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29話 彼女の意志
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「はーい注目! 今から文化祭の出し物決めてくよー! 何でもいいから提案よろしく!」
「はい、委員長!」
「そこの君どうぞ。」
「委員長の写真集がいいです!」
「あー、私の写真集ね。水着に着物、ヌードもありか…………って、馬鹿野郎! ありな訳無いわ!」
「流石っす委員長! 今日も面白いっす!」
「私で遊ばない!!」
やはり今回もクラスメイトからいじられ全開で、教壇に立っている委員長。流石の人望に、僕は憧れすらした。
毎年9月中旬になると文化祭の出し物を決める話し合いが行われる。その度に沙耶香はああやって教壇に立ち、いじられ倒すのだ。
去年から委員長を務める沙耶香は、どの決め事でも決まってクラスの男子から、いじりが入る。それがなぜなのかは僕には分からないけど、どこかイジりたくなる雰囲気が漂っているのだろう。
「んじゃ、今年はこんな所かな。みんな協力してくれてありがとう。また、決まったら私に力を貸してね。」
沙耶香はそう言って教壇を降りた。その堂々とした姿は、いつも僕の家で弾けている姿からは想像できない、何ともカッコいい姿はだった。
後日、沙耶香が決定事項として持ってきた案はコスプレ喫茶だった。何ともマンネリ化した出し物だと僕は肩を落としたが、その決定の裏には意外にも葵が関わっていたらしい。
「やっぱりうちの葵ちゃんが、学校中から絶大の人気を博していましてですね。それを、逆手にとって売り上げを伸ばしていこうという算段な訳なんですよ。」
なんか想像以上に生々しくて嫌だ。本気で商売を始めるみたいな作戦の立て方だよな。
「という事で看板娘を葵ちゃんにやってもらい、男子は厨房で料理を担当してもらうから。」
そして沙耶香による放課後の報告会が終了した。明日から早速準備に取り掛かるそうで、クラスの手芸部員を中心として衣装作りに励むそうだ。
「沙耶香ちゃん。決定事項なの?」
「そうなのよ。ごめんね、葵ちゃん絶対やりたがらないだろうと思ってさ、ノンアポでやっちゃった。本当に嫌なら、厨房に回ってもらうけど、どうする?」
「葵がどうしたいかでいいんじゃないか?」
僕は励ますように言った。葵は男子に対して、まだ抵抗が残っている状態だった。だからその中で、この出し物をやるのには些か厳しいと僕は思う。
「明日まで考えさせて。」
「うん。分かったわ。前向きな返答がもらえたら嬉しいけど、そこは葵ちゃんの意志で決めてね。」
「うん、そうする。」
「それじゃあ、また明日。」
流石の一言だった。あの臨機応変能力には、脱帽するほかない。沙耶香に悪気があった訳ではない。それは彼女の言葉から伝わった。この文化祭を盛り上げたい一心で企画を組んで、今日発表したのだろう。
「葵。」
「どうしたの?」
「無理だけはするなよ。葵は雰囲気とか考えるから、自己犠牲をやり気味だから。自分の気持ちと向き合って決めてな。」
「うん、そうするよ。とりあえず、私の中で考えてみるね。」
葵の返答に、僕は笑顔で頷いた。僕は自習せずに帰宅することにした。出来るだけ葵のそばにいたかったから。何か不安になることがあれば、すぐに駆けつけられるようにしておきたかった。
翌日、葵は沙耶香にこう告げた。
「今回は断らせてもらってもいいかな。やっぱりちょっと怖くてさ。」
「ううん、全然大丈夫。私がみんなに説明しておくから、何も心配しないで。」
沙耶香は葵に優しくそう言った。そして葵が席に戻るのを見計らってこう言った。
「葵ちゃん、相当悩んでくれたみたいね。あの目の下のクマ、ファンデーションで誤魔化そうとしたみたいだけど、バレバレよ。」
「ああ。だから、葵はの気持ちを汲んでくれたんだろ。」
「あんなもの見せられて、断れるはずないわよ。やっぱりあの子は良い人ね。」
「だな。」
「というか、あんたもでしょ。あの子に付き添うためにずっと起きてたでしょ。」
「えっ、何で分かったの?」
「あんたと何年友達やってると思ってんのよ。それくらいわかるわ。あなたが困ってる人を放っておけない性格なのくらいね。」
沙耶香には全て見透かされていたみたいだった。夜中の3時半。いつもより進みが遅くてこの時間にやっと片付いたと思って、トイレに行こうとした時、葵が起きているのに気がついた。
「寝れないのか。」
「うん。どうしようか迷ってて。」
「そっか。何度も言うけど、葵の気持ちがどっちなのか。それだけで決めればいいからね。」
トラウマがあるのはしょうがない。あんなことがあって、恐怖心が綺麗さっぱり無くなるなんて、そんな事あるはずないんだ。
「翔太はいつも私の気持ちに寄り添ってくれるよね。本当にいつもありがとう。」
「いいよ。僕は葵が幸せならそれで良いから。」
それから無言の時間が続いた。葵は始終考えを巡らせているようで、話し出す気配は一向に無かった。
日が登ってきた時間帯。葵は決心したような表情でこう言った。
「私決めた。沙耶香の申し出は断るよ。申し訳ないけど、私の気持ちを優先させてもらう。」
「いいんじゃないか。それが葵の気持ちなのだとしたら。沙耶香も汲み取ってくれるさ。」
「そうかな。そうだといいな。」
葵は魔を擦りながらそう言った。
「少し寝たら? あと一時間くらいしかないけど。」
「翔太こそ、寝ないの?」
「多分寝たら起きられないから。このまま起きてるよ。」
「そっか。じゃあ起こしてね。」
「うん。おやすみ。」
「おやすみ……」
葵はすぐに夢の世界に旅立った。その寝顔に僕の疲れた心が癒されていくのを感じた。
僕は嬉しかった。葵が自分の意志をこうして言葉にしてくれて。
僕は朝日を眺めなら、葵の起床時間までそばにい続けた。
「はい、委員長!」
「そこの君どうぞ。」
「委員長の写真集がいいです!」
「あー、私の写真集ね。水着に着物、ヌードもありか…………って、馬鹿野郎! ありな訳無いわ!」
「流石っす委員長! 今日も面白いっす!」
「私で遊ばない!!」
やはり今回もクラスメイトからいじられ全開で、教壇に立っている委員長。流石の人望に、僕は憧れすらした。
毎年9月中旬になると文化祭の出し物を決める話し合いが行われる。その度に沙耶香はああやって教壇に立ち、いじられ倒すのだ。
去年から委員長を務める沙耶香は、どの決め事でも決まってクラスの男子から、いじりが入る。それがなぜなのかは僕には分からないけど、どこかイジりたくなる雰囲気が漂っているのだろう。
「んじゃ、今年はこんな所かな。みんな協力してくれてありがとう。また、決まったら私に力を貸してね。」
沙耶香はそう言って教壇を降りた。その堂々とした姿は、いつも僕の家で弾けている姿からは想像できない、何ともカッコいい姿はだった。
後日、沙耶香が決定事項として持ってきた案はコスプレ喫茶だった。何ともマンネリ化した出し物だと僕は肩を落としたが、その決定の裏には意外にも葵が関わっていたらしい。
「やっぱりうちの葵ちゃんが、学校中から絶大の人気を博していましてですね。それを、逆手にとって売り上げを伸ばしていこうという算段な訳なんですよ。」
なんか想像以上に生々しくて嫌だ。本気で商売を始めるみたいな作戦の立て方だよな。
「という事で看板娘を葵ちゃんにやってもらい、男子は厨房で料理を担当してもらうから。」
そして沙耶香による放課後の報告会が終了した。明日から早速準備に取り掛かるそうで、クラスの手芸部員を中心として衣装作りに励むそうだ。
「沙耶香ちゃん。決定事項なの?」
「そうなのよ。ごめんね、葵ちゃん絶対やりたがらないだろうと思ってさ、ノンアポでやっちゃった。本当に嫌なら、厨房に回ってもらうけど、どうする?」
「葵がどうしたいかでいいんじゃないか?」
僕は励ますように言った。葵は男子に対して、まだ抵抗が残っている状態だった。だからその中で、この出し物をやるのには些か厳しいと僕は思う。
「明日まで考えさせて。」
「うん。分かったわ。前向きな返答がもらえたら嬉しいけど、そこは葵ちゃんの意志で決めてね。」
「うん、そうする。」
「それじゃあ、また明日。」
流石の一言だった。あの臨機応変能力には、脱帽するほかない。沙耶香に悪気があった訳ではない。それは彼女の言葉から伝わった。この文化祭を盛り上げたい一心で企画を組んで、今日発表したのだろう。
「葵。」
「どうしたの?」
「無理だけはするなよ。葵は雰囲気とか考えるから、自己犠牲をやり気味だから。自分の気持ちと向き合って決めてな。」
「うん、そうするよ。とりあえず、私の中で考えてみるね。」
葵の返答に、僕は笑顔で頷いた。僕は自習せずに帰宅することにした。出来るだけ葵のそばにいたかったから。何か不安になることがあれば、すぐに駆けつけられるようにしておきたかった。
翌日、葵は沙耶香にこう告げた。
「今回は断らせてもらってもいいかな。やっぱりちょっと怖くてさ。」
「ううん、全然大丈夫。私がみんなに説明しておくから、何も心配しないで。」
沙耶香は葵に優しくそう言った。そして葵が席に戻るのを見計らってこう言った。
「葵ちゃん、相当悩んでくれたみたいね。あの目の下のクマ、ファンデーションで誤魔化そうとしたみたいだけど、バレバレよ。」
「ああ。だから、葵はの気持ちを汲んでくれたんだろ。」
「あんなもの見せられて、断れるはずないわよ。やっぱりあの子は良い人ね。」
「だな。」
「というか、あんたもでしょ。あの子に付き添うためにずっと起きてたでしょ。」
「えっ、何で分かったの?」
「あんたと何年友達やってると思ってんのよ。それくらいわかるわ。あなたが困ってる人を放っておけない性格なのくらいね。」
沙耶香には全て見透かされていたみたいだった。夜中の3時半。いつもより進みが遅くてこの時間にやっと片付いたと思って、トイレに行こうとした時、葵が起きているのに気がついた。
「寝れないのか。」
「うん。どうしようか迷ってて。」
「そっか。何度も言うけど、葵の気持ちがどっちなのか。それだけで決めればいいからね。」
トラウマがあるのはしょうがない。あんなことがあって、恐怖心が綺麗さっぱり無くなるなんて、そんな事あるはずないんだ。
「翔太はいつも私の気持ちに寄り添ってくれるよね。本当にいつもありがとう。」
「いいよ。僕は葵が幸せならそれで良いから。」
それから無言の時間が続いた。葵は始終考えを巡らせているようで、話し出す気配は一向に無かった。
日が登ってきた時間帯。葵は決心したような表情でこう言った。
「私決めた。沙耶香の申し出は断るよ。申し訳ないけど、私の気持ちを優先させてもらう。」
「いいんじゃないか。それが葵の気持ちなのだとしたら。沙耶香も汲み取ってくれるさ。」
「そうかな。そうだといいな。」
葵は魔を擦りながらそう言った。
「少し寝たら? あと一時間くらいしかないけど。」
「翔太こそ、寝ないの?」
「多分寝たら起きられないから。このまま起きてるよ。」
「そっか。じゃあ起こしてね。」
「うん。おやすみ。」
「おやすみ……」
葵はすぐに夢の世界に旅立った。その寝顔に僕の疲れた心が癒されていくのを感じた。
僕は嬉しかった。葵が自分の意志をこうして言葉にしてくれて。
僕は朝日を眺めなら、葵の起床時間までそばにい続けた。
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