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16 優しくしないで
いよいよデビュタントの夜会が決定した。
エイヴォリー子爵家もバタバタと準備で忙しく───なる筈だったのだが。
ドレスも靴も宝飾品も、フィリップ様が用意して下さる事になり、ウチは私の健康と美容の管理、後は夜会でのマナーやダンスの復習位しか、やる事が無くなってしまった。
「有り難いけれど、少し寂しくもあるわねぇ」
「そうだな。
一人娘のディアナのデビュタントは我々も楽しみにしていたし、どんなドレスを着せるかアレコレ考えていたからな」
少しだけしんみりとしている両親を見て、私は家族の愛情を改めて感じた。
一度目は、もうこの頃には望まぬ家に嫁に行ってしまっていた。
その時の両親の落ち込みは、きっと今回の比では無かったであろう事が容易に想像つく。
「子供の成長はあっという間ね。
ディアナも直ぐにお嫁に行ってしまうんだわ」
「やめて下さい、お母様。
まだ学園にも入学していないのに、結婚だなんて、ずっと先の話ですよ」
憂い顔で呟くお母様を窘めた。
なんだ、この湿っぽい空気は。
「そうですよ母上。
いくらフィリップ様がお相手でも、まだ姉様はあげません!」
ちょっぴりシスコンな弟が、不機嫌そうに口を尖らせた。
可愛い。
だが、残念ながら弟よ。
フィリップ様と私が結婚する日は、いくら待っても訪れないのだよ。
そして、いよいよ夜会の当日。
数日前に届いたドレスを着て、鏡の前でクルリと回ってみる。
フワッと軽やかに広がるスカートの裾に、思わずほぅっと溜息が漏れた。
白の薄絹が何層も重ねられたドレスには、フィリップ様の髪色にも似た銀糸を使った刺繍が施されている。
とても繊細で上品なデザイン。
アクセサリーは、プラチナ台に珍しいブルーダイヤモンドが使われていて、こちらもフィリップ様の色を表している。
この素敵なドレスと豪華なアクセサリーを身に付けて、王宮の夜会に出席する事が出来るなんて夢みたい。
前回はデビュタントも経験せずに結婚してしまい、その後は別邸でほぼ軟禁生活だったので、夜会に出るのは初めてなのだ。
身支度が整った頃に、執事がフィリップ様の到着を告げた。
「想像以上の美しさだね。
ディアをエスコート出来るなんて、光栄だよ」
「有難うございます。
フィリップ様も、今日は一段と素敵ですね」
「フィルって呼んで」
「え?」
「僕の事はフィルって呼んで欲しい。
今後、夜会などに出席する時には、愛し合う婚約者同士だと言う事を、周囲にアピールしておいた方が良いと思う。
だから、今日からは愛称で呼んで」
えぇ~っ?ハードルが高い。
でも、これも私の為を思っての、提案・・・なの、かも。
「・・・フィル、さま」
「様は要らないよ」
「はい。・・・フィル」
「うん。良い子。
じゃあ行こうか、ディア」
蕩ける様な笑顔で手を差し出す彼にエスコートして貰って、馬車に乗り込む。
顔が熱くて堪らない。
きっと、恥ずかしいくらいに真っ赤になっているのだろう。
ああ、嫌だな。
こんなに大切にされたら、離れ難くなってしまうのに・・・。
車窓に流れる景色を眺めながら、私は徐に口を開いた。
「バークレイ侯爵令息の事なのですが・・・。
一年半も音沙汰が無いのだから、流石にもう諦めたのではないでしょうか?」
マーティン様は、あのプレゼント攻撃の後はすっかり大人しくなり、私に接触して来ない。
調べてみると、バークレイ侯爵家の借金は順調に減っており、もうすぐ完済するらしい。
どうやって金を捻出したのかは知らないが、もう金の為に私に執着する必要は無くなったのだろう。
「・・・・・・それは、もう、婚約を解消したいって事なの?」
少しだけ眉根を寄せたフィリップ様が寂しそうに見えて、私は慌てて言い繕う。
「いえ、この状態は私にとっては有り難い限りなのですが、フィルにいつまでもご迷惑を掛ける訳には・・・」
「迷惑なんかじゃ無いって言ってるだろう?
