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26 意外な捜査責任者
次の週末。
私はフィルに連れられて、王宮を訪れていた。
警備の騎士に案内されて、足を踏み入れたのは、王族の居住区にある応接室。
信じられないくらいフカフカのソファーに腰を下ろした私は、緊張して落ち着きなく視線を彷徨わせる。
王族の血が流れているフィルは、この場所にも頻繁に訪れているのか、ゆったりと脚を組んで、自分の家の様にリラックスした様子だった。
素晴らしい香りの紅茶を頂きながら、暫く待っていると、ガチャリと扉が開く音がした。
「やあ、フィリップもディアナ嬢も、よく来たね。
待たせてしまったかな?」
私は咄嗟に立ち上がって礼を取ろうとするが、フィルに止められた。
「今はプライベートだから、畏まらなくて良い」
「それは、私の台詞だろうが」
苦笑いでフィルを窘めながら、私達の向いの席に着いたのは、第三王子、ジョシュア殿下だ。
「ディアナ嬢と挨拶をするのは初めてだね」
「はい。
初めまして、ディアナ・エイヴォリーと申します」
「ローズと仲良くしてくれているんだって?
彼女は、いつも楽しそうに君の話をしている。
これからも、宜しく頼む」
殿下は人の良さそうな笑みを浮かべる。
王子殿下に婚約者を宜しく頼むと言われるなんて、恐れ多くて手が震える。
「こちらこそ、ローズ様にはいつもお世話になっております」
「で?
今日は詐欺集団に関して、情報提供があるんだって?」
私達は、先日リリーから齎された情報をジョシュア殿下にお話しした。
勿論、時間を巻き戻った部分は伏せた状態で。
フィルに聞いたのだが、ジョシュア殿下はなんとこの若さで、組織犯罪の捜査を指揮しているらしい。
王子である彼が、何故その様な危険な事をしているのかと言うと、その切っ掛けは一年ほど前の国内で起きた大事件にあるという。
一部の馬鹿な貴族達が、王太子殿下を害して第二王子殿下を祭り上げようとしたのだ。
王太子殿下は清廉潔白な人物で、数々の不正を正して来た。
それを脅威に感じた後ろ暗い人物達の謀略であった。
この国の三人の王子達は皆んな仲が良く、第二王子殿下は、勿論王位の簒奪などは望んでいない。
私利私欲に走った者達の暴走だ。
そして、いち早くその謀略に気付いて、愚か者達の罪を次々と暴いて行ったのは、当時十七歳だった第三王子ジョシュア殿下だったのだ。
その時の経験にやり甲斐を感じた殿下は、犯罪捜査に携わる事を希望。
陛下も、彼にその才があることを認め、捜査を指揮する事を許した。
ただ、これはごく一部の人間しか知らない機密事項である。
フィルにこの話を聞いた時には、只の子爵令嬢である私が知っていいのか?とガクブルした。
フィルは『良いの良いの』と簡単に言っていたけど・・・。
「成る程ね。
バークレイ侯爵家は黒だったみたいだな」
ジョシュア殿下は、私たちの話を聞いて眉根を寄せた。
殿下の元には、絵画の贋作を売りつけられた貴族が沢山いるらしいと言う情報は入っていたみたい。
でも、贋作を掴まされたと言う事は、審美眼が無かったと言う事なので、貴族にとっては恥である。
だから、被害者はなかなか証言したがらない。
漸く幾つかの証言を得る事が出来ても、手掛けた画廊も騙されて贋作と気付かずに売ってしまったという可能性もあり、なかなか捜査が進まない。
美術品詐欺とは、その全容を解明しにくい、なかなか厄介な犯罪なのだ。
贋作を扱っていた幾つかの画廊の中に、バークレイ侯爵家の画廊も入っていたらしく、目を付けてはいたそうなのだが。
「でも、まだ具体的な証拠が無いんだよなぁ。
客を装って画廊に潜入捜査をかけるのが一番簡単なんだけど、適した人材が居なくてね。
出来れば、絵画にある程度詳しいが、一見するとそうは見えない者が良いんだけど・・・。
私の手駒の中で美術品に詳しい者は、皆んな見るからに鑑定士っぽい奴ばかりなんだよ」
困り顔のジョシュア殿下に、私はおずおずと控え目に手を挙げた。
「あのー、それでしたら・・・・・・ムグッ」
最後まで発言させまいと、大きな手が私の口元を覆う。
「駄目だよディア」
「フィリップ、手を離せ。
ディアナ嬢、続きを」
「断る」
「フィリップ、命令だ」
ジョシュア殿下に呆れた視線を向けられて、フィルは渋々私の口元から手を離した。
王子殿下に『命令』と言われれば、いくらフィルでも逆らう事など出来ない。
私はフィルに連れられて、王宮を訪れていた。
警備の騎士に案内されて、足を踏み入れたのは、王族の居住区にある応接室。
信じられないくらいフカフカのソファーに腰を下ろした私は、緊張して落ち着きなく視線を彷徨わせる。
王族の血が流れているフィルは、この場所にも頻繁に訪れているのか、ゆったりと脚を組んで、自分の家の様にリラックスした様子だった。
素晴らしい香りの紅茶を頂きながら、暫く待っていると、ガチャリと扉が開く音がした。
「やあ、フィリップもディアナ嬢も、よく来たね。
待たせてしまったかな?」
私は咄嗟に立ち上がって礼を取ろうとするが、フィルに止められた。
「今はプライベートだから、畏まらなくて良い」
「それは、私の台詞だろうが」
苦笑いでフィルを窘めながら、私達の向いの席に着いたのは、第三王子、ジョシュア殿下だ。
「ディアナ嬢と挨拶をするのは初めてだね」
「はい。
初めまして、ディアナ・エイヴォリーと申します」
「ローズと仲良くしてくれているんだって?
