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偉大なる賢者の願い4
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ーーニコルサイド
「心が決まったみたいだね」
レクリエとの約束の場所に辿り着くとふわりとレクリエが姿を現す。
「君の考えを聞かせてくれないかな?」
レクリエに見つめられ、俺は体が震えるのを感じる。
(怖い……けど、しっかり言うんだ。俺は……もう迷わない)
俺はしっかりとレクリエの顔を見つめ、答える。
「俺には、ユーリとレイヴァン、あの二人を殺すことはできない。」
「へぇ……」
レクリエは静かに俺の言葉の続きを待つ。俺は体の震えを抑え、言葉を続ける。
「ユーリとレイヴァンは……俺の大切な友だちなんだ。だから、殺せない。レクリエの言っている事は正しい事実だと思ってる。だけど俺は二人を殺したくない。これは俺の我が儘だ。俺は二人を護り、殺さずに力を無力化する方法を探す。例えそれがあなたと対立することになったとしても」
「なるほどね」
レクリエは静かにそう呟き、それから鋭い眼差しを俺に向けて言った。
「君の意見は僕の考えとは対立する。その意味は……分かっているよね? 僕の問いかけに頷いたら君はもう引き返す事はできない。覚悟はできているね?」
レクリエの問いかけに俺は迷いなく頷く。
「覚悟ならできてる。これが俺の決断だ」
「そう……分かったよ」
俺の答えを聞くとレクリエは俺に背を向け二歩三歩と離れていき、それからくるりと俺の方に向き直り言った。
「それが君の決断というなら答え合わせをしよう! 僕の意思よりも君の決意の方が強いというなら、ニコル! 今ここで僕の魔法を打ち破ってみせてよ!」
そう言い放ち、レクリエはふわりと宙に浮かぶ。凄まじい魔力がレクリエの体に集まっていくのを感じる。
意識を集中させるために俺は目を閉じた。
(怖い……でも、俺は勝たなきゃ……! この魔法を打ち消して、ユーリとレイヴァンを護るんだ!)
呼吸を整え、レクリエの魔法を真っ向から受け止める姿勢に入る。
しかし、レクリエに集まった魔力は一向に放たれない。
(…………?)
不思議に思い、俺は閉じていた目を開く。
するとレクリエは集まっていた魔力を一輪の青い花に変え、そっと俺に差し出しながら言った。
「よく言ったね、偉い!」
「えっ……?」
状況が飲み込めずぽかんとする俺を見て、レクリエは先ほどの冷たい表情から一転してとても無邪気な子どもっぽい笑みを浮かべる。
「あははっ、豆鉄砲でも食らったような顔してる」
それからとても優しくて温かい声音で言葉を続けた。
「ニコル、僕は今嬉しいんだ。ニコルは僕と一緒にいた頃、一度たりとも我が儘を言わなかった。そんなニコルがさ、やっと自分の意思を僕に教えてくれたんだ。今日はお祝いさ。この花は僕の魔力をかき集めて具現化したもので触れるよ。ほら、受け取って」
俺は困惑しながらも差し出された花を受け取る。その様子を見て、レクリエは満足そうに笑った。
「あのね、ニコル。僕はずっと悩んでいたんだ。ニコルは凄く真面目だし能力面でも性格面でも弟子としてとても優秀だった。僕も鼻が高いくらいね。ただ、ニコルには足りないものがあった。それは、人間らしさってやつさ」
俺の手の上で青白く発光する花を見て、レクリエは悲しそうな表情をする。
「あの日僕がニコルに声をかけなければニコルはもしかしたら普通の人らしい生活に戻れたかもしれない。ニコルが僕についてくると言った時、僕はニコルの普通の人間のように生きるチャンスを絶ち切ってしまった。その事をずっと申し訳なく思ってたんだ。そして僕はニコルを置いて死んでしまった。死に際にニコルに生きていて欲しいと願ってしまった。それは、僕の我が儘だった。僕の我が儘のせいで君を何千年と縛り付けてしまったんだ」
「レクリエ……」
