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第七章:おまえを許さない
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イヴが目を細めた瞬間、バサバサ、と何かが羽ばたく音がした。ラズワードがハッと空を見上げると、そこには大きなコウモリのようなものが飛んでいる。それを目で追っていると、それはイヴの肩にとまった。
「……それ、まさか……」
「そう、レーメン。君はこれを探していたんでしょ?」
「……なんでそれが……」
「なんでって、レーメンは俺の契約獣だからだよ。ついでにいうと、パトローネもね」
「契約獣……!?」
契約獣というのは、人と魔術による契を交わした聖獣、または魔獣のことである。契約を交わすことで魔力を通して強いつながりをもつことができ、強い魔力をもっていれば契約獣を完全に服従することも可能だ。
「ラズワード……君の友達の体内にあった毒が睡眠薬に変わったのはなぜだろうね?」
「……おまえが、何かしたのか?」
「そうだよ。パトローネは神族からはランクDとされている……たしかに野生のパトローネはその程度の危険性しかないかもしれないけれど、誰かと契約したパトローネは恐ろしく危険とされているんだ」
ラズワードは倒れているグラエムを見やる。寝息を立てているところを見ると、体内への異常はこれといってなさそうだ。
「パトローネは契約者の能力に強く依存する。噛み付いた者へ契約者の魔力を流し込むことができるんだ。パトローネは契約者と魔力によってつながりを持っているから、それが可能になる」
「……じゃあ、毒も睡眠も、おまえが……」
「そう。俺の魔力をつかったものだ。俺が命令を与えれば、パトローネが俺の魔力をつかってその魔術を使ってくれる。結構便利だよ。俺がその場にいなくたって魔術を使えるんだから」
「……そう能力をペラペラと話して……何を考えている。弱点を教えているようなものだろ」
「そう? パトローネがどんな魔獣か知ったところで君にどうにかできるの?」
その口元に不愉快な笑みを絶やさないイヴを、ラズワードは睨みつける。そして、腰から短剣を抜いて、イヴに切っ先を向けた。
「パトローネが次々と魔術を切り替えたら、たしかに治療は難しい。……それなら操っている本人を殺せばいい……そうだろ?」
「あはは……やだなあ、怖い怖い。……無理だね。俺はレーメンとも契約しているし……それに」
バサバサ、と羽ばたくレーメンをラズワードが見上げた時、鋭い痛みが首筋にはしった。なんだ、と一瞬思ったが、すぐにその正体に気付く。そして気付いた瞬間、サッと血の気が引いていくのを感じた。
「……それに、パトローネは一匹だけじゃないんだよね」
「なっ……おまえ……」
「安心しなよ……殺さないから。さっきも言ったけど、俺は君に一目惚れしちゃってさ。ちょっとイジメたらすぐに解放してあげるから」
「……っ」
ガクン、と力が抜けていくのを感じた。噛み付く前にイヴはこのパトローネに命令を与えていたのだろう。何らかの魔術がラズワードの体内に作用していく。回復しようと思っても、レーメンが魔術無効化の超音波を出しているのだろうか。効果が現れる気配がない。立てなくなって、膝をついたラズワードの下にイヴが降りてきた。
「さて、どうしてほしい?」
「……何をするつもりだ」
体内にいるパトローネが出しているのは、麻痺の魔術だろうか。五感の感覚も鈍くなってきて、ひどく苦しい。地面に触れている部分が何も感じなくて、変な浮遊感がして気持ちが悪い。
ぐい、と顎を掴まれて上を向けさせられる。
「……なかなかいい表情だ。ひどく扇情的だね」
「……うる、さい……」
「うん、でもちょっと足りないかな。人が一番魅力的な表情っていうのは、苦痛を感じているときだと思うけど……それは、身体的なものよりも精神的なもののほうが、より美しいと思うから」
イヴはしゃがみこんで、ラズワードと目線を合わせる。
「『Lesen Sie』」
「……っ」
