48 / 200
48 慈善活動?
しおりを挟む
週明け。
授業の合間の休み時間に、週末に起きた街での出来事を二人に話して聞かせた。
すると、ベアトリスが意外な人物の通り名を口にしたのだ。
「それってもしかしたら、光の乙女が関係してるかもしれないわよ」
「光の乙女って、プリシラ・ウェブスターの事か?」
アイザックの問いに、ベアトリスは頷きを返す。
「そう。
どうやら彼女、最近やけに慈善活動に熱心に取り組んでいるらしいのよねぇ」
「入学する前は、平民にも積極的に治癒を施しているって噂を聞きましたけど」
「そうらしいけど、最近では市井で治癒をする事は少なくて、その代わり孤児院に寄付やお菓子の差し入れをしたり、貧民街での炊き出しなんかも計画しているらしいわよ」
「ああ、差し入れ用のお菓子をカフェで調達したって事ですか?
でも、事前の予約も無しに、店の商品を買い占めるだなんて……」
週末の出来事だという事もあって、私達と同じ様に臨時休業を知らずに来店した客も少なくないはずだ。
その客達の一部は、店に対してマイナスのイメージを持ったかもしれない。
オーナーは喜んでいたと聞くが、今回の様な事を何度も繰り返せば、既存の客が離れてしまうだろう。
いくらボランティアの為でも、プリシラの場当たり的な行動は誉められた物ではない。
「そうね。
きっと、深く考えていないのよ」
ベアトリスの言葉にも、微かな不快感が滲んでいた。
「買い占めも良くないが、そもそもメイジーズカフェの菓子は孤児院への差し入れには向かないだろう?」
アイザックが疑問を呈する。
メイジーズカフェがあるのは、賑わいの中心からは少しだけ外れた場所だ。
そこは、隣の花屋みたいに素朴な店舗も多く軒を連ねるエリアだが、メイジーズカフェはかなりの高級店である。
良質なバターやミルクや卵をふんだんに使う、オーナーの拘りが目一杯詰まった焼き菓子の数々は、富裕層のファンを増やし続け、最近では貴族の間でも手土産や贈答品として定番になりつつあった。
貧しい子供達の舌を、そんな高級菓子に慣れさせるのは色々と問題があるし、何より、買い占められたというお菓子はあまり日持ちがしない種類の物も多い。
「そうなのよ。そのせいで、私の所にも徐々に苦情がきはじめていて……」
悩まし気に溜息をつくベアトリスに、私は首を傾げる。
「ウェブスター男爵令嬢への苦情が、どうしてベアトリス様に?」
「どうやらクリスティアン殿下も、彼女と共に孤児院へ訪れているらしいの。
滅多に食べられない甘くて柔らかいお菓子に、子供達は大興奮で喜ぶのだけど、お菓子を食べた後は、いつもの安いのパンを食べなくなってしまうから、職員達はとても困っているみたいでね。
でも、ウェブスター男爵令嬢だって善意で差し入れをしてくれている訳だし、第二王子の手前もあるから、表立って文句を言う事も出来ずに……」
「それでベアトリス様に『なんとかしてくれ』という声が集まるって訳ですか」
「そういう事」
「はぁ……。
全く、相変わらず他人の仕事を増やす事しかしないな」
うんざりした様子でアイザックが吐き捨てた。
「どうせ私が言ってもクリスティアン殿下は耳を貸さないでしょうから、サディアス殿下にご相談して対応をお任せする事になったのだけど、殿下も頭を抱えていらしたわ」
ベアトリスのその判断は、とても賢明だったと思う。
何かを拗らせている様子のクリスティアン殿下が、ベアトリスの言葉を素直に聞いてくれるとは到底思えないし、事がプリシラに関連していれば益々意固地になるのは目に見えている。
王太子殿下の指導には従ってくれると良いのだけど。
それにしても、やっぱり王太子殿下も弟の愚行には頭を悩ませているのね。
貴族が孤児院に寄付をする際、クッキーなども一緒に差し入れするのは良くあるけれど、通常は普段自分達が食べている物よりも卵やバターを少なめにした、少し硬くて素朴な味わいの物をわざと用意する。
それはなにも『孤児だからこの程度で充分だろう』だなんて、彼等を軽んじているからではない。
『無闇に贅沢を覚えさせるのは彼等の為にならない』とか、『保存して何日も楽しめる様に日持ちのする物を』とか、きちんとした理由があっての選択なのだ。
(その辺りの事って、貴族子女ならばかなり幼い段階で理解するはずなのに……)
プリシラに関しては、百歩譲って世間知らずの箱入り娘なのだろうと思う事も出来るけど、第二王子のクリスティアンまでもがそんな事すら分かっていないだなんて、なんともお粗末な話である。
しかし、その慈善活動とやらの資金は、一体どこから捻出されているのだろうか?