「ニコルは真面目すぎるくらい真面目な人だから、きっと何千年と自分の使命に囚われてきたんだろ?でも……そんなのは二の次で良いんだ。ニコルが人間らしく生きていれば良い。それが僕の願いだよ」
「…………っ!」
レクリエはそっと俺の頭へと手を伸ばし、とても優しい表情で頭を撫でる仕草をした。
「どんな時も人間らしくあれ。これは僕からの最後の教えだ。とても長い時間がかかったけど、君は大事な気持ちを持てたみたいで良かったよ。おめでとう、君はもう立派な一人前だ。そして、長い間よく頑張ってくれてありがとう」
レクリエの言葉を聞いた瞬間、俺の心に様々な感情が込み上げてくる。そして、わき上がった感情は一筋の涙になって俺の頬を伝った。
「レクリエ……大丈夫だよ。俺はずっと独りだった訳じゃないんだ。レクリエに生かしてもらった事で俺はいろんな人と出会うことができたんだ。レクリエが心配するように俺は縛られ続けてたわけでもないんだ」
「うん、そうみたいだね。安心した。あぁ、僕に体があれば君を思い切り抱きしめて頭を撫でてたのにな……」
レクリエは心底残念そうな顔をする。それから改めて俺の顔をまっすぐに見て言った。
「改めてニコルにお願いするね。僕が昨日ニコルに話した危険があるのは事実なんだ。だから僕はこれからユーリとレイヴァンを殺さずに危険を取り除く方法を探すつもりだ。それで……ニコル、君にも手伝って欲しいんだ。もう少しだけ、君の時間を僕にくれないか?」
レクリエの問いかけに俺は涙を拭い、笑顔を見せながら答えた。
「うん、もちろん!」
ーーユーリサイド
(あー……体重い……)
久しぶりに体を壊した俺は寒気で震える体を抑え、はぁ……と溜め息を吐く。
(今インフルレンサが流行ってるっていうけど……まさかそれか……?)
とりあえずと俺は携帯電話を手に取り、バイト先の店長に連絡を入れる。
「体調悪いんで今日は休みます……と。あー、なんかほんと久しぶりに体壊したな……」
俺は昔から身体が弱く、よく体調を崩してこんな感じで店長に連絡をしていたっけ。その度に店長はなぜか俺の家まですっ飛んできて看病をしてくれていた。
(店長、また来てくれるかな?)
いつもは憎たらしい店長だけど、体が弱って心細い時は一番に寄り添ってくれるんだよな……。
(なんか寂しくなってきた……)
心細くなって携帯を眺めていると、不意に家のインターホンが鳴る。
急いで玄関の扉を開くと心配そうな顔をするれい兄の姿があった。
「体調悪いって聞いたけどユーリ、大丈夫? お見舞いにプリン持ってきたぞ」
れい兄はそう言って俺にプリンの入った袋を差し出す。
「ありがとうれい兄。やっぱりれい兄は俺のことよく分かってる……って、あれ?」
れい兄からプリンの袋を受け取ろうとした時、足の力が抜けて俺はその場に座り込んだ。
「あ、あれ……? 足に力が入らない……」
「ユーリ……? 大丈夫か?」
心配するれい兄の声がずいぶんと遠くに聞こえる。
(身体がゾワゾワする……意識がまるで何かに乗っ取られるみたい……)
「れい兄……怖い、助けて……」
「ユーリ!? ユーリーー……っ!?」
慌てて駆け寄るれい兄の姿が目に入った瞬間、俺の意識は完全に途絶えた。
ーーニコルサイド
「ううむ……僕の魔力がスッカスカな状態の今、どうやってユーリとレイヴァンの力を封印するか、だね。ニコルは魔法に関しては根っから合わないからねぇ」
目の前にいるレクリエが小難しい顔をして唸る。
「うぅ……役に立てなくてごめん……」
「ああいやっ、ニコルが悪いわけじゃないよ! 人には向き不向きがあるし、ましてや魔力なんてのは先天的なものであって努力してなんとかなるものじゃないしね」
そう言うとレクリエは大きな伸びをする。
「それにしてももう何時間も話し込んだし、少し休憩しない? 流石に僕も少し疲れたよ。うーん、甘いものが食べたい気分! まあ、今の僕は食べられないんだけどね!」
「ああ、もうこんな時間だったのか……ふふっ昔からレクリエと会議すると何時間も話し込んでたっけ。懐かしいな」
