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神と住まうということ
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オーデンという神が俺の体に勝手に住み着いた。俺は望んでない。勝手に押し入ってきて勝手に暮らすと言いだした
嵐のように現れ、そして留まる。自分の体の中にもう一つの人格、神格というべきかもしれないが、それがあると変に意識してしまう
オーデンから日々の俺はどう見えてるのか、余計なことを考えずにはいられなくなってしまった
(電車って便利だねぇー)
オーデンはこうやって頭の中で話しかけてくる。このせいで意識せざるを得ないのだ
オーデンと初めて会った昨日から頭の中で声をかけてくる
喋りかけるなと何度も言ったのだが聞く耳を持たない。神は気まぐれと聞いたことがあるがその通りだ
オーデンと俺はこの体を共有して生きている。そのため五感も共有されている
俺が今見ている電車内の景色もこいつには見えている。電車の走る音も、匂いもこいつは感じている
(朝から話しかけてくるのしんどいからやめて)
(朝から仲良く行こうよ)
このテンションだ。付き合う方の身にもなってほしい
話しかけてくる声が明るい。それが気分を害する
人を知ることから始めてくれと切実に願う
(動機が幼稚。この時間じゃなくてもいい)
(常日頃からコミュニケーションを取っておかないといざという時にどうにもならないよ)
オーデンの「いざという時」が妙に引っかかった
それはどんな時なのか。そのために朝から話しかけているのか
(いざという時?)
(祐伸君は忘れかけているけど君、昨日死にかけたよね)
(⁉)
オーデンの言う通り、俺は昨日殺されかけた
しかし俺は生きている。夢かと思いこんでいたが違うのか
あの後俺を刺した犯人はどこかへ消えた
犯人のことをオーデンは知っているのか
(ああいうことがこれから起きるかもしれない。そのためにコミュニケーションを取っておくのは必要だよ)
(俺を刺した犯人はどうなった?)
(僕が始末しておいたよ)
始末、つまりオーデンが殺したということか?
でもどうやって殺したんだ
始末とは言ったがその言葉はさらに俺の疑問を生んだ
(どうやって?)
(君が寝てる間に体を借りてさっと始末したよ)
体を借りて始末した。俺の体が犯人を殺したということだ
俺は間接的に犯罪を犯したのか?死体が見つかれば俺はどうなる
俺の人格は犯罪を犯してはいないが、体は犯罪を犯した
冤罪だといっても逃れる術はない。捕まれば終わりだ
不安が恐怖を駆り立てる。体が得体の知れない恐怖に支配され震えが止まらなくなる
(死体が見つかったら俺は…)
(その心配はない。死体なら既に消えてるよ)
どうやって死体を消したんだ?死体が見つからないなら完全犯罪の完成だ
捕まることは無いだろう。それだけでも俺の体の震えはだいぶ収まった
だが、殺人を犯したことには変わりない。俺の手はこんなにも早く汚れた
(薬品でも使った?)
(そんなもの使わなくても消えたよ)
(どうして?)
(あいつも僕と同じ神の魂が入ってた)
神の魂という言葉に一瞬眉をひそめる
オーデンは僕と同じと言った。つまり俺の体の中にもオーデンの魂が入ってるということだ
(神の魂?どういうこと?)
(そこからだね。昨日は説明省いちゃったけど詳しく話そうか)
(まず、今のこの体の状態を説明すると祐伸君の魂と僕の魂が2つ存在するんだ。体の支配権を持っているのは祐伸君の魂。僕は体を動かすことは基本的には出来ない
でも君が意識を失ったりすると体の支配権が一時的にこちらに移る。昨日は君が気絶したから僕に支配権が一時的に移った。その間に犯人を始末した
あの人間にも同じように神の魂が存在していた。神の魂が存在する体は死ぬと消滅する。だから死体は消えたよ)
かなり要約されていたがなんとなくは分かった気になった
つまり俺が気絶していた間にオーデンが俺の体を使って犯人を殺した
そして犯人の体にも神の魂が存在していたため死体は残ることなく消えた
この体が殺人を犯したのは事実だ。これは受け止めなくてはならない
だが疑問が残る。なぜ、神の魂が存在しているのに襲われたのか。助からないと思ったが、なぜ助かったのか
そもそも一つの体に魂が2つ存在することが出来るのか。そしてなぜ神の魂が入った体は死ぬと消滅するのか
(なんで犯人にも神の魂が存在してるのに襲われたの?)
(魂にも相性がある。相性がよければお互いに自我を保てる。だけど相性が最悪ならお互いの自我は消え、力の強い神の魂が元々存在していた魂を喰らい一つの魂になる
そして自我を失った神の魂が肉体の支配権を握り超能力を持った人間が暴れまわる
あの人間の魂は入ってきた神の魂と相性が最悪だった。その結果、ああいう形で暴走してしまった。ちなみに僕達の相性は最良だよ)
最後の一言は余計だから聞かなかったことにしておこう。相性が悪すぎた結果、暴走した。あの犯人の人も被害者になるのか
勝手に入ってきた魂のせいで自我を失い最終的には死を迎えた。俺のこの状況は運が良かった
(他の人に被害は出てないの?)
(それは心配しなくていい。あいつは神の魂が存在してる人間しか狙ってなかった
たまに一般人にも害を出すやつもいるけど、ほとんどは神の魂が存在してる人間しか狙わない)
(なんで?)
(神の魂は磁石みたいにお互いに引っ張られるんだ。この世界に神は一体でいいという世界の摂理だ
そのおかげで自我を保ってる人間と出会っても殺し合いになることもある)
困る。困る。困るしか言葉がない
というかオーデンの言葉通りなら狙われる原因はお前のせいだ。害悪が自分の体にいると想像しただけで背筋が凍る
目があったらなんとかバトルみたいに出会ったらデスゲームは困る
暴走しなくて良かったとか思ったけどデメリットが大きすぎる
(困るんだけど。まだ死にたくない)
(まぁ仕方ないね。でも君、死にたくたくても死ねないよ)
(いつからそんな不死身に……)
待てよ。不死身?そういえば俺ナイフで刺されてあれだけ出血しときながら生きてるんだった
俺って不死身になったのか?どうやって不死身に……
その時ふと昨日のオーデンとの会話が浮かんでくる
(魔術ともう一つは内緒)
(知らないとは言わせないよ)
オーデンは超能力が2つあると言っていた
だが、もう一つは内緒だと言われた。昨日は色々ありすぎて頭が回ってなかったけど今なら分かるかも知れない
昨日オーデンが内緒と言ったのは既に体験していたからではないか?
「だから知らないとは言わせない」と言った。それなら辻褄があう
意地悪ではなかった。本当のことを言っていたんだ
(もう一つの能力って不死身?)
(ご名答。昨日はすっとぼけてたから心配したよ)
俺は老人じゃない。すっとぼけてなんかない
昨日の状態で自分クイズ出されても分かるわけ無いだろ。しかもはじめましてだぞ。知らないやつの素性なんかわかるか
こいつとの相性最悪だ。最良なんて堂々と嘘をつけるな
(なんで一つの体に魂が2つも存在できるの?)
(それは神の魂だからこそ出来てる。人間同士なら同じ種族だから生まれる前に生き残るために同じ肉体に入った魂どうしが共食いを始める
神の魂と人間の魂は別物。相性さえよければ良いんだよ)
魂が2つ存在できるのは例外的で稀有な話ということか
それじゃあまるで今の俺の魂とオーデンの魂が共生出来てるのが奇跡みたいだ
こんなところで奇跡起こしたくない
(なんで神の魂が入った体は死ぬと消滅するの?)
(神の魂が入った体は人間と神の中間のような存在になる。神はエデンに住んでいてこの世のものでは無い
この世のものでは無いものが肉体に入り込むと肉体もこの世のものでは無くなる。だから消滅するんだ)
神というこの世のものではない存在が肉体に入り込むとその肉体は人間と神の中間、半神のような存在になる
異物が入った体は死ぬと消える。これも世界の摂理なのか
だから神の魂は磁石のようにお互いに引っ張られているんだろう
やはり、相性が最良のデメリット大きすぎる
(とにかく君は常に命を狙われてるって思った方が良い。気をつけないと昨日みたいな目に会うよ)
(それは困る。でも常に気をつけてたらいくら不死身でも気が持たない)
(殺し合いになったら寝るみたいな感じで意識失ってくれれば僕が戦うから)
(オーデン強いの?)
(もちろん。そこら辺の神には負けないよ)
頼もしい言葉だが嘘だったら即刻立ち退いてもらいたい
不死身でも昨日みたいな死ぬ程の苦痛を味わうのは御免だ
そこはオーデンに託すしか無い
(君はいつまで電車に乗ってるんだい。もう終点だよ)
(……詰んだ)
ついつい話し込んでしまった。気づけば次の駅で終点だ
乗った時はかなりいた人もほとんどいない
学校があるのは何駅も前だ。遅刻は避けては通れない
とりあえず先生に何ていうか考えおこう
(遅刻なんてしたことなかったのに……話し込んだせいで)
(これ僕が悪いみたいになってるけど色々聞いてきたの君だからね
言わせてもらうけど自業自得だよ)
まだ何も言ってないのに言葉で殴られた
オーデンに先手を打たれた。オーデンは今の俺にジャブがどれほどの威力か分かっていない
ダメージが大きすぎてカウンター打つ気にならない
俺は全てを失ったような気分で学校へ向かった
学校につき教室に入った頃には一時間目はとっくに始まっていた
今日の一時間目は体育のようで教室には誰もいなかった。運動は嫌いだから行きたくない
誰もいないならゆっくり準備しても構わないだろうと思いのんびりしていた
突然、後ろの方でガラガラと扉の開く音がして慌てて振り返ると学生鞄を持った女子がいた
彼女は同じクラスの鹿島茜。薄い紫色の髪を肩まで伸ばし、髪と同じ色をした紫色の瞳、小さな鼻、艶のある唇、スラッとした体型。モデルのような容姿をしている。クラスに馴染めていない俺でも名前くらいは分かる
彼女は誰がどう見ても美人。美人だが普段は物静かで人と話しているところを見たことがない
鹿島は俺のことを見定めるように見てきた。そして俺に目を合わせることもなく自分の席に着いた
彼女は一時間目が始まっているというのに席につくとスマホをいじり出した
授業に行く気は無いらしい。そもそもなんで遅れたんだ?俺みたいにオーデンが住んでるわけでもないだろう
鹿島からは不思議な気配を感じる。近寄りがたいような雰囲気が出ている。美貌からくる神秘的なものなのかもしれない
ゆっくり準備をしていたら一時間目の終了を告げるチャイムが鳴った
急いで準備をしていたとしても大して授業に参加できなかっただろう
遅刻してしまった日の一時間目が体育は不幸中の幸いだ
「昼休み、屋上に来て」
休み時間のためスマホを触ろうとするといつの間にか鹿島が目の前に立っていた
急に話しかけられたため動揺したが平然さを装った
鹿島は一言だけ言うと自分の席に戻ろうとしたので慌てて引き止め理由を問いただそうとした
「なんで?」
こちらが問いかけても鹿島は振り向くことなく自分の席に戻った
昼休みに屋上へ来いって言っていた
俺に何の用があるのかは分からない。行ってみないと分からないことだ
それは分かっているのだが頭から離れない
(祐伸君の知り合い?)
