愛していると言ってくれ

春川信子

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SM小説家といっても、四六時中SMのことを考えているわけが無い。
猫も好きだし、料理もする。
女性を縛ったことも勿論ない。
オナニーとセックスは違う。
愛しい女を抱く時、軽く意地悪はするが、小説にあるようなアブノーマルな事なんてしない。
「あの。」
黒木の車を見て、蒼はすくんでいた。
「大丈夫。本当に俺は何もしない。」                 黒木には蒼の悲しい過去が少し分かった。
頭を撫でると、少し身体が強ばるのだ。
きっと、優しくよしよしと撫でてもらったことがない。
不憫でたまらなかった。
年上には敬語を使い、ただの作家の端くれのサインに、しっかりとお辞儀した。
こんな真面目な子が、なんで茨の道を歩まなければならない。
なんで、あんなに寂しそうな顔をさせんだよ、神様?
黒木は、自分まで泣きそうだった。
「車はいやか?」
「その。レイプされたりしたことあるから。俺美形だから!!笑えるだろ?」
必死に取り繕う姿に、つっーと涙が垂れた。
「ばか!!あほ!!」
小柄な蒼を抱きすくめていた。
「辛い時は辛いって言え!!笑うな!!怒るんだよ!!」
「なんで、泣くの?俺なんかに、」
「黙れよ。…蒼くんだから泣くんだよ。」
黒木は必死に泣くのを堪えるが、涙が止まらなかった。
「自分のこと、大事にしろ。ばか蒼!!」
「…分かんないよ。」
「こっち向け!」
細い顎を掴んで貪るようにキスをした。
舌が絡み、セックスに慣れた蒼は早くも声が出そうなくらい感じている。
「いき。いきできない。」
「あっ、ごめん。何もしないっていったのに。」
「頭、頭を撫でて…。いい子って、いい子っていって…。」
黒木の腕の中で蒼は泣いた。
優しく大きな手が頭を撫でてくれる。
離れようとすれば、抱き寄せられる。
「でも。でも。」
「いやか?お前、めちゃくちゃ感じてるのに?」
「ゲイじゃないんだろ?俺じゃ先生を気持ちよく出来ないよ。先生の、書く小説、好きなんだよ。ちゃんと愛があるから。…やっぱり、店戻る。ゲイになったら世間様厳しいぜ。アデュー。」
ズタボロの笑顔。
何がアデューだ。
黒木は、首根を引っ付かみ車に乗せた。





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