レクリエの様子に昔の事を思い出し、懐かしい気持ちになっていると不意に物凄い勢いでこちらに向かって走ってくる人物に気がつく。
(うわ……っ、またか……)
「ニコルー! 今日こそボクを弟子にしてー!!」
声が聞こえるや否や、俺の方へ走ってきていたスズが突進してくる。
「スズ、俺は君を弟子にするつもりはないと何度も……」
スズの猛烈なアタックに困惑していると「なになに?」とレクリエが面白いものを見たような顔をする。
「なんか面白いことになってるじゃん。ニコルのファン?」
レクリエはケラケラと笑いながら俺を見る。
「笑い事じゃないよレクリエ……」
「……!! そこにいるのはもしかして、ニコルのお師匠さん!?」
レクリエの方を見たスズが突然口を開く。
「「えっ?」」
突然放たれたスズの言葉に俺とレクリエは二人してついすっとんきょうな声を出した。
「えっ、この子もしかして僕の事見えるの……? 怖っ……」
そう言ってレクリエは俺の背後に隠れる。俺はスズの方を向いて質問をする。
「スズ、この人が見えるの?」
スズはきょとんとしながら小首を傾げ言った。
「うん、見えるよ! あっ、そっか、君霊体ってことは普通の人には見えないんだね! ボク、そういうのも見えちゃうんだ!」
てへへと笑うスズを俺の背後でまじまじと見つめていたレクリエは「なるほどね」と呟いて俺の後ろから出てきて、スズの前でぺこりとお辞儀をした。
「初めましてスズくん。僕はニコルの師匠のレクリエ。宜しくね」
レクリエがにこりと微笑みながら自己紹介をするとスズは目をキラキラと輝かせる。
「わぁー! すごーい!! 本当にニコルのお師匠さんなんだー!!」
「ふふっ、そうだよ。ニコルの師匠ってだけでこんな顔されるなんて……ニコルはよっぽど尊敬されてるんだね?」
「うーん……なんでだろう。あんまり覚えがないんだけどな」
「レクリエ……いや、レクリエ師匠! ボクね、ニコルの弟子になりたくてもう何日もお願いし続けてるんだ。それなのにニコルったら、自分には師匠がいるから~って言うんだ! ニコルのお師匠さんとして是非許可をお願いします!!」
そう言ってスズはレクリエに深々と頭を下げる。その様子を見たレクリエがとても愉快そうに笑う。
「あははっそれ良いね。僕は賛成かな」
「えっ、ちょっと、レクリエまで……それは困るよ!」
俺が慌てて抗議すると、レクリエはケラケラと笑い「どうして?」と言った。
「ニコル、君は一人前になったんだ。弟子の一人二人いても良いんじゃないかな? 君はとても優秀だからきっとできるよ!」
「そんな……」
レクリエの言葉に俺は困惑する。
(一人前と言われても、俺は追い求めていたレクリエの背中にはまだまだ追いついていないし、そんな状態で人に教える立場になるのはいまいちピンとこないんだけど……でも俺もそちら側の経験をすべきって事なのかな……)
黙々と考えているとレクリエが口を開いた。
「あーでも、やっぱり気が変わった。スズくん、君を僕の弟子にしよう。僕なら君の力をコントロールする方法を教えてあげられる。どう?」
「えっ!? いいの!? やったー! レクリエ師匠ー、宜しくお願いします~!!」
レクリエの言葉を聞いたスズが顔をぱぁっと明るめ、子どものようにはしゃぎ出す。
俺はちらりとレクリエの顔を見る。
「一人前だって送り出してみたはものの、ずっと育ててきた弟子がいざ一人立ちするのかと思ったら急に寂しくなってきた、でしょ?」
「……ニコル、君は読心術が上手になったね? あんまり上手になりすぎると恥ずかしいんだけど……師匠に対しては読心術は禁止にしないか?」
そう言ってレクリエは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
(レクリエは最後の教えだなんて言ってたけど……俺はまだまだレクリエの背中に追いついていない。だから、まだ俺は教える側にはなれないな)
