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53話 思い出との別れ
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7月の下旬。僕らはとうとうこの日を迎えてしまった。
「今日でこの家ともさよならだな……ちょっと寂しいな。」
「そうね。半年以上会えなくなるし……」
そう、それが本当に嫌だし、寂しい。この期間が苦痛で仕方ないけど、全ては受験のため。もっと言えば、自分の描く幸せに向けてやるものだ。
事前に大まかな荷物は引っ越し業者運んでくれていた。だから僕らはリュック程度の軽い荷物で済んでいたのだ。
「じゃあ行くか。」
「ちょっと待って! 写真撮ってからにしようよ。」
「うん。」
葵の手には修学旅行で使っていたチェキがあった。地獄の鬼ごっこのせいで使用頻度はガックと下がってしまったが、それでも日々の思い出作りに大いに役に立っていた。
「撮るよー! はいチーズ!」
葵は声を弾ませながらそう言った。僕は楽しそうな葵が見られて嬉しかった。
「いい感じ?」
「うん、最高!」
葵は満足したようにそう言った。そして1年半過ごした我が家の鍵を大家さんに返して、僕らは家をさった。あの家には僕らの思い出がたくさん詰まっている。料理をこぼした後だけじゃない、目に見えない僕らの気持ちがそこに残っているような気がしていた。
「葵、電車何時?」
「えっとね、1時くらいかな。翔太は?」
「12時過ぎ。僕の方が早いみたいだね。」
そっか、じゃあ僕が見送られる形になるわけだ。後1時間何しようかな。
「私行きたいところがあるんだけど。良いかな?」
「ああ、全然問題ないよ。」
「やった。じゃあさ、早くいこう。時間もないし。」
このさりげなく喜んだ感じが、すごい可愛い。この子はやっぱり僕の天使だな。
僕は葵の後を追った。彼女はどこか楽しそうに、その目的地に向かっているように見えた。それにつられて僕も穏やかな気持ちに戻っていた。
「ここだよ。私たちがであった場所。」
「別に今来なくても良かったんじゃないか? 何度も来たし、これからも来る機会あるだろ。」
「ううん。この機会だから来たかった。私たちの思い出の場所を最後に見ておきたかったから。」
半年という時間を、僕らは途方もない苦行の時間だと感じていた。それは今まで1回も離れて生活したことがなかったから。それが余計に心を痛めつけていた。
「あの時、私は地獄のどん底だったよ。毎日どう死のうかしか考えてなかったからさ。」
「今じゃ考えられないな。」
「本当にね。でも私を変えてくれたのが、君だったりするんだよ。ここで、『君を幸せにするから、僕を幸せにしてほしい』なんていうんだから。可笑しすぎて、死ぬ気失せたよ。」
彼女は冗談ぽく笑うが、僕には笑えなかった。
「あの時、葵を自殺させないために、必死だったんだ。」
「うん、知ってる。だから私はね君について行こうって決めたんだよ。君以外に私を生かした責任を取れそうな人はいなかったし。」
僕らは昔話に花を咲かせていた。2人だけだから話せる、変な冗談。このことを笑い話にできるのは当人たちだけ。他はデリカシーを気にして話に触れては来ない。
「でも、僕は君を止めて正解だと思ってる。」
「私も、君に止められて正解だと思ってるよ。」
そして僕らはいつものように口づけを交わす。もう慣れたと思いきや、やはり毎回ドキドキしてしまう。男としては失格なのだろう。
「そろそろ時間だ、行こう。」
「うん。」
僕らは手を取り合って、駅に向かった。僕は予定していた時刻の電車に乗り、葵に別れを告げた。
「じゃあな。次は、勉強合宿かな。」
「うん、その時まで寂しいけど。バイバイ。」
…………発車します。ご注意ください。
車内アナウンスが流れる。僕たちを分つ1つの合図。それが今流れた。
「絶対ラインしてね。いつでも待ってるから、翔太!」
「ああ、ありがとう。行ってくるなー!」
……堪えろ僕。別れは笑顔で!
