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2 父へのお願い
「お父様、婚約破棄の手続きをしてくださいませ」
挨拶をするのすら面倒になった私は、お父様の執務室に入室するなり、一言目から本題に入った。
「おいおい、突然何を言い出すんだ」
「家に利がある婚約だと思えばこそ、今まで私自身が蔑ろにされようと、苦労しようと、腹が立とうと我慢してまいりました。
しかし、あの男は駄目です。
おそらく何の役にも立ちません。
寧ろ不利益にしかならない」
お父様も、私がここまで言うからには重大な問題が起きたのだろうと感じたらしい。
「話が長くなりそうだから、座りなさい」
応接セットに移動して、ソファーに向かい合って座る。
お父様の侍従が用意してくれた温かい紅茶を一口飲んだ。
私のお気に入りのベルガモットの香り。ささくれ立っていた気持ちが少しだけ落ち着いた。
自分で思っていたより気が立っていたようだ。
「失礼しました。少し取り乱しました」
少しじゃなかった気もするが、まあ良いだろう。
「で、何があった?
今日は卒業パーティーだった筈だ。
こんなに早く帰ってくるなんて、余程の事があったのだろう?」
ええ。ありましたとも。
私は今日のパーティーでの出来事を詳細に報告した。
「貴族の婚姻は利害関係で成立する物だと言う事は、私も勿論承知しています。
私とオズワルドの間に愛などあるわけ無いですし、浮気も愛妾も認めるつもりで居りました。
しかし、何事にもやり方というものがありますでしょう?
婚姻前にも拘らず、婚約者である私を蔑ろにして浮気相手を堂々とエスコートするなど、ウチの家名に泥を塗る行為です。
実際に我が家は、婿に軽んじられている家として嘲笑の対象となり、他家に侮られている。
そんな行いをする人間の、何処が優秀な婿なのですか?」
オズワルドは確かに学業の成績だけは、私と順位を争うくらいで、そこそこ優秀だったし、見目が良いと評判でもある。
しかし、それ以外の当主たる素養が皆無。
常識、礼儀、自制心、先見の明、人望、人を見る目、勤勉さ・・・・・・何一つ持ち合わせていない。
そんな男を婿にしたところで使い道などないだろう。
私の主張を黙って聞いてくれたお父様は、難しい顔をして深く頷いた。
「お前の言いたい事は理解した。
私も彼の資質には疑問を持っていたところだ。
婚約破棄を進めよう。
では、次の縁談についてはどの様に考える?」
「相手の有責であるとしても、私が傷物になるのは覚悟しています。
後継者として優秀であれば、贅沢は言いません。
容姿に拘りはありませんので、チビでもデブでもハゲでも問題ありません。
年齢も、後継として問題ない範囲ならば離れていても構いません。
女遊びは上手に、家に不利益をもたらさない様に出来るならば、目くじらを立てないつもりです」
「優秀である事以外に望む事は無いんだね?」
「ええ。どんな殿方でも、あのアホよりはマシでしょうし」
既に執務に関しては、私が一通り出来るように教育されている。
高額な支援をしたのだから、優秀であって欲しい所だけれど、足を引っ張らないでさえくれれば、最悪はそれで良かったのだ。
その最低限の事も出来なかったのが、オズワルドなのである。
「もしどうしても見つからなければ、私は家を出ますので、親戚から養子でも取ってくださいませ」
お父様は首を横に振った。
「その心配は無いと思うよ。
私に心当たりがあるから、大丈夫」
お父様の頼もしい言葉に、私はようやく安堵した。
挨拶をするのすら面倒になった私は、お父様の執務室に入室するなり、一言目から本題に入った。
「おいおい、突然何を言い出すんだ」
「家に利がある婚約だと思えばこそ、今まで私自身が蔑ろにされようと、苦労しようと、腹が立とうと我慢してまいりました。
しかし、あの男は駄目です。
おそらく何の役にも立ちません。
寧ろ不利益にしかならない」
お父様も、私がここまで言うからには重大な問題が起きたのだろうと感じたらしい。
「話が長くなりそうだから、座りなさい」
応接セットに移動して、ソファーに向かい合って座る。
お父様の侍従が用意してくれた温かい紅茶を一口飲んだ。
私のお気に入りのベルガモットの香り。ささくれ立っていた気持ちが少しだけ落ち着いた。
自分で思っていたより気が立っていたようだ。
「失礼しました。少し取り乱しました」
少しじゃなかった気もするが、まあ良いだろう。
「で、何があった?
今日は卒業パーティーだった筈だ。
こんなに早く帰ってくるなんて、余程の事があったのだろう?」
ええ。ありましたとも。
私は今日のパーティーでの出来事を詳細に報告した。
「貴族の婚姻は利害関係で成立する物だと言う事は、私も勿論承知しています。
私とオズワルドの間に愛などあるわけ無いですし、浮気も愛妾も認めるつもりで居りました。
しかし、何事にもやり方というものがありますでしょう?
婚姻前にも拘らず、婚約者である私を蔑ろにして浮気相手を堂々とエスコートするなど、ウチの家名に泥を塗る行為です。
実際に我が家は、婿に軽んじられている家として嘲笑の対象となり、他家に侮られている。
そんな行いをする人間の、何処が優秀な婿なのですか?」
オズワルドは確かに学業の成績だけは、私と順位を争うくらいで、そこそこ優秀だったし、見目が良いと評判でもある。
しかし、それ以外の当主たる素養が皆無。
常識、礼儀、自制心、先見の明、人望、人を見る目、勤勉さ・・・・・・何一つ持ち合わせていない。
そんな男を婿にしたところで使い道などないだろう。
私の主張を黙って聞いてくれたお父様は、難しい顔をして深く頷いた。
「お前の言いたい事は理解した。
私も彼の資質には疑問を持っていたところだ。
婚約破棄を進めよう。
では、次の縁談についてはどの様に考える?」
「相手の有責であるとしても、私が傷物になるのは覚悟しています。
後継者として優秀であれば、贅沢は言いません。
容姿に拘りはありませんので、チビでもデブでもハゲでも問題ありません。
年齢も、後継として問題ない範囲ならば離れていても構いません。
女遊びは上手に、家に不利益をもたらさない様に出来るならば、目くじらを立てないつもりです」
「優秀である事以外に望む事は無いんだね?」
「ええ。どんな殿方でも、あのアホよりはマシでしょうし」
既に執務に関しては、私が一通り出来るように教育されている。
高額な支援をしたのだから、優秀であって欲しい所だけれど、足を引っ張らないでさえくれれば、最悪はそれで良かったのだ。
その最低限の事も出来なかったのが、オズワルドなのである。
「もしどうしても見つからなければ、私は家を出ますので、親戚から養子でも取ってくださいませ」
お父様は首を横に振った。
「その心配は無いと思うよ。
私に心当たりがあるから、大丈夫」
お父様の頼もしい言葉に、私はようやく安堵した。
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