スズとレクリエの二人の様子を眺め、俺は秘かにそんな事を思うのだった。
「心が決まったみたいだね」
レクリエとの約束の場所に辿り着くとふわりとレクリエが姿を現す。
「君の考えを聞かせてくれないかな?」
レクリエに見つめられ、俺は体が震えるのを感じる。
(怖い……けど、しっかり言うんだ。俺は……もう迷わない)
俺はしっかりとレクリエの顔を見つめ、答える。
「俺には、ユーリとレイヴァン、あの二人を殺すことはできない。」
「へぇ……」
レクリエは静かに俺の言葉の続きを待つ。俺は体の震えを抑え、言葉を続ける。
「ユーリとレイヴァンは……俺の大切な友だちなんだ。だから、殺せない。レクリエの言っている事は正しい事実だと思ってる。だけど俺は二人を殺したくない。これは俺の我が儘だ。俺は二人を護り、殺さずに力を無力化する方法を探す。例えそれがあなたと対立することになったとしても」
「なるほどね」
レクリエは静かにそう呟き、それから鋭い眼差しを俺に向けて言った。
「君の意見は僕の考えとは対立する。その意味は……分かっているよね? 僕の問いかけに頷いたら君はもう引き返す事はできない。覚悟はできているね?」
レクリエの問いかけに俺は迷いなく頷く。
「覚悟ならできてる。これが俺の決断だ」
「そう……分かったよ」
俺の答えを聞くとレクリエは俺に背を向け二歩三歩と離れていき、それからくるりと俺の方に向き直り言った。
「それが君の決断というなら答え合わせをしよう! 僕の意思よりも君の決意の方が強いというなら、ニコル! 今ここで僕の魔法を打ち破ってみせてよ!」
そう言い放ち、レクリエはふわりと宙に浮かぶ。凄まじい魔力がレクリエの体に集まっていくのを感じる。
意識を集中させるために俺は目を閉じた。
(怖い……でも、俺は勝たなきゃ……! この魔法を打ち消して、ユーリとレイヴァンを護るんだ!)
呼吸を整え、レクリエの魔法を真っ向から受け止める姿勢に入る。
しかし、レクリエに集まった魔力は一向に放たれない。
(…………?)
不思議に思い、俺は閉じていた目を開く。
するとレクリエは集まっていた魔力を一輪の青い花に変え、そっと俺に差し出しながら言った。
「よく言ったね、偉い!」
「えっ……?」
状況が飲み込めずぽかんとする俺を見て、レクリエは先ほどの冷たい表情から一転してとても無邪気な子どもっぽい笑みを浮かべる。
「あははっ、豆鉄砲でも食らったような顔してる」
それからとても優しくて温かい声音で言葉を続けた。
「ニコル、僕は今嬉しいんだ。ニコルは僕と一緒にいた頃、一度たりとも我が儘を言わなかった。そんなニコルがさ、やっと自分の意思を僕に教えてくれたんだ。今日はお祝いさ。この花は僕の魔力をかき集めて具現化したもので触れるよ。ほら、受け取って」
俺は困惑しながらも差し出された花を受け取る。その様子を見て、レクリエは満足そうに笑った。
「あのね、ニコル。僕はずっと悩んでいたんだ。ニコルは凄く真面目だし能力面でも性格面でも弟子としてとても優秀だった。僕も鼻が高いくらいね。ただ、ニコルには足りないものがあった。それは、人間らしさってやつさ」
俺の手の上で青白く発光する花を見て、レクリエは悲しそうな表情をする。
「あの日僕がニコルに声をかけなければニコルはもしかしたら普通の人らしい生活に戻れたかもしれない。ニコルが僕についてくると言った時、僕はニコルの普通の人間のように生きるチャンスを絶ち切ってしまった。その事をずっと申し訳なく思ってたんだ。そして僕はニコルを置いて死んでしまった。死に際にニコルに生きていて欲しいと願ってしまった。それは、僕の我が儘だった。僕の我が儘のせいで君を何千年と縛り付けてしまったんだ」
「レクリエ……」
「ニコルは真面目すぎるくらい真面目な人だから、きっと何千年と自分の使命に囚われてきたんだろ?でも……そんなのは二の次で良いんだ。ニコルが人間らしく生きていれば良い。それが僕の願いだよ」
「…………っ!」