「……バイバイ、翔太。」
「……ああ。バイバイ!」
扉は閉まり、葵はその場で僕が見えなくなるまで見送ってくれた。僕は静かに号泣したのだった。
「今日でこの家ともさよならだな……ちょっと寂しいな。」
「そうね。半年以上会えなくなるし……」
そう、それが本当に嫌だし、寂しい。この期間が苦痛で仕方ないけど、全ては受験のため。もっと言えば、自分の描く幸せに向けてやるものだ。
事前に大まかな荷物は引っ越し業者運んでくれていた。だから僕らはリュック程度の軽い荷物で済んでいたのだ。
「じゃあ行くか。」
「ちょっと待って! 写真撮ってからにしようよ。」
「うん。」
葵の手には修学旅行で使っていたチェキがあった。地獄の鬼ごっこのせいで使用頻度はガックと下がってしまったが、それでも日々の思い出作りに大いに役に立っていた。
「撮るよー! はいチーズ!」
葵は声を弾ませながらそう言った。僕は楽しそうな葵が見られて嬉しかった。
「いい感じ?」
「うん、最高!」
葵は満足したようにそう言った。そして1年半過ごした我が家の鍵を大家さんに返して、僕らは家をさった。あの家には僕らの思い出がたくさん詰まっている。料理をこぼした後だけじゃない、目に見えない僕らの気持ちがそこに残っているような気がしていた。
「葵、電車何時?」
「えっとね、1時くらいかな。翔太は?」
「12時過ぎ。僕の方が早いみたいだね。」
そっか、じゃあ僕が見送られる形になるわけだ。後1時間何しようかな。
「私行きたいところがあるんだけど。良いかな?」
「ああ、全然問題ないよ。」
「やった。じゃあさ、早くいこう。時間もないし。」
このさりげなく喜んだ感じが、すごい可愛い。この子はやっぱり僕の天使だな。
僕は葵の後を追った。彼女はどこか楽しそうに、その目的地に向かっているように見えた。それにつられて僕も穏やかな気持ちに戻っていた。
「ここだよ。私たちがであった場所。」
「別に今来なくても良かったんじゃないか? 何度も来たし、これからも来る機会あるだろ。」
「ううん。この機会だから来たかった。私たちの思い出の場所を最後に見ておきたかったから。」
半年という時間を、僕らは途方もない苦行の時間だと感じていた。それは今まで1回も離れて生活したことがなかったから。それが余計に心を痛めつけていた。
「あの時、私は地獄のどん底だったよ。毎日どう死のうかしか考えてなかったからさ。」
「今じゃ考えられないな。」
「本当にね。でも私を変えてくれたのが、君だったりするんだよ。ここで、『君を幸せにするから、僕を幸せにしてほしい』なんていうんだから。可笑しすぎて、死ぬ気失せたよ。」
彼女は冗談ぽく笑うが、僕には笑えなかった。
「あの時、葵を自殺させないために、必死だったんだ。」
「うん、知ってる。だから私はね君について行こうって決めたんだよ。君以外に私を生かした責任を取れそうな人はいなかったし。」
僕らは昔話に花を咲かせていた。2人だけだから話せる、変な冗談。このことを笑い話にできるのは当人たちだけ。他はデリカシーを気にして話に触れては来ない。
「でも、僕は君を止めて正解だと思ってる。」
「私も、君に止められて正解だと思ってるよ。」
そして僕らはいつものように口づけを交わす。もう慣れたと思いきや、やはり毎回ドキドキしてしまう。男としては失格なのだろう。
「そろそろ時間だ、行こう。」
「うん。」
僕らは手を取り合って、駅に向かった。僕は予定していた時刻の電車に乗り、葵に別れを告げた。
「じゃあな。次は、勉強合宿かな。」
「うん、その時まで寂しいけど。バイバイ。」
…………発車します。ご注意ください。
車内アナウンスが流れる。僕たちを分つ1つの合図。それが今流れた。
「絶対ラインしてね。いつでも待ってるから、翔太!」
「ああ、ありがとう。行ってくるなー!」
……堪えろ僕。別れは笑顔で!
「……バイバイ、翔太。」
「……ああ。バイバイ!」
扉は閉まり、葵はその場で僕が見えなくなるまで見送ってくれた。僕は静かに号泣したのだった。
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