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17 もう少しの我慢
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「全く、人騒がせな二人よねぇ!」
「長年に渡り、ご迷惑とご心配をお掛け致しました事を、ここに深くお詫び申し上げます」
散々相談に乗ってくれていたマリエッタの小言を、アンジェリーナは甘んじて受け入れ、深々と頭を下げた。
「でも、良かったわよ。
アンジーが幸せになれそうで、私も漸く安心したわ」
「うぅっっ・・・ありがとう・・・。
マリエッタ、大好きぃ」
なんだかんだと言いながらも、いつも心配してくれている心優しい友人に、思わずジワリと涙が込み上げる。
「そのくらい軽い感じで、サッサとエルヴィーノ様にも好きって言えば良かったのよ」
マリエッタは苦笑を浮かべながらハンカチを手渡して、アンジェリーナの頭をポンポンと叩いた。
一方のエルヴィーノもまた、王宮の職場にて、二人の王子から「妹を泣かせたらどうなるか、分かってるよね?」と笑顔で威圧され、同僚達からは「その緩み切った顔がムカつく!」と大量の書類仕事を押し付けられていた。
そんな祝福と言う名の嫌がらせをなんとかやり過ごし、いつもよりも少しだけ遅い時間に帰宅すると、愛しい婚約者が小走りで玄関ホールに出迎えに来る。
「お疲れ様です、エル兄様」
はにかむ笑顔が可愛い。
いつも可愛いけど、想いが通じた今はいつもの何十倍も可愛い。
「ただいま。アンジー」
微笑んでいたアンジェリーナはエルヴィーノを凝視すると真顔になった。
「ねぇ、そこ、血が滲んでる。何かあった?」
自分の耳の後ろあたりをトントンと指差して、首を傾げる。
エルヴィーノの耳の後ろには、動物に引っ掻かれた様な三本の傷が付いていた。
「ああ。今日、王宮に野良猫が迷い込んで皆んなで捕まえたんだけど、なかなか暴れん坊でね。
腕や顔の傷は宮廷魔術師に治癒してもらったんだけど、耳の後ろは多分見落としたのだろう」
「治癒魔術、掛けてみても良い?」
ワクワクした様子で提案するアンジェリーナに、エルヴィーノは驚いた顔になる。
「治癒が出来るのか?」
「ええ。少しだけ。
でも、まだ自分にしか使った事が無いから、練習するのに丁度良いかと思って」
「じゃあ、お願いしようかな」
そう言った途端、アンジェリーナの顔がグイッと近寄って来た。
「・・・・・・待て。近い」
動揺したエルヴィーノは一歩後退る。
「いいから、ジッとして」
「えっ?いや、コレ、俺の知ってる治癒魔術と違っ・・・・・・」
「うん、普通の治癒魔術はまだ使えなくて、コレは私の自己流なの」
「自己流って・・・・・・」
ニコニコと益々近寄って来るアンジェリーナにタジタジになるエルヴィーノ。
さりげなくジリジリと後ろに下がっていたのだが、背中が壁に当たってしまい、追い詰められた事を悟る。
壁際で動けなくなったエルヴィーノの肩に手をついて背伸びをしたアンジェリーナは、耳元の傷に唇を寄せるとフゥッと優しく息を吹き掛けた。
エルヴィーノの体がビクッと大きく跳ねる。
「・・・・・・~~っっ!?」
「ほら、綺麗に治った。
・・・・・・ん?エル兄様?」
見上げると、真っ赤になってこちらを睨むエルヴィーノの顔があった。
次の瞬間、アンジェリーナはエルヴィーノに抱き締められていた。
「っエル兄様!?!?」
困惑するアンジェリーナの肩口に顔を埋めたエルヴィーノは、ハァッと溜息を吐く。
首筋に温かな息を感じて、アンジェリーナの心臓が早鐘を打ち始めた。
「・・・今のは、君が悪い」
耳元で囁かれる低い声に、背筋がゾクゾクする。
アンジェリーナが首筋まで赤く染めて涙目になった頃、漸くエルヴィーノの腕が少し緩んだ。
「少しは俺の気持ちが分かった?」
その問いに無言でコクコクと頷くアンジェリーナ。
「自分以外に使った事無いって言ってたよね?
