非凡人間の日常

おしゅれい

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土砂降り後の虹2

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(店長め……面倒だからって俺に押し付けやがって……!)
 山へと飛び立って数分。俺は山の奥へと辿り着いていた。
 ニコルは確かこの辺りに住んでいたはずだ。
 キョロキョロと辺りを見渡すと断崖絶壁の崖の中、高くそびえ立った岩の上に目的の姿を見つけた。
「あー……」
 俺は溜め息混じりに呟き、ニコルの元へ行く。
 ニコルは岩の上で一本足で立ち、目を瞑って瞑想をしている。
「ニコルー」
 声をかけるもとても集中していて俺に気づいていないようだ。
(ニコル、瞑想してると長いんだよなぁ……)
 前にニコル宛の荷物を届けに来た時にもニコルが瞑想をしていて、荷物を渡すのに半日かかったことがあったのだ。
「ニコルー! おーい?」
 ニコルの周りをうろうろしながら何度も声をかけるがニコルは微動だにしない。
(ほんと凄いな……この集中力)
 声をかけることを諦めてぼーっとニコルの様子を眺めていると、突然ニコルが目を開く。
「あっ、ニコー」
 ニコルの元に駆け寄ろうと、ニコルは高く飛び上がって空中に蹴りを入れた。
 ニコルの足から放たれた衝撃波が俺の真隣を掠め通っていく。呆然と立ちすくむ俺の後ろにあった岩がパラパラと音を立てて粉々になる。
「!?!?」
 驚いて後ろを振り返る俺の近くにストンと音を立てニコルが降りてくる。
「ユーリいたんだ。気づかなかったよ」
(危うく俺がああなる所だったのか……)
 粉々に散っていった岩とニコルを見て俺はゾッとする。
「それで、何か用事があって来たんだよね?」
 ニコルは首を傾げ尋ねた。
「あぁそうだった! 忘れる所だったよ。ニコルに荷物を届けに来たんだった」
 あまりの出来事に肝心な事を忘れる所だった……危ない危ない。
「わざわざありがとね」
 ニコニコと優しい笑みを浮かべて荷物を受け取るニコルに、俺は率直な疑問を口にする。
「ニコルはここで何をしてるの?」
「修行だよ」
「修行?」
 俺が聞き返すと、ニコルはどことなく寂しげに笑った。
「魔法を使えるようになりたいんだ」
「魔法……」
「そう、魔法」
 ニコルの言葉を反復して呟く俺に、ニコルは優しく微笑む。
「俺ね、憧れてる人がいてさ。その人は魔法が得意だったんだ。魔法が使えない俺にさ、凄く綺麗でキラキラした魔法をたくさん見せてくれたんだ」
「ニコルは魔法使えないの?」
「うん。どれだけ勉強しても使えないんだ。俺自身の体に魔力を保有してないらしくて……」
「……そっか」
 俺は目を瞑って意識を外へと集中させる。するとポンっと音が鳴り、ニコルの周りに色とりどりの光が現れる。
「わぁ……凄い……」
 ニコルが感嘆の声を漏らす。俺は意識を手繰り寄せるように光を自分の元へと動かすと、光をそっと手で包み込み、手を開いて見せた。
 俺が開いた手から光で出来た羽根がひらひらと舞い、ニコルの元へ飛んで行く。
「ユーリは魔法が使えるんだね。……綺麗だね。ユーリの魔法」
(あ……ニコルから褒められた……)
 いつも凄くて、超人的にも見える力を持っていて、何でも出来るイメージのあるニコルから褒められるなんて……なんか不思議な気持ちだな……。
「魔法は得意なんだ。俺、力が無いからその分を魔法でカバーしてる感じでさ」
「……そうなんだね」
 「そっか」と呟くニコルの顔はどことなく悲しげな表情に見え、俺は慌てて口を開く。
「あ、ごめん。見せつけたかった訳じゃないんだ。ただ、俺、ニコルの事完璧で何でも出来るイメージがあったから……ニコルにも出来ない事ってあるんだなって、ちょっと親近感を感じたんだ。その……ニコルの憧れの人みたいにキラキラした魔法じゃないかもしれないけど……俺の魔法で良ければいつでも見せるからね」
 俺の言葉を聞いたニコルは、今度はいつものように優しい笑みを浮かべた。
「ありがとう。ユーリは優しいね」
 そんなニコルの様子を眺め、ふと俺の頭の中に一つの案が浮かぶ。
「良いこと思いついた! あのさ、ニコル。今出した羽根には俺の魔力が詰まってるんだ。この羽根を持てば、もしかしたら魔法が使えるかもしれない!」
 俺の提案にニコルは驚いたような顔をする。
「なるほどね……確かにそれなら出来るかもしれない」
 ニコルは優しい仕草で羽根を手で包み込み、目を瞑る。
「意識を集中させて、外に出す感じだよ」
「うん、分かった」
 目を瞑り、ニコルは集中する。少しして目を開き、意識を外に出すかのように手を前に突き出す。

ーーブンッ

 物凄い勢いで衝撃波が俺の隣を通っていく。
 衝撃波の通った跡に地面は抉れ、俺の斜め後ろの岩がバラバラと音を立てて粉々に砕けた。
「……ニコルは魔法が使えなくても十分強いし素敵だと思うよ」
「そうかな? ありがとね、ユーリ」
 ふうっと一息吐くと、何だか急にどっと疲れが押し寄せてくる。
「荷物も渡した事だし、それじゃあ俺はそろそろ帰るね」
「うん、またね」
 ニコニコと優しい笑みを浮かべ手を振るニコルに手を振り返し、俺は山を飛び立ったのだった。

ーー歌音サイド
 いつものように笑顔を作り、俺は彼女に話しかける。
「よぉ! 何か思い出したか?」
 彼女は変わらず冷たい目で俺を見る。
「その様子じゃ思い出せてないみたいだな。残念……」
 彼女はある日突然、俺の事を忘れてしまった。その原因は分からない。他の記憶はあって、ただ俺との記憶だけが綺麗さっぱり無くなってしまったのだ。
 温度を失くした彼女の目を見て、俺はいつも通りに笑う。
 いつものように接していればきっと思い出せると、そう信じている。
「なぁ、ケイーー」
「ーーっ!!」
 彼女の名前を呼ぶと彼女は驚いたように目を見開き、それから嫌悪の色を剥き出しにして声を荒げた。
「っ、その名前で呼ぶな!!」
 拒絶の意を含んだ目で彼女は俺を見る。
「気味が悪い! 私は君の事を知らないのに! そもそも、私が君みたいな人を好きになる訳がないんだよ! 君は、私が一番嫌いなタイプなんだ!!」
 冷たく言い放たれた言葉に俺はようやく理解する。
 もう彼女の傍にいる事は出来ないのだと。
 幸せな時間を取り戻すことは……きっと不可能なんだ。
「そっか」
 俺は、ただそう言って笑う事しか出来なかった。

