22 / 32
22 舞踏会
王立学園の生徒は貴族の子女なので、社交のやり方を学ぶ為の授業もある。
その一環として、今日は午後から学園内で、全校生徒が招待された大規模な舞踏会が催されている。
参加者は基本的には学園の生徒のみだが、婚約者や親族をエスコート役として連れて来ても良い事になっているので、会場は多くの人で賑わっていた。
生徒達は皆、いつもの制服ではなく煌びやかなドレスや礼服を着ていて、よく見知った筈のクラスメイトでも別人みたいに見える。
「貴女と踊る幸せを、僕に与えて頂けませんか?」
恭しく差し出されたフィルの手を取った。
「よろこんで」
エスコートされて、会場の中央へ進み出る。
何度か一緒に社交に出る機会があり、最近は彼と踊るのにも慣れて来た。
「ディアには、僕の瞳の色がよく似合う。
とても可愛いよ。
誰にも見られない様に、閉じ込めておきたいくらいだ」
今日の私は、フィルからプレゼントされた水色のドレスを身に纏っていた。
「素敵なドレスをプレゼントしてくれてありがとう。
貴方の色が似合うなんて、光栄です。
でも、閉じ込められるのは、ちょっと困るかも」
会話を楽しんだり、時折二人でクスクスと笑い合ったりしながらのダンスは、とても楽しい。
最初の頃はステップを踏むのに必死で、会話を楽しむ余裕なんて無かった。
一曲踊り終えて、果実水で喉を潤していると、フィルが友人達から声を掛けられた。
「私は大丈夫だから、お話しして来たら?」
「じゃあ、少しだけ。
すぐに戻ってくるから」
そう言って離れて行く彼に、ひらひらと手を振って見送った。
丁度、ローズ様とジョシュア殿下がダンスを踊り出した所で、多くの人がその優雅なステップに魅了されている。
私も美しいお二人を眺めて、ほうっと感嘆のため息が零れた。
「ディアナ嬢」
突然、遠い昔に聞いた覚えのある声に名を呼ばれて、先程迄の華やいだ気持ちが一気に恐怖に変わる。
血の気が引くとは、こう言う事だろうか。
目を向けた先に居たのは、マーティン様だった。
(何故?何故、彼が学園の中へ?)
少し離れた場所にいたご令嬢と一瞬だけ目が合ったが、気まずそうに逸らされる。
あの人が何か関係している?
一度目の婚家の縁戚とは顔合わせをした事が無いので、ハッキリとは分からないが、状況から判断するに、彼女はマーティン様の遠縁のご令嬢とかなのかもしれない。
おそらく、彼女のエスコート役として、学園に入り込んだのだろう。
「ディアナ嬢、貴女に婚約者がいる事は分かっていますが、俺は今日ここで貴女に出会えた事に運命を感じています」
甘やかに微笑みながら、囁かれた台詞に背筋がゾワゾワする。
アンタ、愛人の踊り子の事も、運命がどうとか言ってたじゃないか。
運命の愛って量産品なんですね。
知りませんでした。
工場直売価格並みの安い運命だわ。
「折角の機会なので、一曲踊って頂けませんか?」
嫌だ!
絶対に嫌だ!
触れられたく無い!
でも、スマートに躱すにはどうしたらいいの!?
色々な教育は受けたけど、実践経験が少な過ぎて分からないよ~!!
無礼になっても良いから断っちゃう?
でも、こんなんでも侯爵令息だし。
しかも、私達、二度目の人生では初対面って事になってるんだよね。
周囲の目もあるし、失礼な態度を取って騒ぎになれば、家の評判にも関わるかも・・・・・・。
無言のまま固まる私に、剛を煮やしたマーティン様が、強引に私の手を掴もうとする。
(怖いっっ!!!)
鮮明に脳裏に浮かぶ、死に際の光景。
身体中の痛みさえも蘇ってくる様で、パニックになりかけた瞬間、温かくて大きな手が、私の体を包み込んだ。
「ディア、大丈夫?
