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始まりの死
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人間が神になる。
こんなことは現在ではありえないが昔は神と祀り上げられた人間がいた。神と崇められたのは生前に偉業を残した者や恨みを残してこの世を去った者の祟りを恐れて鎮めるために祀ったなどである
例を挙げるなら、徳川家康は日光東照宮に祀られており、東日本から日本を照らす神だとされている
また、逆賊として討伐された平将門は将門の首を埋めた首塚を全く管理しなかった結果、天変地異や疫病が流行した
これを将門の祟りだと噂され祟りを鎮めるために神として祀られるようになった
神になる、これは生前の行いから人々から祀られなるものである。だが、祀られたわけでもなく神になった人間がいた
これは弱冠16歳の青年が神になる物語
「祐伸、高校生から一人暮らし出来る?」
俺は今、親から高校生になったら一人暮らししてねと告げられた。一人暮らしというのはもっと歳を取ってからするものだと思っていたが、こんなに早く訪れたことに驚いている
どうやら親が離婚するため自分の面倒は自分で見ろということらしい
離婚自体は前々から決まっていたそうだがその時、俺は中学生だったためせめて中学を卒業してからということで今話されている
一人暮らしとは言っても、月に一回は父か母のどちらかが様子を見に来てくれるらしい。さらに、高校の学費や家賃・生活費は支払ってくれるという
完全な一人暮らしではなく、大人の金銭的な支援を受けながらの一人暮らしだ
両親は会話は少なかったがお互い愛情を持っているように見えたため離婚をするとは予想外だった
離婚と一人暮らしをしてねと告げる時の両親は申し訳無さそうに言葉を発していたが、俺は冷静にその言葉を受け取った
悲しさや寂しさは不思議と無かった。一人暮らしに抵抗がないのもそうだが、俺は両親に興味が無かったらしい
だが、勝手に話を進めておいて今更申し訳なさそうな顔をするのは腹が立つ
産んでくれたこと、育ててくれたことは感謝している。でも、一緒にいて楽しいという記憶は出てこないというか覚えていない
「二人がそう言うならするよ」
俺がこう言うと二人は更に申し訳無さそうな顔をする。勝手に離婚して一人暮らしをしろと言ってるのはそっちの方なんだからそんな顔はしないで欲しい
俺には反抗期が無かった。親に苛つくことも当たることもなかった。だが、今は両親に苛立っている
勝手に決めて申し訳無さそうな顔をするくらいならちゃんと言ってほしかった
子にだって決定権くらいはあるはずだ。親の都合の良いように振り回さないで欲しい
「ごめんな。祐伸、ちゃんと言っておけば…」
俺は父さんから謝罪の言葉を聞いた時、勝手に体が反応し父の胸ぐらを掴んでいた
感情が爆発した。トリガーを引いたのは父だ
どんどん頭の中に両親への不満が湧いてくる
それを理解することもなく声に出していた
「何がごめんだよ!!勝手に離婚して、一人暮らししろって言ってきたのはそっちだろ!!謝るくらいなら最初から言えよ!!」
この場の空気が俺の怒気を纏い空間に広がる。刹那の間に戦慄が空間を支配する
胸ぐらを掴まれながらも申し訳無さそうにしている父さんと同じような顔を浮かべる母さんを見て怒りが収まるどころか倍増していた
自分勝手な人間は嫌いだ。心の底からそう思った
俺は父さんを突き飛ばすと自分の部屋に戻り引きこもった
怒りがだんだん収まって来ると、俺はなぜか泣いていた。悲し涙でも悔し涙でもない
目から涙が止まらない。自分の気持ちと行動があっていない
こんなことは初めてだ。理解が出来ない
その夜は自分でも分からないくらい泣いていた
彼とてまだ15歳。未熟なところはまだまだ多い
少しの衝撃でヒビが入るのも仕方ない
その後、俺はあの二人とは一切会話をしなかった。一人暮らしをすることになる場所だけ聞いて、その場所には一人で向かった
着いた場所はマンション。ここの一室で俺は新生活を送ることになる
自分の部屋はかつての部屋と比べれば大きい。俺一人が住むには問題ない広さだ
荷物は業者の人が届けてくれる。これであの二人と顔を合わせることない
清々すると思っていたが完全な孤独というのは心に穴が空いてしまったようだった
学校が始まるまでの期間であの二人のことは完全に忘れよう。新生活が始まったことをもっと喜ばないといけない
今日は記念すべき一日目だ。自由に過ごそう
「祐伸元気にしてる?」
この一人暮らしは完全な一人暮らしではない。あの二人からの金銭援助のおかげで成り立っている
それ故にこうして声も聞きたくない人間から電話が掛かってくる
しかも、明日はここに来るらしい。来るなと言っても聞こうともしない
明日は人生で最悪な日になるだろう
「元気そうね」
「とりあえず安心だ」
不運はどうして重なるのだろうか
母さんだけでなく父さんも来るのは聞いていない。来るなら事前に言ってくれ
どこぞのハッピーセットみたいに付いて来ないでほしい。離婚したあとも関係があるのか
二人のせいで忘れようとした記憶が蘇ってくる
記憶の一つ一つが蘇るたびに冷や汗をかく。嫌な記憶は早く消してしまいたい
「ご飯は食べてるの?」
それが今更心配することか。一人暮らしを始めたあとに言うことではない