ーー屋台のおっちゃんサイド
「味良し、香り良し、毛並み良し」
「ンモ~~~」
 商品の点検をし、オレは改めて周りを見渡す。
「今日も平和だな」
「ンモ~~~」
 暖かな日差しに適度に心地よく吹く風。オレは今日も平和である事に心の中で感謝の言葉を呟く。
 別にお昼時はいつもの奴らが学校だからって客が少なくて暇という訳ではない。断じて言うが暇すぎて眠くなってる訳ではない。
「ンモゥ!!」
 平和な世の中に感謝を告げ、自然の心地よさを噛みしめていると、不意に平和では無い声が耳に入ってくる。
「やぁやぁ屋台ジジイ! 元気そうで何よりだ! 随分通り暇そうな顔をしてるから皆大好きスズくんが直々に会いに来てやったぞ! えっ、ボク可愛いって? そんなの当たり前じゃーん☆」
 わざとらしく可愛いポーズを決めながらやって来たのは嵐のようなモンスター客のスズだ。
 オレは心の中で全力でしかめっ面をする。
「屋台ジジイはやめろ! あとオレは暇じゃないぞ! メニューを考えるのに忙しいんだよ」
「でもお客さんいないし見るからに暇してたよね?」
「暇してない! 眠くなんてなってない!」
「え~? ほんとに~?」
(こいつ……っ! ほんとめんどくせぇ……!)
「おー、おっちゃんめんどくせー客に絡まれてんなー」
 いつの間にか来ていたカイがオレらのやり取りを見てケラケラ笑う。
「言っておくけどそれお前が言えた台詞じゃないからな?」
「ンモ~~~!」
「ところでおっちゃん、さっきからンモンモ言ってるこいつ何なんだ? 気になってしょーがないんだけど」
「ンモー!!」
「あぁこいつか? こいつはアホ毛和牛のカルビちゃんだ」
 カルビちゃんを撫でながら答えるとカイは「はぁ!?!?」とオーバーなリアクションをする。
「とうとうアホ毛和牛まで飼い始めたのか!? それ屋台のする事じゃねーだろ!? ていうかカルビちゃんって、もうちょっとマシな名前つけてやれよ! 食う気満々じゃねーか!」
「はぁ!? こんな可愛いカルビちゃんを食うわけないだろ!? ミックスオーレ作るのに必要な牛乳採ってるだけだし!!」
「いや牛乳くらい買えよ! 牛飼う屋台とか初めて聞いたわ!!」
「アホ毛和牛……じゅるり」
「ンモゥ~~~!!」
「おいスズ、カルビちゃんは食い物じゃねーぞ! カルビちゃん怖がってるだろ! おーよしよし、怖かったなぁ」
「牛の名前のせいで説得力無いぞおっちゃん……」
「ていうかお前らも学生だったよな? 学校は良いのかよ?」
 呆れながら二人を見ると二人は何故かえへんと胸を張って言う。
「良いんだよ、今日は学校って気分じゃないからな!」
「ボクは神出鬼没だからね! そう簡単には学校に行ってやらないのさ!」
「何を誇らしげに言ってんだか……んで? お前ら注文は?」
 二人に尋ねると二人は「うーん」と悩みだす。
「「ミックスオーレで!!」」
「お前ら仲良しかよ」
 二人にミックスオーレを差し出し、オレからミックスオーレを受け取った二人はワクワクした顔でミックスオーレを飲む。
「お、おっちゃん……! このミックスオーレ今まで味わったことないくらい美味い! 流石アホ毛和牛の牛乳だ!!」
「美味しー! 牛乳だけでもこんなに美味しいんだならきっとお肉は……じゅるり」
「だからカルビちゃんは食用じゃねーっつーの! カルビちゃんをよこしまな目で見るんじゃない!!」
 一連のコントのようなやり取りをし、オレらはふうっと一息吐く。
「さて、しょーがねーから学校行ってやるかな。千百合ちゃんも待ってるしな」
「ボクは皆のアイドルだからね! 学校に行かないと皆が寂しがっちゃう!」
「お前ら……最初から学校行けよな」
 全く、二人のマイペースっぷりには呆れを通り越して逆に凄いものを感じるな……。
「じゃーなおっちゃん。潰れんなよー!」
「バイバーイ! 次も可愛いボクの為に美味しいものを作ってね☆」
 去っていくカイとスズを見送り、姿が見えなくなった所でオレははぁ……と溜め息を吐く。
(本当、嵐のような奴らだな)
「おっちゃん、相変わらず大変そうだね」
 いつの間にかいたユーリが同情したように呟く。
「まぁな。あいつらも悪い奴らじゃないんだけど癖が強いんだよなぁ」
「癖が強いって言ったら正義のヒーロー隊の周りも皆癖強いよね」
「それもそうだな。ユーリもなかなか個性的だぞ」
 オレの言葉を聞いたユーリは「えっ」と声を出し、不満そうに口を尖らせる。
「ちょっとおっちゃん! 俺を正義のヒーロー隊と一緒にしないでよっ!!」
「何だかんだ言って楽しそうだよな、ユーリ」
「そ、そんな事ないって! もー、おっちゃんのバカっ!」
 そう言ってユーリは拗ねたようにそっぽを向く。
「ははっ、すまんすまん。たい焼き一つおまけするから許してな」
(ユーリはほんと素直じゃないよな)
 歌音とあいつの彼女みたいに素直になれば良いのに……まぁ、ユーリはそんなキャラじゃないか。
(そういえば歌音の彼女、最近来ないよな。何かあったのだろうか?)
 ま、あいつらなら心配する必要ないかと心の中で呟き、オレは拗ねるユーリにおまけのたい焼きを渡すのだった。
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