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15 全てを捨てた筈なのに
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「話は旦那様から伺いました。
勿論、旦那様との約束通り、私の事は連れて行って下さるのですよね?」
まだ真実の石の件で少し怒っているグレッグは、有無を言わさぬ威圧的な笑顔を私に向ける。
ちょっと怖い。
「ええ。勿論よ」
荷造りをしながら首肯した。
「それなら良かったです。
何かお手伝いしましょうか?」
「う~ん・・・、じゃあ、あっちの部屋にある荷物を馬車に積んでおいてくれる?
それから、部屋の前の廊下に積んである荷物は処分を」
「かしこまりました」
ふふっ・・・。
その荷物はフェイクである。
馬車に運ばせた荷物も、中身は処分しようと思っていたドレスばかり。
グレッグが荷物を運び出している隙に・・・・・・。
私はベッドの下に隠してあった小さなトランクを一つだけ持って、邸の裏口から抜け出した。
(よし、楽勝♪)
そのまま歩いて辻馬車の乗り場へと向かう。
一番近くの乗り場だと捕まってしまう危険性が高そうなので、少し離れた停留所を目指した。
ちょっと足が疲れて来た頃に、漸く目的の停留所が見えて来た。
優香だった頃はかなり体力がある方だったのに、アビゲイルの体は筋肉が少な過ぎる。
これからは平民として暮らすのだから、もう少し鍛えなければ。
春休み前だからか、停留所には既に多くの人が馬車を待っていた。
その、馬車を待つ人々の列の中に、見覚えのある背中が・・・。
気の所為か?
気の所為・・・だよね?
何だかとっても嫌な予感。
その人物は、ゆっくりと振り返った。
「お嬢様、遅かったですね。
お待ちしておりました」
「ええぇぇ?何でいるのよ!?」
驚いて思わず叫んだ私に、グレッグは冷静に答える。
「何で、じゃ無いですよ。
お嬢様こそ、幼い頃から隠れんぼも鬼ごっこも連戦連敗だったクセに、何で
私から逃げ切れると思ったのです?
貴女の考える事など全てお見通しなんですよ。
連れて行って下さると、仰いましたよね?」
「それは・・・・・・。
私だって、離れるのは淋しいんだけど・・・、でも貴方は連れては行けないわ。
だって、私は実家と完全に縁を切りたいの。
だから、ランチェスター公爵家に雇われている貴方は・・・」
そう。私の従者であるグレッグだが、雇い主はお父様である。
彼と共にいる限り、私の居場所も動向も公爵家に筒抜けだろう。
最悪は就労先もお父様の意向で上手く誘導されたり、一年位したら『もう気が済んだろう』と連れ戻されたりするかもしれない。
「辞表なら出してきましたよ。
お嬢様に渡す様にと旦那様に持たされそうになったお金も、『お嬢様が必要だと仰ったらこちらから連絡します』と言って、取り敢えず置いて来ました」
それもお見通しですとばかりにニヤリと笑った彼は、私が持っていたトランクをひょいと奪い取った。
「はぁっ!?じゃあ、貴方どうやって生活するつもり?
私はこれから先、自分で稼いで生活しなきゃいけないのよ?
私一人分位なら何とかなると思うけど、貴方を雇えるほど懐に余裕は無いわよ!?」
「私が勝手に付いて行くのですから、お嬢様に雇って頂くつもりはありません。
八歳の頃から今迄、公爵家から支払われた報酬は殆ど貯金してありますし、これからも何処かで普通に働いて稼ぎますよ。
剣術も得意ですし、帳簿もつけられますし、大概の事は出来ますから」
「・・・・・・そりゃ、グレッグはハイスペックだから何でも出来るんだろうけど、そう言う問題じゃないと思うの」
だって、無償で私の護衛をさせるなんて、ブラック企業過ぎる。
労働条件、大事だよ?
考え直した方が良いよ?
「そう言う問題ですよ。
言いましたよね?
私が勝手に付いて行くんだって。
この国の王都の周辺は非常に治安が良いですが、少し離れたら破落戸がウヨウヨ居るんですよ。
他国に渡る道中がどんなに危険か、お嬢様は分かっていらっしゃらない。
地味な装いをしていても、貴女は平民には見えないのですよ?
綺麗な若い女性が一人で他国へ行くなんて、途中で攫われて、金持ちの変態野郎に売られるのがオチです。
因みにここまでの道のりも、危険が無い様に密かに公爵家の騎士に護衛させていました」
「嘘っっ!?全然気付かなかった!」
周囲をキョロキョロ見回すが、それらしき人物は見当たらない。
「お嬢様が私と合流したら、公爵邸へ戻る様に指示してありましたので、もう居ませんよ」
「・・・・・・」
確かに、グレッグの言う通りだ。
かなり計画が杜撰だった事は認めざるを得ない。
誰にも居場所を知られたく無いと思ってしまったのだが、それはちょっと無理があったのかな。
せめて、ちゃんと滞在先を決めて、そこまでは公爵家の者に送って貰うべきだった。
縁を切りたい気持ちが強過ぎて、他国での新生活の事しか考えていなかったのだ。
自分のポンコツ具合に気付いて黙り込んだ私に、グレッグは大きな溜息を吐きながら、私の頭をワシャワシャと乱暴に撫でた。
「まったく・・・・・・。
好きな女が危険な行動を取ろうとしているのに、黙って見ていられるわけが無いでしょうが」
んんん!?
えっ、ちょっと待って。
今、この人なんて言った?
───好きな、女?
勿論、旦那様との約束通り、私の事は連れて行って下さるのですよね?」
まだ真実の石の件で少し怒っているグレッグは、有無を言わさぬ威圧的な笑顔を私に向ける。
ちょっと怖い。
「ええ。勿論よ」
荷造りをしながら首肯した。
「それなら良かったです。
何かお手伝いしましょうか?」
「う~ん・・・、じゃあ、あっちの部屋にある荷物を馬車に積んでおいてくれる?
それから、部屋の前の廊下に積んである荷物は処分を」
「かしこまりました」
ふふっ・・・。
その荷物はフェイクである。
馬車に運ばせた荷物も、中身は処分しようと思っていたドレスばかり。
グレッグが荷物を運び出している隙に・・・・・・。
私はベッドの下に隠してあった小さなトランクを一つだけ持って、邸の裏口から抜け出した。
(よし、楽勝♪)
そのまま歩いて辻馬車の乗り場へと向かう。
一番近くの乗り場だと捕まってしまう危険性が高そうなので、少し離れた停留所を目指した。
ちょっと足が疲れて来た頃に、漸く目的の停留所が見えて来た。
優香だった頃はかなり体力がある方だったのに、アビゲイルの体は筋肉が少な過ぎる。
これからは平民として暮らすのだから、もう少し鍛えなければ。
春休み前だからか、停留所には既に多くの人が馬車を待っていた。
その、馬車を待つ人々の列の中に、見覚えのある背中が・・・。
気の所為か?
気の所為・・・だよね?
何だかとっても嫌な予感。
その人物は、ゆっくりと振り返った。
「お嬢様、遅かったですね。
お待ちしておりました」
「ええぇぇ?何でいるのよ!?」
驚いて思わず叫んだ私に、グレッグは冷静に答える。
「何で、じゃ無いですよ。
お嬢様こそ、幼い頃から隠れんぼも鬼ごっこも連戦連敗だったクセに、何で
私から逃げ切れると思ったのです?
貴女の考える事など全てお見通しなんですよ。
連れて行って下さると、仰いましたよね?」
「それは・・・・・・。
私だって、離れるのは淋しいんだけど・・・、でも貴方は連れては行けないわ。
だって、私は実家と完全に縁を切りたいの。
だから、ランチェスター公爵家に雇われている貴方は・・・」
そう。私の従者であるグレッグだが、雇い主はお父様である。
彼と共にいる限り、私の居場所も動向も公爵家に筒抜けだろう。
最悪は就労先もお父様の意向で上手く誘導されたり、一年位したら『もう気が済んだろう』と連れ戻されたりするかもしれない。
「辞表なら出してきましたよ。
お嬢様に渡す様にと旦那様に持たされそうになったお金も、『お嬢様が必要だと仰ったらこちらから連絡します』と言って、取り敢えず置いて来ました」
それもお見通しですとばかりにニヤリと笑った彼は、私が持っていたトランクをひょいと奪い取った。
「はぁっ!?じゃあ、貴方どうやって生活するつもり?
私はこれから先、自分で稼いで生活しなきゃいけないのよ?
私一人分位なら何とかなると思うけど、貴方を雇えるほど懐に余裕は無いわよ!?」
「私が勝手に付いて行くのですから、お嬢様に雇って頂くつもりはありません。
八歳の頃から今迄、公爵家から支払われた報酬は殆ど貯金してありますし、これからも何処かで普通に働いて稼ぎますよ。
剣術も得意ですし、帳簿もつけられますし、大概の事は出来ますから」
「・・・・・・そりゃ、グレッグはハイスペックだから何でも出来るんだろうけど、そう言う問題じゃないと思うの」
だって、無償で私の護衛をさせるなんて、ブラック企業過ぎる。
労働条件、大事だよ?
考え直した方が良いよ?
「そう言う問題ですよ。
言いましたよね?
私が勝手に付いて行くんだって。
この国の王都の周辺は非常に治安が良いですが、少し離れたら破落戸がウヨウヨ居るんですよ。
他国に渡る道中がどんなに危険か、お嬢様は分かっていらっしゃらない。
地味な装いをしていても、貴女は平民には見えないのですよ?
綺麗な若い女性が一人で他国へ行くなんて、途中で攫われて、金持ちの変態野郎に売られるのがオチです。
因みにここまでの道のりも、危険が無い様に密かに公爵家の騎士に護衛させていました」
「嘘っっ!?全然気付かなかった!」
周囲をキョロキョロ見回すが、それらしき人物は見当たらない。
「お嬢様が私と合流したら、公爵邸へ戻る様に指示してありましたので、もう居ませんよ」
「・・・・・・」
確かに、グレッグの言う通りだ。
かなり計画が杜撰だった事は認めざるを得ない。
誰にも居場所を知られたく無いと思ってしまったのだが、それはちょっと無理があったのかな。
せめて、ちゃんと滞在先を決めて、そこまでは公爵家の者に送って貰うべきだった。
縁を切りたい気持ちが強過ぎて、他国での新生活の事しか考えていなかったのだ。
自分のポンコツ具合に気付いて黙り込んだ私に、グレッグは大きな溜息を吐きながら、私の頭をワシャワシャと乱暴に撫でた。
「まったく・・・・・・。
好きな女が危険な行動を取ろうとしているのに、黙って見ていられるわけが無いでしょうが」
んんん!?
えっ、ちょっと待って。
今、この人なんて言った?
───好きな、女?
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