共働きのおかげで一人でご飯を作らなければならなかった。そのため料理の腕は少しだけある
豪華なものを作れる程ではないが生活には困らない
カップ麺ばかり食べる偏った生活はしていない
「もう用ないでしょ。帰ってよ」
嘘偽りのない俺の本心だ。俺がこう言うと二人は困ったような顔を浮かべる
母にも父の両方とも会いたくなかったのに両方に会うことになるし、今更過ぎる心配をされる
ますます嫌悪感が増す。これが月に1回起こるのか
地獄だ。年で二桁起こると考えるだけで気絶しそうになる
金銭的な援助があるとはいえ収支が釣り合っていない気がする
「また来るから」
「元気にしてろよ」
二人はそう言うと部屋を出ていった
扉の閉まる音が聞こえると同時に溜め込んでいた疲労が波のように一気に押し寄せてくる
疲れた。会いたくない人と会うだけでこんなにも疲れるのか
こんなにストレスが溜まる出来事が月1回あるのは辛すぎる
そういえば冷蔵庫の中身何も無かった気がする。買い物に行かないといけないな
不運はなんでこんなに重なってしまうのだろうか
今日は早く寝て嫌なことを忘れよう
孤独を感じることが多くなった。これから高校生活が始まるため特に気にしてるわけではない
土日になれば必ずいた人間が今はいない。15年過ごしてきた環境と違うとどうしても違和感を覚えてしまう
一人暮らしは孤独だと理解していたはずなのだが、実際に体験すると思ったよりも孤独だと感じる
そのせいか俺以外いないはずなのに知らない誰かの声を聞くことがある
基本的にスルーしているが最近は声を聞く回数が増えてきたように感じる
もしかしたらもしかするかもしれない。霊感が強い人に聞いてみるべきか
初めての一人暮らしが事故物件の可能性があるかもしれない。それはそれで貴重な体験ではあるが二度と味わいたいとは思わない
「祐伸、準備出来た?」
家の外から母が俺を呼ぶ声が聞こえる。今日は入学する私立高校の入学式の日だ
入学式ということで母が保護者として参加する
本音を言えば付いて来て欲しくはなかったが保護者は同伴のため仕方ない。でも記念すべき日に嫌なことがあるとテンションが下がる
「似合ってるじゃない」
ドアを開けると母は卒業式にも着ていた律儀な黒の服を身にまとっていた
母は俺の高校制服姿を見るなり笑みを浮かべながら言った
自分では似合っているかそうでないかは分からないが、女性がそう言うなら多少は合っているのだろう
お世辞だとしてもありがたく受け取っておこう
その後はあまり覚えていない。大事な入学式だったが印象に残ることがなかった
クラスの人たちは皆仲良くしていて、話を盗み聞きするとSNSで事前に知り合っていたという
俺と同じ年代の子はコミュニケーション能力が高い。俺はそんなことをしようとは思わない
孤独な一人暮らしも高校生活が始まれば気が紛れると思ったのだがそれは難しそうだ
俺に既に出来たクラスの輪に飛び込む勇気はない
仮に出来たとしても大やけどするのは目に見えて分かる
しばらくは孤独と付き合って過ごす。それしかない
新生活が始まり3ヶ月くらいたっただろうか。作業をしているかのように日々が通り過ぎた
何をするために高校に入ったのだろう。前まで見えていたはずの道が闇に消え、行き先が分からなくなっている
電車通学のため、ただでさえ時間がかかる。それなのに家に帰れば洗濯、料理、課題……
毎日をノートのように浪費する。自分という存在は何をしていて、何をしたいのかが分からなくなる
電車の窓から見る景色や通学路の景色は入学したての頃は新鮮で新生活を象徴していた
慣れというのは怖いものだ。慣れてしまえば新鮮だった景色も色褪せ、モノクロ写真のように写ってしまう
いつの間にか夢までも前世の記憶のように忘れ去ってしまった
元親が3回会いに来たが、どっちが来てどんな話をしたかは忘れた。あの二人と話すなどどうでもよかった
でも母が忙しいからしばらくは父が来るというのだけかろうじて覚えている
聞き慣れたアラームが誰もいない部屋に響く。今日も並の生活が始まる。こうして人生の時間は刻々と流れて行くのだろう
もう夕方だ。流れる時に身を任せるだけで一日は終わる。簡単な作業だ
俺は部活に入っていない、つまり帰宅部なので授業が終わればすぐに帰ってくる
部活をやっていたら今の生活など到底出来ないだろう
最寄り駅に到着し、ほぼ無人の電車を降りる
駅のホームには誰もいない。電車の巻き起こす風が髪を雑に撫でる
俺は髪を気にすることなく改札を通り家に向かう
夕日は傾きかけておりオレンジ色が学校を出たときよりも濃くなっている
異物というのはうまく紛れている。見慣れた景色に違和感があっても気にすることなく通り過ぎようとしてしまう
それを相手が見逃してはくれなかった
俺は向かいから向かってきた黒ずくめの男に鋭利なもので腹部を刺された。刺されたことに気づいてから少し間があって俺はその場に力なくかがみ込む
痛い。辛い。苦しい。負の感情が噴水のように湧き出てくる
腹部を襲う感じたこともない痛み。腹部に手を当てれば水っ気の多い、赤い絵の具よりも濃い赤色が手を染めていた
救急車を呼ぶどころではなかった。痛みに負け、何かをしようという気力が起きなかった
しかも、男は血に塗れたナイフを再び俺に突き刺そうと歩きながら近づいて来ていた。その動きが不思議とスローモーションに見えた。ナイフの刃渡りはいつも使っている包丁よりも短い。それでも十分に人を殺傷できる、それを身をもって知った