顔色が悪い。
マーティン殿、申し訳ないが、僕の婚約者は朝から少し体調を崩していてね。
今日はこれで失礼させて頂く」
フィルは、口元に笑みを浮かべながら、冷ややかな瞳でマーティン様にそう告げて、私をフワリと抱き上げると、サッサとその場から離れた。
背後でマーティン様が舌打ちをしたのが微かに聞こえた。
(舌打ちしないと死ぬ病はまだ治っていないみたい)
そんなふざけた事が頭に浮かんだのは、恐怖心を薄める為の、一種の自己防衛だったのかもしれない。
「ディア、目を離してごめん。
怖い思いをさせて、ごめん」
フィルが苦しそうに何度も呟く。
彼の腕に守られて安心したら、私の瞳から一粒涙が零れた。
その一環として、今日は午後から学園内で、全校生徒が招待された大規模な舞踏会が催されている。
参加者は基本的には学園の生徒のみだが、婚約者や親族をエスコート役として連れて来ても良い事になっているので、会場は多くの人で賑わっていた。
生徒達は皆、いつもの制服ではなく煌びやかなドレスや礼服を着ていて、よく見知った筈のクラスメイトでも別人みたいに見える。
「貴女と踊る幸せを、僕に与えて頂けませんか?」
恭しく差し出されたフィルの手を取った。
「よろこんで」
エスコートされて、会場の中央へ進み出る。
何度か一緒に社交に出る機会があり、最近は彼と踊るのにも慣れて来た。
「ディアには、僕の瞳の色がよく似合う。
とても可愛いよ。
誰にも見られない様に、閉じ込めておきたいくらいだ」
今日の私は、フィルからプレゼントされた水色のドレスを身に纏っていた。
「素敵なドレスをプレゼントしてくれてありがとう。
貴方の色が似合うなんて、光栄です。
でも、閉じ込められるのは、ちょっと困るかも」
会話を楽しんだり、時折二人でクスクスと笑い合ったりしながらのダンスは、とても楽しい。
最初の頃はステップを踏むのに必死で、会話を楽しむ余裕なんて無かった。
一曲踊り終えて、果実水で喉を潤していると、フィルが友人達から声を掛けられた。
「私は大丈夫だから、お話しして来たら?」
「じゃあ、少しだけ。
すぐに戻ってくるから」
そう言って離れて行く彼に、ひらひらと手を振って見送った。
丁度、ローズ様とジョシュア殿下がダンスを踊り出した所で、多くの人がその優雅なステップに魅了されている。
私も美しいお二人を眺めて、ほうっと感嘆のため息が零れた。
「ディアナ嬢」
突然、遠い昔に聞いた覚えのある声に名を呼ばれて、先程迄の華やいだ気持ちが一気に恐怖に変わる。
血の気が引くとは、こう言う事だろうか。
目を向けた先に居たのは、マーティン様だった。
(何故?何故、彼が学園の中へ?)
少し離れた場所にいたご令嬢と一瞬だけ目が合ったが、気まずそうに逸らされる。
あの人が何か関係している?
一度目の婚家の縁戚とは顔合わせをした事が無いので、ハッキリとは分からないが、状況から判断するに、彼女はマーティン様の遠縁のご令嬢とかなのかもしれない。
おそらく、彼女のエスコート役として、学園に入り込んだのだろう。
「ディアナ嬢、貴女に婚約者がいる事は分かっていますが、俺は今日ここで貴女に出会えた事に運命を感じています」
甘やかに微笑みながら、囁かれた台詞に背筋がゾワゾワする。
アンタ、愛人の踊り子の事も、運命がどうとか言ってたじゃないか。
運命の愛って量産品なんですね。
知りませんでした。
工場直売価格並みの安い運命だわ。
「折角の機会なので、一曲踊って頂けませんか?」
嫌だ!
絶対に嫌だ!
触れられたく無い!
でも、スマートに躱すにはどうしたらいいの!?
色々な教育は受けたけど、実践経験が少な過ぎて分からないよ~!!
無礼になっても良いから断っちゃう?
でも、こんなんでも侯爵令息だし。
しかも、私達、二度目の人生では初対面って事になってるんだよね。
周囲の目もあるし、失礼な態度を取って騒ぎになれば、家の評判にも関わるかも・・・・・・。
無言のまま固まる私に、剛を煮やしたマーティン様が、強引に私の手を掴もうとする。
(怖いっっ!!!)