(同じクラスの鹿島茜。話したこともないのにどうして突然…)
(……用心しなよ。何が起こるか分からないからね)
鹿島がそんな危険人物であるような気はしない
俺の目にはいつも通りの寡黙で近寄りがたい鹿島にしか見えなかった
二人っきりの教室のはずなのだが重い空気が立ち込めており肩身が狭かった
クラスメイトが戻ってくるといきなり現れた俺と鹿島に驚き視線を送ってきたがそのほとんどは鹿島に向けられていた
クラスの目を集める彼女が俺に何の用があるのか昼休みまでの間、俺の頭から離れなかった
授業に身が入らず、昼休みになっても何の用で呼ばれたのか検討もつかなかった
俺は言われた通り、昼休みのチャイムが鳴ると屋上に向かった
屋上は昼休みと放課後に開放される。落下することがないように厳重に柵が張り巡らされている
開放的な空間であるはずなのだが柵のせいで封鎖的な空間のように感じてしまう
屋上につながる扉を開けると強風が流れ込んできた
あまりの強さにひるんだが風を押しのけ屋上へ出る。空は青く澄んでおり、太陽がギラギラと光っている
屋上には既に鹿島がスマホを触って待っていた。その姿で本当に俺を待っていたんだと自覚する
「あなた、宿してるわよね」
「何のこと?」
「とぼけないでくれる?」
宿してる。この言葉が何を指すのか具体的には分からないがだいたい何のことを言ってるのかは理解できる
オーデンの言っていたことは素直に聞いておいた方が良かったかも知れない
鹿島の美しい顔立ちが返って不気味なほど整っているように思え、畏怖すら感じさせる
「とぼけるなら力ずくでやるしかないわね」
(マズイ状況っていう認識で合ってるよね)
(うん。めちゃくちゃマズイよ。彼女、戦闘モードになってるからね)
(どうすればいいの!!)
(意識失ってくれないとどうにも僕には出来ない)
(無茶言うな!!)
(とりあえず攻撃来たら避けるしかないね)
出来るか‼!
まともに運動できない俺がそんな高度なこと出来るか
ドッジボールの球ですら避けれないんだぞ
「話し合えば分かる!」
「知るか。ここでお前は死ぬ」
鹿島の瞳の色が髪と同じ紫から黄色に変わった
瞳の色が変わると口調も変わり、感情が消え殺意だけが残ったような口調だ。声は鹿島本人なのだが別人のように感じてしまう
鹿島は俺めがけて走ってくる。足のスピードが俺より早いため簡単に追いつかれてしまう
鹿島は俺に追いつくと背中を殴ってきた。殴られた瞬間、雷が全身を駆け巡ったかのような衝撃を受けた
(痛っ!!)
(さすがに足遅すぎるよ。全力で逃げないと)
こいつは高みの見物でもしてるのか
早く走れるコツを知ってるなら教えてくれ
俺はその後も鹿島にボコられ続けた。足の遅い俺は鹿島にとってカモだ
動くサンドバックと化した俺は体を動かす気力がなくなり壁にもたれかかった
鹿島は動かなくなった俺を見てゆっくりと近づいてくる
痛い。殴られる痛みはナイフで刺されるのとは違った鈍い痛みがする
鹿島は目の前まで来ると拳を振りかぶる変わりに手を地面にかざす。すると魔法陣が浮かび上がり、そこから2mはあろうかという剣が出てくる。その剣を取り出すと両手で握り大きく振りかぶった
俺はまた死ぬのかと覚悟し、剣が当たる数センチ前で俺の意識は飛んだ
「これで終わりだ」
「戻りましょ。屋上に用はないわ」
屋上に人が刃物で切られる鈍い音がしたが強風がかき消した
鹿島の瞳は黄色からもとの紫色に戻っていた。持っていた大剣も消えていた
祐伸は壁にもたれかかったままだ。切られた傷跡が乱暴に赤い絵の具で塗られたように真っ赤で、口も端から血を流している
目からは光がなくなり、全身の力が抜けたようにぐったりとしていた
だが次の瞬間には傷跡がみるみる治り、出血も収まっていた。髪が黒から色が抜け白に変わり、左目の輝きが戻り右目には眼帯がつけられている
ありえない光景だがこの人物ならどうってことはない
「随分痛めつけてくれたじゃん」
「!!
あなたなんで生きてるの……!?」
「生きてて悪いね。でもやられた分はしっかり返させてもらうよ」
鹿島は狐につつまれた様子であった
それもそのはずだ。壁にもたれかかり死んだはずの人間が生き返って立っている
彼女にとってありえない光景が広がっているのだ
あの子、予想通りのリアクションをしてくれたね。僕はそういうの嫌いじゃない
「第二ラウンドと行こうか」
祐伸君がボコボコにされるのを見てこいつの戦い方はだいたい分かった
スピードを生かした格闘タイプ。間合いに入ると一気に叩かれる。あの剣はヤバい予感しかしない
剣を使ってくる前にボコボコにしておきたい
祐伸君には悪いことをしたけど意識を失ってくれないと体を動かせないから仕方ないよね
祐伸君が味わった痛みの分だけはきっちり受けてもらおうか。殺すのはやりすぎだけど
「出てきたか。小細工をするとは姑息な」
鹿島の瞳の色が黄色に変わると口調も変わる。そして手を下にかざし現れた魔法陣から剣を取り出す
いきなり剣を使ってくるか。エグいな
少し予定は崩れたけどこれくらいどうってことはない
さっさと片付けて終わらせる
「我が名は建御雷神。この神剣、韴霊剣で斬り伏せてくれる」
「丁寧な自己紹介ありがとう。俺はオーデン。以後お見知りおきを」
二人の神は互いににらみ合い、間合いを取る
先手を打ったのは建御雷神だった。2mはある剣を軽々と持っていながら驚異的なスピードでオーデンに接近する
接近すると韴霊剣を豪快に振るうがオーデンは軽い身のこなしで避ける。韴霊剣が地面を叩きつける。叩かれた場所は一撃で大きく凹んだ。だが次の瞬間には凹んだ場所は綺麗になっていた
真昼、学校の屋上で人の姿をした神による殺し合いが始まった
「崩壊」
オーデンの指先から放たれた魔法が韴霊剣に当たるがビクともしない
建御雷神は魔法など関係なしに距離を詰めてくる。オーデンも異次元のタフさには呆れていた
おいおい……当たった武器を粉砕させる魔法がクリーンヒットしてもあの剣ビクともしてないな。どうなってんだよあの剣
しかも、魔法が完璧に当たってるのにもろともせず突撃してくるとはね……
それにあれだけ大きな剣を振り回しておいて汗ひとつかいてないのか。日本の神はイカれてるな
「いつまで勝負続ける気だ?」
「愚問……!どちらかが尽きるまで!!」
「殺し合いなんかやってる場合か!!
創造・剣、炎付与」
オーデンは手のひらに魔法陣を浮かばせると建御雷神同様に剣を取り出す。韴霊剣ほどではないがこちらも大剣である
韴霊剣とオーデンの炎剣が激しく火花を散らしてぶつかり合う
最初は拮抗していたがオーデンが少しずつ力で負け始め、建御雷神がオーデンごと剣を吹き飛ばす
ふっ飛ばされたオーデンもふっ飛ばした建御雷神も笑っている。この戦いを両者は楽しんでいる
さすがに近距離戦だと力負けするか。剣は同じくらいの格だと思うんだけどな
でも、そろそろこれまで散々喰らった魔法ダメージが蓄積してくるはずだ
「!!
体が動かない!?」
「魔法のダメージがやっと出てきたか、何発魔法喰らえば済むんだよ。怪物君
でも、これで終わりだ……zzz」
魔法によるダメージが限界を迎えた建御雷神はその場にかがみ込む
とどめを刺そうとオーデンが剣を振り上げるがその剣が振り下ろされることはなく眠りについてしまった
オーデンの持っていた剣は消滅し、前に崩れるように倒れる。そしてオーデンの象徴である白髪が黒髪に変化し、眼帯もなくなる
建御雷神は最後の力を振り絞って剣を振り上げたがオーデン同様に眠りについてしまった
持っていた韴霊剣は消滅し、瞳の色も鹿島本来の紫色に戻った
「生きてる……良かったぁ」
「なんで生きてるの……!!」
眠りについた両者が起き上がるのはほぼ同時だった
祐伸は生きてることに安堵し、鹿島は祐伸が生きてる事に絶叫する
俺が目を覚ますと屋上に来たときと同じ景色が広がっていた。太陽はまだギラギラと輝いている
午前しか過ごしていないのに、一日が終わったような疲労が溜まっている
「何があったんだ?」
「それは私も知らない。でも、あなたの神と私の神が戦ったはず
結果、二人とも生きてる。勝負は引き分け」
鹿島は知らないことを知っているかのように淡々と告げる
表情は崩さずいつも見る表情のままであった
あんな大きい剣を持った神と引き分けたのか
オーデンって本当に強いんだ。でも戦ったのなら屋上が無傷なのはおかしくないか
「屋上が無傷だから戦ってないんじゃないか?」
「神の力の影響を受けたものは損壊するけど、時間が経てば元に戻るのよ。生物以外だけれど
この世に存在しない力の影響を消し去ろうとする世界の修正力が働くから無傷になってるだけよ」
世界の修正力によって屋上は無傷になっている。なんで生物以外なのかは分からない
世界の力って神より強いのではないか
神が磁石のようにお互いが引っ張られるのも世界の力だとオーデンも言っていた
世界って何なんだ?
「建御雷神が返事をしない……
あなたの神は?」
鹿島は自分都合で話を進める。気になったことがあったが聞く間すら与えてくれない
そういえばオーデンの声を聞いていない
あいつなら目を覚ませば声くらいかけると思うんだが何もない
オーデンに呼びかけてみるが全て独り言で終わってしまう
オーデンは何してるんだ?
「ダメだ。返事しない」
「これじゃあ何も出来ないわね」
「何も出来ないって?」
「あなたを殺せないでしょ」
「なんで殺す?
自我はしっかり持ってる。暴走もしてない」
俺を殺してどうする。本当に始末しないといけないのは、自我を失い暴走してる神じゃないのか
自我がある者同士で殺し合って何になるんだ
「神は世界に一体でいいの」
「だからって……今やってるのは同士討ちみたいなものだろ?」
「同士討ち……
味方のつもり?」
「殺し合う必要なんかないだろ。暴走してる神だけを殺せばよくないか?」
「その後は?
自我を持った者どうしで殺し合うの?」
「違う。なんで殺し合いたがるんだよ」
「……あなた何も知らないのね」
鹿島はそう言うと屋上から出ていった
彼女の背中に最後の言葉を聞いたが返事はおろか振り向くことすらしなかった
なんで殺し合いたがるんだ。正常な者同士で殺し合って何になるんだよ
協力を知らないのか?それとも人が信用できないのか?