男の顔をフードでよく見えない。でも、何の感情も感じられなかった。ただ無心で殺そうとしてきているように感じた
血に塗れたナイフは夕日を受けて少しオレンジがかり真っ赤な赤色が黄色みを帯びて暖かさを纏い、ナイフは自己主張の激しい子供のように光っていた。夕日というアクセントが加わったことで血に塗れたナイフの不気味さが増していた
男と俺の距離が詰まってくるごとに死が迫ってくる。距離がゼロになろうかというところで俺は死を覚悟し意識が途絶えた
目が覚めると見慣れた駅あたりの景色があった。死後の世界は現実の世界と相違ないみたいだ
だが妙に変だ。人が通っている。通行人も皆死んでいるのだろうか
通行人は呆然としている俺を見て懐疑的な目線を送ってくる。目を覚ました刹那、大勢の視線に晒されるのは聞いていない
状況が飲み込めず頭が破裂しそうになる。思わず頭を抱えると周りの人は不気味がってどこかへ消えた。何人かは残り、スマホのカメラをこちらに向けている。だが、今はそれどころではない。自分はどうなっている。ここは何処なんだ。数々の疑問が頭で駆け巡り、渋滞を起こしたように思考が停滞した
俺は生きているのか?いや、あの時確かに黒ずくめの男にナイフで刺されて死んだはずだ。あの時受けた痛み、無心の殺気、ナイフの形状、鮮明に覚えている
しかしナイフで刺された痕は一つもない。とめどなく流れていた血も止まっていた
死後の世界でも苦痛を味わうのは地獄だ
「あの…大丈夫ですか?」
その場に呆然と立ち尽くしていると通行人が話しかけてきた
この人は何者だ。死んだ俺が見えているのか。見えているから生きているのか
死んでいるのか生きているのかを考えているだけのはずなのに、宇宙の真理のような漠然としたことを考えている気分になる
正常な判断が出来る状態ではないが、今の脳が弾き出した答えは「逃げろ」だ。現実逃避をしたいと強く思ったのは久しぶりだ
答えを出してから行動するまでの時間は葉から雫が落ちるような刹那だった
俺は無我夢中で走った。人とすれ違う度に凝視されているのを感じる
人々の視線が背中に刺さりながらも家に着いた。ドアを開け玄関に一歩踏み出すと走り続けた疲労が滝のように体に降ってくる
疲れているがテレビをつけニュースを見てみる
今やっているのは東京都国立市で何者かが3人を殺害、6人を負傷させたというニュースだ
犯人は捕まっておらず、事情聴取や防犯カメラの確認を行い捜査をしているとのこと
俺が被害に遭った通り魔殺人事件ではない。そもそも場所が違う
ニュースで取り扱ってないなら、あれは何だったんだ。俺の夢か?それとも幻覚でも見えたというのか?
今日は色々とありすぎた。今は今日あったことを整理する前に寝たい。一瞬でもいいから今日を忘れたい。ヘッドに制服姿のまま横になり目を閉じるが脳裏に焼き付いている地獄の光景が蘇ってきて寝るどころでなない
さらに、先程まで停滞していたはずの思考が活発に働き睡眠を妨害する。睡眠を妨害されることほど苛つくことはない
この前自分の呼吸音に集中すると寝れると聞いたことがある。効果があるかは分からないが試してみる。自分の呼吸音に意識を集中させ、邪念をゆっくり少しずつ消していく
雑念が頭の片隅から消えるまで途方も無い時間が流れると再び意識が途切れた
目を開けると顔がすぐ目の前にあった。予想外の事態に思わず体を起こす
顔をよく見てみると自分にそっくりだ。鏡で見る顔を持つ人間が目の前に立っている。どこにでもいそうな顔だが確かに自分の顔だ
ただ、自分と違うのは髪色が白いことと右目を眼帯で隠していることだ。俺は髪の色素が抜けてはいない。右目に眼帯もしていない
逆に言えば髪色の違いと右目に眼帯をしていること以外は自分だ。身長、体格、容姿、これらは自分ではないと否定することが出来ない
これは誰だ。俺はここにいる。これがドッペルゲンガーというやつか。ドッペルゲンガーを見ると死ぬというのを聞いたことがある
目の前のやつがドッペルゲンガーで噂が本当なら俺は近々死ぬだろう。ただドッペルゲンガーだとするなら髪色も黒でなければおかしいはずだ
「君って面白いね。呼吸音に集中しただけで寝れるんだ」
顔の表情を一つも変えずに言ってきた自分(仮)が話しかけてきた。声も自分のものだ。自分の声を話す以外で聞くことになるとは思いもしなかった
寝れる方法を試した結果上手くいっただけなのだが理解されていないようだ
こいつの口ぶりは以前から俺を見てきたようなものだ。いつから俺のことを知っているのだろうか
それ以前にまず、こいつは実在するのか。夢ではないのか
そうだ夢だ。夢という考察、いや俺の模範解答は思考という沼にハマりそうになっていた俺を救い出してくれた
夢ならこの光景は腑に落ちる。これは夢だ。また目を覚ませばいつも通りに戻る
色々あったことで疲れているんだろう。だからこんな変な夢を見るんだ
変な夢を長くは見たくない。早く目を覚ましたい。あと少しだけ寝れば疲れも取れるだろう
「夢だと思ってる?まぁそう思うよね」
自分(仮)は俺の顔を覗き込むように見たあと、俺を見透かしているかのような事を言った
俺の心を読まれたような気分になり自分(仮)の顔を凝視する
だが、自分(仮)の顔には何も書いていない。すっとぼけたような顔をしている
自分の顔をよく見たことはない。そのため、この瞬間にしている自分(仮)の顔がどのような表情でどんな気持ちなのか分からない
これは夢ではないのか?この空間は夢なのか?自分(仮)は何者だ?