鮮明に脳裏に浮かぶ、死に際の光景。
身体中の痛みさえも蘇ってくる様で、パニックになりかけた瞬間、温かくて大きな手が、私の体を包み込んだ。
「ディア、大丈夫?
顔色が悪い。
マーティン殿、申し訳ないが、僕の婚約者は朝から少し体調を崩していてね。
今日はこれで失礼させて頂く」
フィルは、口元に笑みを浮かべながら、冷ややかな瞳でマーティン様にそう告げて、私をフワリと抱き上げると、サッサとその場から離れた。
背後でマーティン様が舌打ちをしたのが微かに聞こえた。
(舌打ちしないと死ぬ病はまだ治っていないみたい)
そんなふざけた事が頭に浮かんだのは、恐怖心を薄める為の、一種の自己防衛だったのかもしれない。
「ディア、目を離してごめん。
怖い思いをさせて、ごめん」
フィルが苦しそうに何度も呟く。
彼の腕に守られて安心したら、私の瞳から一粒涙が零れた。
あなたにおすすめの小説
え〜婚約者さん厳しい〜(笑)私ならそんなこと言わないのになぁ
ばぅ
恋愛
「え〜婚約者さん、厳しい〜。私ならそんなこと言わないのになぁ」
小言の多い私を笑い、マウントを取ってくる幼馴染令嬢。私が言葉に詰まっていると、豪快で声のデカい婚約者が笑い飛ばした。
「そうだな、だからお前は未だに婚約相手が決まらないんだろうな!」
悪気ゼロ(?)の大声正論パンチで、幼馴染をバッサリ撃退!
私の「厳しさ」を誰よりも愛する太陽の騎士様との、スカッと痛快ラブコメディ。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
記憶喪失になった婚約者から婚約破棄を提案された
夢呼
恋愛
記憶喪失になったキャロラインは、婚約者の為を思い、婚約破棄を申し出る。
それは婚約者のアーノルドに嫌われてる上に、彼には他に好きな人がいると知ったから。
ただでさえ記憶を失ってしまったというのに、お荷物にはなりたくない。彼女のそんな健気な思いを知ったアーノルドの反応は。
設定ゆるゆる全3話のショートです。
「お前を愛することはない」と言ってしまった夫は、妻の本当の目的を知らない【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
辺境伯ロランは、政略結婚で迎えた妻メリンダを「お飾り」だと思っていた。
だがある日、愛人が社交界で妻を侮辱し、王宮から勧告が下る。
窮地に立たされたロランは、妻の実家へ謝罪に向かうが──
メリンダは、9歳で商会を立ち上げ、15歳で貴族学園を3ヶ月で飛び級卒業した“怪物級の才女”だった。
さらに、ロランの代わりに愛人を修道院へ送り、家政も社交も完璧にこなす。
一方ロランは、妻の望む「コンドル」と「虎」を本当に捕まえて帰ってくるほど、妙な方向に頑張り始め──
気づけば、“お飾り”だと思っていた妻に、人生ごと振り回されていた。
そんな中、パーティーで“アフェイリ窃盗団”が出現。
ロランは初めて、妻を守るために剣を抜く。
【完結】微笑みを絶やさない王太子殿下の意外な心の声
miniko
恋愛
王太子の婚約者であるアンジェリクは、ある日、彼の乳兄弟から怪しげな魔道具のペンダントを渡される。
若干の疑念を持ちつつも「婚約者との絆が深まる道具だ」と言われて興味が湧いてしまう。
それを持ったまま夜会に出席すると、いつも穏やかに微笑む王太子の意外な心の声が、頭の中に直接聞こえてきて・・・。
※本作は『氷の仮面を付けた婚約者と王太子の話』の続編となります。
本作のみでもお楽しみ頂ける仕様となっておりますが、どちらも短いお話ですので、本編の方もお読み頂けると嬉しいです。
※4話でサクッと完結します。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。
ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」
ぱんっ。
愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。
甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。
──え?
打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」