【完結】死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko

文字の大きさ
85 / 200

85 季節は巡り

しおりを挟む
 無事に王家の認可が降り、私とアイザックは晴れて正式な婚約者同士となった。
 婚約披露のパーティーも開催する予定だが、そちらは準備に時間が掛かるので、半年から一年後くらいを予定している。


 そんなこんなで忙しく過ごしている内に、いつの間にか日々は過ぎ去り……。
 新たな風が吹く、出会いと別れの季節が訪れた。


 春らしい爽やかな青空が広がる今日。
 学園では入学式が開催される。

 本来ならば在校生達はお休みなのだが、私とベアトリスはアイザックに頼まれて、生徒会のお手伝いをする為に登校していた。

「ご入学、おめでとうございます」

 会場入りする新入生一人一人に挨拶をしながら、生徒手帳に一輪の花を添えて手渡す係だ。
 と言っても、おそらく女子生徒はアイザックから、男子生徒はベアトリスから受け取りたいだろうから、私は行列の整理をしたり手帳が入った箱を開封したりと、専ら雑用係に徹していた。

「入学おめでとう」

 作り笑顔で祝いの言葉を口にするアイザックに、新入生の女子達は皆、頬を染める。

「あ、ありがとうございますっ!」

 少し震える手で手帳と花を受け取る彼女達に、ほんの少しだけ胸の奥がモヤッとした。
 思わずジト目でアイザック見ていると、視線に気付いたのか彼が急にこちらを振り返り、ヘラッと締まりのない笑みを浮かべた。

(何でそんなに嬉しそうなのよ?)

「なぁベアトリス、僕の婚約者可愛過ぎないか?」

「オフィーリアが可愛いのは知ってるけど、今は仕事をなさいよ」

 ベアトリスの苦言を無視して、アイザックは私をチョイチョイと手招きした。

「何ですか?」

「疲れて来たから、ちょっと充電」

 アイザックは近寄った私の手を取り、その指先に素早く口付けを落とす。
 列に並んだ女子生徒から黄色い悲鳴が上がった。

「なっっ!?!?」

 真っ赤な顔で固まる私の髪をひと撫でして、満足そうに微笑んだアイザックは、何事もなかったかの様に再び手帳を配り始めた。
 受け取る女子生徒達の顔は心なしか引き攣っていたけれど、彼はそんな事お構いなしだ。

 私達の遣り取りに呆れ顔で肩をすくめたベアトリスだったが、初々しい新入生達の中に見慣れた顔を見付けて表情を一変させる。

「入学おめでとう、メイナード」

 二つ年下のメイナードだが、その優秀な頭脳を見込まれ、ゲームのシナリオ通りに一年前倒しでこの学園に入学した。

「今日からよろしくお願いします。先輩」

 メイナードは揶揄う様にニヤリと笑い、姉を先輩と呼んだ。
 姉弟が微笑み合う光景は優しさに満ちていて、ゲームの中の様に殺伐とした空気は一切感じられない。

(ベアトリス、良かったねぇ)

 ほのぼのした気持ちで二人を眺めていると、不意にメイナードが私にも視線を向けた。

「オフィーリア嬢も、おめでとうございます」

「え?」

 新入生であるメイナードから逆に祝いの言葉をかけられてキョトンとしていると、ベアトリスが耳元で囁いた。

「婚約の件よ」

「あ、はい。あの……、ありがとう、ございます。
 メイナード様も、ご入学おめでとうございます」

 意味を理解したら、急激に顔が熱くなった。
 まだ私達の婚約を知る人は少ないから、祝われる機会が滅多になくて、全然慣れていないのだ。
 ちょっと挙動不審になった私を見て、メイナードが口元を覆って小さく笑う。

「フッ……。僕、アイザック様の気持ちがちょっと分かったかも」

 アイザックが急に不機嫌そうな顔になり、ベアトリスは弟を軽く睨んだ。

「死に急ぐのはやめなさいよ、メイナード」

「やだなぁ姉上、単なる一般論ですよ。
 ねぇ、アイザック様」

「ん……。ならば許す」

 会話の流れがよく分からない。
 死ぬとか死なないとか、急に物騒な単語が出て来たけど、一体なんの話なの?

 私が首を傾げている内に、メイナードは「では、また後で」と爽やかな笑顔を残し、会場となる講堂へと入って行った。





 入学式の翌日からは早速授業が始まる。

 私達の学園生活も無事に二年目に突入した。

 この学園は基本的にはクラス替えと呼ばれる制度は無いが、成績が大幅に上昇、若しくは下落した者だけがクラスを移るシステムになっているらしい。
 私は幸いにもAクラスに残留する事が出来た。
 今回も同学年の生徒の何人かはクラスを移ったと聞くが、Aクラスは全く同じメンバーである。
 私の友人や知人なども皆、初年度と同じクラスだった様だ。


 新年度が本格始動してから、メイナードは頻繁に私達の教室を訪れている。
 きっと姉を心配しているのだろう。
 メイナードは意外とベアトリスに対して過保護な部分があるらしい。

 今も、休み時間にノートを買い足しに行くベアトリスに付き添って、購買の前まで来ていた。
 購買の中は狭いので一緒に入る事はしないが、買い物中の姉の姿を入り口付近からじっと見ている。
 因みに私も同行しているのは、アイザックに『自分がいない時はベアトリス達からなるべく離れない様に』と言い含められているからだ。

「メイナード様は、お姉様思いなのですね」

 思わずクスッと笑みを漏らしながらそう言うと、彼は恥じらいからか微かに顔を顰めた。

「貴女の所のジョエル殿程ではありません。
 ですが、昔の僕は姉に対して無関心過ぎたなと、少し反省はしています。
 以前から姉と殿下の関係が益々悪化しているという話は耳にしていましたが、実際に学園内での状況を目の当たりにすると、想像を遥かに超えていました。
 しかも、殿下にいつもくっ付いている、あの令嬢……」

「ウェブスター嬢の事?」

 メイナードがプリシラの話題を出した瞬間、背中に冷たい汗が流れた。
 今の彼が姉を蔑ろにするとは到底思えないけれど、やはりゲームの内容を思い出すと無意識に体が強張る。

「ええ。彼女は何を考えているのか全く読めなくて不気味です」

「彼女と面識が有るのですか?」

 メイナードは攻略対象者である。
 入学前にヒロインと接点を持っていたとしても不思議はない。

「あれは半年位前でしょうか?
 友人に相談された事があって、その件で一度だけ話をしました。
 ウェブスター嬢とクリスティアン殿下が貧民の為の炊き出しを行っているのをご存知ですか?」

「ああ、そう言えば、そんな計画があるって以前ベアトリス様に聞いた事があります」

 あれは、プリシラが孤児院に差し入れをしているって話をした時だったか。
 ベアトリスがそんな事もチラッと言ってた気がする。

「その計画が既に何度か実行に移されているらしいのですが、それによって僕の友人の家の領地が被害を被ってしまいまして……」

 ん?
 炊き出しによる被害って、どういう事?
しおりを挟む
感想 1,006

あなたにおすすめの小説

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...