イヴがパトローネに何かしらの命令を発した途端、グラっと視界が歪むのを感じた。脳内に何かが入り込んでくるような不快感。おそらく違う命令をパトローネに出したのだから麻痺は解けているはずなのに、強烈な脳への束縛感によって、動くことができない。
「……それ、まさか……」
「そう、レーメン。君はこれを探していたんでしょ?」
「……なんでそれが……」
「なんでって、レーメンは俺の契約獣だからだよ。ついでにいうと、パトローネもね」
「契約獣……!?」
契約獣というのは、人と魔術による契を交わした聖獣、または魔獣のことである。契約を交わすことで魔力を通して強いつながりをもつことができ、強い魔力をもっていれば契約獣を完全に服従することも可能だ。
「ラズワード……君の友達の体内にあった毒が睡眠薬に変わったのはなぜだろうね?」
「……おまえが、何かしたのか?」
「そうだよ。パトローネは神族からはランクDとされている……たしかに野生のパトローネはその程度の危険性しかないかもしれないけれど、誰かと契約したパトローネは恐ろしく危険とされているんだ」
ラズワードは倒れているグラエムを見やる。寝息を立てているところを見ると、体内への異常はこれといってなさそうだ。
「パトローネは契約者の能力に強く依存する。噛み付いた者へ契約者の魔力を流し込むことができるんだ。パトローネは契約者と魔力によってつながりを持っているから、それが可能になる」
「……じゃあ、毒も睡眠も、おまえが……」
「そう。俺の魔力をつかったものだ。俺が命令を与えれば、パトローネが俺の魔力をつかってその魔術を使ってくれる。結構便利だよ。俺がその場にいなくたって魔術を使えるんだから」
「……そう能力をペラペラと話して……何を考えている。弱点を教えているようなものだろ」
「そう? パトローネがどんな魔獣か知ったところで君にどうにかできるの?」
その口元に不愉快な笑みを絶やさないイヴを、ラズワードは睨みつける。そして、腰から短剣を抜いて、イヴに切っ先を向けた。
「パトローネが次々と魔術を切り替えたら、たしかに治療は難しい。……それなら操っている本人を殺せばいい……そうだろ?」
「あはは……やだなあ、怖い怖い。……無理だね。俺はレーメンとも契約しているし……それに」
バサバサ、と羽ばたくレーメンをラズワードが見上げた時、鋭い痛みが首筋にはしった。なんだ、と一瞬思ったが、すぐにその正体に気付く。そして気付いた瞬間、サッと血の気が引いていくのを感じた。
「……それに、パトローネは一匹だけじゃないんだよね」
「なっ……おまえ……」
「安心しなよ……殺さないから。さっきも言ったけど、俺は君に一目惚れしちゃってさ。ちょっとイジメたらすぐに解放してあげるから」
「……っ」
ガクン、と力が抜けていくのを感じた。噛み付く前にイヴはこのパトローネに命令を与えていたのだろう。何らかの魔術がラズワードの体内に作用していく。回復しようと思っても、レーメンが魔術無効化の超音波を出しているのだろうか。効果が現れる気配がない。立てなくなって、膝をついたラズワードの下にイヴが降りてきた。
「さて、どうしてほしい?」
「……何をするつもりだ」
体内にいるパトローネが出しているのは、麻痺の魔術だろうか。五感の感覚も鈍くなってきて、ひどく苦しい。地面に触れている部分が何も感じなくて、変な浮遊感がして気持ちが悪い。
ぐい、と顎を掴まれて上を向けさせられる。
「……なかなかいい表情だ。ひどく扇情的だね」
「……うる、さい……」
「うん、でもちょっと足りないかな。人が一番魅力的な表情っていうのは、苦痛を感じているときだと思うけど……それは、身体的なものよりも精神的なもののほうが、より美しいと思うから」
イヴはしゃがみこんで、ラズワードと目線を合わせる。
「『Lesen Sie』」
「……っ」
イヴがパトローネに何かしらの命令を発した途端、グラっと視界が歪むのを感じた。脳内に何かが入り込んでくるような不快感。おそらく違う命令をパトローネに出したのだから麻痺は解けているはずなのに、強烈な脳への束縛感によって、動くことができない。
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