【完結】二度目の人生に貴方は要らない

miniko

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22 舞踏会

王立学園の生徒は貴族の子女なので、社交のやり方を学ぶ為の授業もある。
その一環として、今日は午後から学園内で、全校生徒が招待された大規模な舞踏会が催されている。

参加者は基本的には学園の生徒のみだが、婚約者や親族をエスコート役として連れて来ても良い事になっているので、会場は多くの人で賑わっていた。

生徒達は皆、いつもの制服ではなく煌びやかなドレスや礼服を着ていて、よく見知った筈のクラスメイトでも別人みたいに見える。



「貴女と踊る幸せを、僕に与えて頂けませんか?」

恭しく差し出されたフィルの手を取った。

「よろこんで」

エスコートされて、会場の中央へ進み出る。
何度か一緒に社交に出る機会があり、最近は彼と踊るのにも慣れて来た。

「ディアには、僕の瞳の色がよく似合う。
とても可愛いよ。
誰にも見られない様に、閉じ込めておきたいくらいだ」

今日の私は、フィルからプレゼントされた水色のドレスを身に纏っていた。

「素敵なドレスをプレゼントしてくれてありがとう。
貴方の色が似合うなんて、光栄です。
でも、閉じ込められるのは、ちょっと困るかも」

会話を楽しんだり、時折二人でクスクスと笑い合ったりしながらのダンスは、とても楽しい。
最初の頃はステップを踏むのに必死で、会話を楽しむ余裕なんて無かった。


一曲踊り終えて、果実水で喉を潤していると、フィルが友人達から声を掛けられた。

「私は大丈夫だから、お話しして来たら?」

「じゃあ、少しだけ。
すぐに戻ってくるから」

そう言って離れて行く彼に、ひらひらと手を振って見送った。
丁度、ローズ様とジョシュア殿下がダンスを踊り出した所で、多くの人がその優雅なステップに魅了されている。
私も美しいお二人を眺めて、ほうっと感嘆のため息が零れた。


「ディアナ嬢」

突然、遠い昔に聞いた覚えのある声に名を呼ばれて、先程迄の華やいだ気持ちが一気に恐怖に変わる。
血の気が引くとは、こう言う事だろうか。

目を向けた先に居たのは、マーティン様だった。

(何故?何故、彼が学園の中へ?)

少し離れた場所にいたご令嬢と一瞬だけ目が合ったが、気まずそうに逸らされる。
あの人が何か関係している?

一度目の婚家の縁戚とは顔合わせをした事が無いので、ハッキリとは分からないが、状況から判断するに、彼女はマーティン様の遠縁のご令嬢とかなのかもしれない。
おそらく、彼女のエスコート役として、学園に入り込んだのだろう。

「ディアナ嬢、貴女に婚約者がいる事は分かっていますが、俺は今日ここで貴女に出会えた事に運命を感じています」

甘やかに微笑みながら、囁かれた台詞に背筋がゾワゾワする。

アンタ、愛人の踊り子の事も、運命がどうとか言ってたじゃないか。
運命の愛って量産品なんですね。
知りませんでした。
工場直売価格並みの安い運命だわ。

「折角の機会なので、一曲踊って頂けませんか?」

嫌だ!
絶対に嫌だ!
触れられたく無い!
でも、スマートに躱すにはどうしたらいいの!?
色々な教育は受けたけど、実践経験が少な過ぎて分からないよ~!!
無礼になっても良いから断っちゃう?
でも、こんなんでも侯爵令息だし。
しかも、私達、二度目の人生では初対面って事になってるんだよね。
周囲の目もあるし、失礼な態度を取って騒ぎになれば、家の評判にも関わるかも・・・・・・。

無言のまま固まる私に、剛を煮やしたマーティン様が、強引に私の手を掴もうとする。

(怖いっっ!!!)

鮮明に脳裏に浮かぶ、死に際の光景。
身体中の痛みさえも蘇ってくる様で、パニックになりかけた瞬間、温かくて大きな手が、私の体を包み込んだ。

「ディア、大丈夫?
顔色が悪い。
マーティン殿、申し訳ないが、僕の婚約者は朝から少し体調を崩していてね。
今日はこれで失礼させて頂く」

フィルは、口元に笑みを浮かべながら、冷ややかな瞳でマーティン様にそう告げて、私をフワリと抱き上げると、サッサとその場から離れた。

背後でマーティン様が舌打ちをしたのが微かに聞こえた。

(舌打ちしないと死ぬ病はまだ治っていないみたい)

そんなふざけた事が頭に浮かんだのは、恐怖心を薄める為の、一種の自己防衛だったのかもしれない。


「ディア、目を離してごめん。
怖い思いをさせて、ごめん」

フィルが苦しそうに何度も呟く。

彼の腕に守られて安心したら、私の瞳から一粒涙が零れた。
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