今日も色々あった。帰ってからもやらないといけないことはある
オーデンが返事をしないのが気になるけどここで待っても仕方ない
授業を受けながら待つしか無い
俺は教室に戻り、残りの授業を受けたが疲労から授業に身が入らなかった
先生の声が耳を通り抜け、頭に入っていかない
刻々と書かれていく黒板の文字を魂がぬけたように眺めていた
嵐のように現れ、そして留まる。自分の体の中にもう一つの人格、神格というべきかもしれないが、それがあると変に意識してしまう
オーデンから日々の俺はどう見えてるのか、余計なことを考えずにはいられなくなってしまった
(電車って便利だねぇー)
オーデンはこうやって頭の中で話しかけてくる。このせいで意識せざるを得ないのだ
オーデンと初めて会った昨日から頭の中で声をかけてくる
喋りかけるなと何度も言ったのだが聞く耳を持たない。神は気まぐれと聞いたことがあるがその通りだ
オーデンと俺はこの体を共有して生きている。そのため五感も共有されている
俺が今見ている電車内の景色もこいつには見えている。電車の走る音も、匂いもこいつは感じている
(朝から話しかけてくるのしんどいからやめて)
(朝から仲良く行こうよ)
このテンションだ。付き合う方の身にもなってほしい
話しかけてくる声が明るい。それが気分を害する
人を知ることから始めてくれと切実に願う
(動機が幼稚。この時間じゃなくてもいい)
(常日頃からコミュニケーションを取っておかないといざという時にどうにもならないよ)
オーデンの「いざという時」が妙に引っかかった
それはどんな時なのか。そのために朝から話しかけているのか
(いざという時?)
(祐伸君は忘れかけているけど君、昨日死にかけたよね)
(⁉)
オーデンの言う通り、俺は昨日殺されかけた
しかし俺は生きている。夢かと思いこんでいたが違うのか
あの後俺を刺した犯人はどこかへ消えた
犯人のことをオーデンは知っているのか
(ああいうことがこれから起きるかもしれない。そのためにコミュニケーションを取っておくのは必要だよ)
(俺を刺した犯人はどうなった?)
(僕が始末しておいたよ)
始末、つまりオーデンが殺したということか?
でもどうやって殺したんだ
始末とは言ったがその言葉はさらに俺の疑問を生んだ
(どうやって?)
(君が寝てる間に体を借りてさっと始末したよ)
体を借りて始末した。俺の体が犯人を殺したということだ
俺は間接的に犯罪を犯したのか?死体が見つかれば俺はどうなる
俺の人格は犯罪を犯してはいないが、体は犯罪を犯した
冤罪だといっても逃れる術はない。捕まれば終わりだ
不安が恐怖を駆り立てる。体が得体の知れない恐怖に支配され震えが止まらなくなる
(死体が見つかったら俺は…)
(その心配はない。死体なら既に消えてるよ)
どうやって死体を消したんだ?死体が見つからないなら完全犯罪の完成だ
捕まることは無いだろう。それだけでも俺の体の震えはだいぶ収まった
だが、殺人を犯したことには変わりない。俺の手はこんなにも早く汚れた
(薬品でも使った?)
(そんなもの使わなくても消えたよ)
(どうして?)
(あいつも僕と同じ神の魂が入ってた)
神の魂という言葉に一瞬眉をひそめる
オーデンは僕と同じと言った。つまり俺の体の中にもオーデンの魂が入ってるということだ
(神の魂?どういうこと?)
(そこからだね。昨日は説明省いちゃったけど詳しく話そうか)
(まず、今のこの体の状態を説明すると祐伸君の魂と僕の魂が2つ存在するんだ。体の支配権を持っているのは祐伸君の魂。僕は体を動かすことは基本的には出来ない
でも君が意識を失ったりすると体の支配権が一時的にこちらに移る。昨日は君が気絶したから僕に支配権が一時的に移った。その間に犯人を始末した
あの人間にも同じように神の魂が存在していた。神の魂が存在する体は死ぬと消滅する。だから死体は消えたよ)
かなり要約されていたがなんとなくは分かった気になった
つまり俺が気絶していた間にオーデンが俺の体を使って犯人を殺した
そして犯人の体にも神の魂が存在していたため死体は残ることなく消えた
この体が殺人を犯したのは事実だ。これは受け止めなくてはならない
だが疑問が残る。なぜ、神の魂が存在しているのに襲われたのか。助からないと思ったが、なぜ助かったのか
そもそも一つの体に魂が2つ存在することが出来るのか。そしてなぜ神の魂が入った体は死ぬと消滅するのか
(なんで犯人にも神の魂が存在してるのに襲われたの?)
(魂にも相性がある。相性がよければお互いに自我を保てる。だけど相性が最悪ならお互いの自我は消え、力の強い神の魂が元々存在していた魂を喰らい一つの魂になる
そして自我を失った神の魂が肉体の支配権を握り超能力を持った人間が暴れまわる
あの人間の魂は入ってきた神の魂と相性が最悪だった。その結果、ああいう形で暴走してしまった。ちなみに僕達の相性は最良だよ)
最後の一言は余計だから聞かなかったことにしておこう。相性が悪すぎた結果、暴走した。あの犯人の人も被害者になるのか
勝手に入ってきた魂のせいで自我を失い最終的には死を迎えた。俺のこの状況は運が良かった
(他の人に被害は出てないの?)
(それは心配しなくていい。あいつは神の魂が存在してる人間しか狙ってなかった
たまに一般人にも害を出すやつもいるけど、ほとんどは神の魂が存在してる人間しか狙わない)
(なんで?)
(神の魂は磁石みたいにお互いに引っ張られるんだ。この世界に神は一体でいいという世界の摂理だ
そのおかげで自我を保ってる人間と出会っても殺し合いになることもある)
困る。困る。困るしか言葉がない
というかオーデンの言葉通りなら狙われる原因はお前のせいだ。害悪が自分の体にいると想像しただけで背筋が凍る
目があったらなんとかバトルみたいに出会ったらデスゲームは困る
暴走しなくて良かったとか思ったけどデメリットが大きすぎる
(困るんだけど。まだ死にたくない)
(まぁ仕方ないね。でも君、死にたくたくても死ねないよ)
(いつからそんな不死身に……)
待てよ。不死身?そういえば俺ナイフで刺されてあれだけ出血しときながら生きてるんだった
俺って不死身になったのか?どうやって不死身に……
その時ふと昨日のオーデンとの会話が浮かんでくる
(魔術ともう一つは内緒)
(知らないとは言わせないよ)
オーデンは超能力が2つあると言っていた
だが、もう一つは内緒だと言われた。昨日は色々ありすぎて頭が回ってなかったけど今なら分かるかも知れない
昨日オーデンが内緒と言ったのは既に体験していたからではないか?
「だから知らないとは言わせない」と言った。それなら辻褄があう
意地悪ではなかった。本当のことを言っていたんだ
(もう一つの能力って不死身?)
(ご名答。昨日はすっとぼけてたから心配したよ)
俺は老人じゃない。すっとぼけてなんかない
昨日の状態で自分クイズ出されても分かるわけ無いだろ。しかもはじめましてだぞ。知らないやつの素性なんかわかるか
こいつとの相性最悪だ。最良なんて堂々と嘘をつけるな
(なんで一つの体に魂が2つも存在できるの?)
(それは神の魂だからこそ出来てる。人間同士なら同じ種族だから生まれる前に生き残るために同じ肉体に入った魂どうしが共食いを始める
神の魂と人間の魂は別物。相性さえよければ良いんだよ)
魂が2つ存在できるのは例外的で稀有な話ということか
それじゃあまるで今の俺の魂とオーデンの魂が共生出来てるのが奇跡みたいだ
こんなところで奇跡起こしたくない
(なんで神の魂が入った体は死ぬと消滅するの?)
(神の魂が入った体は人間と神の中間のような存在になる。神はエデンに住んでいてこの世のものでは無い
この世のものでは無いものが肉体に入り込むと肉体もこの世のものでは無くなる。だから消滅するんだ)
神というこの世のものではない存在が肉体に入り込むとその肉体は人間と神の中間、半神のような存在になる
異物が入った体は死ぬと消える。これも世界の摂理なのか
だから神の魂は磁石のようにお互いに引っ張られているんだろう
やはり、相性が最良のデメリット大きすぎる
(とにかく君は常に命を狙われてるって思った方が良い。気をつけないと昨日みたいな目に会うよ)
(それは困る。でも常に気をつけてたらいくら不死身でも気が持たない)
(殺し合いになったら寝るみたいな感じで意識失ってくれれば僕が戦うから)
(オーデン強いの?)
(もちろん。そこら辺の神には負けないよ)
頼もしい言葉だが嘘だったら即刻立ち退いてもらいたい
不死身でも昨日みたいな死ぬ程の苦痛を味わうのは御免だ
そこはオーデンに託すしか無い
(君はいつまで電車に乗ってるんだい。もう終点だよ)
(……詰んだ)
ついつい話し込んでしまった。気づけば次の駅で終点だ
乗った時はかなりいた人もほとんどいない
学校があるのは何駅も前だ。遅刻は避けては通れない
とりあえず先生に何ていうか考えおこう
(遅刻なんてしたことなかったのに……話し込んだせいで)
(これ僕が悪いみたいになってるけど色々聞いてきたの君だからね
言わせてもらうけど自業自得だよ)
まだ何も言ってないのに言葉で殴られた
オーデンに先手を打たれた。オーデンは今の俺にジャブがどれほどの威力か分かっていない
ダメージが大きすぎてカウンター打つ気にならない
俺は全てを失ったような気分で学校へ向かった
学校につき教室に入った頃には一時間目はとっくに始まっていた
今日の一時間目は体育のようで教室には誰もいなかった。運動は嫌いだから行きたくない
誰もいないならゆっくり準備しても構わないだろうと思いのんびりしていた
突然、後ろの方でガラガラと扉の開く音がして慌てて振り返ると学生鞄を持った女子がいた
彼女は同じクラスの鹿島茜。薄い紫色の髪を肩まで伸ばし、髪と同じ色をした紫色の瞳、小さな鼻、艶のある唇、スラッとした体型。モデルのような容姿をしている。クラスに馴染めていない俺でも名前くらいは分かる
彼女は誰がどう見ても美人。美人だが普段は物静かで人と話しているところを見たことがない
鹿島は俺のことを見定めるように見てきた。そして俺に目を合わせることもなく自分の席に着いた
彼女は一時間目が始まっているというのに席につくとスマホをいじり出した
授業に行く気は無いらしい。そもそもなんで遅れたんだ?俺みたいにオーデンが住んでるわけでもないだろう
鹿島からは不思議な気配を感じる。近寄りがたいような雰囲気が出ている。美貌からくる神秘的なものなのかもしれない
ゆっくり準備をしていたら一時間目の終了を告げるチャイムが鳴った
急いで準備をしていたとしても大して授業に参加できなかっただろう
遅刻してしまった日の一時間目が体育は不幸中の幸いだ
「昼休み、屋上に来て」
休み時間のためスマホを触ろうとするといつの間にか鹿島が目の前に立っていた
急に話しかけられたため動揺したが平然さを装った
鹿島は一言だけ言うと自分の席に戻ろうとしたので慌てて引き止め理由を問いただそうとした
「なんで?」
こちらが問いかけても鹿島は振り向くことなく自分の席に戻った
昼休みに屋上へ来いって言っていた
俺に何の用があるのかは分からない。行ってみないと分からないことだ
それは分かっているのだが頭から離れない
(祐伸君の知り合い?)
