……あ、グラエム!」
グラエムの中に流れる物質の正体を掴んだそのとき、グラエムはパタリと倒れ込んだ。しかし、ラズワードはそこまで焦ることはなかった。
もちろんグラエムは大切な友人。これが毒の作用によって気絶したというのならラズワードはパニックに陥っただろう。しかし、そうはならなかった。それは、グラエムの中に新たに流れていたのは、
「……睡眠薬の成分だね。びっくりしたかい、突然毒が睡眠薬に変わって」
「……っ」
睡眠作用のある成分だから。
答えを教えてくれたのは、先ほど聞こえてきた声と同じ声。ラズワードは今度こそ振り向いた。
「……おまえは……」
「はじめまして。ラズワード」
声の主は民家の屋根の上に座っていた。
真っ黒の紳士風の服を着ている、黒髪の男。目を引くような白い肌と、恐ろしく整った顔立ち。
何よりも特徴的なのは――紅い瞳。
「俺の名前はイヴ。君に一目惚れしちゃったものだから……ちょっとイジメにきたんだ」
イヴと名乗った男は僅かに唇の端を上げて笑う。しかしその瞳は冷ややかであった。どこまでも人を見下すような、恐ろしく冷たい目をしていた。
その瞳の色。紅の瞳。
それはラズワードと同じ「水の魔力」を持った、「悪魔」の証であった。悪魔であっても神族から受ける扱いは変わらず、水の魔力を持っていれば奴隷として施設に捕まる。つまり普通に考えればこのイヴという悪魔は奴隷であるはずだ。
しかし、それはたぶん違う。
この堂々とした態度。奴隷ならばまずありえない。ラズワードと同じように剣奴である可能性もないこともないが……それもおそらく違うだろう。剣奴であっても性奴隷の調教は受けなければいけない。あれを受けた人がこんなにも人を見下すような目をしていられるとは思えない。
もしかしたら、施設に免除金を払い続けているのか……
ラズワードがイヴについて色々と思案していると、イヴはにやりと笑う。
「どうしたの? そんなに俺のことを見つめて」
「……別に。……おまえ、何の用だ。さっき言ったこと……どういう意味だよ」
「え? 『一目惚れ』のほう? それとも『イジメる』ってほう? ……別に難しい意味じゃないさ。言葉の通りに意味を汲み取ってもらって構わない」
「……」
表情を変えることもなくそう言うイヴを、ラズワードは睨みつけた。
(言葉の通りに……?)
イヴはどう考えても馬鹿にしているとしか思えなかった。
「……ふざけたことを言うな。おまえの相手をしている時間はあまりないんだ」
「……嘘はついていないけどね。……何? 時間がないっていうのは……もしかして『夜明けに出没する悪魔』を狩らなくちゃいけないから?」
「……な」
「心配しなくてもいいよ。そんなに狩りたいのならばどうぞ。狩ってごらん」
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