レクリエはそっと俺の頭へと手を伸ばし、とても優しい表情で頭を撫でる仕草をした。
「どんな時も人間らしくあれ。これは僕からの最後の教えだ。とても長い時間がかかったけど、君は大事な気持ちを持てたみたいで良かったよ。おめでとう、君はもう立派な一人前だ。そして、長い間よく頑張ってくれてありがとう」
レクリエの言葉を聞いた瞬間、俺の心に様々な感情が込み上げてくる。そして、わき上がった感情は一筋の涙になって俺の頬を伝った。
「レクリエ……大丈夫だよ。俺はずっと独りだった訳じゃないんだ。レクリエに生かしてもらった事で俺はいろんな人と出会うことができたんだ。レクリエが心配するように俺は縛られ続けてたわけでもないんだ」
「うん、そうみたいだね。安心した。あぁ、僕に体があれば君を思い切り抱きしめて頭を撫でてたのにな……」
レクリエは心底残念そうな顔をする。それから改めて俺の顔をまっすぐに見て言った。
「改めてニコルにお願いするね。僕が昨日ニコルに話した危険があるのは事実なんだ。だから僕はこれからユーリとレイヴァンを殺さずに危険を取り除く方法を探すつもりだ。それで……ニコル、君にも手伝って欲しいんだ。もう少しだけ、君の時間を僕にくれないか?」
レクリエの問いかけに俺は涙を拭い、笑顔を見せながら答えた。
「うん、もちろん!」
ーーユーリサイド
(あー……体重い……)
久しぶりに体を壊した俺は寒気で震える体を抑え、はぁ……と溜め息を吐く。
(今インフルレンサが流行ってるっていうけど……まさかそれか……?)
とりあえずと俺は携帯電話を手に取り、バイト先の店長に連絡を入れる。
「体調悪いんで今日は休みます……と。あー、なんかほんと久しぶりに体壊したな……」
俺は昔から身体が弱く、よく体調を崩してこんな感じで店長に連絡をしていたっけ。その度に店長はなぜか俺の家まですっ飛んできて看病をしてくれていた。
(店長、また来てくれるかな?)
いつもは憎たらしい店長だけど、体が弱って心細い時は一番に寄り添ってくれるんだよな……。
(なんか寂しくなってきた……)
心細くなって携帯を眺めていると、不意に家のインターホンが鳴る。
急いで玄関の扉を開くと心配そうな顔をするれい兄の姿があった。
「体調悪いって聞いたけどユーリ、大丈夫? お見舞いにプリン持ってきたぞ」
れい兄はそう言って俺にプリンの入った袋を差し出す。
「ありがとうれい兄。やっぱりれい兄は俺のことよく分かってる……って、あれ?」
れい兄からプリンの袋を受け取ろうとした時、足の力が抜けて俺はその場に座り込んだ。
「あ、あれ……? 足に力が入らない……」
「ユーリ……? 大丈夫か?」
心配するれい兄の声がずいぶんと遠くに聞こえる。
(身体がゾワゾワする……意識がまるで何かに乗っ取られるみたい……)
「れい兄……怖い、助けて……」
「ユーリ!? ユーリーー……っ!?」
慌てて駆け寄るれい兄の姿が目に入った瞬間、俺の意識は完全に途絶えた。
ーーニコルサイド
「ううむ……僕の魔力がスッカスカな状態の今、どうやってユーリとレイヴァンの力を封印するか、だね。ニコルは魔法に関しては根っから合わないからねぇ」
目の前にいるレクリエが小難しい顔をして唸る。
「うぅ……役に立てなくてごめん……」
「ああいやっ、ニコルが悪いわけじゃないよ! 人には向き不向きがあるし、ましてや魔力なんてのは先天的なものであって努力してなんとかなるものじゃないしね」
そう言うとレクリエは大きな伸びをする。
「それにしてももう何時間も話し込んだし、少し休憩しない? 流石に僕も少し疲れたよ。うーん、甘いものが食べたい気分! まあ、今の僕は食べられないんだけどね!」
「ああ、もうこんな時間だったのか……ふふっ昔からレクリエと会議すると何時間も話し込んでたっけ。懐かしいな」
レクリエの様子に昔の事を思い出し、懐かしい気持ちになっていると不意に物凄い勢いでこちらに向かって走ってくる人物に気がつく。
(うわ……っ、またか……)
「ニコルー! 今日こそボクを弟子にしてー!!」
声が聞こえるや否や、俺の方へ走ってきていたスズが突進してくる。
「スズ、俺は君を弟子にするつもりはないと何度も……」
スズの猛烈なアタックに困惑していると「なになに?」とレクリエが面白いものを見たような顔をする。
「なんか面白いことになってるじゃん。ニコルのファン?」
レクリエはケラケラと笑いながら俺を見る。
「笑い事じゃないよレクリエ……」
「……!! そこにいるのはもしかして、ニコルのお師匠さん!?」
レクリエの方を見たスズが突然口を開く。
「「えっ?」」
突然放たれたスズの言葉に俺とレクリエは二人してついすっとんきょうな声を出した。
「えっ、この子もしかして僕の事見えるの……? 怖っ……」
そう言ってレクリエは俺の背後に隠れる。俺はスズの方を向いて質問をする。
「スズ、この人が見えるの?」
スズはきょとんとしながら小首を傾げ言った。
「うん、見えるよ! あっ、そっか、君霊体ってことは普通の人には見えないんだね! ボク、そういうのも見えちゃうんだ!」
てへへと笑うスズを俺の背後でまじまじと見つめていたレクリエは「なるほどね」と呟いて俺の後ろから出てきて、スズの前でぺこりとお辞儀をした。
「初めましてスズくん。僕はニコルの師匠のレクリエ。宜しくね」
レクリエがにこりと微笑みながら自己紹介をするとスズは目をキラキラと輝かせる。
「わぁー! すごーい!! 本当にニコルのお師匠さんなんだー!!」
「ふふっ、そうだよ。ニコルの師匠ってだけでこんな顔されるなんて……ニコルはよっぽど尊敬されてるんだね?」
「うーん……なんでだろう。あんまり覚えがないんだけどな」
「レクリエ……いや、レクリエ師匠! ボクね、ニコルの弟子になりたくてもう何日もお願いし続けてるんだ。それなのにニコルったら、自分には師匠がいるから~って言うんだ! ニコルのお師匠さんとして是非許可をお願いします!!」
そう言ってスズはレクリエに深々と頭を下げる。その様子を見たレクリエがとても愉快そうに笑う。
「あははっそれ良いね。僕は賛成かな」
「えっ、ちょっと、レクリエまで……それは困るよ!」
俺が慌てて抗議すると、レクリエはケラケラと笑い「どうして?」と言った。
「ニコル、君は一人前になったんだ。弟子の一人二人いても良いんじゃないかな? 君はとても優秀だからきっとできるよ!」
「そんな……」
レクリエの言葉に俺は困惑する。
(一人前と言われても、俺は追い求めていたレクリエの背中にはまだまだ追いついていないし、そんな状態で人に教える立場になるのはいまいちピンとこないんだけど……でも俺もそちら側の経験をすべきって事なのかな……)
黙々と考えているとレクリエが口を開いた。
「あーでも、やっぱり気が変わった。スズくん、君を僕の弟子にしよう。僕なら君の力をコントロールする方法を教えてあげられる。どう?」
「えっ!? いいの!? やったー! レクリエ師匠ー、宜しくお願いします~!!」
レクリエの言葉を聞いたスズが顔をぱぁっと明るめ、子どものようにはしゃぎ出す。
俺はちらりとレクリエの顔を見る。
「一人前だって送り出してみたはものの、ずっと育ててきた弟子がいざ一人立ちするのかと思ったら急に寂しくなってきた、でしょ?」
「……ニコル、君は読心術が上手になったね? あんまり上手になりすぎると恥ずかしいんだけど……師匠に対しては読心術は禁止にしないか?」
そう言ってレクリエは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
(レクリエは最後の教えだなんて言ってたけど……俺はまだまだレクリエの背中に追いついていない。だから、まだ俺は教える側にはなれないな)
スズとレクリエの二人の様子を眺め、俺は秘かにそんな事を思うのだった。
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