これからもこの治癒は、アンジー自身と俺以外に掛けるのは禁止ね。
特に、男には絶対に掛けない事」
「家族でも?」
「陛下は良いけど、王子達はダメ」
実の兄達にまで嫉妬するエルヴィーノに苦笑いしながら、アンジェリーナは重ねて質問する。
「指先とかでも?」
「指先でもダメ。絶対」
「・・・・・・分かった。
早く普通の治癒を覚える」
「そうして。
俺の心臓が持たないから。
・・・・・・・・・あ~~、このまま思う存分抱き締めて、顔中にキスをして、それから寝室に連れ去りたい」
思わずポツリと零れたエルヴィーノの本音に、アンジェリーナはギョッとした。
「そっ、それはまだ我慢してっ!!」
「分かってる。
でも、あと半年も我慢しなきゃならないなんて、辛すぎる・・・・・・」
アンジェリーナを再びギュウギュウ抱き締めながら嘆くエルヴィーノに、早まったままの鼓動はいつまで経っても落ち着きそうになかった。
「長年に渡り、ご迷惑とご心配をお掛け致しました事を、ここに深くお詫び申し上げます」
散々相談に乗ってくれていたマリエッタの小言を、アンジェリーナは甘んじて受け入れ、深々と頭を下げた。
「でも、良かったわよ。
アンジーが幸せになれそうで、私も漸く安心したわ」
「うぅっっ・・・ありがとう・・・。
マリエッタ、大好きぃ」
なんだかんだと言いながらも、いつも心配してくれている心優しい友人に、思わずジワリと涙が込み上げる。
「そのくらい軽い感じで、サッサとエルヴィーノ様にも好きって言えば良かったのよ」
マリエッタは苦笑を浮かべながらハンカチを手渡して、アンジェリーナの頭をポンポンと叩いた。
一方のエルヴィーノもまた、王宮の職場にて、二人の王子から「妹を泣かせたらどうなるか、分かってるよね?」と笑顔で威圧され、同僚達からは「その緩み切った顔がムカつく!」と大量の書類仕事を押し付けられていた。
そんな祝福と言う名の嫌がらせをなんとかやり過ごし、いつもよりも少しだけ遅い時間に帰宅すると、愛しい婚約者が小走りで玄関ホールに出迎えに来る。
「お疲れ様です、エル兄様」
はにかむ笑顔が可愛い。
いつも可愛いけど、想いが通じた今はいつもの何十倍も可愛い。
「ただいま。アンジー」
微笑んでいたアンジェリーナはエルヴィーノを凝視すると真顔になった。
「ねぇ、そこ、血が滲んでる。何かあった?」
自分の耳の後ろあたりをトントンと指差して、首を傾げる。
エルヴィーノの耳の後ろには、動物に引っ掻かれた様な三本の傷が付いていた。
「ああ。今日、王宮に野良猫が迷い込んで皆んなで捕まえたんだけど、なかなか暴れん坊でね。
腕や顔の傷は宮廷魔術師に治癒してもらったんだけど、耳の後ろは多分見落としたのだろう」
「治癒魔術、掛けてみても良い?」
ワクワクした様子で提案するアンジェリーナに、エルヴィーノは驚いた顔になる。
「治癒が出来るのか?」
「ええ。少しだけ。
でも、まだ自分にしか使った事が無いから、練習するのに丁度良いかと思って」
「じゃあ、お願いしようかな」
そう言った途端、アンジェリーナの顔がグイッと近寄って来た。
「・・・・・・待て。近い」
動揺したエルヴィーノは一歩後退る。
「いいから、ジッとして」
「えっ?いや、コレ、俺の知ってる治癒魔術と違っ・・・・・・」
「うん、普通の治癒魔術はまだ使えなくて、コレは私の自己流なの」
「自己流って・・・・・・」
ニコニコと益々近寄って来るアンジェリーナにタジタジになるエルヴィーノ。
さりげなくジリジリと後ろに下がっていたのだが、背中が壁に当たってしまい、追い詰められた事を悟る。
壁際で動けなくなったエルヴィーノの肩に手をついて背伸びをしたアンジェリーナは、耳元の傷に唇を寄せるとフゥッと優しく息を吹き掛けた。
エルヴィーノの体がビクッと大きく跳ねる。
「・・・・・・~~っっ!?」
「ほら、綺麗に治った。
・・・・・・ん?エル兄様?」
見上げると、真っ赤になってこちらを睨むエルヴィーノの顔があった。
次の瞬間、アンジェリーナはエルヴィーノに抱き締められていた。
「っエル兄様!?!?」
困惑するアンジェリーナの肩口に顔を埋めたエルヴィーノは、ハァッと溜息を吐く。
首筋に温かな息を感じて、アンジェリーナの心臓が早鐘を打ち始めた。
「・・・今のは、君が悪い」
耳元で囁かれる低い声に、背筋がゾクゾクする。
アンジェリーナが首筋まで赤く染めて涙目になった頃、漸くエルヴィーノの腕が少し緩んだ。
「少しは俺の気持ちが分かった?」
その問いに無言でコクコクと頷くアンジェリーナ。
「自分以外に使った事無いって言ってたよね?
これからもこの治癒は、アンジー自身と俺以外に掛けるのは禁止ね。
特に、男には絶対に掛けない事」
「家族でも?」
「陛下は良いけど、王子達はダメ」
実の兄達にまで嫉妬するエルヴィーノに苦笑いしながら、アンジェリーナは重ねて質問する。
「指先とかでも?」
「指先でもダメ。絶対」
「・・・・・・分かった。
早く普通の治癒を覚える」
「そうして。
俺の心臓が持たないから。
・・・・・・・・・あ~~、このまま思う存分抱き締めて、顔中にキスをして、それから寝室に連れ去りたい」
思わずポツリと零れたエルヴィーノの本音に、アンジェリーナはギョッとした。
「そっ、それはまだ我慢してっ!!」
「分かってる。
でも、あと半年も我慢しなきゃならないなんて、辛すぎる・・・・・・」
アンジェリーナを再びギュウギュウ抱き締めながら嘆くエルヴィーノに、早まったままの鼓動はいつまで経っても落ち着きそうになかった。
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