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25 花嫁修行
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《side:ルルーシア》
「ルルーシア、明日はオルグレン公爵家のお茶会ですから、今夜は早めに休みなさい」
「はい、お義母様」
平日は学園でローレンス様と一緒に過ごす時間が多いが、休日は殆ど会う事が出来ない。
ローレンス様は次期侯爵としての教育を受けるのに忙しく、私は私で侯爵家と伯爵家の二人のお義母様に連れられて、高位貴族のお茶会に参加するのに忙しい。
お茶会と言っても、楽しくお話しして美味しいお茶を頂くのが目的では無い。
出来るだけ沢山の方に紹介して貰い、将来侯爵夫人になった時に役立つ人脈を作る為。
そして、高位貴族のご令嬢やご夫人と同席させて貰う事で、その立ち居振る舞いや考え方、話術などを見て学ぶ為である。
元父は、淑女教育だけは、きちんとした家庭教師を付けて学ばせてくれた。
それは、私を金持ちと結婚させる為の先行投資に過ぎなかったのだが、今となってみれば厳しい教育を受けておいて良かった。
お陰で礼儀作法や所作については、早い段階で合格点を貰えたのだから。
勉強も好きなので、教養についても然程問題ない。
だが、圧倒的に社交の経験が足りていないし、高位貴族特有の考え方や注意点などは、一から身に付けなければならないのだ。
最近、学園の廊下を歩いていても、沢山の女生徒に挨拶される様になった。
『おはようございます、ビリンガム様』
『ごきげんよう、ビリンガム様』
一見友好的に見えるのだが、彼女達が私の味方とは限らない。
寧ろほとんどの場合、権力に阿る姿勢や、隙あらば引き摺り下ろそうとする魂胆が見え隠れしている。
貼り付けた様な笑顔で近付いて来る人々の中には、以前私を『子爵令嬢の癖に』と罵倒した女生徒も含まれていた。
あの時の女生徒達の殆どは、伯爵家のご令嬢である。
私が養女になったビリンガム家とは、爵位こそ同じだが、その中にも細かい序列があって、ビリンガム家はかつての戦争で多くの武勲を挙げ、王家の覚えも目出度い名家なのだ。
だから彼女達も、私の顔色を窺わざるを得ない。
上級生や学園の職員でさえ、私に対する態度をあからさまに変えた人もいる。
(権力って恐ろしいわね)
そんな有象無象の中から信頼出来る人物を選分け、その他は逆にこちらが上手く利用しなければならないのだ。
(高位貴族とか、向いてないんだよなぁ)
翌日のオルグレン公爵家のお茶会はとても盛大で、沢山の人と新たに知り合う事が出来た。
中には私を蔑む様な視線を送る人もいたが、概ね好意的だった様だ。
「公爵夫人、ご無沙汰しております」
お開きの時間が近付いた頃、お茶会の会場となっている庭園の入り口から、ここに居るはずが無い人の声が聞こえて来て思わず振り返った。
「まあ、ローレンス様、お久し振りですわ。
本日はどうなさったんですの?」
「突然の訪問で申し訳ありません。
最近愛する婚約者との時間がなかなか取れなかったのですが、急遽時間が空いたので我慢出来ずに彼女を迎えに参りました」
「うふふ。若いって良いですねぇ」
主催者の公爵夫人にローレンス様が小っ恥ずかしい台詞をはいていて、私の顔が真っ赤に染まった。
「ルルーシア。
早く会いたくて、迎えに来てしまった」
蕩ける様な笑みを浮かべて私に駆け寄るローレンス様に、いくつもの生温かい視線が向けられている。
「あらあら」「まあまあ」みたいなご夫人達の声があちこちから聞こえる。
居た堪れない。
私は周囲の方々と公爵夫人に辞去の挨拶をして、ローレンス様の手を取り帰路に着いた。
こういった溺愛アピールも、私が舐められない為の作戦なのかもしれない。
いや、ただ普通に、少しでも一緒に過ごしたいと思ってくれているだけかもしれないけど・・・・・・。
帰りの馬車の中で、ローレンス様が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「疲れた顔をしている。
頑張り過ぎなんじゃないか?
母達からは、既にある程度のレベルには達してると聞いた。
誰でも最初から上手くいくわけじゃないし、直ぐに完璧にならなくても、結婚してから学んでも良いと思うけど」
正直に言えばとても疲れる。
優しい言葉に甘えたくなるが、これは私が選んだ道なのだから、妥協はしたく無い。
それに・・・・・・
「ローレンス様の隣に立つのに必要な事だから、頑張りたいです。
貴方の足を引っ張る存在にはなりたく無い」
私の気持ちを伝えると、彼は頭を抱えて大きな溜息を吐いた。
「はあぁぁぁー・・・。
なんでそんなに可愛い事言うの?