それに、マーティンに関しては、警戒するに越した事は無い。
せめて、奴が婚約するか結婚するまでは、このままでいた方が良い。
今日だって、きっとマーティンは会場に来ていると思うから、僕のそばを離れない様にね」
「・・・はい。
お気遣い頂き、有難うございます」
困るんだけどなぁ・・・
これ以上優しくされるのは。
エイヴォリー子爵家もバタバタと準備で忙しく───なる筈だったのだが。
ドレスも靴も宝飾品も、フィリップ様が用意して下さる事になり、ウチは私の健康と美容の管理、後は夜会でのマナーやダンスの復習位しか、やる事が無くなってしまった。
「有り難いけれど、少し寂しくもあるわねぇ」
「そうだな。
一人娘のディアナのデビュタントは我々も楽しみにしていたし、どんなドレスを着せるかアレコレ考えていたからな」
少しだけしんみりとしている両親を見て、私は家族の愛情を改めて感じた。
一度目は、もうこの頃には望まぬ家に嫁に行ってしまっていた。
その時の両親の落ち込みは、きっと今回の比では無かったであろう事が容易に想像つく。
「子供の成長はあっという間ね。
ディアナも直ぐにお嫁に行ってしまうんだわ」
「やめて下さい、お母様。
まだ学園にも入学していないのに、結婚だなんて、ずっと先の話ですよ」
憂い顔で呟くお母様を窘めた。
なんだ、この湿っぽい空気は。
「そうですよ母上。
いくらフィリップ様がお相手でも、まだ姉様はあげません!」
ちょっぴりシスコンな弟が、不機嫌そうに口を尖らせた。
可愛い。
だが、残念ながら弟よ。
フィリップ様と私が結婚する日は、いくら待っても訪れないのだよ。
そして、いよいよ夜会の当日。
数日前に届いたドレスを着て、鏡の前でクルリと回ってみる。
フワッと軽やかに広がるスカートの裾に、思わずほぅっと溜息が漏れた。
白の薄絹が何層も重ねられたドレスには、フィリップ様の髪色にも似た銀糸を使った刺繍が施されている。
とても繊細で上品なデザイン。
アクセサリーは、プラチナ台に珍しいブルーダイヤモンドが使われていて、こちらもフィリップ様の色を表している。
この素敵なドレスと豪華なアクセサリーを身に付けて、王宮の夜会に出席する事が出来るなんて夢みたい。
前回はデビュタントも経験せずに結婚してしまい、その後は別邸でほぼ軟禁生活だったので、夜会に出るのは初めてなのだ。
身支度が整った頃に、執事がフィリップ様の到着を告げた。
「想像以上の美しさだね。
ディアをエスコート出来るなんて、光栄だよ」
「有難うございます。
フィリップ様も、今日は一段と素敵ですね」
「フィルって呼んで」
「え?」
「僕の事はフィルって呼んで欲しい。
今後、夜会などに出席する時には、愛し合う婚約者同士だと言う事を、周囲にアピールしておいた方が良いと思う。
だから、今日からは愛称で呼んで」
えぇ~っ?ハードルが高い。
でも、これも私の為を思っての、提案・・・なの、かも。
「・・・フィル、さま」
「様は要らないよ」
「はい。・・・フィル」
「うん。良い子。
じゃあ行こうか、ディア」
蕩ける様な笑顔で手を差し出す彼にエスコートして貰って、馬車に乗り込む。
顔が熱くて堪らない。
きっと、恥ずかしいくらいに真っ赤になっているのだろう。
ああ、嫌だな。
こんなに大切にされたら、離れ難くなってしまうのに・・・。
車窓に流れる景色を眺めながら、私は徐に口を開いた。
「バークレイ侯爵令息の事なのですが・・・。
一年半も音沙汰が無いのだから、流石にもう諦めたのではないでしょうか?」
マーティン様は、あのプレゼント攻撃の後はすっかり大人しくなり、私に接触して来ない。
調べてみると、バークレイ侯爵家の借金は順調に減っており、もうすぐ完済するらしい。
どうやって金を捻出したのかは知らないが、もう金の為に私に執着する必要は無くなったのだろう。
「・・・・・・それは、もう、婚約を解消したいって事なの?」
少しだけ眉根を寄せたフィリップ様が寂しそうに見えて、私は慌てて言い繕う。
「いえ、この状態は私にとっては有り難い限りなのですが、フィルにいつまでもご迷惑を掛ける訳には・・・」
「迷惑なんかじゃ無いって言ってるだろう?
それに、マーティンに関しては、警戒するに越した事は無い。
せめて、奴が婚約するか結婚するまでは、このままでいた方が良い。
今日だって、きっとマーティンは会場に来ていると思うから、僕のそばを離れない様にね」
「・・・はい。
お気遣い頂き、有難うございます」
困るんだけどなぁ・・・
これ以上優しくされるのは。
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