彼女は、いつも楽しそうに君の話をしている。
これからも、宜しく頼む」
殿下は人の良さそうな笑みを浮かべる。
王子殿下に婚約者を宜しく頼むと言われるなんて、恐れ多くて手が震える。
「こちらこそ、ローズ様にはいつもお世話になっております」
「で?
今日は詐欺集団に関して、情報提供があるんだって?」
私達は、先日リリーから齎された情報をジョシュア殿下にお話しした。
勿論、時間を巻き戻った部分は伏せた状態で。
フィルに聞いたのだが、ジョシュア殿下はなんとこの若さで、組織犯罪の捜査を指揮しているらしい。
王子である彼が、何故その様な危険な事をしているのかと言うと、その切っ掛けは一年ほど前の国内で起きた大事件にあるという。
一部の馬鹿な貴族達が、王太子殿下を害して第二王子殿下を祭り上げようとしたのだ。
王太子殿下は清廉潔白な人物で、数々の不正を正して来た。
それを脅威に感じた後ろ暗い人物達の謀略であった。
この国の三人の王子達は皆んな仲が良く、第二王子殿下は、勿論王位の簒奪などは望んでいない。
私利私欲に走った者達の暴走だ。
そして、いち早くその謀略に気付いて、愚か者達の罪を次々と暴いて行ったのは、当時十七歳だった第三王子ジョシュア殿下だったのだ。
その時の経験にやり甲斐を感じた殿下は、犯罪捜査に携わる事を希望。
陛下も、彼にその才があることを認め、捜査を指揮する事を許した。
ただ、これはごく一部の人間しか知らない機密事項である。
フィルにこの話を聞いた時には、只の子爵令嬢である私が知っていいのか?とガクブルした。
フィルは『良いの良いの』と簡単に言っていたけど・・・。
「成る程ね。
バークレイ侯爵家は黒だったみたいだな」
ジョシュア殿下は、私たちの話を聞いて眉根を寄せた。
殿下の元には、絵画の贋作を売りつけられた貴族が沢山いるらしいと言う情報は入っていたみたい。
でも、贋作を掴まされたと言う事は、審美眼が無かったと言う事なので、貴族にとっては恥である。
だから、被害者はなかなか証言したがらない。
漸く幾つかの証言を得る事が出来ても、手掛けた画廊も騙されて贋作と気付かずに売ってしまったという可能性もあり、なかなか捜査が進まない。
美術品詐欺とは、その全容を解明しにくい、なかなか厄介な犯罪なのだ。
贋作を扱っていた幾つかの画廊の中に、バークレイ侯爵家の画廊も入っていたらしく、目を付けてはいたそうなのだが。
「でも、まだ具体的な証拠が無いんだよなぁ。
客を装って画廊に潜入捜査をかけるのが一番簡単なんだけど、適した人材が居なくてね。
出来れば、絵画にある程度詳しいが、一見するとそうは見えない者が良いんだけど・・・。
私の手駒の中で美術品に詳しい者は、皆んな見るからに鑑定士っぽい奴ばかりなんだよ」
困り顔のジョシュア殿下に、私はおずおずと控え目に手を挙げた。
「あのー、それでしたら・・・・・・ムグッ」
最後まで発言させまいと、大きな手が私の口元を覆う。
「駄目だよディア」
「フィリップ、手を離せ。
ディアナ嬢、続きを」
「断る」
「フィリップ、命令だ」
ジョシュア殿下に呆れた視線を向けられて、フィルは渋々私の口元から手を離した。
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