凄く心配なのに、もの凄く嬉しい。
・・・・・・・・・複雑・・・・・・」
そう言って苦悩する彼が可愛く見えて、疲労を隠せなかった私の顔にも笑みが浮かんだ。
「ルルーシア、明日はオルグレン公爵家のお茶会ですから、今夜は早めに休みなさい」
「はい、お義母様」
平日は学園でローレンス様と一緒に過ごす時間が多いが、休日は殆ど会う事が出来ない。
ローレンス様は次期侯爵としての教育を受けるのに忙しく、私は私で侯爵家と伯爵家の二人のお義母様に連れられて、高位貴族のお茶会に参加するのに忙しい。
お茶会と言っても、楽しくお話しして美味しいお茶を頂くのが目的では無い。
出来るだけ沢山の方に紹介して貰い、将来侯爵夫人になった時に役立つ人脈を作る為。
そして、高位貴族のご令嬢やご夫人と同席させて貰う事で、その立ち居振る舞いや考え方、話術などを見て学ぶ為である。
元父は、淑女教育だけは、きちんとした家庭教師を付けて学ばせてくれた。
それは、私を金持ちと結婚させる為の先行投資に過ぎなかったのだが、今となってみれば厳しい教育を受けておいて良かった。
お陰で礼儀作法や所作については、早い段階で合格点を貰えたのだから。
勉強も好きなので、教養についても然程問題ない。
だが、圧倒的に社交の経験が足りていないし、高位貴族特有の考え方や注意点などは、一から身に付けなければならないのだ。
最近、学園の廊下を歩いていても、沢山の女生徒に挨拶される様になった。
『おはようございます、ビリンガム様』
『ごきげんよう、ビリンガム様』
一見友好的に見えるのだが、彼女達が私の味方とは限らない。
寧ろほとんどの場合、権力に阿る姿勢や、隙あらば引き摺り下ろそうとする魂胆が見え隠れしている。
貼り付けた様な笑顔で近付いて来る人々の中には、以前私を『子爵令嬢の癖に』と罵倒した女生徒も含まれていた。
あの時の女生徒達の殆どは、伯爵家のご令嬢である。
私が養女になったビリンガム家とは、爵位こそ同じだが、その中にも細かい序列があって、ビリンガム家はかつての戦争で多くの武勲を挙げ、王家の覚えも目出度い名家なのだ。
だから彼女達も、私の顔色を窺わざるを得ない。
上級生や学園の職員でさえ、私に対する態度をあからさまに変えた人もいる。
(権力って恐ろしいわね)
そんな有象無象の中から信頼出来る人物を選分け、その他は逆にこちらが上手く利用しなければならないのだ。
(高位貴族とか、向いてないんだよなぁ)
翌日のオルグレン公爵家のお茶会はとても盛大で、沢山の人と新たに知り合う事が出来た。
中には私を蔑む様な視線を送る人もいたが、概ね好意的だった様だ。
「公爵夫人、ご無沙汰しております」
お開きの時間が近付いた頃、お茶会の会場となっている庭園の入り口から、ここに居るはずが無い人の声が聞こえて来て思わず振り返った。
「まあ、ローレンス様、お久し振りですわ。
本日はどうなさったんですの?」
「突然の訪問で申し訳ありません。
最近愛する婚約者との時間がなかなか取れなかったのですが、急遽時間が空いたので我慢出来ずに彼女を迎えに参りました」
「うふふ。若いって良いですねぇ」
主催者の公爵夫人にローレンス様が小っ恥ずかしい台詞をはいていて、私の顔が真っ赤に染まった。
「ルルーシア。
早く会いたくて、迎えに来てしまった」
蕩ける様な笑みを浮かべて私に駆け寄るローレンス様に、いくつもの生温かい視線が向けられている。
「あらあら」「まあまあ」みたいなご夫人達の声があちこちから聞こえる。
居た堪れない。
私は周囲の方々と公爵夫人に辞去の挨拶をして、ローレンス様の手を取り帰路に着いた。
こういった溺愛アピールも、私が舐められない為の作戦なのかもしれない。
いや、ただ普通に、少しでも一緒に過ごしたいと思ってくれているだけかもしれないけど・・・・・・。
帰りの馬車の中で、ローレンス様が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「疲れた顔をしている。
頑張り過ぎなんじゃないか?
母達からは、既にある程度のレベルには達してると聞いた。
誰でも最初から上手くいくわけじゃないし、直ぐに完璧にならなくても、結婚してから学んでも良いと思うけど」
正直に言えばとても疲れる。
優しい言葉に甘えたくなるが、これは私が選んだ道なのだから、妥協はしたく無い。
それに・・・・・・
「ローレンス様の隣に立つのに必要な事だから、頑張りたいです。
貴方の足を引っ張る存在にはなりたく無い」
私の気持ちを伝えると、彼は頭を抱えて大きな溜息を吐いた。
「はあぁぁぁー・・・。
なんでそんなに可愛い事言うの?
凄く心配なのに、もの凄く嬉しい。
・・・・・・・・・複雑・・・・・・」
そう言って苦悩する彼が可愛く見えて、疲労を隠せなかった私の顔にも笑みが浮かんだ。
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