「夢っていうのは合ってるわけでもなく間違ってるわけでもないね」
夢という答案は模範解答ではなく部分点止まりらしい
合ってるわけでも間違ってるわけでもないということはだいたい夢という解釈で良いのだろう
「あなたは誰?」
自分(仮)の正体を知りたい。俺のことを「君」と呼ぶのだからドッペルゲンガーという可能性は低いように勝手に感じる
ドッペルゲンガーではないなら一体何者なんだ?少なくとも俺の人脈にいる人間ではない
「僕?あぁ名乗り忘れてたね。僕はオーデン。神だ」
最後の一言を聞き、オーデンを二度見する。だがオーデンは至って普通の顔をしている。この顔が普通なのかはオーデンにしか分からない
神と自ら名乗る人間は歴史上でしか見たことがない。しかもそれが俺の顔をしているとは現代人の笑い者にされそうだ
神というのは後ろに翼が生えていたり、輪っかが頭の上についていたり、人とは明らかに違う容姿をしているのではないのか
これが本当に神なら俺の神に対するイメージとは程遠い
「何その反応。名前、そんなに意外?」
違う。違う。自分でも分かるだろ
俺が気にしてるのはそこじゃない
名前は気にもとめなかった。俺が気にしてるのは神と名乗ったところだ
「違う。本当に神なの?」
「そこ気にするの?」
普通しないの?神って急に言ってきて気にしない方がおかしい気がする
神って名乗って気にされると思ってなかったのは自分でも神だと思ってるということでいいのか
「それを言われるとは思ってもなかったな」
「それくらい自分を神だと思ってるの?」
「神だと思うも何も神だから」
これ会話できてるか?答えが理由になってないと思うのは気のせいではないはず
A=Aの構文使って話してる。これだと会話は成り立つはずがない
聞いたのが馬鹿みたいだ。滅茶苦茶なことを言ってるのはオーデンのはずなのだが自分が野暮なことを聞いたように感じてしまう
「君の名前は?」
「俺は祐伸」
俺の名前の由来はもう忘れた。元親に聞こうとも思わない
勝手につけられた名前の意味もわからず生きていく。別に大した名前じゃない
他人の目に留まることもない
「いい名前だね。祐伸君って呼ぶね」
「別に良いけど。オーデンはなんで俺の格好をしてるわけ?」
俺が聞くとオーデンは困ったような素振りを一瞬見せた。だが、俺の顔を凝視すると何かを諦めたような顔をした
俺の顔に何か書いてあったのだろうか。俺は表情を変えたつもりはない
「全部言うと理解できないだろうから簡単言うと、この体の中に人格が2つあるってことだね」
理解できないだろうからと決めつけられるのは少し苛立ちを覚えたが、表情には出さずにじっと聞いた
人格が2つあるということは多重人格という認識でいいんだろうか
多重人格なら精神科に通うことを進められそうで他の人には言いにくい。急に多重人格と言われても困惑するしかない
「だから僕は君の姿をしている。この体を共有しているんだ」
「困るんだけど…」
一つの人格だけでも苦労しているのにそれが2つに増えるのは心労が凄そうだからやめてほしい
勝手に入ってきて寄生虫のように体に寄生してくるのは迷惑でしかない
「超能力使えるんだよ?良くない?」
「どんな能力使えるの?」
オーデンは人ではなく神だから超能力を使えるんだろう
それを俺も使えるのか?胡散臭い話には乗らないで人生15年生きてきた
信じてもいいんだろうか
「魔術ともう一つは君も使ったはずだよ」
「え?いつ使った?」
そんなの聞いたことないな。超能力を使ったときなんてあるか?
俺は脳内に保存されている記憶を引っ張り出して確認する。いや、超能力を使ったことはないはずだ
オーデンのもう一つの能力はないんじゃないか?そんな疑いすら持ってしまう
「知らないとは言わせないからね。気づくまで内緒」
「教えてくれたっていいじゃん」
オーデンは嫌味らしく笑った。人格が変わるだけでこんなに表情に違いが出ることを初めて知った
表情を見ただけでは分からない。どっちとも取れる
意地悪なのか嘘を隠そうとしているのか
「まぁそんなことで楽しくやろうよ」
「……嫌だ」
「そんな寂しいこと言うなよ」
オーデンは馴れ馴れしく肩を組んできた
こんな風に急に距離を詰めてくるタイプは嫌いだ
こいつと仲良く出来る未来は見えない
「……出たくても出れないけどね」
「何か言った?」
「なんでもないよ。そろそろ起きたら?かなり時間が経ってるよ」
オーデンが小声で何か言っていたような気がしたが俺の空耳だったか
オーデンは時間が経ってると言ったが、時計の時間は止まったままだ
「ここは夢もどきの空間。時間が止まってるわけじゃない。あの時計は君が見てる夢だ。実際の時刻じゃない」
「ややこしい……」
「さぁ早く起きた方が良い。明日も予定があるんだろう」
明日は平日だ。いつも通り学校がある
それにまだ家事が終わっていない。やるべきことを放棄してこいつと話し込んでいた
一日の予定が狂わされる。こいつとは絶対に仲良く出来ない。いやしたくない
俺の苦手な陽のオーラが出ている。俺の姿をしているはずなのになんでだ
「じゃあまたねー」
俺はオーデンの妙に明るい声を聞きながら意識が途絶えた
次に目を覚ますと孤独の部屋に戻ってきていた
時計を確認すると8時と表記されていた。窓を見ると寝る前までオレンジ色だった空はすっかり暗くなっていた
することはこれから大量にある。一秒も無駄に出来ない
目まぐるしい一日だった。さっき寝たのにもう疲れてる。早く寝よう
こんなことは現在ではありえないが昔は神と祀り上げられた人間がいた。神と崇められたのは生前に偉業を残した者や恨みを残してこの世を去った者の祟りを恐れて鎮めるために祀ったなどである
例を挙げるなら、徳川家康は日光東照宮に祀られており、東日本から日本を照らす神だとされている
また、逆賊として討伐された平将門は将門の首を埋めた首塚を全く管理しなかった結果、天変地異や疫病が流行した
これを将門の祟りだと噂され祟りを鎮めるために神として祀られるようになった
神になる、これは生前の行いから人々から祀られなるものである。だが、祀られたわけでもなく神になった人間がいた
これは弱冠16歳の青年が神になる物語
「祐伸、高校生から一人暮らし出来る?」
俺は今、親から高校生になったら一人暮らししてねと告げられた。一人暮らしというのはもっと歳を取ってからするものだと思っていたが、こんなに早く訪れたことに驚いている
どうやら親が離婚するため自分の面倒は自分で見ろということらしい
離婚自体は前々から決まっていたそうだがその時、俺は中学生だったためせめて中学を卒業してからということで今話されている
一人暮らしとは言っても、月に一回は父か母のどちらかが様子を見に来てくれるらしい。さらに、高校の学費や家賃・生活費は支払ってくれるという
完全な一人暮らしではなく、大人の金銭的な支援を受けながらの一人暮らしだ
両親は会話は少なかったがお互い愛情を持っているように見えたため離婚をするとは予想外だった
離婚と一人暮らしをしてねと告げる時の両親は申し訳無さそうに言葉を発していたが、俺は冷静にその言葉を受け取った
悲しさや寂しさは不思議と無かった。一人暮らしに抵抗がないのもそうだが、俺は両親に興味が無かったらしい
だが、勝手に話を進めておいて今更申し訳なさそうな顔をするのは腹が立つ
産んでくれたこと、育ててくれたことは感謝している。でも、一緒にいて楽しいという記憶は出てこないというか覚えていない
「二人がそう言うならするよ」
俺がこう言うと二人は更に申し訳無さそうな顔をする。勝手に離婚して一人暮らしをしろと言ってるのはそっちの方なんだからそんな顔はしないで欲しい
俺には反抗期が無かった。親に苛つくことも当たることもなかった。だが、今は両親に苛立っている
勝手に決めて申し訳無さそうな顔をするくらいならちゃんと言ってほしかった
子にだって決定権くらいはあるはずだ。親の都合の良いように振り回さないで欲しい
「ごめんな。祐伸、ちゃんと言っておけば…」
俺は父さんから謝罪の言葉を聞いた時、勝手に体が反応し父の胸ぐらを掴んでいた
感情が爆発した。トリガーを引いたのは父だ
どんどん頭の中に両親への不満が湧いてくる
それを理解することもなく声に出していた
「何がごめんだよ!!勝手に離婚して、一人暮らししろって言ってきたのはそっちだろ!!謝るくらいなら最初から言えよ!!」
この場の空気が俺の怒気を纏い空間に広がる。刹那の間に戦慄が空間を支配する
胸ぐらを掴まれながらも申し訳無さそうにしている父さんと同じような顔を浮かべる母さんを見て怒りが収まるどころか倍増していた
自分勝手な人間は嫌いだ。心の底からそう思った
俺は父さんを突き飛ばすと自分の部屋に戻り引きこもった
怒りがだんだん収まって来ると、俺はなぜか泣いていた。悲し涙でも悔し涙でもない
目から涙が止まらない。自分の気持ちと行動があっていない
こんなことは初めてだ。理解が出来ない
その夜は自分でも分からないくらい泣いていた
彼とてまだ15歳。未熟なところはまだまだ多い
少しの衝撃でヒビが入るのも仕方ない
その後、俺はあの二人とは一切会話をしなかった。一人暮らしをすることになる場所だけ聞いて、その場所には一人で向かった
着いた場所はマンション。ここの一室で俺は新生活を送ることになる
自分の部屋はかつての部屋と比べれば大きい。俺一人が住むには問題ない広さだ
荷物は業者の人が届けてくれる。これであの二人と顔を合わせることない
清々すると思っていたが完全な孤独というのは心に穴が空いてしまったようだった
学校が始まるまでの期間であの二人のことは完全に忘れよう。新生活が始まったことをもっと喜ばないといけない
今日は記念すべき一日目だ。自由に過ごそう
「祐伸元気にしてる?」
この一人暮らしは完全な一人暮らしではない。あの二人からの金銭援助のおかげで成り立っている
それ故にこうして声も聞きたくない人間から電話が掛かってくる
しかも、明日はここに来るらしい。来るなと言っても聞こうともしない
明日は人生で最悪な日になるだろう
「元気そうね」
「とりあえず安心だ」
不運はどうして重なるのだろうか
母さんだけでなく父さんも来るのは聞いていない。来るなら事前に言ってくれ
どこぞのハッピーセットみたいに付いて来ないでほしい。離婚したあとも関係があるのか
二人のせいで忘れようとした記憶が蘇ってくる
記憶の一つ一つが蘇るたびに冷や汗をかく。嫌な記憶は早く消してしまいたい
「ご飯は食べてるの?」
それが今更心配することか。一人暮らしを始めたあとに言うことではない
共働きのおかげで一人でご飯を作らなければならなかった。そのため料理の腕は少しだけある
豪華なものを作れる程ではないが生活には困らない
カップ麺ばかり食べる偏った生活はしていない
「もう用ないでしょ。帰ってよ」
嘘偽りのない俺の本心だ。俺がこう言うと二人は困ったような顔を浮かべる
母にも父の両方とも会いたくなかったのに両方に会うことになるし、今更過ぎる心配をされる
ますます嫌悪感が増す。これが月に1回起こるのか
地獄だ。年で二桁起こると考えるだけで気絶しそうになる
金銭的な援助があるとはいえ収支が釣り合っていない気がする
「また来るから」
「元気にしてろよ」
二人はそう言うと部屋を出ていった
扉の閉まる音が聞こえると同時に溜め込んでいた疲労が波のように一気に押し寄せてくる
疲れた。会いたくない人と会うだけでこんなにも疲れるのか
こんなにストレスが溜まる出来事が月1回あるのは辛すぎる
そういえば冷蔵庫の中身何も無かった気がする。買い物に行かないといけないな
不運はなんでこんなに重なってしまうのだろうか
今日は早く寝て嫌なことを忘れよう
孤独を感じることが多くなった。これから高校生活が始まるため特に気にしてるわけではない
土日になれば必ずいた人間が今はいない。15年過ごしてきた環境と違うとどうしても違和感を覚えてしまう
一人暮らしは孤独だと理解していたはずなのだが、実際に体験すると思ったよりも孤独だと感じる
そのせいか俺以外いないはずなのに知らない誰かの声を聞くことがある
基本的にスルーしているが最近は声を聞く回数が増えてきたように感じる
もしかしたらもしかするかもしれない。霊感が強い人に聞いてみるべきか
初めての一人暮らしが事故物件の可能性があるかもしれない。それはそれで貴重な体験ではあるが二度と味わいたいとは思わない
「祐伸、準備出来た?」
家の外から母が俺を呼ぶ声が聞こえる。今日は入学する私立高校の入学式の日だ
入学式ということで母が保護者として参加する
本音を言えば付いて来て欲しくはなかったが保護者は同伴のため仕方ない。でも記念すべき日に嫌なことがあるとテンションが下がる
「似合ってるじゃない」
ドアを開けると母は卒業式にも着ていた律儀な黒の服を身にまとっていた
母は俺の高校制服姿を見るなり笑みを浮かべながら言った
自分では似合っているかそうでないかは分からないが、女性がそう言うなら多少は合っているのだろう
お世辞だとしてもありがたく受け取っておこう
その後はあまり覚えていない。大事な入学式だったが印象に残ることがなかった
クラスの人たちは皆仲良くしていて、話を盗み聞きするとSNSで事前に知り合っていたという
俺と同じ年代の子はコミュニケーション能力が高い。俺はそんなことをしようとは思わない
孤独な一人暮らしも高校生活が始まれば気が紛れると思ったのだがそれは難しそうだ
俺に既に出来たクラスの輪に飛び込む勇気はない
仮に出来たとしても大やけどするのは目に見えて分かる
しばらくは孤独と付き合って過ごす。それしかない
新生活が始まり3ヶ月くらいたっただろうか。作業をしているかのように日々が通り過ぎた
何をするために高校に入ったのだろう。前まで見えていたはずの道が闇に消え、行き先が分からなくなっている
電車通学のため、ただでさえ時間がかかる。それなのに家に帰れば洗濯、料理、課題……
毎日をノートのように浪費する。自分という存在は何をしていて、何をしたいのかが分からなくなる
電車の窓から見る景色や通学路の景色は入学したての頃は新鮮で新生活を象徴していた
慣れというのは怖いものだ。慣れてしまえば新鮮だった景色も色褪せ、モノクロ写真のように写ってしまう
いつの間にか夢までも前世の記憶のように忘れ去ってしまった
元親が3回会いに来たが、どっちが来てどんな話をしたかは忘れた。あの二人と話すなどどうでもよかった
でも母が忙しいからしばらくは父が来るというのだけかろうじて覚えている
聞き慣れたアラームが誰もいない部屋に響く。今日も並の生活が始まる。こうして人生の時間は刻々と流れて行くのだろう
もう夕方だ。流れる時に身を任せるだけで一日は終わる。簡単な作業だ
俺は部活に入っていない、つまり帰宅部なので授業が終わればすぐに帰ってくる
部活をやっていたら今の生活など到底出来ないだろう
最寄り駅に到着し、ほぼ無人の電車を降りる
駅のホームには誰もいない。電車の巻き起こす風が髪を雑に撫でる
俺は髪を気にすることなく改札を通り家に向かう
夕日は傾きかけておりオレンジ色が学校を出たときよりも濃くなっている
異物というのはうまく紛れている。見慣れた景色に違和感があっても気にすることなく通り過ぎようとしてしまう
それを相手が見逃してはくれなかった
俺は向かいから向かってきた黒ずくめの男に鋭利なもので腹部を刺された。刺されたことに気づいてから少し間があって俺はその場に力なくかがみ込む
痛い。辛い。苦しい。負の感情が噴水のように湧き出てくる
腹部を襲う感じたこともない痛み。腹部に手を当てれば水っ気の多い、赤い絵の具よりも濃い赤色が手を染めていた
救急車を呼ぶどころではなかった。痛みに負け、何かをしようという気力が起きなかった
しかも、男は血に塗れたナイフを再び俺に突き刺そうと歩きながら近づいて来ていた。その動きが不思議とスローモーションに見えた。ナイフの刃渡りはいつも使っている包丁よりも短い。それでも十分に人を殺傷できる、それを身をもって知った
男の顔をフードでよく見えない。でも、何の感情も感じられなかった。ただ無心で殺そうとしてきているように感じた
血に塗れたナイフは夕日を受けて少しオレンジがかり真っ赤な赤色が黄色みを帯びて暖かさを纏い、ナイフは自己主張の激しい子供のように光っていた。夕日というアクセントが加わったことで血に塗れたナイフの不気味さが増していた
男と俺の距離が詰まってくるごとに死が迫ってくる。距離がゼロになろうかというところで俺は死を覚悟し意識が途絶えた
目が覚めると見慣れた駅あたりの景色があった。死後の世界は現実の世界と相違ないみたいだ
だが妙に変だ。人が通っている。通行人も皆死んでいるのだろうか
通行人は呆然としている俺を見て懐疑的な目線を送ってくる。目を覚ました刹那、大勢の視線に晒されるのは聞いていない
状況が飲み込めず頭が破裂しそうになる。思わず頭を抱えると周りの人は不気味がってどこかへ消えた。何人かは残り、スマホのカメラをこちらに向けている。だが、今はそれどころではない。自分はどうなっている。ここは何処なんだ。数々の疑問が頭で駆け巡り、渋滞を起こしたように思考が停滞した
俺は生きているのか?いや、あの時確かに黒ずくめの男にナイフで刺されて死んだはずだ。あの時受けた痛み、無心の殺気、ナイフの形状、鮮明に覚えている
しかしナイフで刺された痕は一つもない。とめどなく流れていた血も止まっていた
死後の世界でも苦痛を味わうのは地獄だ
「あの…大丈夫ですか?」
その場に呆然と立ち尽くしていると通行人が話しかけてきた
この人は何者だ。死んだ俺が見えているのか。見えているから生きているのか
死んでいるのか生きているのかを考えているだけのはずなのに、宇宙の真理のような漠然としたことを考えている気分になる
正常な判断が出来る状態ではないが、今の脳が弾き出した答えは「逃げろ」だ。現実逃避をしたいと強く思ったのは久しぶりだ
答えを出してから行動するまでの時間は葉から雫が落ちるような刹那だった
俺は無我夢中で走った。人とすれ違う度に凝視されているのを感じる
人々の視線が背中に刺さりながらも家に着いた。ドアを開け玄関に一歩踏み出すと走り続けた疲労が滝のように体に降ってくる
疲れているがテレビをつけニュースを見てみる
今やっているのは東京都国立市で何者かが3人を殺害、6人を負傷させたというニュースだ
犯人は捕まっておらず、事情聴取や防犯カメラの確認を行い捜査をしているとのこと
俺が被害に遭った通り魔殺人事件ではない。そもそも場所が違う
ニュースで取り扱ってないなら、あれは何だったんだ。俺の夢か?それとも幻覚でも見えたというのか?
今日は色々とありすぎた。今は今日あったことを整理する前に寝たい。一瞬でもいいから今日を忘れたい。ヘッドに制服姿のまま横になり目を閉じるが脳裏に焼き付いている地獄の光景が蘇ってきて寝るどころでなない
さらに、先程まで停滞していたはずの思考が活発に働き睡眠を妨害する。睡眠を妨害されることほど苛つくことはない
この前自分の呼吸音に集中すると寝れると聞いたことがある。効果があるかは分からないが試してみる。自分の呼吸音に意識を集中させ、邪念をゆっくり少しずつ消していく
雑念が頭の片隅から消えるまで途方も無い時間が流れると再び意識が途切れた
目を開けると顔がすぐ目の前にあった。予想外の事態に思わず体を起こす
顔をよく見てみると自分にそっくりだ。鏡で見る顔を持つ人間が目の前に立っている。どこにでもいそうな顔だが確かに自分の顔だ
ただ、自分と違うのは髪色が白いことと右目を眼帯で隠していることだ。俺は髪の色素が抜けてはいない。右目に眼帯もしていない
逆に言えば髪色の違いと右目に眼帯をしていること以外は自分だ。身長、体格、容姿、これらは自分ではないと否定することが出来ない
これは誰だ。俺はここにいる。これがドッペルゲンガーというやつか。ドッペルゲンガーを見ると死ぬというのを聞いたことがある
目の前のやつがドッペルゲンガーで噂が本当なら俺は近々死ぬだろう。ただドッペルゲンガーだとするなら髪色も黒でなければおかしいはずだ
「君って面白いね。呼吸音に集中しただけで寝れるんだ」
顔の表情を一つも変えずに言ってきた自分(仮)が話しかけてきた。声も自分のものだ。自分の声を話す以外で聞くことになるとは思いもしなかった
寝れる方法を試した結果上手くいっただけなのだが理解されていないようだ
こいつの口ぶりは以前から俺を見てきたようなものだ。いつから俺のことを知っているのだろうか
それ以前にまず、こいつは実在するのか。夢ではないのか
そうだ夢だ。夢という考察、いや俺の模範解答は思考という沼にハマりそうになっていた俺を救い出してくれた
夢ならこの光景は腑に落ちる。これは夢だ。また目を覚ませばいつも通りに戻る
色々あったことで疲れているんだろう。だからこんな変な夢を見るんだ
変な夢を長くは見たくない。早く目を覚ましたい。あと少しだけ寝れば疲れも取れるだろう
「夢だと思ってる?まぁそう思うよね」
自分(仮)は俺の顔を覗き込むように見たあと、俺を見透かしているかのような事を言った
俺の心を読まれたような気分になり自分(仮)の顔を凝視する
だが、自分(仮)の顔には何も書いていない。すっとぼけたような顔をしている
自分の顔をよく見たことはない。そのため、この瞬間にしている自分(仮)の顔がどのような表情でどんな気持ちなのか分からない
これは夢ではないのか?この空間は夢なのか?自分(仮)は何者だ?
「夢っていうのは合ってるわけでもなく間違ってるわけでもないね」
夢という答案は模範解答ではなく部分点止まりらしい
合ってるわけでも間違ってるわけでもないということはだいたい夢という解釈で良いのだろう
「あなたは誰?」
自分(仮)の正体を知りたい。俺のことを「君」と呼ぶのだからドッペルゲンガーという可能性は低いように勝手に感じる
ドッペルゲンガーではないなら一体何者なんだ?少なくとも俺の人脈にいる人間ではない
「僕?あぁ名乗り忘れてたね。僕はオーデン。神だ」
最後の一言を聞き、オーデンを二度見する。だがオーデンは至って普通の顔をしている。この顔が普通なのかはオーデンにしか分からない
神と自ら名乗る人間は歴史上でしか見たことがない。しかもそれが俺の顔をしているとは現代人の笑い者にされそうだ
神というのは後ろに翼が生えていたり、輪っかが頭の上についていたり、人とは明らかに違う容姿をしているのではないのか
これが本当に神なら俺の神に対するイメージとは程遠い
「何その反応。名前、そんなに意外?」
違う。違う。自分でも分かるだろ
俺が気にしてるのはそこじゃない
名前は気にもとめなかった。俺が気にしてるのは神と名乗ったところだ
「違う。本当に神なの?」
「そこ気にするの?」
普通しないの?神って急に言ってきて気にしない方がおかしい気がする
神って名乗って気にされると思ってなかったのは自分でも神だと思ってるということでいいのか
「それを言われるとは思ってもなかったな」
「それくらい自分を神だと思ってるの?」
「神だと思うも何も神だから」
これ会話できてるか?答えが理由になってないと思うのは気のせいではないはず
A=Aの構文使って話してる。これだと会話は成り立つはずがない
聞いたのが馬鹿みたいだ。滅茶苦茶なことを言ってるのはオーデンのはずなのだが自分が野暮なことを聞いたように感じてしまう
「君の名前は?」
「俺は祐伸」
俺の名前の由来はもう忘れた。元親に聞こうとも思わない
勝手につけられた名前の意味もわからず生きていく。別に大した名前じゃない
他人の目に留まることもない
「いい名前だね。祐伸君って呼ぶね」
「別に良いけど。オーデンはなんで俺の格好をしてるわけ?」
俺が聞くとオーデンは困ったような素振りを一瞬見せた。だが、俺の顔を凝視すると何かを諦めたような顔をした
俺の顔に何か書いてあったのだろうか。俺は表情を変えたつもりはない
「全部言うと理解できないだろうから簡単言うと、この体の中に人格が2つあるってことだね」
理解できないだろうからと決めつけられるのは少し苛立ちを覚えたが、表情には出さずにじっと聞いた
人格が2つあるということは多重人格という認識でいいんだろうか
多重人格なら精神科に通うことを進められそうで他の人には言いにくい。急に多重人格と言われても困惑するしかない
「だから僕は君の姿をしている。この体を共有しているんだ」
「困るんだけど…」
一つの人格だけでも苦労しているのにそれが2つに増えるのは心労が凄そうだからやめてほしい
勝手に入ってきて寄生虫のように体に寄生してくるのは迷惑でしかない
「超能力使えるんだよ?良くない?」
「どんな能力使えるの?」
オーデンは人ではなく神だから超能力を使えるんだろう
それを俺も使えるのか?胡散臭い話には乗らないで人生15年生きてきた
信じてもいいんだろうか
「魔術ともう一つは君も使ったはずだよ」
「え?いつ使った?」
そんなの聞いたことないな。超能力を使ったときなんてあるか?
俺は脳内に保存されている記憶を引っ張り出して確認する。いや、超能力を使ったことはないはずだ
オーデンのもう一つの能力はないんじゃないか?そんな疑いすら持ってしまう
「知らないとは言わせないからね。気づくまで内緒」
「教えてくれたっていいじゃん」
オーデンは嫌味らしく笑った。人格が変わるだけでこんなに表情に違いが出ることを初めて知った
表情を見ただけでは分からない。どっちとも取れる
意地悪なのか嘘を隠そうとしているのか
「まぁそんなことで楽しくやろうよ」
「……嫌だ」
「そんな寂しいこと言うなよ」
オーデンは馴れ馴れしく肩を組んできた
こんな風に急に距離を詰めてくるタイプは嫌いだ
こいつと仲良く出来る未来は見えない
「……出たくても出れないけどね」
「何か言った?」
「なんでもないよ。そろそろ起きたら?かなり時間が経ってるよ」
オーデンが小声で何か言っていたような気がしたが俺の空耳だったか
オーデンは時間が経ってると言ったが、時計の時間は止まったままだ
「ここは夢もどきの空間。時間が止まってるわけじゃない。あの時計は君が見てる夢だ。実際の時刻じゃない」
「ややこしい……」
「さぁ早く起きた方が良い。明日も予定があるんだろう」
明日は平日だ。いつも通り学校がある
それにまだ家事が終わっていない。やるべきことを放棄してこいつと話し込んでいた
一日の予定が狂わされる。こいつとは絶対に仲良く出来ない。いやしたくない
俺の苦手な陽のオーラが出ている。俺の姿をしているはずなのになんでだ
「じゃあまたねー」
俺はオーデンの妙に明るい声を聞きながら意識が途絶えた
次に目を覚ますと孤独の部屋に戻ってきていた
時計を確認すると8時と表記されていた。窓を見ると寝る前までオレンジ色だった空はすっかり暗くなっていた
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