(同じクラスの鹿島茜。話したこともないのにどうして突然…)
(……用心しなよ。何が起こるか分からないからね)
鹿島がそんな危険人物であるような気はしない
俺の目にはいつも通りの寡黙で近寄りがたい鹿島にしか見えなかった
二人っきりの教室のはずなのだが重い空気が立ち込めており肩身が狭かった
クラスメイトが戻ってくるといきなり現れた俺と鹿島に驚き視線を送ってきたがそのほとんどは鹿島に向けられていた
クラスの目を集める彼女が俺に何の用があるのか昼休みまでの間、俺の頭から離れなかった
授業に身が入らず、昼休みになっても何の用で呼ばれたのか検討もつかなかった
俺は言われた通り、昼休みのチャイムが鳴ると屋上に向かった
屋上は昼休みと放課後に開放される。落下することがないように厳重に柵が張り巡らされている
開放的な空間であるはずなのだが柵のせいで封鎖的な空間のように感じてしまう
屋上につながる扉を開けると強風が流れ込んできた
あまりの強さにひるんだが風を押しのけ屋上へ出る。空は青く澄んでおり、太陽がギラギラと光っている
屋上には既に鹿島がスマホを触って待っていた。その姿で本当に俺を待っていたんだと自覚する
「あなた、宿してるわよね」
「何のこと?」
「とぼけないでくれる?」
宿してる。この言葉が何を指すのか具体的には分からないがだいたい何のことを言ってるのかは理解できる
オーデンの言っていたことは素直に聞いておいた方が良かったかも知れない
鹿島の美しい顔立ちが返って不気味なほど整っているように思え、畏怖すら感じさせる
「とぼけるなら力ずくでやるしかないわね」
(マズイ状況っていう認識で合ってるよね)
(うん。めちゃくちゃマズイよ。彼女、戦闘モードになってるからね)
(どうすればいいの!!)
(意識失ってくれないとどうにも僕には出来ない)
(無茶言うな!!)
(とりあえず攻撃来たら避けるしかないね)
出来るか‼!
まともに運動できない俺がそんな高度なこと出来るか
ドッジボールの球ですら避けれないんだぞ
「話し合えば分かる!」
「知るか。ここでお前は死ぬ」
鹿島の瞳の色が髪と同じ紫から黄色に変わった
瞳の色が変わると口調も変わり、感情が消え殺意だけが残ったような口調だ。声は鹿島本人なのだが別人のように感じてしまう
鹿島は俺めがけて走ってくる。足のスピードが俺より早いため簡単に追いつかれてしまう
鹿島は俺に追いつくと背中を殴ってきた。殴られた瞬間、雷が全身を駆け巡ったかのような衝撃を受けた
(痛っ!!)
(さすがに足遅すぎるよ。全力で逃げないと)
こいつは高みの見物でもしてるのか
早く走れるコツを知ってるなら教えてくれ
俺はその後も鹿島にボコられ続けた。足の遅い俺は鹿島にとってカモだ
動くサンドバックと化した俺は体を動かす気力がなくなり壁にもたれかかった
鹿島は動かなくなった俺を見てゆっくりと近づいてくる
痛い。殴られる痛みはナイフで刺されるのとは違った鈍い痛みがする
鹿島は目の前まで来ると拳を振りかぶる変わりに手を地面にかざす。すると魔法陣が浮かび上がり、そこから2mはあろうかという剣が出てくる。その剣を取り出すと両手で握り大きく振りかぶった
俺はまた死ぬのかと覚悟し、剣が当たる数センチ前で俺の意識は飛んだ
「これで終わりだ」
「戻りましょ。屋上に用はないわ」
屋上に人が刃物で切られる鈍い音がしたが強風がかき消した
鹿島の瞳は黄色からもとの紫色に戻っていた。持っていた大剣も消えていた
祐伸は壁にもたれかかったままだ。切られた傷跡が乱暴に赤い絵の具で塗られたように真っ赤で、口も端から血を流している
目からは光がなくなり、全身の力が抜けたようにぐったりとしていた
だが次の瞬間には傷跡がみるみる治り、出血も収まっていた。髪が黒から色が抜け白に変わり、左目の輝きが戻り右目には眼帯がつけられている
ありえない光景だがこの人物ならどうってことはない
「随分痛めつけてくれたじゃん」
「!!
あなたなんで生きてるの……!?」
「生きてて悪いね。でもやられた分はしっかり返させてもらうよ」
鹿島は狐につつまれた様子であった
それもそのはずだ。壁にもたれかかり死んだはずの人間が生き返って立っている
彼女にとってありえない光景が広がっているのだ
あの子、予想通りのリアクションをしてくれたね。僕はそういうの嫌いじゃない
「第二ラウンドと行こうか」
祐伸君がボコボコにされるのを見てこいつの戦い方はだいたい分かった
スピードを生かした格闘タイプ。間合いに入ると一気に叩かれる。あの剣はヤバい予感しかしない
剣を使ってくる前にボコボコにしておきたい
祐伸君には悪いことをしたけど意識を失ってくれないと体を動かせないから仕方ないよね
祐伸君が味わった痛みの分だけはきっちり受けてもらおうか。殺すのはやりすぎだけど
「出てきたか。小細工をするとは姑息な」
鹿島の瞳の色が黄色に変わると口調も変わる。そして手を下にかざし現れた魔法陣から剣を取り出す
いきなり剣を使ってくるか。エグいな
少し予定は崩れたけどこれくらいどうってことはない
さっさと片付けて終わらせる
「我が名は建御雷神。この神剣、韴霊剣で斬り伏せてくれる」
「丁寧な自己紹介ありがとう。俺はオーデン。以後お見知りおきを」
二人の神は互いににらみ合い、間合いを取る
先手を打ったのは建御雷神だった。2mはある剣を軽々と持っていながら驚異的なスピードでオーデンに接近する
接近すると韴霊剣を豪快に振るうがオーデンは軽い身のこなしで避ける。韴霊剣が地面を叩きつける。叩かれた場所は一撃で大きく凹んだ。だが次の瞬間には凹んだ場所は綺麗になっていた
真昼、学校の屋上で人の姿をした神による殺し合いが始まった
「崩壊」
オーデンの指先から放たれた魔法が韴霊剣に当たるがビクともしない
建御雷神は魔法など関係なしに距離を詰めてくる。オーデンも異次元のタフさには呆れていた
おいおい……当たった武器を粉砕させる魔法がクリーンヒットしてもあの剣ビクともしてないな。どうなってんだよあの剣
しかも、魔法が完璧に当たってるのにもろともせず突撃してくるとはね……
それにあれだけ大きな剣を振り回しておいて汗ひとつかいてないのか。日本の神はイカれてるな
「いつまで勝負続ける気だ?」
「愚問……!どちらかが尽きるまで!!」
「殺し合いなんかやってる場合か!!
創造・剣、炎付与」
オーデンは手のひらに魔法陣を浮かばせると建御雷神同様に剣を取り出す。韴霊剣ほどではないがこちらも大剣である
韴霊剣とオーデンの炎剣が激しく火花を散らしてぶつかり合う
最初は拮抗していたがオーデンが少しずつ力で負け始め、建御雷神がオーデンごと剣を吹き飛ばす
ふっ飛ばされたオーデンもふっ飛ばした建御雷神も笑っている。この戦いを両者は楽しんでいる
さすがに近距離戦だと力負けするか。剣は同じくらいの格だと思うんだけどな
でも、そろそろこれまで散々喰らった魔法ダメージが蓄積してくるはずだ
「!!
体が動かない!?」
「魔法のダメージがやっと出てきたか、何発魔法喰らえば済むんだよ。怪物君
でも、これで終わりだ……zzz」
魔法によるダメージが限界を迎えた建御雷神はその場にかがみ込む
とどめを刺そうとオーデンが剣を振り上げるがその剣が振り下ろされることはなく眠りについてしまった
オーデンの持っていた剣は消滅し、前に崩れるように倒れる。そしてオーデンの象徴である白髪が黒髪に変化し、眼帯もなくなる
建御雷神は最後の力を振り絞って剣を振り上げたがオーデン同様に眠りについてしまった
持っていた韴霊剣は消滅し、瞳の色も鹿島本来の紫色に戻った
「生きてる……良かったぁ」
「なんで生きてるの……!!」
眠りについた両者が起き上がるのはほぼ同時だった
祐伸は生きてることに安堵し、鹿島は祐伸が生きてる事に絶叫する
俺が目を覚ますと屋上に来たときと同じ景色が広がっていた。太陽はまだギラギラと輝いている
午前しか過ごしていないのに、一日が終わったような疲労が溜まっている
「何があったんだ?」
「それは私も知らない。でも、あなたの神と私の神が戦ったはず
結果、二人とも生きてる。勝負は引き分け」
鹿島は知らないことを知っているかのように淡々と告げる
表情は崩さずいつも見る表情のままであった
あんな大きい剣を持った神と引き分けたのか
オーデンって本当に強いんだ。でも戦ったのなら屋上が無傷なのはおかしくないか
「屋上が無傷だから戦ってないんじゃないか?」
「神の力の影響を受けたものは損壊するけど、時間が経てば元に戻るのよ。生物以外だけれど
この世に存在しない力の影響を消し去ろうとする世界の修正力が働くから無傷になってるだけよ」
世界の修正力によって屋上は無傷になっている。なんで生物以外なのかは分からない
世界の力って神より強いのではないか
神が磁石のようにお互いが引っ張られるのも世界の力だとオーデンも言っていた
世界って何なんだ?
「建御雷神が返事をしない……
あなたの神は?」
鹿島は自分都合で話を進める。気になったことがあったが聞く間すら与えてくれない
そういえばオーデンの声を聞いていない
あいつなら目を覚ませば声くらいかけると思うんだが何もない
オーデンに呼びかけてみるが全て独り言で終わってしまう
オーデンは何してるんだ?
「ダメだ。返事しない」
「これじゃあ何も出来ないわね」
「何も出来ないって?」
「あなたを殺せないでしょ」
「なんで殺す?
自我はしっかり持ってる。暴走もしてない」
俺を殺してどうする。本当に始末しないといけないのは、自我を失い暴走してる神じゃないのか
自我がある者同士で殺し合って何になるんだ
「神は世界に一体でいいの」
「だからって……今やってるのは同士討ちみたいなものだろ?」
「同士討ち……
味方のつもり?」
「殺し合う必要なんかないだろ。暴走してる神だけを殺せばよくないか?」
「その後は?
自我を持った者どうしで殺し合うの?」
「違う。なんで殺し合いたがるんだよ」
「……あなた何も知らないのね」
鹿島はそう言うと屋上から出ていった
彼女の背中に最後の言葉を聞いたが返事はおろか振り向くことすらしなかった
なんで殺し合いたがるんだ。正常な者同士で殺し合って何になるんだよ
協力を知らないのか?それとも人が信用できないのか?
今日も色々あった。帰ってからもやらないといけないことはある
オーデンが返事をしないのが気になるけどここで待っても仕方ない
授業を受けながら待つしか無い
俺は教室に戻り、残りの授業を受けたが疲労から授業に身が入らなかった
先生の声が耳を通り抜け、頭に入っていかない
刻々と書かれていく黒板の文字を魂がぬけたように眺めていた
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