11 / 32
11 余所行き
しおりを挟む
「こちらが、私が開発したカラフルなイチゴです。
如何ですか?意外と鮮やかな色になっているでしょ?」
リベリオ様が誇らし気にイチゴの見た目の感想を問うと、オーナーさんは面白そうにニヤリと笑った。
「おう、随分気取ってるじゃないか。
お前が自分の事を『私』と言う日が来るなんてなぁ」
ふ~ん……、成る程。
本来の彼の一人称は『私』ではないのか。
私と接している時の彼は、余所行きの顔なのかもしれないと思うと、少しだけ寂しい様な気がした。
まだ知り合ったばかりだし、婚約者と言っても契約結婚になる可能性もあるのだから、無理に距離を縮める必要は無いのかも知れないけど……。
「お前、ちょっと煩い!」
リベリオ様はオーナーさんに向かってぞんざいに言い放つと、シッシッと手で追い払う動作をした。
「ハイハイ、そんなに睨むなって。デートのお邪魔は致しませんよ~。
では失礼致します、王女殿下。どうぞごゆっくりお召し上がりくださいませ」
リベリオ様には揶揄う様に、私にはペコリと頭を下げて、オーナーさんは店の奥へと再び消えて行った。
代わりに先程の女性店員さんがやって来て、紅茶をカップに注いでくれる。
トポトポという音と共に、大好きな香りが広がった。
「アールグレイですね。一番好きな紅茶なんです」
「知ってます。カリーナさんが教えてくれましたから。
イチゴのタルトもお好きなんですよね?」
「はい。私の情報は色々と筒抜けなのですね」
「いいえ、彼女達はとても口が固くて苦労しています。
この店のクッキーを賄賂として渡して、漸く貴女の情報を少しだけ聞き出しましたが、それでも好きな食べ物くらいしか教えてもらえませんでしたから」
悲しそうな表情を作って肩をすくめるリベリオ様に、思わず笑みが零れる。
「そんなの私に直接聞けば良いのに」
「本人に聞かずに、さり気無く提供するから粋なんじゃないですか」
「ふふっ。カリーナから聞いたってネタバレしてしまっては、全然さり気無くないですよ」
「確かに。以後気を付けます」
真面目くさった顔で頷くリベリオ様。
「さあ、ではリベリオ様のご自慢のイチゴを頂きましょうか。
紅茶が冷めない内に」
「どうぞ召し上がれ。私の自信作です」
初めて食べた不思議な色のイチゴは、普通の物より少し果肉がしっかりしていて、甘酸っぱい味がした。
帰りも店から馬車まで、リベリオ様に手を繋がれてゆっくりと歩く。
彼はいつも、私と手を繋いだり、頭を撫でたりする程度の、軽いスキンシップを取ってくる。
それは、私達が夫婦生活を出来そうかどうかを確かめる為の行動なのだとか。
白い結婚にするかどうかは、婚姻迄の間に実際私と交流してみてから決めるとの事。
お互いを知ってから方針を決めると言うのは合理的だし、私も賛成だ。
彼の視線や態度には、一瞬たりとも私に対する欲や熱が感じられないので、今の所は触れられても怖いと思った事はない。
寧ろ、彼のゴツゴツした大きな手に触れられるのは、何故か安心する。
そんな自分の気持ちに、少しだけ戸惑いを覚えていた。
そうやって彼との穏やかな日々を過ごす中で、あの事件は起きたのだ。
如何ですか?意外と鮮やかな色になっているでしょ?」
リベリオ様が誇らし気にイチゴの見た目の感想を問うと、オーナーさんは面白そうにニヤリと笑った。
「おう、随分気取ってるじゃないか。
お前が自分の事を『私』と言う日が来るなんてなぁ」
ふ~ん……、成る程。
本来の彼の一人称は『私』ではないのか。
私と接している時の彼は、余所行きの顔なのかもしれないと思うと、少しだけ寂しい様な気がした。
まだ知り合ったばかりだし、婚約者と言っても契約結婚になる可能性もあるのだから、無理に距離を縮める必要は無いのかも知れないけど……。
「お前、ちょっと煩い!」
リベリオ様はオーナーさんに向かってぞんざいに言い放つと、シッシッと手で追い払う動作をした。
「ハイハイ、そんなに睨むなって。デートのお邪魔は致しませんよ~。
では失礼致します、王女殿下。どうぞごゆっくりお召し上がりくださいませ」
リベリオ様には揶揄う様に、私にはペコリと頭を下げて、オーナーさんは店の奥へと再び消えて行った。
代わりに先程の女性店員さんがやって来て、紅茶をカップに注いでくれる。
トポトポという音と共に、大好きな香りが広がった。
「アールグレイですね。一番好きな紅茶なんです」
「知ってます。カリーナさんが教えてくれましたから。
イチゴのタルトもお好きなんですよね?」
「はい。私の情報は色々と筒抜けなのですね」
「いいえ、彼女達はとても口が固くて苦労しています。
この店のクッキーを賄賂として渡して、漸く貴女の情報を少しだけ聞き出しましたが、それでも好きな食べ物くらいしか教えてもらえませんでしたから」
悲しそうな表情を作って肩をすくめるリベリオ様に、思わず笑みが零れる。
「そんなの私に直接聞けば良いのに」
「本人に聞かずに、さり気無く提供するから粋なんじゃないですか」
「ふふっ。カリーナから聞いたってネタバレしてしまっては、全然さり気無くないですよ」
「確かに。以後気を付けます」
真面目くさった顔で頷くリベリオ様。
「さあ、ではリベリオ様のご自慢のイチゴを頂きましょうか。
紅茶が冷めない内に」
「どうぞ召し上がれ。私の自信作です」
初めて食べた不思議な色のイチゴは、普通の物より少し果肉がしっかりしていて、甘酸っぱい味がした。
帰りも店から馬車まで、リベリオ様に手を繋がれてゆっくりと歩く。
彼はいつも、私と手を繋いだり、頭を撫でたりする程度の、軽いスキンシップを取ってくる。
それは、私達が夫婦生活を出来そうかどうかを確かめる為の行動なのだとか。
白い結婚にするかどうかは、婚姻迄の間に実際私と交流してみてから決めるとの事。
お互いを知ってから方針を決めると言うのは合理的だし、私も賛成だ。
彼の視線や態度には、一瞬たりとも私に対する欲や熱が感じられないので、今の所は触れられても怖いと思った事はない。
寧ろ、彼のゴツゴツした大きな手に触れられるのは、何故か安心する。
そんな自分の気持ちに、少しだけ戸惑いを覚えていた。
そうやって彼との穏やかな日々を過ごす中で、あの事件は起きたのだ。
93
あなたにおすすめの小説
モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました
みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。
ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。
だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい……
そんなお話です。
ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました
もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。
姉が私の婚約者と仲良くしていて、婚約者の方にまでお邪魔虫のようにされていましたが、全員が勘違いしていたようです
珠宮さくら
恋愛
オーガスタ・プレストンは、婚約者している子息が自分の姉とばかり仲良くしているのにイライラしていた。
だが、それはお互い様となっていて、婚約者も、姉も、それぞれがイライラしていたり、邪魔だと思っていた。
そこにとんでもない勘違いが起こっているとは思いもしなかった。
王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。
みゅー
恋愛
王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。
いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。
聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。
王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。
ちょっと切ないお話です。
婚約者に好きな人ができたらしい(※ただし事実とは異なります)
彗星
恋愛
主人公ミアと、婚約者リアムとのすれ違いもの。学園の人気者であるリアムを、婚約者を持つミアは、公爵家のご令嬢であるマリーナに「彼は私のことが好きだ」と言われる。その言葉が引っかかったことで、リアムと婚約解消した方がいいのではないかと考え始める。しかし、リアムの気持ちは、ミアが考えることとは違うらしく…。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
君を自由にしたくて婚約破棄したのに
佐崎咲
恋愛
「婚約を解消しよう」
幼い頃に決められた婚約者であるルーシー=ファロウにそう告げると、何故か彼女はショックを受けたように身体をこわばらせ、顔面が蒼白になった。
でもそれは一瞬のことだった。
「わかりました。では両親には私の方から伝えておきます」
なんでもないようにすぐにそう言って彼女はくるりと背を向けた。
その顔はいつもの淡々としたものだった。
だけどその一瞬見せたその顔が頭から離れなかった。
彼女は自由になりたがっている。そう思ったから苦汁の決断をしたのに。
============
注意)ほぼコメディです。
軽い気持ちで読んでいただければと思います。
※無断転載・複写はお断りいたします。
私のことは気にせずどうぞ勝手にやっていてください
みゅー
恋愛
異世界へ転生したと気づいた主人公。だが、自分は登場人物でもなく、王太子殿下が見初めたのは自分の侍女だった。
自分には好きな人がいるので気にしていなかったが、その相手が実は王太子殿下だと気づく。
主人公は開きなおって、勝手にやって下さいと思いなおすが………
切ない話を書きたくて書きました。
ハッピーエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる