雨と晴

やすを。

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31話 本領発揮

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 迎えた文化祭当日。僕は開会宣言を放送で聞いていた。校長の長い挨拶を右から左に聞き流し、諸々の注意事項だけはまともに聞いていた。僕の入るシフトは、みんなの計らいで葵と時間を合わせてくれた。

 やはりみんな優しかった。葵の転校当初、僕に対してやんや言ってきた人も、時間を合わせるために尽力してくれた。僕は改めてみんなに対して感謝の意を込めて事前に、ありがとうを言って回った。

 そしてみんな口を揃えて、「気にしないで。」と言ってくれる。僕はそんな優しさに甘えてばかりだった。

 「どこ行こっか。」

 初めは自由行動の時間。演劇や軽音、多数の模擬店に部活動の有志。多くの種類の店が一度に催されていた。

 さらに、お客さんは整理券さえ手に入れれば自由に出入りでき、北海道から来ようが沖縄から来ようが、文化祭に参加することができる。だから今日はどこの模擬店も混雑しているのである。僕らが移動することさえ、困難な状態だった。

 僕らは、とりあえずマップを見ながら入りたい店を探していた。話し合いの結果、「飲み食いしたいよねー」となり、比較的空いているタピオカ屋さんに入った。それと一緒にチュロスも買った。

 葵はずっと目を輝かせている。小学生の頃に行った神社の祭りにいる子供のような、そんな好奇心を持っているように見えた。

 「どう? うちの高校の文化祭は。」

 「楽しいねー! 私が通ってた高校は合唱するだけだったから、すごい新鮮だよ。」

 いつかに、葵が元々通っていた高校の話を聞いたことがあった。生徒は30人くらいで、大規模な催しは不可能だったようだ。ようするに、生徒が少なすぎて、手が回らないから合唱しか出来なかった、と言うことなのだろう。

 時々、葵は道ゆく人に声をかけられていた。転校から約一ヶ月が過ぎて、葵の認知度もさらに高まっていた。葵の姿を見る度に、まるで有名人を見たかのような反応を見せている。僕はそれを見て複雑な感情になっていた。

 一般人と芸能人。それほどの立場の違いがあるような気分になっていた。僕は話しかけられなくても、無視されてもよかった。でも、葵の隣にいるのがどこか場違いなような気がしてならなかった。

 「私、なんでこんなに声かけられるだろうね。」

 「なんでって、可愛いからだろ?」

 「そうなのかな…………それでもさ、やっぱり二人でいる時はあんまり声かけないで欲しい。」

 「どうして?」

 「翔太と二人の時間を邪魔されたくないんだ。」

 「葵……」

 「別に芸能人でもスポーツ選手でもなく、ただの高校2年生の女子なのにさ、こうも視線が集まると二人で居づらいんだよね。」

 決して、葵は周りの人に「やめて下さい。」とは言わない。気分を害させないようにするためなのだろう。

 やっぱり僕の彼女は可愛い。僕と二人の時間を作ってくれるところが、何よりも可愛く感じる。

 「葵は凄いよ。」

 「えっ、何が凄いの?」

 「みんなにちゃんと気を配れるところ。すぐに友達を作るところ。それなのに僕とちゃんと時間を作ってくれるところ。」

 「別に私は何も意識してやってないよ。私が友達になりたいと思う人以外とはならないし、翔太とは一緒にいたいから時間を作ってるだけ。特別なことなんて何もしてないよ。」

 葵は幸せそうな笑顔でそう言った。僕もつられて、幸せな気持ちになっていた。僕は葵と出会えて良かったとしか思えなかった。

 それから、ホットドッグや焼きそばなどの食べ物や演劇などの見せもの、友達との写真撮影など、思い出が沢山積み重なっていた。

 それは、一階の昇降口付近を僕らが歩いている時だった。

 「ちょっ、やめて下さい! 大声を出しますよ。」

 「出してみなよ。誰かきてくれるのかな。みんな見て見ぬふりをしてるだけじゃないか。誰も助けてはくれないよ~!」

 不敵に笑う三人のチンピラ。三人は一人の見知らぬ女子生徒を捕まえて、取り囲んでいた。

 どうやら僕にはチンピラと縁があるらしい。

 「葵、職員室行って先生に警察を呼ぶように頼んで。」

 「う、うん。分かった。翔太も気をつけて。」

 「ああ。ありがとう。」

 僕は、荷物を葵に預けてその女子生徒の元に向かった。

 「お兄さんたちが、君を楽しませてあげるからさ、一緒に来てよ~!」

 「嫌です! 話して下さい!」

 「その子はうちの生徒なんだ。離してもらっても良いかな。」

 「あん? 誰だてめえ。」

 一人のチンピラが僕の元にやってきた。そして、嘲笑を浮かべながらこう言った。

 「おいおい、お前みたいなド陰キャが何言ってんだよ!」

 「その汚い手を話せって言ってんだよ。」

 「なんだと、コラ!」

 僕はそのチンピラのパンチを避け、みぞおちを思い切り殴った。

 「なっ、なんだコイツ……タダもんじゃねえ。」

 「ほら二人ともどうしたの? さっきまであんな威勢良かったのに。」

 「チッ、舐めんじゃねえぞクソガキ。」

 「どっちがクソガキだよ。」

 僕は二人も一撃で気絶させた。

 ったく、うちの生徒に手出すなよ。みんなで時間をかけて作り上げた文化祭なのにさ。邪魔すんじゃねえよ。

 「翔太連れてきたよ……って、三人とも倒しちゃったの?」

 「まあね、殴りかかられたし、正当防衛でしょ。」

 僕は呑気に笑いながら言った。先生も怒るに怒れず、普通なら停学ものだが、今回は正当防衛ということで見逃してくれた。三人は30分後に警察に連行された。

 「私の彼氏、かっこよすぎ。」

 「珍しいな、葵がそんなこと言ってくれるの。」

 「言葉にしてないだけ。いつも思ってるよ。」

 「僕だって言葉にはしてないけど、いっつも可愛いと思ってる。」

 「両想いだね私たち。」

 「じゃなきゃ付き合ってないよ。」

 「確かにそうだね。」

 ふと僕は時間を確認する。そろそろシフトの時間が迫っていた。助けた女子生徒は、泣きながら職員室に連れて行かれた。

 「そろそろだし、行こうか。」

 「うん。」
 
 葵は僕の手を取って、そのまま教室に戻っていった。


 
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