死んだらこうなった

藤村託時

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第1章

第4話 地獄での生活

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 レンガの家の中に入ると、そこには既に2人の男女がいた。

 「そういえばまだ自己紹介がまだだったわね。私の名前は入野駒乃いりのこまの、よろしくね!」

 入野さんの姿はさっきまで霧でよく見えていなかったが家の中だとはっきり見えるようになった。
 金髪の長い髪に目鼻立ちが整った美少女と言える顔、高校生くらいの年齢だろう。
 こんな美少女ですら死んで地獄に来てしまうとは死とは恐ろしいものだ。

 「僕は田中神たなかじん、ここの家には初期から住んでるよ」

 既に居た20代後半くらいの男性はこの家の初期メンらしい。

 「谷井鶯たにいうぐいすと申します。分からないことがあったらなんでも聞いてくださいね」

 丁寧な口調でカールのかかった黒髪の女性はそう名乗った。
 俺以外の全員が自己紹介をしてくれているので残るは自分だけ。

 「木六本人ぎろくほんとです。地獄に来て本当に困ってたので入野さんに出会えて良かったです」
 「まぁ、あんだけ叫んでる人がいたら私じゃなくても誰か声掛けてたと思うよ」
 「なにか困り事があったら気軽に僕にも相談して欲しい」
 「私にもできることがあったらなんでもお声がけ下さいね」

 それぞれが優しい言葉をかけてくれた。
 なんでこんな優しい人たちが地獄に落ちてきたのか不思議なくらいだ。

 「そういえば、皆さん死ぬ前は日本にいましたか?」
 「ん?そうだけど……基本ここに来る人は日本人だよ」

 入野さんは当然のようにそう答えた。

 「確かに外国人は見かけませんね」
 「地獄でも国別に分けられてるのかもしれないですね」

 別世界どころか別の国の人もいないのか……
 日本人が思い浮かべる地獄の様子が似ているからだろうか。
 この様子だと他の世界の人のこと自体知らなそうだ。

 「いや、良かったです。外国人だったら会話もできなかったかもしれないです。英語は聞き取れませんし」

 なんとなく死んだら言語関係は通じるように調整されそうではあるが。

 「確かにそうよね。あんまり考えてなかったけど、外国人だったら私もすごい困ったかな~。そういえば、まだ木六君の部屋をまだ教えてなかったわね、教えてあげるから付いてきて」

 そう言って、入野さんは部屋まで案内してくれた。
 部屋は5畳ほどでベッドとリモコン以外にはこれといって物は置いてなかった。

 「これは何のリモコンですか?」
 「これで生きてる人の様子が見れるんだよ~」

 入野さんが電源ボタンを押すと壁に渋谷のスクランブル交差点が映し出された。

 「思い浮かべた場所が映るんだよ、すごいよね!後は音量ボタンで音を調整してね」

 リモコンにはボタンが3つだけしかないのはそういうことだったのか。
 前の部屋だとリモコンすらなかったな。

 「今日はもう部屋でゆっくりしてた方がいいよ。私は用事があるからまた外行かないとだけどね」

 そう言い残して入野さんは部屋から去って行った。
 家に入ってからは足が少し痒いが、声を上げる程ではなくなっている。
 家の中でなら痒みが軽減するのにそれでも外に行かなければ行けない用事とはなんなのだろうか……

 いろいろなことが起き、精神的に疲れきっていたのでベッドで横になることにした。
 ───肌寒さを感じ、目を覚ました。
 どのくらい寝ていたのかは時計がないため分からないが、痒みがなくなった代わりに寒気がするので日付は変わっているのだろう。
 この身体は睡眠を必要としないと説明されていたがどうやら普通に寝れるようだ。
 いったん、他の人の様子が気になるのでリビングに行くことにした。

 「あっ、木六さん!体の調子はどうですか?」

 リビングには田中さんだけしかいなかった。

 「なんか今日は冷えますね……」

 部屋の中でも氷点下近くの外でTシャツ1枚で過ごすような寒さを感じる。
 また、ここにはエアコンは無いため部屋が暖かくなることは無いようだ。

 「今日は寒い日ですからね……外に出たらさらに寒くてビックリしますよ」
 「冷え性なので絶対に外には出たくないですね……他の2人は自分の部屋にいるんですか?」
 「入野さんと谷井さんは用事があるので外に出かけてますね」
 「どんな用事なんですか?」
 「ここではお互いのプライベートは詮索しないようにしているので、他の2人が何をしているのかは分からないですね」
 「そうなんですか……」
 「この世界ではやることが現世の様子を見るか寝るかくらいしかないので、外へ出て暇つぶしでもしないとやってられないんですよ」
 「確かに退屈過ぎるのもしんどいですよね」
 「そうなんですよ」

 部屋の中の方が身体的には比較的楽になるが、精神的に外に出ないとやってられないということか。

 「僕も今から部屋に戻り、準備をしてから外出する予定です」
 「何処へ行くんですか?」
 「秘密です」

 はにかみながら田中さんはそう返答した。
 地獄ではそんなにプライベートが重視されているのか……
 こっそり後でも付けてみようかな……

「あと、尾行をするのもダメですよ!もし発覚した場合、信用が無くなってしまいます」

 こちらの心を読まれたかのように釘を刺されてしまった。
 田中さんが部屋に戻ってしまい、俺もやることが無くなってしまったので自室に戻ることにした。
 外に出たら寒いのが分かっているので、正直外に出る選択肢は今のところない。
 現世の様子でも見るとしよう。
 リモコンの電源をつけ、とりあえず親を思い浮かべると両親の映像に切り替わった。
 カメラ(?)はなんとなく意識を調節することができるようだ。

 「本当に馬鹿な子だっ……」
 「うぅ……私がちゃんとこまめに声をかけておけばこんなことにはならなかったのに……」
 「それを言ったら俺も同じ責任がある。お前だけのせいではないよ」
 「……」

 気まずい……
 風呂場で溺れたこともあって両親の様子は見ていられなかった。
 罪悪感といたたまれなさが凄いので、両親の様子を見るのは辞めることにした。
 その後は渋谷駅に視点を移動し知らない人をストーカーした。
 とても不毛な時間を過ごした。
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