まさか、国庫からとか言わないよね?
(なんだかこの国の未来が心配になってくるわね)
サディアス殿下が無事に王位を継いでくれれば問題はないのだが……。
実は、乙女ゲームの中では、最終的にクリスティアンが王太子になるのだ。
サディアス殿下は最初は存在を仄めかされるだけのキャラだったが、後半に犯罪組織との癒着が判明して失脚する。
そのあたりの話は、ゲーム内ではサラッと発表されるだけで詳しくは描かれていないけれど、突然王太子に指名されたクリスティアンをヒロインや仲間達が支えるのだ。
クリスティアンが権力を持てば持つほど、私の火あぶりの確率が上がるし、何よりお花畑な国王夫妻の誕生は看過できない。
サディアス殿下は評判が良い。
ヘーゼルダイン公爵家の方々やベアトリスなど、誰に聞いても悪い話が出て来ない彼が、そんな馬鹿な事をしでかすとは思えない。
もしも誰かに嵌められたのであれば、警告文を出せば失脚を阻止出来る可能性は高いだろう。
しかし、人は見掛けによらないとも言う。大抵の場合、悪人は善人みたいな顔をしているものだ。
サディアス殿下が本当に犯罪組織と繋がっている可能性も、ゼロとは言い切れない。
今の所サディアス殿下に関しては、判断材料が少な過ぎる。
本人に会ってその為人を直接確かめたい所だが、ただの伯爵令嬢である私では───。
「フィー?」
いつの間にか思考の海に深く沈み込んでしまっていた私は、自分の愛称を呼ぶ声にハッと我に返った。
授業の合間の休み時間に、週末に起きた街での出来事を二人に話して聞かせた。
すると、ベアトリスが意外な人物の通り名を口にしたのだ。
「それってもしかしたら、光の乙女が関係してるかもしれないわよ」
「光の乙女って、プリシラ・ウェブスターの事か?」
アイザックの問いに、ベアトリスは頷きを返す。
「そう。
どうやら彼女、最近やけに慈善活動に熱心に取り組んでいるらしいのよねぇ」
「入学する前は、平民にも積極的に治癒を施しているって噂を聞きましたけど」
「そうらしいけど、最近では市井で治癒をする事は少なくて、その代わり孤児院に寄付やお菓子の差し入れをしたり、貧民街での炊き出しなんかも計画しているらしいわよ」
「ああ、差し入れ用のお菓子をカフェで調達したって事ですか?
でも、事前の予約も無しに、店の商品を買い占めるだなんて……」
週末の出来事だという事もあって、私達と同じ様に臨時休業を知らずに来店した客も少なくないはずだ。
その客達の一部は、店に対してマイナスのイメージを持ったかもしれない。
オーナーは喜んでいたと聞くが、今回の様な事を何度も繰り返せば、既存の客が離れてしまうだろう。
いくらボランティアの為でも、プリシラの場当たり的な行動は誉められた物ではない。
「そうね。
きっと、深く考えていないのよ」
ベアトリスの言葉にも、微かな不快感が滲んでいた。
「買い占めも良くないが、そもそもメイジーズカフェの菓子は孤児院への差し入れには向かないだろう?」
アイザックが疑問を呈する。
メイジーズカフェがあるのは、賑わいの中心からは少しだけ外れた場所だ。
そこは、隣の花屋みたいに素朴な店舗も多く軒を連ねるエリアだが、メイジーズカフェはかなりの高級店である。
良質なバターやミルクや卵をふんだんに使う、オーナーの拘りが目一杯詰まった焼き菓子の数々は、富裕層のファンを増やし続け、最近では貴族の間でも手土産や贈答品として定番になりつつあった。
貧しい子供達の舌を、そんな高級菓子に慣れさせるのは色々と問題があるし、何より、買い占められたというお菓子はあまり日持ちがしない種類の物も多い。
「そうなのよ。そのせいで、私の所にも徐々に苦情がきはじめていて……」
悩まし気に溜息をつくベアトリスに、私は首を傾げる。
「ウェブスター男爵令嬢への苦情が、どうしてベアトリス様に?」
「どうやらクリスティアン殿下も、彼女と共に孤児院へ訪れているらしいの。
滅多に食べられない甘くて柔らかいお菓子に、子供達は大興奮で喜ぶのだけど、お菓子を食べた後は、いつもの安いのパンを食べなくなってしまうから、職員達はとても困っているみたいでね。
でも、ウェブスター男爵令嬢だって善意で差し入れをしてくれている訳だし、第二王子の手前もあるから、表立って文句を言う事も出来ずに……」
「それでベアトリス様に『なんとかしてくれ』という声が集まるって訳ですか」
「そういう事」
「はぁ……。
全く、相変わらず他人の仕事を増やす事しかしないな」
うんざりした様子でアイザックが吐き捨てた。
「どうせ私が言ってもクリスティアン殿下は耳を貸さないでしょうから、サディアス殿下にご相談して対応をお任せする事になったのだけど、殿下も頭を抱えていらしたわ」
ベアトリスのその判断は、とても賢明だったと思う。
何かを拗らせている様子のクリスティアン殿下が、ベアトリスの言葉を素直に聞いてくれるとは到底思えないし、事がプリシラに関連していれば益々意固地になるのは目に見えている。
王太子殿下の指導には従ってくれると良いのだけど。
それにしても、やっぱり王太子殿下も弟の愚行には頭を悩ませているのね。
貴族が孤児院に寄付をする際、クッキーなども一緒に差し入れするのは良くあるけれど、通常は普段自分達が食べている物よりも卵やバターを少なめにした、少し硬くて素朴な味わいの物をわざと用意する。
それはなにも『孤児だからこの程度で充分だろう』だなんて、彼等を軽んじているからではない。
『無闇に贅沢を覚えさせるのは彼等の為にならない』とか、『保存して何日も楽しめる様に日持ちのする物を』とか、きちんとした理由があっての選択なのだ。
(その辺りの事って、貴族子女ならばかなり幼い段階で理解するはずなのに……)
プリシラに関しては、百歩譲って世間知らずの箱入り娘なのだろうと思う事も出来るけど、第二王子のクリスティアンまでもがそんな事すら分かっていないだなんて、なんともお粗末な話である。
しかし、その慈善活動とやらの資金は、一体どこから捻出されているのだろうか?
まさか、国庫からとか言わないよね?
(なんだかこの国の未来が心配になってくるわね)
サディアス殿下が無事に王位を継いでくれれば問題はないのだが……。
実は、乙女ゲームの中では、最終的にクリスティアンが王太子になるのだ。
サディアス殿下は最初は存在を仄めかされるだけのキャラだったが、後半に犯罪組織との癒着が判明して失脚する。
そのあたりの話は、ゲーム内ではサラッと発表されるだけで詳しくは描かれていないけれど、突然王太子に指名されたクリスティアンをヒロインや仲間達が支えるのだ。
クリスティアンが権力を持てば持つほど、私の火あぶりの確率が上がるし、何よりお花畑な国王夫妻の誕生は看過できない。
サディアス殿下は評判が良い。
ヘーゼルダイン公爵家の方々やベアトリスなど、誰に聞いても悪い話が出て来ない彼が、そんな馬鹿な事をしでかすとは思えない。
もしも誰かに嵌められたのであれば、警告文を出せば失脚を阻止出来る可能性は高いだろう。
しかし、人は見掛けによらないとも言う。大抵の場合、悪人は善人みたいな顔をしているものだ。
サディアス殿下が本当に犯罪組織と繋がっている可能性も、ゼロとは言い切れない。
今の所サディアス殿下に関しては、判断材料が少な過ぎる。
本人に会ってその為人を直接確かめたい所だが、ただの伯爵令嬢である私では───。
「フィー?」
いつの間にか思考の海に深く沈み込んでしまっていた私は、自分の愛称を呼ぶ声にハッと我に返った。
2,697
あなたにおすすめの小説
悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。
金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。
前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう?
私の願い通り滅びたのだろうか?
前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。
緩い世界観の緩いお話しです。
ご都合主義です。
*タイトル変更しました。すみません。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした
みゅー
恋愛
婚約者のエーリクと共に招待された舞踏会、公の場に二人で参加するのは初めてだったオルヘルスは、緊張しながらその場へ臨んだ。
会場に入ると前方にいた幼馴染みのアリネアと目が合った。すると、彼女は突然泣き出しそんな彼女にあろうことか婚約者のエーリクが駆け寄る。
そんな二人に注目が集まるなか、エーリクは突然オルヘルスに婚約破棄を言い渡す……。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新
悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。
ふまさ
恋愛
──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。
彩香だったときの思いが、ふと蘇り、フェリシアはくすりと笑ってしまった。
ありがとう、前世の記憶。おかげでわたしは、クライブ殿下を好きにならずにすんだわ。
だからあるのは、呆れと、怒りだけだった。
※『乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした』の、ifストーリーです。重なる文章があるため、前作は非公開とさせていただきました。読んでくれたみなさま、ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる